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第七章:反帝国組織セプテントリオン
皇帝の目的
しおりを挟む反帝国組織の副隊長と名乗ったディーアに連れられて、街の中を駆けずり回る。仲間がいることを話すとディーアは快く協力を申し出てくれた、条件付きで。
ヴァージャたちを探しながら簡単に聞いた事情は、さっき宿の店主が話してくれた話と同じようなもの。ディーアが所属する反帝国組織セプテントリオンは、世界中の無能を集めようとする帝国の動きに反対することを目的とした集団らしい。何でも、帝国はこれを機に支配領域を広げるつもりで、いずれは世界そのものを帝国の支配下に置くことを目論んでいるんだとか。
「あれか、世界征服ってやつだな」
「そう、それだ。このまま世界中の無能たちが皇帝の所有になったら、誰も皇帝に敵うやつがいなくなっちまう。だから、俺たちは独自に無能……っていうと言葉は悪いが、保護して回ってるんだ」
どうやら、オレたちがヘルムバラドで遊んでる間に想像以上に大変な事態になっていたようだ。この世界で最も強いって言われてる皇帝が世界中のグレイスたちを傍に置いて、その全員から好意を寄せられたら……どうなっちまうんだ。さすがにヴァージャでも危ないんじゃないか。
「だから、仲間を見つけたらお前も俺たちのアジトに来てくれないか? もちろん、その仲間も歓迎するよ」
「多分反対はしないと思うけど……そのアジトには他にも無能がいるのか?」
「ああ、今のところ三十人くらいは。……これでも少ない方だ、大陸中を駆け回ってやっと三十人だからな」
それでも、三十人もオレと同じように無能無能って言われた連中がいるとなると……なんか嬉しいもんだな、心強いっていうかさ。
「あっ、リーヴェさん!」
「ああ、いたいた! 大丈夫だったか!?」
「それはこっちの台詞ですよぅ!」
商店街に向かう道を曲がった先、そこにはヴァージャたちの姿があった。フィリアも一緒だ、無事に合流できたようだ。どちらともなく駆け寄って簡単に怪我の有無を確かめてみたけど、誰にも怪我らしい怪我はない。そりゃそうだ、ヴァージャが一緒にいて怪我なんてさせるわけがない。
「その者は?」
「あ、ええと……助けてくれたんだ、反帝国組織の副隊長さんだって」
「まあっ! そんな素晴らしい組織があるんですか!?」
ああ、やっぱ食いついたよこのお嬢様は。フィリアはディーアの真正面に移動すると、大きな目をキラキラと輝かせながら嬉しそうな声を上げた。けど、当のディーアは怪訝そうな面持ちでジッとこちらを凝視してくる。……なんか、変なこと言った?
「お前……リーヴェっていうのか」
「あ、ああ、そういや名乗ってなかったな、そうだよ。……それが、どうかしたか?」
「いや……悪い、詳しい話は後だな。まずは落ち着ける場所に行こう、お嬢さんの質問にもあとでいくらでも答えるからさ。街の外に馬車を停めてある、そこに行くぞ!」
「わあぁ! よろしくお願いします!」
その反応は気になったけど、今はとにかく安全な場所まで逃げるのが先だ。先んじて駆け出すディーアの先導に続く最中、背中にはさっきの帝国兵たちだろう声が聞こえてくる。
「た、隊長! あそこです、あいつです!」
「やはりセプテントリオンか! あのドブネズミどもめ! 全員捕らえろ、帝国に刃向かったことを後悔させてくれるわッ!」
その声を合図に、進行方向や右左の道から一斉に武装した帝国兵が姿を現した。慌てて足を止めて辺りを見回してみるけど、どこを見ても三百六十度、綺麗に包囲されちまってる。ディーアも忌々しそうに舌を打ち、素早く周囲に目を向けていた。
武装した帝国兵たちは石弓を構え、いつでも撃てるような状態だ。捕まえろっていうか、殺る気満々じゃん……。
「大丈夫ですよ、こんな時のために僕がいるようなものなんですから。加減はしますけど、危ないので動かないでくださいね」
すると、エルが小声でそんなことを呟いた。そう言われれば、何をするつもりなのかは――大体わかる。以前あの現場に居合わせなかったフィリアとディーアは不思議そうに瞬いていたが。
エルが一言二言短い詠唱を連ねた次の瞬間、オレたちの足元には巨大な魔法円が浮かび上がり、そのままドーム状の結界を展開した。それと同時に空に浮かぶ太陽がひと際強く光り輝く。
「ま、まさか……ッ!? て、撤退! 撤退だああぁ!」
「た、隊長! 間に合いません!」
「ぎゃああああぁ!」
それはもちろん、以前マックにぶっ放した――ソル・グリントという太陽の天術だ。天術ひとつひとつにも適性があるはずだけど、エルは太陽以外のものも使えるって言ってたなぁ……こいつは本当にガチの天才ってやつなんだ。
こちらを包囲していた帝国兵たちは陽の光に焼かれて辺りを転げ回っている。「加減はする」って言ってたし、多分放っておいても死にゃあしないだろう。罪悪感はあるけど、情けなんてかけてたらせっかくエルが作ってくれた機会を逃すことになる。
「ほら、今のうちに行こうぜ。馬車ってのはどっちにあるんだ?」
「あ……ああ、こっちだ!」
フィリアもディーアも状況を忘れて目の前の光景に見入ってたけど、先頭のディーアを急かすと早々に意識を切り替えたらしい。慌てたように街の外へと駆け出していく。あんぐりと口を開けたままのフィリアを小脇に抱えてヴァージャやエルと共にその後に続く最中、隊長と呼ばれていた男が叫んだ。
「くそッ! 帝国に逆らったこと、死ぬほど後悔させてやるぞ! 覚えておけ、貴様らは皇帝陛下に楯突いたのだ! 絶対に逃がさんからな!!」
その叫びに、思わずゾッとした。軽く振り返ってみると男はその厳つい顔を憤りというよりは憎悪に歪めていて、まるで鬼のようだった。ヴァージャが「行くぞ」と声をかけてくれなかったら、下手をするとその場から動けなくなっていたかもしれない。
……皇帝陛下に楯突いた、か。オレたち、もしかしたらとんでもないことに首どころか全身突っ込んじまったのかもしれない。
「前も似たようなことを言っただろう。この世界を変えるのだ、とんでもないことでも何でも、必要ならやらなければならない。戦わずに平和な方法で今の在り方を変えるのは無理だ」
「あ、ああ……そう、だな」
ヴァージャに手を引かれて走りながら、その背中を見遣る。
今感じているこの奇妙な感覚の先には、いったいどんな未来があるんだろう。今の世界の在り方を変えたいなんて、そんな大それたこと――オレが神さまに願ったそれは、果たして間違ってないんだろうか。
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