闘乱世界ユルヴィクス -最弱と最強神のまったり世直し旅!?-

mao

文字の大きさ
138 / 172
第十一章:城塞都市アインガング

ヘクセとロンプ

しおりを挟む
 マックは南大陸の小さな農村で生まれた。
 天才ゲニーとして誕生したことで両親のみならず、村の全員から蝶よ花よともてはやされ、それはそれは大切に育てられたそうだ。やらせれば何でもできるし、一を教えれば百を覚えるほどの鬼才の持ち主で、物心つく頃には周囲の誰もがマックに媚びへつらうようになった。

 村出身のマックが外で活躍すれば、村の名が周囲に知れる。そうなれば、村の発展が望めるわけだ。マック一人を猫可愛がりする裏で、蔑ろにされた者がどれだけいたかはわからないけど、天才マックの存在は当時の村の者たちにとって明るい希望だったに違いない。

 そのマックが歪み始めたのは、村の名が世間に知れ渡り始めた頃。
 これまでは自分中心だったマックの生活は、村の名が知れ始めると徐々に変わっていった。人の来訪が増え、行商人たちが居着くようになると次第に生活も便利になっていく。最初はマックに媚びていた大人たちも、人々の訪れと共に忙しくなり、マックのことは二の次、三の次になっていったらしい。これまで、何を差し置いても最優先にされていたマックにとって、人々の変わりようは許し難いものだったようだ。

 その生活に我慢できなくなったマックが村を飛び出して『ウロボロス』を設立したのが、十八歳の時。今が二十三くらいだから……大体五年前くらいになるのか。
 ヘクセがマックと知り合ったのはマックが二十歳の頃で、いずれは一国を築く王になるのだと熱く燃える姿にほとんど一目惚れだったそうだ。当時のヘクセから見れば、熱く夢を語るマックは何より格好良かったんだろう。天才ゲニーだし。

 国を築いた暁には、故郷の村の人たちを見返すために南大陸全てを統治するつもりだったとか。けど、サンセール団長率いるウラノスがいたことで、そう簡単に事が進まなかったわけだ。団長がいない隙にウラノスを倒そうと思ったらヴァージャにコテンパンにのされて赤っ恥かいて、そこから復讐に重きを置くようになっちまったんだろう。

 ……オレだったら、自分のお陰で村が繁栄したら嬉しくなっちまうけどなぁ。小さい頃から自分を最優先にされて育つと、マックみたいになるものなのかね。


「いずれは一国を築くのだと熱く夢を語っていたマックは、もういませんわ。今いるのは、ただの復讐の鬼……もしかしたら、初めから利用されていただけなのかもしれませんわね」
「……それでも、自分たちさえよければ周りなんてどうでもよかったんだろ。オレはやっぱりお前らのことは嫌いだね」


 ヘクセたちは、彼女の言うようにもしかしたら最初からマックに利用されていただけなのかもしれない。けど、だからって「マックはひどいやつだな」なんて感想にはならないんだ。ウロボロスにはオレを含めて色々なやつが蔑まれてきたし、ヘクセたちだってそれに乗り気だったんだから。

 すると、彼女はこちらを振り返っていつものように挑発的な笑みを浮かべた。


「ええ、わたくしもですわ、誰があなたのことなんて。……でも、嫌いなあなたに借しなんて作りたくありませんの。あなたたち、アインガングへ向かうんですって? 背後から不意を突かれないよう、潜伏している帝国兵を探しているのだとか?」
「……そうだけど」
「ふん、それなら安心してお行きなさい。不本意ですけれど、あなたたちの背中はわたくしたちが守って差し上げますわ」


 告げられた言葉を理解するのに、しばらく時間がかかった。だってそうだろう、どうせまた文句だの嫌味だのが飛んでくるものだとばかり思ってたんだから。オレが黙り込んでいると、ヘクセは面白くなさそうにムッとしてまた睨みつけてきた。


「なんですの、その顔は。何かおかしなことを言いまして?」
「いや、だって、なんでそんな……わかったぞ、安心させておいて後ろから撃ってくる気だろ、サクラが言ってた」
「んな……ッ!? そりゃあサクラごと撃ったことは何度もありますけれど、今回は別ですわ! あなたに借しを作りたくないと言ったでしょう! 無能無能だと思っていましたけど、本当にどうしようもないおバカですのね!? 言っておきますけど仲間だなんて冗談ではありませんわよ、利益があるから提案してるだけですからそれをお忘れなく!」
「やっぱ撃ったことあんじゃねーか! ああ、仲間だなんてこっちから願い下げだね!!」


 なんてこった、サクラが安心して戦えるって言ってたのがよくわかる。オレとヴァージャだけならともかく、フィリアたちまでいるのに背後にこんな危険なやつを置くなんて冗談じゃない。どう断ろうか、このまま放置して家に戻ろうかと考えていた矢先、また別の声が聞こえてきた。


「あー! いたいた、ダメじゃないヘクセ、まだ寝てないと!」


 その声に反応してそちらを見てみると、先ほどの家から出てきたのはロンプだった。さっきの治療のお陰で、彼女の頬に刻まれていた傷も綺麗に消えている。ロンプは嬉しそうに笑いながら、手を振ってこちらに駆け寄ってきた。けど、オレの姿に気付くなり目をまん丸くさせて、その手で軽く後頭部を掻いてみせる。


「無能クンも一緒だったんだぁ。ごめんね、話の邪魔しちゃったかな」
「……あのさぁ、いい加減そのってのやめてほしいんだけど……」
「あ、そっか、ええっと、えっとぉ……」


 ロンプはヘクセのように突っかかってくることはないようだ。最初こそ微妙な距離間だったけど、治療したことですっかり信用されてしまったらしい。無邪気なタイプだとは思ってたものの、彼女は想像以上に素直そうだ。
 でも、要求をぶつけた途端、その目が困ったように宙を泳いだ。彼女の隣にいるヘクセまで目を逸らしてくるものだから、ややしばらくの逡巡の末、ひとつの可能性に行き着く。まさか、まさかとは思うんだけど――


「……なあ、お前ら……もしかして、オレの名前、覚えて……ない?」
「えへ、興味ない男の情報はすぐ忘れちゃうんだぁ……ごめぇん」


 舌をちょっと出して可愛らしく笑いながら、ロンプがそう答えた。興味持たれても困るしそこは別にいいんだけど、それは別として彼女のその返答はオレの心の深い部分にぐっさりと刺さった気がした。こいつら、ほんと揃いも揃って……なんか色々と馬鹿らしくなってきた。


「リーヴェ、リーヴェ・ゼーゲンだ! 今度こそ覚えとけ、この野郎!」
「ご、ごめん、ごめんってぇ~! 恩人だもんね、もう忘れないよぉ~!」


 ……ヘクセだったら言い返してくると思うけど、こうやって謝られるとそれ以上怒る気もなくなる。元ウロボロスの面々もみんな尖ってるわけじゃないみたいだし、ヴァージャとディーアが戻ってきたら、さっきのヘクセの提案のこと話してみるか。本当に彼女たちが背中を預かってくれるなら有難い話だ。……正直気に入らないけど、そんなワガママも言っていられないしな。



「――ゼーゲンねぇ……の間違いだろ?」


 けど、そんなオレの思考を綺麗に止めたのは、思わぬ方向から聞こえてきた聞き覚えのある声だった。できればあまり聞きたくない声。
 反射的に振り返った先には、月明りに照らされながらこちらを見据えるマックが佇んでいた。その顔に不気味な薄笑いを浮かべて。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

ワケありくんの愛され転生

鬼塚ベジータ
BL
彼は”勇敢な魂"として、彼が望むままに男同士の恋愛が当たり前の世界に転生させてもらえることになった。しかし彼が宿った体は、婚活をバリバリにしていた平凡なベータの伯爵家の次男。さらにお見合いの直前に転生してしまい、やけに顔のいい執事に連れられて3人の男(イケメン)と顔合わせをさせられた。見合いは辞退してイケメン同士の恋愛を拝もうと思っていたのだが、なぜかそれが上手くいかず……。 アルファ4人とオメガ1人に愛される、かなり変わった世界から来た彼のお話。 ※オメガバース設定です。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

伯爵令息アルロの魔法学園生活

あさざきゆずき
BL
ハーフエルフのアルロは、人間とエルフの両方から嫌われている。だから、アルロは魔法学園へ入学しても孤独だった。そんなとき、口は悪いけれど妙に優しい優等生が現れた。

処理中です...