王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第5章 王女の学園生活

10 惑いの森からの撤退戦

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 元の空間の穴があった場所を目指して、森の中を歩く。
 相変わらず霧によって周りを見渡せないが、おおよその通って来た方向は覚えている。たまに森が幻覚を見せてくることもあるが、視覚にしか影響しないため落ち着いて対処すれば問題ない。

「ここまでで約半分ですね。皆さんまだ大丈夫ですか?」

 アイリスが先頭を歩きながら、後ろを向いて確認する。人数が増えたこともあり、離れてしまわないように定期的に確認が必要だ。

「大丈夫ですが…3人を早く休ませて、きちんとした治療がしたいですね。」

 私は最後尾を歩きながら答えた。アドリアスも2人を担いでいるのもあって、余裕がなさそうな表情をしている。
 そこから少し歩いて空間の穴があった近くに来た時、目の前にヒュドラーがいた。

「ここに来て遭遇ですか…或いはここに来ることがわかっていて、待ち構えていた?」

 アイリスはそう呟きながらも構えている。戦闘は回避したかったが、避けては通れなさそうだ。

「アドリアスは下がってて。2人のことよろしくね。イリーナ!」

「わかってるわ。」

 私はそう言いながら、アイリスと共に並ぶ。1番後ろにいるアドリアスたちを護るようにイリーナが立ち、杖を構えた。

「毒が来ます。イリーナさん!」

 ヒュドラーはいくつもの首から毒を吐き出す。対してイリーナは杖を構えて、魔術を展開した。

「毒は厄介ですが…無害化してしまえば問題ないですわ!」

 イリーナの魔術によって毒液は凍りつく。氷となった毒は砕けて、そのまま地面に落ちる。
 その隙に私とアイリスは、ヒュドラーの両脇から接近した。私は辰月を振るい、アイリスは杖から魔術を撃ち出す。
 アイリスの雷撃と私の斬撃がそれぞれの首を捕らえた。

「なかなか通らないですね。」

「ええ。この程度では、浅く傷がつく程度みたいです。」

 他の首が噛みつこうと襲ってくるため、私とアイリスは距離を取る。その隙にイリーナは、魔術を複数展開していた。
 6つの術式が展開され、炎弾や圧縮した水、氷の槍、風の弾丸、土から生成した槍、聖属性の槍、闇属性の球体が一斉に襲う。

「通りやすい魔術があればいいのだけれど…どうかしら?」

 これによって、アイリスが試した雷以外の全ての属性を試したことになる。土煙が晴れて、ヒュドラーの姿が見えるが

「…効いてなさそうね。」

 無傷で佇んでいた。

 現状ヒュドラーの首が届く位置で戦っているのが、私とアイリスのみのため、首が3本ずつ割り振られているようだ。残りの首はイリーナからの攻撃を防いだり、予備として残したりしているのだろう。

 私はヒュドラーに接近しつつ刀を振るっていく。複数の首からの攻撃を回避するため、手数は落ちるが気を引くことはできるだろう。アイリスも短剣による近距戦を仕掛け、合間に杖から下級魔術で牽制する。
 その間イリーナは、杖に装填していた魔力結晶を砕いて魔術を展開する。私にとっての宝石と同じで、瞬間的に魔力を用意して生み出された魔術は、超高温の炎球を生み出した。
 私とアイリスが距離をとるのと同時にヒュドラーに目掛けて放たれる。当たる直前に炎球がはじけると、体全体を包み込むほどの柱となって、範囲内の全てを焼き尽くす。

「これならどうかしら?」

 炎が消えると焦げて爛れているヒュドラーの姿が見えるが、見る見るうちに傷が回復していく。

「あれがヒュドラーの不死性!?」

 アイリスは、その現象に驚きながらもヒュドラーの攻撃を避けて反撃していく。

「これならどうかしら…」

 私は夜月に魔力を喰わせて振り払った。夜月から放たれた斬撃は、ヒュドラーの首に当たるとそのまま跳ね飛ばす。それでも少しすると切り口から首が生えてくる。
 傷を癒しながらも残りの首が襲ってくるため、急いで距離をとった。一旦私とアイリスはイリーナたちの近くに集まる。

「焼いてもダメ、斬ってもダメですか…正直なところ手のうちようがないですね。」

 アイリスはため息を吐きながら呟いた。

「わたくしも斬撃が意味をなさないとなると、取れる手段があまりないですね…イリーナはどう?」

「あとは…回復できないほどの攻撃を行うか、動きを止めることに重点を置くか…」

 私が問いかけるとイリーナは悩んでいるようだった。

「今回は倒すことじゃありませんので足止めします。…時間稼ぎをお願いしますわ。」

「ええ。」「了解よ。」

 足止めはイリーナに任せて、私とアイリスはそのための時間稼ぎを行う。
 身体強化の倍率をさらに上げて、辰月と夜月に魔力を纏わせる。加速魔術も併用してヒュドラーに多角的に斬りかかった。斬り落とすまではいかないものの、切り傷を与えていく。
 同時にアイリスも身体強化を使ってヒュドラー接近すると、短剣を上空に投げて杖で殴る。同時に短剣に仕掛けていた魔術が発動し、空から雷撃が襲う。さらに杖から衝撃波を放っていく。

 イリーナとアイリスは共に魔術主体で戦うが、戦闘スタイルは全く違う。
 イリーナは魔力の多さと精密操作による、下級魔術の多重展開や上級以上の魔術を行使することが多い。それによる広範囲への殲滅や高威力攻撃を主軸にしている。
 対してアイリスは下級魔術の発動速度が早いため、近距離での魔術戦を得意としていた。身体強化も含めた短剣と杖を使った格闘術の中に、魔術を絡める戦法を使うことが多い。

 私とアイリスがヒュドラーの周りで仕掛けている間に、イリーナは魔術を行使していた。
 2層の術式からなるこれは、遠距離の指定範囲上を氷で閉じ込める効果がある。魔力の消費を度外視する代わりに魔力による氷を生成することで、周りの水分に左右されないメリットがある。

「お二人とも、下がってください!」

 イリーナの掛け声に私とアイリスは距離をとった。
 同時にヒュドラーの足元に術式の展開されて、氷の柱に包まれて…凍りついた。

「わたくしの残り魔力のほぼ全てを、注ぎ込みましたわ。」

 イリーナは肩で息をしながら、私たちの元にやってきた。ヒュドラーも氷漬けになって身動きが取れないらしく、動き出す気配はない。

「今のうちに脱出しましょう。」

 アイリスの言葉に私たちも頷く。ヒュドラーがいたせいか、近くに魔物の気配はない。

 私たちは急いで空間の穴まで戻ると、跳躍して飛び込んだ。

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