王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第6章 エスペルト王国の革命

18 王族内の話し合い

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 革命による戦いは一旦終わりを迎えた。
 兵士や騎士の中には王族にも猜疑心を持っている者たちもいたが、ドミニクやフランツを慕っていることもあってまとまりを見せている。

 戦いが終わって数日、王国軍はドミニクに近衛騎士団はフランツに再編をしてもらっている。
 国政にも影響が出ているが、宰相のスエンティア公爵の働きで落ち着きつつある。
 また、お父様にかかっていた精神干渉は魔術士団の力を借りて解除することができた。

 そして今日は、王族全員で今後の方針を決めるため王城に集まっていた。昼過ぎから王宮にある部屋で話し合いを行うが、その前に約束があったため城内の修練場に向かう。

「あら、お待たせしましたかしら?」

「俺もちょうど今来たところだ…では決着をつけようか。母上の立ち会いでいいんだな?」

 今ここにいるのは私とガイアス、レティシアの3人だけだ。
 ガイアスは元々、王位を狙っていた。この革命の間は、ディートリヒとの対決には関わっていないが、グランバルド帝国からの先遣隊の相手をしていたことと、そもそも王国の方から動けないことは知っていた。
 そのため、私とガイアスで戦い勝った方が次の王になると言うことで話をつけていた。

「いつでもいいわよ、ガイアスお兄様。」

「俺もいつでも問題ない。しかし…ラティアーナがここまで力を隠していたとはな。今まで会った時とは…気迫も圧も全く違うぞ。」

「わたくしは元々、王位になんて興味なかったので。せっかく眠っててあげたのに狙われるから相手をしないといけないし、お父様が下手をうつからこうして動く羽目になったのよ?」

 私は言外に文句ならこの状況を生み出したお父様とレティシアにね、と伝えるとガイアスは「わかっているさ。」と呟いた。

「俺は王を狙っているが…強い者が王になるべきだと言う考えは昔から変わってない。」

 今まで私は魔力が少ないことは表に出していたものの、他のことは出さないようにしていた。ガイアスにとって今までの私は、魔力も力もない王族と思っていたはずで、王族の恥晒しと言っていた理由がわかったような気がした。

「であれば…強さは魔力だけじゃないってことを証明してあげるわ!」

 私の言葉を皮切りにして同時に前に出た。
 ガイアスが大剣を抜いて斬りかかってくるのに対し、私は身体強化を使い魔力を纏わせて2本の刀で受け止める。

「ほう…真っ向から来るか。」

「言ったはずよ…証明するって!」

 ガイアスとの戦いは、ただ勝てばいいというものではない。王としての国を守るだけの、治めるだけの力を示さなければならないだろう。
 ガイアスの方が魔力が多いため身体強化の倍率が高い。また元の身体能力も高いため一撃一撃がとても重かった。
 対して私は一撃の重さは足りないが、二刀流であることを活かして多数で補う。そうすることで戦いの均衡を保っていた。

「なら、これはどうかな?」 

 ガイアスはそう言うと地面に手を当てて魔術を行使する。次の瞬間、私の足元が隆起して上空へ吹き飛ばされる。私は空中で体勢を立て直すが、ガイアスの魔術によって巨大な氷塊が飛んできた。
 私は辰月を振るって氷塊を両断すると、夜月に魔力を喰わせて魔力障壁を蹴ってガイアスに向けて突進し、全体重を乗せた突きを放った。
 全ての力を一点に収束させた突きは、生半可なものでなくガイアスを防いだ大剣ごと吹き飛ばす。同時に周囲の魔力を取り込んだ身体強化で一気に加速し、着地しようとするガイアスに対して夜月を横から一閃した。
 加速した勢いと遠心力を乗せた一撃は、体制が整っていないガイアスを吹き飛ばした。
 ガイアスは剣を吹き飛ばされて仰向けに倒れる。

「勝負あったかしら?」

「ああ、俺の負けだ。お前のことを認めよう。」

 ガイアスは立ち上がりながらそう口にする。

「レティシア様も構わないわよね?」

「そう言った約束でしたもの…ラティアーナのことを認めるしかないでしょう。」

 レティシアも肩をすくめながら呟くのだった。



 それから昼が過ぎ話し合いの時間となる。王宮の部屋に集まったのは私とお父様、レティシア、ガイアス、ギルベルト、ローザリンデ、リーファスの8人だ。話し合いは他の貴族はもちろん護衛なども排して行われることになる。

「では…皆も知っていると思いますけど、わたくし国王になろうと思いますわ。」

 話し合いは私の一言から始まる。王になるということは、先の全王国内への通信しているため念のためだ。
 周りの反応を見る限り今でも反対をしている者はいなそうだった。

「私は…先の革命で操られていたとはいえ、エスペルト王国の混乱を招いた責任がある。解決したのはラティアーナであるから、異論はない。他の皆が認めるのであれば喜んで後ろ盾になろう。」

 お父様は皆は任せると言うスタンスらしい。責任を感じているとはいえ、私のことを認めるだけでなく後ろ盾まで引き受けてくれるのは、少し意外だった。

「俺と母上も認めよう。先程、ラティアーナと戦ったが俺は負けた。それも僅差でなく完全にだ。ラティアーナであれば…国を守るだけの力もあるだろう。」

 ガイアスを先の戦いで決着をつけた通り、認めると宣言してくれた。レティシアも異存はないというように無言を貫いている。

「私も革命の最中にラティアーナと話した通りだ。次期王にラティアーナがなればいいと思う。」

「わたくしもラティアーナお姉様が国王になるべきだと思います。」

「私もラティアーナ姉上しかいないと思います。」

 全員が認めたことで話し合いはこれから先のことに移っていく。具体的には残りの王族をどうするかについてだ。

「まず私から…ラティアーナには既に伝えているが、ドラコロニア共和国をいただきたいと思っている。ドラコロニア共和国は約20年前に革命によって君主制から共和制に移行した国だ。当時の王族は革命の時に処刑されているが…生まれて間もない娘だけは、罪はないとして生かされている。今は半分奴隷として大統領の使用人をしているようだ。」

 ギルベルトはドラコロニア共和国の現状について話していく。私も歴史の一貫として共和制に移行した経緯や時期は知っていた。しかし、当時の王族の血族が今も生きていることまでは知らなかった。
 どうやら他の皆も知らなかったようで、意外な面持ちでギルベルトを見ている。

「無論、細かいところの相談はするが…ドラコロニア共和国をエスペルト王国の属国として共和制から君主制に戻したい。そして、私を王に任命して欲しい。私の配偶者には…生き残った王女を迎えたいと思っている。」

「そういうことか。お前がドラコロニア共和国の様子を伺いに行っていたことは知っていたが、その王女に惚れていたか。通りで婚約者を持たないわけだ。」

 ガイアスはギルベルトの行動にようやく納得したとでも言うように頷いた。お父様やレティシアも思うところがあったようで「なるほどな」と呟いている。

「ドラコロニア共和国には今回の件で借りを返さないといけないから…ギルベルトお兄様にお任せしますわ。」

 私も話を聞いていてギルベルトの意見に賛成する。ドラコロニア共和国内での王女の扱いは、あまり良くないようだし国政も安定しているとは言えないようだった。
 戦いを仕掛けられた以上は決着をつけなければならないだろうし、属国として管理して政治的にも安定させた方が良さそうに思えた。
 私としても確認や相談はするが、ギルベルトに任せることが最善だろう。
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