闘乱世界ユルヴィクス -最弱と最強神のまったり世直し旅!?-

mao

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第七章:反帝国組織セプテントリオン

人間って面倒くさい

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 今まで自分を基準に考えることが多かったから、その可能性まではほとんど考えてなかった。無能が無能じゃなくなった時、グレイスの能力を笠に着て他人を見下すやつが出てくるっていう可能性を。

 確かに、今までずっと無能無能ってバカにされてきたんだから、力のある連中に腹を立てる気持ちもわかる。けど、今目の前で繰り広げられている光景は「わかる」なんて言えるような生易しいものじゃなかった。ただただ胸糞が悪い。


「わ、悪かったよ、俺たちだって馬鹿にするつもりで言ったわけじゃなかったんだ。今までが今までだったから、つい……グレイスって呼び方に慣れなくて」
「じゃあさっさと慣れなさいよ! あたしメッチャ傷ついたんだから!」
「俺も!」
「私も! すごく傷ついたわ!」


 彼らのそのやり取りから、なんでモメてるのか何となく見えてきた。
 多分、謝罪を要求されてる二人組は話をしていた最中に悪気なく「無能」って言っちまったんだろう。けど、そう呼ばれた側は自分たちに力があることを知った後だったから無能呼ばわりされたことに腹を立てた、と。……はあ、面倒くさいな。


「そうだな、こういうのは面倒くさい」
「だよなぁ、呼び方ひとつでこうネチネチされちゃあ堪ったもんじゃ……まてまてまてまてえええぇ!!」


 隣で屈むヴァージャからも同意が返ると、本当にどうしようもなく面倒になってきた。けど、見て見ぬフリをするのも気まずいしどうしようかと意見を求めようと横目にそちらを見遣った矢先――当のヴァージャ本人が黄金色の光に包まれていた。こめかみのやや上辺りから人の身には相応しくない角まで生えてくる。それを見れば、何をしようとしているのかは容易にわかった。

 直後、辺りの草木を問答無用にへし折って、ヴァージャの身があのバカデカいドラゴンの姿へと変貌した。


 * * *


 当然、アジトのすぐ傍にそんなデカいドラゴンが現れてディーアたちが気付かないわけもなく、また気にしないはずもなく。アジトから大慌てで出てきた組織メンバーたちの反応は、それはそれはまさに絵に描いたように見事なものだった。

 森の木々たちよりも遥かに大きな身は当然森から突き抜けていて、ディーアたちはそんな竜化したヴァージャを見て腰を抜かしたものだ。魔物かと武器を構え始めた頃に事情を説明して――今に至る。


「そ、そうか、噂には聞いてたけど……ヘルムバラドに舞い降りた翠竜様ってのは、アンタの――いや、あなた様のことでしたか!」
「普通に話してくれ、敬語は必要ない」


 どうやら、ヘルムバラドに神が再臨したという話はここまで届いていたようだ。そりゃあ、夢の国って言われるあそこには世界各地から人が集まるからな。神が現れたなんて話、嘘か真かは別にしても話のタネにはもってこいだ。ヴァージャ自身、それがわかっててあの場で自分の正体を明かしたんだろうけど。

 簡単に事情を聞いたディーアたちは納得したような顔をしたかと思いきや、次の瞬間にはアジトの地面の上に正座をする形で座り込んでしまった。それを見て、人型に戻ったヴァージャは居心地の悪そうな表情を滲ませる。さっき森で男二人を責め立ててた連中も、突然の神さまの来訪に目をキラキラと輝かせてる始末。


「よしっ! 神さまが味方してくれるなら絶対勝てるぞ!」
「そうよそうよ! あたしたちの勝ちだわ!」


 そんなふうに騒ぎ始める組織メンバーを振り返って、ディーアは困ったように笑う。でも、ちょっと嬉しそうだった。そりゃあ、ヴァージャがいれば余程のことがない限りは……と思うけど、そう手放しで喜んでいいんだろうか。


「ディーアさん、今のところ何人くらい帝国に連れて行かれたかわかりますか?」
「いや、正確な数は……一週間くらいで百は超えたそうだけど……」


 すると、隣に座ってたエルがそんな質問を投げた。考えることはエルも同じらしい、フィリアだってそうだろう。


「……僕、以前は一度天術を使うと精神力を使い果たしてしまってヘロヘロになってたんです。けど、さっきはそんなことありませんでした」
「ん? お、おう……? そういや、お前って天術が使えるんだな、すご――」
「そうじゃなくて、そうなったのはきっとリーヴェさんと旅をしてた影響です。最初は半信半疑でしたけど、グレイスの影響ってすごいものなんだなって思いました」


 ディーアの返答を聞いて、エルは自分の手の平を見つめながら神妙な面持ちでそう呟く。……そっか、ずっと一緒に旅してるから、みんなグレイスの能力強化の影響を常時受けてるんだよな。


「……百人以上いればリーヴェさんと同等の人もいるかもしれないし、そこまではいかなくても数が増えれば何倍にもなります、ヴァージャさんがいるからって楽観視はできませんよ」
「け、けど、こっちにも三十人はいるのよ!? 百と三十じゃそりゃ違うけど、神さまならそのくらいの差……」
「エルの言う通りだ、一週間で百なら今後更に増えることを考えた方がいい。それに……今この場にいる無能と呼ばれる者たちの中で、グレイスの能力を持っているのはリーヴェを抜かして三人ほどだ」


 ヴァージャのその言葉に驚いたのは、その場に居合わせた組織の連中だった。ディーアの話じゃ、三十人くらいは保護してるって言ってたもんなぁ。それが三十人じゃなくてたった三人しかグレイスの力を持ってないって言われたようなものなんだから、そりゃ驚きもするだろうさ。


「さ、三人!? 無能って偽ってるやつがいるってこと!?」
「そうではない、それ以外の者はカースと呼ばれる。グレイスとほぼ真逆の力を持つ者たちだ。……お前たち、仲間内で揉めていたら勝てるものも勝てなくなるぞ」


 そうだなぁ、今の状況って仲間が仲間の足引っ張ってるようなものだからな。
 けど、オレたちはカースの存在を知ってたから別に驚きはしないけど、ディーアたちは別だ。その言葉に文字通り絶句したように、瞬きも忘れてヴァージャをジッと見つめていた。

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