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第4章 無慈悲な大陸と絶望の世界
16 湯けむり散策
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トランスポートスクエアについて、3日ほどたった。
最初の2日は、ソフィアに案内してもらっていたが、今日はソフィアが領主館の方に顔を出すとのことだったので、自由行動ということになっている。私達は表向き、平民扱いになっているため、比較的自由に街の中を歩くことができた。念のため護衛や案内人をつけるか聞かれたがお断りしている。また、シリウスとアルキオネは、騎士団に興味があるらしく見学に行くそうだ。
かくいう私は、のんびりと街を散策していた。この街の火山に近い辺りには、温泉街があるとのことだったので、歩いて向かっているところだ。
(これが温泉街…イメージ通りだけど想定外だわ。)
温泉街にたどり着いた私は、瞠目していた。内心で正反対のことを言っているが、本当にその通りの表現しか浮かばなかった。見た目は私の知識にある通りの温泉街だが、今まで和風の造りなど見たことがないため、ここだけ別世界のようである。
(この世界にも和風の文化があるのかしら?それとも前世の記憶持ちが温泉街を作った?)
私という前例がある以上、前世を地球で過ごした記憶を持っている人が他にいたとしても不思議ではないだろう。
「お嬢さん、温泉街は初めてかい?もしよかったらこの本をどうぞ。」
「ありがとうございます。…ここだけ別世界みたいですね。この国の方が設計したんですか?」
パンフレット状の本を受け取りつつ、不思議に思ったことを聞いてみた。
「確か10年くらい前に、旅にきていた人が設計したそうだ。確か…今はアルカディア王国にいた気がするなぁ」
アルカディア王国は、エスペルト王国の北、グランバルド帝国の東に位置する大国だ。周辺国と国交がないため内情がわからないが、和風なものが他にもあるかも知れない。
「なるほど…ちなみになんですけど、おすすめの温泉ってありますか?」
「おすすめか…ここの地図に載ってる、この温泉とかだな。」
「ありがとうございます。参考にしますね。」
早速、おすすめの温泉へ向かうことにした。中に入って受付を済ませる。タオルなど必要なものと浴衣を買って受け取り女湯へ入ると、日本でよく見るなじみのある光景だった。中には露天風呂から檜風呂を始めとする、たくさんの種類のお風呂があるらしく、阿蘇にある温泉を連想させる。
その中でも、露天風呂のところへ向かい湯につかる。なお、この世界では同性でも他人にはあまり肌は見せないため、湯の中でもタオルで隠すのが基本のようだ。
「はぁ………生き返るわ…」
離宮にもお風呂はあるし広い湯舟はあるが、天然の温泉は別格だ。気持ちよくて、つい言葉が溢れてしまう。なお、ここの温泉の効能は美容や健康に効果があるらしい。
しばらく温泉を堪能した後、湯から出ると浴衣に着替えた。売店で瓶に入った牛乳を買って一気に飲む。
(温泉といえばこれなんでしょうけど…この世界で、体験をするとは思わなかったわね。)
前世の記憶で残っているのは、知識の部分がほとんどのため、温泉に入った思い出は覚えてないが、なんとなく懐かしい気分になった。
温泉の建物を出ると、ちょうどお昼時のため露店で買い物をする。串にささった焼き団子や鮎の塩焼きと温泉卵を買って、頬張りながらぶらぶらと散策する。温泉街の向こう側には、楓の木が広がっていて綺麗な赤色に染まっていた。温泉街で紅葉を眺めながら食べる美味しい食事は、風情があっていいものだと思った。
その後は、近くの渓流で釣りができるとのことだったので、向かうことにした。
一方、シリウスとアルキオネはこの街にある騎士団の修練場を訪れていた。自由行動ということで、この国の騎士達の動きを見たかったからだ。
今は、修練場の端の方で練習を眺めている。練習は筋トレから始まり、素振りや模擬戦に渡る。剣術や体術は国によって異なる。色々な国の技術は、普段見ることができないためとても貴重な経験になる。
「リウ様、アキ様、騎士団の訓練はいかがですかな?」
話しかけてきたのは、騎士団長のレイガス・フォン・スフィーダだった。見学したいと伝えたときにソフィアが紹介してくれて、今日案内してくれた人でもある。
「レイガス様、やはり国によって動きが違うので、いい刺激になります。」
「色々な人の戦いを見るのも参考になりますね。」
「もし良ければお二人も模擬戦に参加してみませんか?」
「「ぜひお願いします。」」
レイガスの提案は、願ってもないことだったので2人して受けることにした。お互いに身体強化をしない純粋な身体能力と剣術での戦いだ。アルキオネは副騎士団長とシリウスはレイガスとそれぞれ模擬戦を行う。最初のうちは、慣れない剣術なこともあって防戦一方になったが、打ち合ううちに剣術の癖を掴んで2人して勝つことができた。
模擬戦が終わって汗を拭いていると、レイガスが話しかけてきた。
「流石、ソフィア王女殿下を助け出したことはありますな。見事な剣でした。」
「こちらこそありがとうございました。ノーランド王国の剣術は初めて見たので、いい経験になりました。」
「ありがとうございました。」
2人して感謝を伝えるとレイガスは微笑み返す。
「お2人の剣は、騎士らしさを感じる剣でした。恐らく本気で戦えば、我々では相手にならないでしょうな。」
(恐らくレイガス様は、私達の正体をある程度察しているだろうな…)
シリウスは内心そんなことを考えながら、この後も修練に参加するのだった。
ラティアーナはしばらくの間、竿を構えていた。釣りをするのは初めてだが、待つ間の無になれるこの時間は、好きかも知らない。捕まえることが目的ではないため釣ってもそのまま放すが、6回ほど釣ることができた。
釣り竿を返して、もう1度温泉に入ろうと歩き出したとき…
辺り一帯の地面が揺れた。
最初の2日は、ソフィアに案内してもらっていたが、今日はソフィアが領主館の方に顔を出すとのことだったので、自由行動ということになっている。私達は表向き、平民扱いになっているため、比較的自由に街の中を歩くことができた。念のため護衛や案内人をつけるか聞かれたがお断りしている。また、シリウスとアルキオネは、騎士団に興味があるらしく見学に行くそうだ。
かくいう私は、のんびりと街を散策していた。この街の火山に近い辺りには、温泉街があるとのことだったので、歩いて向かっているところだ。
(これが温泉街…イメージ通りだけど想定外だわ。)
温泉街にたどり着いた私は、瞠目していた。内心で正反対のことを言っているが、本当にその通りの表現しか浮かばなかった。見た目は私の知識にある通りの温泉街だが、今まで和風の造りなど見たことがないため、ここだけ別世界のようである。
(この世界にも和風の文化があるのかしら?それとも前世の記憶持ちが温泉街を作った?)
私という前例がある以上、前世を地球で過ごした記憶を持っている人が他にいたとしても不思議ではないだろう。
「お嬢さん、温泉街は初めてかい?もしよかったらこの本をどうぞ。」
「ありがとうございます。…ここだけ別世界みたいですね。この国の方が設計したんですか?」
パンフレット状の本を受け取りつつ、不思議に思ったことを聞いてみた。
「確か10年くらい前に、旅にきていた人が設計したそうだ。確か…今はアルカディア王国にいた気がするなぁ」
アルカディア王国は、エスペルト王国の北、グランバルド帝国の東に位置する大国だ。周辺国と国交がないため内情がわからないが、和風なものが他にもあるかも知れない。
「なるほど…ちなみになんですけど、おすすめの温泉ってありますか?」
「おすすめか…ここの地図に載ってる、この温泉とかだな。」
「ありがとうございます。参考にしますね。」
早速、おすすめの温泉へ向かうことにした。中に入って受付を済ませる。タオルなど必要なものと浴衣を買って受け取り女湯へ入ると、日本でよく見るなじみのある光景だった。中には露天風呂から檜風呂を始めとする、たくさんの種類のお風呂があるらしく、阿蘇にある温泉を連想させる。
その中でも、露天風呂のところへ向かい湯につかる。なお、この世界では同性でも他人にはあまり肌は見せないため、湯の中でもタオルで隠すのが基本のようだ。
「はぁ………生き返るわ…」
離宮にもお風呂はあるし広い湯舟はあるが、天然の温泉は別格だ。気持ちよくて、つい言葉が溢れてしまう。なお、ここの温泉の効能は美容や健康に効果があるらしい。
しばらく温泉を堪能した後、湯から出ると浴衣に着替えた。売店で瓶に入った牛乳を買って一気に飲む。
(温泉といえばこれなんでしょうけど…この世界で、体験をするとは思わなかったわね。)
前世の記憶で残っているのは、知識の部分がほとんどのため、温泉に入った思い出は覚えてないが、なんとなく懐かしい気分になった。
温泉の建物を出ると、ちょうどお昼時のため露店で買い物をする。串にささった焼き団子や鮎の塩焼きと温泉卵を買って、頬張りながらぶらぶらと散策する。温泉街の向こう側には、楓の木が広がっていて綺麗な赤色に染まっていた。温泉街で紅葉を眺めながら食べる美味しい食事は、風情があっていいものだと思った。
その後は、近くの渓流で釣りができるとのことだったので、向かうことにした。
一方、シリウスとアルキオネはこの街にある騎士団の修練場を訪れていた。自由行動ということで、この国の騎士達の動きを見たかったからだ。
今は、修練場の端の方で練習を眺めている。練習は筋トレから始まり、素振りや模擬戦に渡る。剣術や体術は国によって異なる。色々な国の技術は、普段見ることができないためとても貴重な経験になる。
「リウ様、アキ様、騎士団の訓練はいかがですかな?」
話しかけてきたのは、騎士団長のレイガス・フォン・スフィーダだった。見学したいと伝えたときにソフィアが紹介してくれて、今日案内してくれた人でもある。
「レイガス様、やはり国によって動きが違うので、いい刺激になります。」
「色々な人の戦いを見るのも参考になりますね。」
「もし良ければお二人も模擬戦に参加してみませんか?」
「「ぜひお願いします。」」
レイガスの提案は、願ってもないことだったので2人して受けることにした。お互いに身体強化をしない純粋な身体能力と剣術での戦いだ。アルキオネは副騎士団長とシリウスはレイガスとそれぞれ模擬戦を行う。最初のうちは、慣れない剣術なこともあって防戦一方になったが、打ち合ううちに剣術の癖を掴んで2人して勝つことができた。
模擬戦が終わって汗を拭いていると、レイガスが話しかけてきた。
「流石、ソフィア王女殿下を助け出したことはありますな。見事な剣でした。」
「こちらこそありがとうございました。ノーランド王国の剣術は初めて見たので、いい経験になりました。」
「ありがとうございました。」
2人して感謝を伝えるとレイガスは微笑み返す。
「お2人の剣は、騎士らしさを感じる剣でした。恐らく本気で戦えば、我々では相手にならないでしょうな。」
(恐らくレイガス様は、私達の正体をある程度察しているだろうな…)
シリウスは内心そんなことを考えながら、この後も修練に参加するのだった。
ラティアーナはしばらくの間、竿を構えていた。釣りをするのは初めてだが、待つ間の無になれるこの時間は、好きかも知らない。捕まえることが目的ではないため釣ってもそのまま放すが、6回ほど釣ることができた。
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辺り一帯の地面が揺れた。
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