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第7章 女王の戴冠
10 初めての学園祭
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学園祭といっても他のクラスの演奏を聴いたり闘技場で代表戦を応援したりという物だ。学園外からは学園の関係者と貴族しか参加できないため、街をあげてのお祭りというわけではない。
(私としては…記憶にあるような色々な人を呼び込むものもやってみたいけれど…警備の関係上難しいのよね)
学園外の人もたくさん参加できれば盛り上がるだろうが、生徒が狙われる危険性が高くなるため現実的ではなかった。
そのような事を考えつつも、普段関わりのないクラスの演奏を見るというのも楽しいもので、学園祭は恙無く進んでいく。
Aクラスの皆は演奏の順番がそろそろ回ってくるため観客席から舞台袖に移動した。
「たくさんの人の前での演奏…緊張しますね」
「普段の生活のほうが緊張する場面は多いでしょうに。失敗しても誰も傷つかないのだから気楽に楽しく行きなさいよ」
カイが緊張で青くなっているのに対してイリーナが励ましていた。イリーナはふとロアやロナのほうを見ると「こういう時に一番緊張しそうな2人は落ち着いているわね」と不思議そうに首をかしげている。
「ああ、教会でたまに演奏会を行うからじゃない?」
私の言葉にロアとロナも「そうですね…定期的な行事ですからね。始めは緊張しましたけど慣れることができました」とのことだった。
教会の主な収入源は治癒魔術による治療や教会が保有する特殊な魔術具を使った仕事やお布施などになる。孤児院を抱えているとことでは孤児達の生活費を稼ぐために催し者を行うことも多いそうだ。
「緊張しているのはカイだけではなくてスピカもだから大丈夫よ。1人じゃないわ」
「ええ、緊張するのは仕方のないことですし、割り切るしかないと思いますよ」
カトレアとマルクスも落ち着いて演奏すれば大丈夫だと伝える。
そうしているうちに私たちの番がやってきた。
「さ、行きましょうか」
私たちが選んだ曲はエスペルト王国で知名度が高いクラシック曲だ。スピカやカイは最初の頃は笑顔が引き攣っていて、動きもぎこちなかった。
しかし、曲が進むにつれて動きから硬さがなくなり笑顔が柔らかくなってくる。演奏が終わる頃には緊張は忘れて、ただ純粋に楽しめたように見えた。
「1人で演奏することが多かったけど、やっぱり皆で演奏する方が楽しいわね」
「また来年も楽しめるさ…いや、そうするのだろう?」
アドリアスの言葉に「もちろんよ」と自信を持って返した。
演奏の発表が終わるとクラスごとの代表戦の試合に移る。以前の大会と同様にトーナメント形式になるが、代表戦では初めから学年関係なしの組み合わせとなる。
Aクラスの試合は第2試合、相手は同学年のCクラスだ。
「それでは試合を始めてください!」
「アドリアス行くわよ!」
「いつでも来い!」
審判の合図と共に声を掛け合うと、アドリアスが一気に相手に突撃した。同時にイリーナが魔術を行使して巨大な炎を放つ。
イリーナの放った炎はアドリアスを包み込むと、鎧のように纏わりついた。
「は…っ!?なんだそれは?」
「イリーナと生み出した技だ。初披露となる記念の一撃…もらっていくといい」
「そんな記念いらなっ!?」
アドリアスは炎を纏ったまま全力の蹴りを繰り出して相手の1人を吹き飛ばし、有効打を与えて失格させた。もう1人の相手も咄嗟に反撃に転じようとするが、それよりも速くアドリアスの拳が捉える。
「そこまで!1学年Aクラスの勝利です!」
初戦は圧倒的な強さを見せて勝利したのだった。
戻ってきた2人に駆け寄ると
「あれは何よ!?見たことないのだけど?」
「自身の魔術を纏うだけでも難易度が高いというのに、他人の魔術を纏うなんて…どのような仕組みなのですか?」
とカトレアとブラッドが詰め寄っていた。後ろではアルマクたちが無言ながらも気になるようで見つめていた。
かくいう私も初めて見る技術だった。自身の魔術による炎を纏おうとしたときは、熱を防ぐことが難しくて苦労した。
それを距離が離れることで魔術の制御が難しい中で、動く他人に合わせる事はなかなかできないだろう。
「わたくしもアドリアスに無傷で炎を纏わせる事はできないわよ?ただ…軽減するくらいなら容易い事なの。あとは…」
イリーナが笑みを浮かべてアドリアスを見ると、アドリアスも自信満々に口を開いた。
「俺は耐熱を付与した魔装を使っただけだ。ラティアーナが昔使っていた属性変換した魔装の応用だな」
2人がやった事は単純だが普通ではなかったようだ。私たちは呆れて言葉が浮かばなかったが、一方で前よりも強くなっていると感心した。
代表戦は次の日も続き、アドリアスとイリーナは危なげなく勝ち進んでいった。そして決勝は2学年のAクラスとの対決だ。
審判の合図で試合が始まると、相手のペアは左右に分かれる。恐らく後衛に回っているイリーナの動きを制限したいのだろう。
けれど、2人にとっては織り込み済みのようで
「なに!?」
イリーナに斬りかかろうとした瞬間、イリーナを中心に炎に包まれた。高火力でありながら自身を傷つけない魔術によって、相手は一撃で退場扱いとなる。
「流石だな…俺も負けてはいられんな」
アドリアスはそう呟くと膨大な魔力を身体に纏う。そして足の裏から魔力を噴射すると、エンジンでもあるかの如く急加速する。相手も必死に避けるが、次第に無理な体勢になりアドリアスの拳をまともに受けてしまう。
「そこまで!勝者はイリーナさんとアドリアスさん。優勝は1学年Aクラスです!」
2人が優勝した事で代表戦が終わったのだった。
(私としては…記憶にあるような色々な人を呼び込むものもやってみたいけれど…警備の関係上難しいのよね)
学園外の人もたくさん参加できれば盛り上がるだろうが、生徒が狙われる危険性が高くなるため現実的ではなかった。
そのような事を考えつつも、普段関わりのないクラスの演奏を見るというのも楽しいもので、学園祭は恙無く進んでいく。
Aクラスの皆は演奏の順番がそろそろ回ってくるため観客席から舞台袖に移動した。
「たくさんの人の前での演奏…緊張しますね」
「普段の生活のほうが緊張する場面は多いでしょうに。失敗しても誰も傷つかないのだから気楽に楽しく行きなさいよ」
カイが緊張で青くなっているのに対してイリーナが励ましていた。イリーナはふとロアやロナのほうを見ると「こういう時に一番緊張しそうな2人は落ち着いているわね」と不思議そうに首をかしげている。
「ああ、教会でたまに演奏会を行うからじゃない?」
私の言葉にロアとロナも「そうですね…定期的な行事ですからね。始めは緊張しましたけど慣れることができました」とのことだった。
教会の主な収入源は治癒魔術による治療や教会が保有する特殊な魔術具を使った仕事やお布施などになる。孤児院を抱えているとことでは孤児達の生活費を稼ぐために催し者を行うことも多いそうだ。
「緊張しているのはカイだけではなくてスピカもだから大丈夫よ。1人じゃないわ」
「ええ、緊張するのは仕方のないことですし、割り切るしかないと思いますよ」
カトレアとマルクスも落ち着いて演奏すれば大丈夫だと伝える。
そうしているうちに私たちの番がやってきた。
「さ、行きましょうか」
私たちが選んだ曲はエスペルト王国で知名度が高いクラシック曲だ。スピカやカイは最初の頃は笑顔が引き攣っていて、動きもぎこちなかった。
しかし、曲が進むにつれて動きから硬さがなくなり笑顔が柔らかくなってくる。演奏が終わる頃には緊張は忘れて、ただ純粋に楽しめたように見えた。
「1人で演奏することが多かったけど、やっぱり皆で演奏する方が楽しいわね」
「また来年も楽しめるさ…いや、そうするのだろう?」
アドリアスの言葉に「もちろんよ」と自信を持って返した。
演奏の発表が終わるとクラスごとの代表戦の試合に移る。以前の大会と同様にトーナメント形式になるが、代表戦では初めから学年関係なしの組み合わせとなる。
Aクラスの試合は第2試合、相手は同学年のCクラスだ。
「それでは試合を始めてください!」
「アドリアス行くわよ!」
「いつでも来い!」
審判の合図と共に声を掛け合うと、アドリアスが一気に相手に突撃した。同時にイリーナが魔術を行使して巨大な炎を放つ。
イリーナの放った炎はアドリアスを包み込むと、鎧のように纏わりついた。
「は…っ!?なんだそれは?」
「イリーナと生み出した技だ。初披露となる記念の一撃…もらっていくといい」
「そんな記念いらなっ!?」
アドリアスは炎を纏ったまま全力の蹴りを繰り出して相手の1人を吹き飛ばし、有効打を与えて失格させた。もう1人の相手も咄嗟に反撃に転じようとするが、それよりも速くアドリアスの拳が捉える。
「そこまで!1学年Aクラスの勝利です!」
初戦は圧倒的な強さを見せて勝利したのだった。
戻ってきた2人に駆け寄ると
「あれは何よ!?見たことないのだけど?」
「自身の魔術を纏うだけでも難易度が高いというのに、他人の魔術を纏うなんて…どのような仕組みなのですか?」
とカトレアとブラッドが詰め寄っていた。後ろではアルマクたちが無言ながらも気になるようで見つめていた。
かくいう私も初めて見る技術だった。自身の魔術による炎を纏おうとしたときは、熱を防ぐことが難しくて苦労した。
それを距離が離れることで魔術の制御が難しい中で、動く他人に合わせる事はなかなかできないだろう。
「わたくしもアドリアスに無傷で炎を纏わせる事はできないわよ?ただ…軽減するくらいなら容易い事なの。あとは…」
イリーナが笑みを浮かべてアドリアスを見ると、アドリアスも自信満々に口を開いた。
「俺は耐熱を付与した魔装を使っただけだ。ラティアーナが昔使っていた属性変換した魔装の応用だな」
2人がやった事は単純だが普通ではなかったようだ。私たちは呆れて言葉が浮かばなかったが、一方で前よりも強くなっていると感心した。
代表戦は次の日も続き、アドリアスとイリーナは危なげなく勝ち進んでいった。そして決勝は2学年のAクラスとの対決だ。
審判の合図で試合が始まると、相手のペアは左右に分かれる。恐らく後衛に回っているイリーナの動きを制限したいのだろう。
けれど、2人にとっては織り込み済みのようで
「なに!?」
イリーナに斬りかかろうとした瞬間、イリーナを中心に炎に包まれた。高火力でありながら自身を傷つけない魔術によって、相手は一撃で退場扱いとなる。
「流石だな…俺も負けてはいられんな」
アドリアスはそう呟くと膨大な魔力を身体に纏う。そして足の裏から魔力を噴射すると、エンジンでもあるかの如く急加速する。相手も必死に避けるが、次第に無理な体勢になりアドリアスの拳をまともに受けてしまう。
「そこまで!勝者はイリーナさんとアドリアスさん。優勝は1学年Aクラスです!」
2人が優勝した事で代表戦が終わったのだった。
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