王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第6章 エスペルト王国の革命

6 王女による強襲

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 暁の頃、森から街まで駆け抜けていく。途中、敵部隊がいくつか散見したが森から出てきたことが露見しないようにスルーしていく。一番近い入口は街の南側だが方向をごまかすために北側まで迂回して、敵に見つかることなく街の入口にたどり着くことができた。

「都市へ入りたいのか?身分証を……!?」

 フード付きのローブを羽織っているものの、変装まではしていないため髪色や瞳の色から不思議に思われたようだった。門番は手配書を取り出して私の顔を凝視すると正体に気付いたようで叫ぼうとする。

「ラティっ!?」

 私は門番を掴むと肩越しに投げた。投げられた門番は地面に叩きつけられた衝撃と痛みで蹲っていて、その隙に街の中へ駆け出す。
 背中越しに「不法侵入者だ!おい大丈夫か!?」「王女だ…侵入者はラティアーナ王女殿下だ!」という声が聞こえてきて騒ぎが広がっていくのを感じるが、気にせずに街の中央を目指した。

「いたぞ…捕らえよ!領主様にも連絡だ!」

 前から領兵たちが剣を構えながら走ってくる。相手が剣を振ると同時に掴んで身体ごと投げ飛ばす。投げる途中で剣だけ奪うと残りの兵士を蹴り飛ばした。

「ぐっ……」

 蹴り飛ばされた兵士はそのまま気を失ったようだった。一瞬で2人やられたことに警戒したのか、残りの兵士たちは剣を構えたまま距離をとる。

「あなたたち、わたくし相手に剣を向けていいと思っているのかしら?」

「あなたはもう王族ではない…革命が成功し新王としてディードリヒ陛下がたった今、ラティアーナ様あなたこそが反逆者です。」

 その間にも兵士たちが集まってくるが、術式を構築して待機させ周囲の魔力を集めながら話を続ける。

「そうね…革命に失敗すれば賊軍だけど成功すれば官軍になる。でもね、ディートリヒがこのまま国を治めることができると思っているのかしら?」

「ですが…領主の決定ですので。」

「わかったわ。あなたみたいな人は嫌いではないから…命だけは助けてあげる。」

 私はそう言いながら剣を捨てると、代わりに短剣2本を構えた。

「かかってきなさい。わたくしが全力を持って相手しましょう。」

 兵士たちが同時に全方位から斬りかかってくるが、待機状態の魔術を発動させて迎撃する。集めた魔力を術式に流して一瞬遅れて展開される。迸る雷撃によって斬りかかってきた兵士たちは、全て地面に崩れ落ちた。

「たったの一撃でこんなにやられるなんて…」

 残りの兵士も襲い掛かろうとしていたが、私の魔術に驚いたようで硬直していた。その隙に短剣を振るって残りの兵士たちを倒していく。
 最後の兵士は「王女様…ありえない。怖すぎでしょ…」と呟きながら倒れていった。

「失礼ね…峰打ちにしたのだから感謝して欲しいわ。」

 聞こえていないとわかっていながらもそう呟くと、街の中央を目指して走り出した。


 先ほどの魔術による雷撃は、想定通り周りから目立ったようだ。そのうち領兵だけでなく武装な特殊な部隊もいくつかやってきた。

「全隊構え。撃て!」

 王国の正規兵じゃないと思われる部隊は、銃が主体のようで一斉に撃ってきた。私は相手が引き金をひくタイミングで上空に跳躍して、そのまま部隊の中へ飛び込む。

「消えた!?」「違う、上だ!」

 兵士たちが気付いたときには既に短剣の届く距離にいる。相手が動き出す前に素早く斬り付けていった。

「ぐっ…」「ちっ…舐めるな!」

 少し離れたところにいる兵士が銃口を向けてくるのが見える。私は一番近くにいた兵士の首根っこを捕まえると、銃口を向けてくる兵士に向かって放り投げた。

「はっ?」

 兵士は銃を構えたまま呆然と立っている。空中を飛ぶ兵士は意識がはっきりしているようで「やめろ…撃つな!」と口が動いているのが見えた。
 私は空飛ぶ兵士を盾にして一気に近づくと短剣で斬って、そのまま銃を奪い周りに向けて撃つ。
 1人だけ残すようにして銃を突きつけながら問いかけた。

「あなたたちの部隊の役割はなにかしら?」

 兵士は顔を青くしながらも「さあな…」と口を開こうとしない。

「言うつもりはないってわけね。そこまでドラコロニア共和国に忠誠を捧げるなんて…大したものだわ。」

「なにを!?」

 兵士が思わず口を開いて焦った顔を見せるが、確認したいことはわかったため銃床で殴って眠らせた。
 この大陸で銃を主武装にした運用をしているのは、南に隣接するドラコロニア共和国とエインクレイス連邦のみ。ただし連邦については緊張状態にあったものの小競り合いは起きていない。そのため、半分勘だったが当たっていたようだ。

 それから街にいたいくつかの部隊を殲滅していく。銃を武装した部隊相手でも不意打ちに気を付ければ、いかようにも対処できるため時間はそうかからなかった。
 なお街に住む人々は、戦闘音と兵士の掛け声を恐れて建物から出ないようにしているようだった。住民には被害を出したくないためとても助かる。

「失礼するわよ。薬を買いたいのだけど…いいかしら?」

「ひっ!…は、い!」

 店にいた薬師が腰を引きながら返事をした。仕方がないことだとわかっているため苦笑しながらも傷つける意思がないことを示す。

「改めまして…わたくしラティアーナ・エスペルトと申します。あなたを傷つけることはないので解熱剤や栄養剤、傷薬を売ってくださいませんか?手持ちはあるので迷惑料もかねて言い値でいいですよ?」

「か、かしこまりました、ラティアーナ殿下…お代は結構ですので…」

 薬師は顔を引きつらせつつも薬をもってきてくれた。お代は要らないということだったので、相場の価格より少し多めの貨幣を取り出して渡して「ありがとう。ほんのお礼よ。」と言いながらお店を後にする。

(さて、領主には通信が入っているだろうから援軍が来るだろうけど…領都からこの街までは徒歩で半日かかるのよね。少し混乱させたいから、領都方面でいくつか部隊を潰してから戻りましょうか。)

 私は内心で危ないことを考えながらも、先の薬師とのやりとりのようなことをして食料品を手に入れた。
 物資を魔法袋に詰め込むとそのまま街を出て北にある領都方面へ駆け出す。
 身体強化をかけながらしばらく走っていると、こちらに向かっている兵たちを見つけた。

「あれは…!?」

 移動している兵たちに強襲を仕掛ける。相手は襲っている相手が誰かを理解する前に意識を飛ばしていった。

「早く援軍をよ、ぐっ!」「救援信号を!?」

 何人かの兵士が私に気づいて周りに知らせるために合図や通信を入れようとするが、行動をさせる前に素手で殴り飛ばし気を失わせる。
 部隊を全滅させると兵士の1人の通信用魔術具を借りて

「ラティアーナ王女を見つけました。領都方面に向かって逃亡中…」

 嘘の報告を伝えながら魔術具に魔力を流し破壊する。これにより、通信がいきなり途絶するように見せかけることができるため、信頼性が増すだろうと思う。

 それから周りに誰もいないことを確認すると、皆のいる方向へ戻るのだった。
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