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幕間
ラピスの朝のひとコマ
しおりを挟む「むうぅ、リーヴェさんとヴァージャさん、遅いですねぇ」
こんにちは、エフォールです。僕たちは今、ヘルムバラドの宿のラウンジにいます。いつもここで朝食や夕食を食べているんですが、今日はいつもの時間になってもリーヴェさんとヴァージャさんが起きてこないので、さっきからフィリアが不満顔です。椅子に座って足をパタパタ動かす姿は何とも言えないくらい可愛いんですが、たまに物騒なことを口走る子なので余計なことは言わない方がいいことを最近学習しました。
このヘルムバラドは本当にいい場所で、見る人見る人誰もが笑顔で過ごしてるのがとても印象的です。みんな楽しそうで、どこにいても必ず笑い声が聞こえてきます。こんなふうに心穏やかに過ごすなんて、いつ以来だろうなぁ……ボルデの街に引っ越す前も、あまり気持ちが休まらなかったから。
「まあまあ、リーヴェさんたちも疲れてるんだよ」
「はあ、エルさんって本当に真っ白な人ですよねぇ……好き合ってるお二人がひとつの部屋で寝起きしてるんですよ、ナニかあったかもしれないじゃないですか」
「何かって……そんな、特に物音とか争うような声は聞こえなかったけど……それにこの宿はセキュリティも万全だし……」
リーヴェさんは最近寝つきがよくなかったみたいだし、多分疲れが溜まってるんだと思うんだけど……この返答はハズレだったらしく、フィリアの年相応の可愛らしい顔が更に不満そうに歪んでしまった。僕には姉さんはいたけど、下には誰もいなかったからフィリアは妹みたいなものだ。年上らしくお兄さんって慕われたいんだけど、なかなか上手くいかないな。
「はああぁ……そういうところが真っ白っていうんですよぅ。リーヴェさんとヴァージャさんの関係をごく普通の友達って思ってるんですか?」
「えっ……ち、違うの……!?」
「どう見てもお互いに好き合ってるじゃないですか、研究所でのことを思い返してみてください。私とエルさんには先に逃げるように言ったのに、リーヴェさんのことだけはお傍に置いてたじゃないですか」
だって、あの時はリュゼがいたから……なんじゃ、ないの?
リーヴェさんも僕たちと一緒に避難したら、きっとリュゼはどうにかしてヴァージャさんの目を掻い潜って僕たちの方を襲撃してきたと思うし……もちろん、その時は僕が思いきりボコボコにするつもりではいたけど、ヴァージャさんの傍が一番安全なのは考えなくてもわかる。
けど、やっぱり僕の反応はフィリアにしてみれば大いに不満だったみたいだ。大きな瞳が据わり、じっとりと睨んでくる。可愛いんだけど怖い。
「よくわかっていないエルさんには特別にお教えしますけど、リーヴェさんとヴァージャさんがお互いに抱いてる“好き”は……」
「おい、朝っぱらからどんな話題だ」
向かい合う形で座っていたフィリアがテーブルに身を乗り出して内緒話のように声量小さめに呟き始めたところで、横から声がかかった。フィリアとほぼ同時にそちらを見てみると、リーヴェさんがいた。その後ろからはヴァージャさんはゆったりと歩いてくる。
「おはようございます、リーヴェさん」
「ああ、おはようエル。フィリア、ちょっと話がある」
「わ、私まだ何も言ってませんよぅ! お説教は駄目です~~!」
「こらっ! おま、今日という今日は許さねえからな!」
フィリアは不満そうだった顔を一瞬で青くすると、椅子から転がるように降りて宿の出入口の方に駆けて行ってしまった。リーヴェさんはそんなフィリアの様子を目の当たりにして、慌ててその後を追っていく。ちょっと顔が赤いように見えたのは気のせい……かな。フィリアにお兄さんみたいに慕われるには、リーヴェさんを見習う方がいいのかもしれない。
「お前は変わるな、そのままでいい」
「そ、そうですか?」
「ああ、……どれ、朝食を先に頼んでおこうか」
フィリアとリーヴェさんを視線だけで見送った後、ヴァージャさんがそう言ってくれたから取り敢えずは……気にしないことにしよう。神さまに「そのままでいい」って言われるなんて、なんだかとんでもない贅沢をした気分だ。
……フィリアが何を言おうとしたのかは、ものすごく気になるけど。
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