王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第7章 女王の戴冠

6 終わりにしよう

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「治癒魔術が使える者は治療を、残りの騎士たちは皆を支えなさい。シリウス、アルキオネ任せたわ」

「かしこまりました。姫様」

「ラティアーナ様、お気をつけて」

 2人にこの場を任せると私はギルベルトの方へ向かった。
 今日の朝、ギルベルトから通信があってから準備をしてこちらに辿り着くまで半日近くかかってしまったが、ギリギリ間に合ったと言えるだろう。

「陛下…どうしてこちらに?」

 ギルベルトが呆然としながらも尋ねてくる。驚きで固まりながらも取り繕った態度をできるのはさすがだと思う。

「あなたからの報告を聞いて近衛騎士団と駆けつけただけよ?飛空船を念のため残しておいた良かったわ」

 王都からここまで飛空船で一直線に飛んできたからこそ、半日という短い時間でたどり着くことができた。飛空船でなければ、例えマギルス領へ転移したとしても到着するのが明日になっただろう。

 状況を確認すると魔物の群れ自体は数が減りつつありそうだ。問題は目の前にある巨人だけだろう。

「あれを倒せば片がつくかしら?」

「恐らくは…」

 スタンピードの大半の理由は群れの後ろに強力な魔物がいて、他の魔物たちが一斉に反対方向へ走り出すことだ。強力な魔物がいるということは群れ自体の最後尾に近いということになる。

「ギルベルトと2人なら遅れを取ることはないわ。もうそろそろケリをつけるわよ?」

「ああそうだな。済まないが力を貸してくれ」

 先ほどの雷撃で地面の一部を抉った影響で体勢を崩していた巨人が起き上がる。
 私はそれに合わせて刀を抜くと身体強化とともに一気に駆け出した。
 次いで、後ろからギルベルトの魔術による氷の槍が高速回転して、巨人の膝を貫通する。それでも巨人は体勢を崩すだけですぐに再生した。

「すぐに再生するのね…本体はどこかしら?」

 私は辰月に魔力を纏わせるとギルベルトが貫いた反対の足に向けて刀を振るう。魔力によって延長された斬撃は、膝の部分を上下に両断して巨人は体勢を崩した。
 同時にギルベルトが放った豪炎が巨人の頭に命中しそのまま爆発、命中箇所の大部分を吹き飛ばす。

「これでも駄目か…」

 巨人は体勢を崩したまま手を叩き付けてきたため、私とギルベルトは散開する様に跳躍した。

「本体を探し出すしかないんじゃない?今の魔術あとどれくらい連射できるかしら?」

「20が限度だな…それ以上撃てない事もないが私が動けなくなる」

「ではわたくしが巨人を細かく刻んでいくから、順番に吹き飛ばしてちょうだい。それから最初の一撃で足を斬り離すから上空に上げてくれると助かるわ」

 私の言葉にギルベルトが「刻む…?」と呟いているが「頼んだわよ」と告げてから巨人に向かって走り出した。
 私は辰月と夜月の両方を抜刀して魔力を纏わせつつ巨人の足元に入り込む。すれ違いざまに刀を同時に払い、巨人の下から抜け出した。

「ギルベルト!」

「風で巻き上げるぞ!」

 ギルベルトは私の合図を聞くと魔術による竜巻を起こして巨人の身体を上へ吹き飛ばす。ほんの数メートルだが浮き上がった。

「流石ね!あとは刻んでいくから、その後は任せるわ」

 上空へ跳躍しながら2本の刀にさらに魔力を纏わせる。普段であればこの魔力を解き放って魔力の斬撃を飛ばすところだが、今回は纏わせたまま刀を連続して振るって巨人を細かくしていく。
 途中、魔力障壁を足場にしつつ巨人の頭を越えた頃には、巨人がばらばらに散り始めていた。

 ギルベルトは展開していた術式を一斉に放ち、豪炎を掃射する。ばらばらになった巨人の身体を一つずつ吹き飛ばしいくと、身体を構成していた岩や土が灰となって地面に降り注いでいく。

 そして私は上空で刀を構えたまま詳しく観察していた。

(地面から斬り離しているのだから再生できないはず…仮に動きを見せるのならその場所が本体よ)

 灰の中から小さい虫のような何かが出てくるのが見えた。残り少ない魔力を行使して術式を展開すると、小さい虫のようなものがいる辺りの水分を集めて凍結させた。

「それが本体よ。最後お願い!」

「了解した」

 ギルベルトは私が凍らせたものに豪炎を放つ。そして氷ごと爆散して粉々になるのだった。

 私がギルベルトの元に戻ると、他の魔物もほとんど倒されていた。まだ警戒は必要だろうが少しは安心できるだろう。

「これで終わりかしらね…」

「ああ、魔物もほとんどいないし…共和国軍も疲弊がすごくて戦えないだろう」

 周りにいる共和国の兵士たちはほとんどが地面に座り込んでいた。また、私たちを見る目も複雑な感情を秘めていて、恐れや感謝、安堵といった感情が入り乱れているように感じる。

「ドラコロニア共和国の兵士たちよ。抵抗しないのであれば手を出さないが、抵抗するというなら相手をしよう。結論を出すといい」

 ギルベルトの言葉に共和国の兵士は顔を見合わせるが、すぐに「降参します」との言葉が聞こえてきた。

「王国軍はこの場に待機…念のため共和国軍の兵士のことを見ておくように。私はこのまま首都に入り、大統領に敗北を宣言するように促してくる。近衛騎士は着いて来い」

「これはギルベルトの戦いだから交渉も基本的には任せるけど、わたくしも様子を見にいくわ。この場はシリウスに任せるからアルキオネに護衛をお願いするわね」

 女王がいたほうが楽よね、との意味を込めてギルベルトを見ると苦笑しながらも「助かる」と呟いた。



 首都の中はそれなりに栄えている。それでも大規模な商家は裕福そうだが、小さい店などは貧しそうに見える。一本でも路地裏に入るとスラムと化していそうだった。
 市民たちは建物かた出てこないが窓越しに視線を感じた。カーテンなどは締め切っているため隙間から様子を伺っているのだろう。
 かつての王城、今の立法府にも兵士は居るが、その結果を聞いたのか遠目に見ているだけで襲ってはこなかった。そのまま最上階にある旧玉座の間に向かうと、大統領が縛られていた。隣には、白髪混じりのお爺さんが立っている。

「…手間が省けて助かるがどうして縛られているのだ?」

「私はこの政府の管理をしているアロイスと申します。龍脈を利用した手段が失敗に終わり兵士たちが降伏した今、最早逃げ場などありません。最早、貴族でなくなった私ですが…最後の誇りかけて行動しましょう」

「アロイス…前は宰相であった男か。であれば話は早いかも知らないな。私が要求するのは唯一王族の中で生き残りである姫、エリーゼを王配として私が王となる。そしてドラコロニアはエスペルト王国の属国扱いとすることだ。なおこの国の扱いは隣に居られるラティアーナ陛下から全任されていることを伝えておこう。もう戦いは終わりにしようではないか?」

 アロイスは私の方を見て一瞬だけ驚いた表情をした。すぐに取り繕うのは流石だが、女王がこの場にいることに驚いたのだろう。

「負けを認めるしかないでしょう…ドラコロニア共和国は降伏いたします」

 ドラコロニア共和国が降伏したことで、戦いは終わりを迎えた。
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