王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第8章 女王の日常と南の国々

20 総攻撃

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 およそ1万体の魔物。
 言葉にするととても強大に感じる。
 しかし群れの構成はゴブリンやオーク、オーガを含む一般的な魔物だ。個々の強さも邪気を帯びている魔物と同様に、身体性能が向上している分、理性が消えている。

 ただ統率もなく、恐れもなく、命ある限りひたすら突撃し続ける。そんな狂気染みた魔物たちだが、一定以上の実力者であれば厄介なだけで脅威ではない。
 対策する時間さえあれば、統率がとれている魔物の群れよりも御しやすいのだ。

 なにより先ほどの一斉攻撃を受けている魔物たちは、無傷の個体のほうが珍しいほどに満身創痍だ。
 こちら側が押し通せるのが必然だろう。

「騎士たちは小隊ごとに殲滅!第1陣は俺達に続け。第2陣は第1陣を抜けた魔物に対処しつつも追走。第3陣は後方に流れないように最終防衛線を張る。来い!」

「「「はっ!」」」

 アドリアスは騎士隊を第1陣に5百、第2陣に5百、第3陣に2千という構成で割り当てている。
 アドリアスを先頭に渓谷を進んでいく。

 そして私も先頭を切る。
 身体強化を最低限行使して二刀を以って、魔物を斬り裂いていた。近くではシリウスが槍で穿ち、アルキオネが剣で両断していく。

「戦うからには本気でやらねばな…久しぶりに身体を動かすから慣らさせてもらう」

 デトロークも魔剣を振りかぶり、魔物を斬り裂いていた。雷を纏った剣は触れた魔物に対して雷撃と斬撃で塵へと化していく。

「さすが帝国の元将軍。数年もの間、牢獄の中に居たとは思えないほどに動けるのね」

「敵にしたくはない分、味方になると心強いな」

「ふん…味方になったつもりはないからな。それに牢の中であっても体を鍛えるのは武人として当然のこと…だ!」

 私とアドリアスの会話にデトロークが入ってくる。別の方向を見て魔剣を振り抜いているが、話が聞こえていたらしい。

「じゃあ一人の武人として期待しているわよ!」

 軽口を叩きつつも手は止めないで歩みを続ける。
 先頭の私たちと第1から第2陣が偃月陣形、第3陣が鶴翼陣形となって、魔物を倒しながら突き進んで行くのだった。



 攻撃を仕掛けてからおよそ鐘2つ。
 私たちは渓谷と平野の境界付近まで魔物を殲滅し進軍することができた。

「またここで防衛戦を張るわ。魔術士隊と弓兵隊の半数ずつを前線へ。残りは予備戦力として待機」

 平野の近くに敵影がないことを確認してから一息つく。
 けが人こそ出たものの死者は0。結果として上々だろう。
 今のうちに怪我をした人に治癒を行い、警戒しつつも休養を取らせる予定だ。

「魔物を倒した以上、次に来るのはナイトメア軍だろうが…翌日以降か、あるいは夜襲を仕掛けてくるか読めないな」

 報告があって戦闘が始まったのが朝。そして今は夕暮れ時。
 夜になれば月明かりしかない平野は見通せず、こちらの本陣は明かりを灯していて遠くからでも目立つ。夜襲を仕掛けてくる可能性も十分にあるだろう。

 けれど夜襲の対策はあらかじめ講じていて。

「見張りたちの双眼鏡にも簡易的な熱源探知機能がついているから、障害物で隠れていない限り見逃さないわ」

 地上であれ空中であれ遮蔽物がなければ筒抜けになる。そして夜闇が有利に働くのは敵だけではない。

「斥候部隊は日が暮れると同時に夜闇に紛れて敵本陣を探して。見つけ次第飛行船による遠距離砲撃を行う」

 敵の拠点が分かれば本陣から攻撃ができる。拠点を潰すことができれば相手は滞在できなくなるだろう。
 更には補給を阻害することもできるかもしれない。

 斥候部隊を送り魔術士隊と弓兵隊が合流したあとは、簡易的な陣を構築する。
 結界を張り大地による壁や柵を構築し、見張りようの高台を作り上げた。
 見張り役と一割ほどの兵士を夜番として残り私たちは休むことになった。


 そしてその日の深夜。夜番以外の皆が寝静まっている頃。
 私たちの陣に緊急用の鐘の音が鳴り響く。

「敵襲!数は不明…大多数の陸上部隊および航空部隊が接近。攻撃来ます!」

 報告に来た兵士が言葉を発した瞬間……

 空が輝き視界が白に覆われる。
 続いて轟音と衝撃が陣の中を響かせた。

「な、なにがあったのよ!?」

 突然の事態に、思わず頭を下げて叫ぶと「申し訳ありません!接近されるまで気が付きませんでした!」と兵士は顔を青くする。

「ラティアーナ!ナイトメア軍の総攻撃だ。今の攻撃で陣の結界が消滅したが人的被害はなし。敵の総数は不明だが、最低でも数万はいるかもしれない。それから飛龍に乗った航空戦力が数百いると思われる」

 頭の中を整理しているとアドリアスがやってくる。
 寝巻きのまま肩で息をしているところを見ると、起きてから急いで来たようだ。

 敵の構成も攻撃方法も不明。
 どうやって見張りの目を欺いたのかも分からない。
 けれど……このまま手をこまねいているわけにもいかない。

 私は近くに置いている通信用魔術具に魔力を流して

「総員迎撃準備!船にいるものは警戒を最大限した状態で待機。今陣にいる騎士隊は、攻めてくる地上部隊の迎撃。弓兵隊と魔術士隊は、航空戦力の相手に当たれ!被害を最小に敵を速やかに殲滅せよ!」

 と全隊長に伝えた。

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