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第8章 女王の日常と南の国々
23 包囲殲滅戦
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包囲殲滅攻撃。
ナイトメア軍は押していると、戦況は有利だと思い込んでいたはずだ。普通ではありえない回復力と圧倒的な物量。不利な地形であっても力で押せると。
今回はその驕りを利用した。
まずは騎士隊による遅滞戦闘によって渓谷の中へと誘い込む。それも魔物との戦闘で壁を崩して置いた場所だ。
相手からしてみれば突然包囲され攻撃に晒される。
有利だった状態から急転直下して、不利どころか全滅の危機。
まるで感情でもないかのように、傷を負っても顔色一つ変えなかった彼らの表情が僅かに動いた。
「ここで決めるわ。騎士隊突撃して。魔術士隊と弓兵隊は後方を集中狙い」
「了解…騎士隊は全軍突撃。蹴散らせ!」
私の言葉に続いてアドリアスが号令を出す。
イリーナとシクスタスからも「了解」と通信が返ってきて攻撃が後方へと集中する。
渓谷のこの地形は、縦に長い一本道だ。敵が前後にしか移動できないのは必然。
密集している部隊は、味方が邪魔して動きが阻害される。遠距離攻撃も曲射のような形にしなければ射線が通らないが、弾着観測ができなければ意味を成さない。
その状態で部隊の左右が魔術にさらされ、前方は騎士隊との戦闘。中央から後方にかけては、上空から降り注ぐ爆発する矢の雨。
爆発する矢や魔術による攻撃は、敵を吹き飛ばすだけでなく、地面にも当たって足元を崩していく。
足元が悪い場所で敵の攻撃に晒され、一瞬で逆の立場になったナイトメア軍は恐慌状態に陥った。
私自身も再び斬りかかる。
何度か身体に打撃を打ち込んで、刀を斬り結んできた。
おかげで敵についてわかってきたことがある。
敵は自我を失っているわけではない。あくまで感情が薄れているだけ。感覚も少しは残っているらしい。
であれば、もちろん生物としての本能も残っているわけで。
「騎士隊は少し下がりなさい。アドリアス、わたくしと同調して!」
私の言葉にアドリアスは笑みを浮かべて聖槍を掲げる。
再び「ファスケスト同調開始」と呟く。
私とアドリアス、2人だけの同調。
人数を絞った分だけ同調率が高くなり、魔力が近い者同士の同調と同じくらいになる。
「俺は聖剣グラディウスの一撃を放つ…だから!」
「わたくしはその一撃の威力を強化する。聖属性の魔力を上乗せするわ!」
アドリアスは左手に聖槍ファスケストを右手に聖剣グラディウスを持って魔力を込める。
私も聖剣へと魔力を渡して……
「「はあああああっ!」」
息を合わせて魔力を込めた。同時にアドリアスも聖剣を振りかぶって。
強力な聖属性の斬撃が放たれる。射線状にいた敵は、強力な聖属性の斬撃に触れるとそのまま消え去った。
強力な一撃を受けた敵はさらに恐怖を深めていく。
前にいた敵は逃げようとするが敵軍同士が邪魔になって混乱を深めていた。
「よし…このまま行くわよ!」
私たちは騎士隊と共に総攻撃を再び仕掛けていく。
戦いはさらに鐘一つ続く。
結果として攻めてきたナイトメア軍の8割が死亡、2割が敗走した。そして全体からすれば微々たる物だが、辛うじて生存していた5百名ほどが捕虜になった。
戦いが終わり昼食と休憩を取った後。
私たちは斥候部隊と最低限の見張りを残して本陣である飛空船まで下がっていた。
今この場には私の他にアドリアスとイリーナ、シクスタス、エクハルトの5人が居る。
戦況の把握と今後の作戦の共有のための話し合いだ。
「まずはお疲れ様。無事に死者を出すことなく戦いを終えられたことを嬉しく思うわ」
「敵軍に高火力の攻撃を放てる者が居なかったのが大きいだろうな」
「ええ。魔術による攻撃も弓矢のような攻撃もなかったわ。敵は剣や槍が主流だったものね」
エスペルト王国軍は最低でも簡易的な防御魔術を刻んだ防具を身に着けている。ある程度までの防刃、対衝撃を備えているため急所にまともに攻撃を受けない限り即死はないという一品だ。
今回のように怪我をしても魔術士や回復薬による即時治癒を行えば生存率は高くできる。
「私は遠くから観察していましたが…敵軍自体妙ですね。やはり治癒魔術の行使も見られませんでしたし、あの回復力は魔術ではない別の何かだというのが妥当かと」
シクスタスは弓兵隊という関係上、常に遠くから戦場全体を観察している。近くにいた私たちとは違う視点で見ているはずで、どちらもが魔術の発動を見逃すというのは考えにくい。
「捕虜を調べて分かるといいけれど…」
「そちらは専門の部隊に任せるしかないだろうな。次はどうする?敵陣を叩くのだろう?」
私の言葉にアドリアスが答えた。
捕虜については簡易的な牢に拘束中だ。文官の皆が詳しいことは確認してくれるだろう。
それよりも敵の大部隊を撃退した今、陣地を叩き潰すことができればこの辺り一帯の戦況を変えることができるだろう。
「ええ…斥候隊の報告の内容次第だけどね。他の戦況はどうなってるかしら?」
「エインスレイス連邦は国境沿いで交戦中のようね。戦況は五分五分…数的不利を地形や砦を使って補っているわ。対してドラコロニアは国境から少し引いた状態で交戦中のようね」
「どこも苦戦しているみたいね。この辺りで一度風向きを変えたいわ…」
他国の戦況に思わずため息をつきながら呟いた瞬間、耳元の魔術具から音が聞こえる。
「こちら斥候部隊より報告…敵陣を発見しました!」
それは敵陣発見の報告。
防御から攻撃へ転ずる、反撃の狼煙となる。
ナイトメア軍は押していると、戦況は有利だと思い込んでいたはずだ。普通ではありえない回復力と圧倒的な物量。不利な地形であっても力で押せると。
今回はその驕りを利用した。
まずは騎士隊による遅滞戦闘によって渓谷の中へと誘い込む。それも魔物との戦闘で壁を崩して置いた場所だ。
相手からしてみれば突然包囲され攻撃に晒される。
有利だった状態から急転直下して、不利どころか全滅の危機。
まるで感情でもないかのように、傷を負っても顔色一つ変えなかった彼らの表情が僅かに動いた。
「ここで決めるわ。騎士隊突撃して。魔術士隊と弓兵隊は後方を集中狙い」
「了解…騎士隊は全軍突撃。蹴散らせ!」
私の言葉に続いてアドリアスが号令を出す。
イリーナとシクスタスからも「了解」と通信が返ってきて攻撃が後方へと集中する。
渓谷のこの地形は、縦に長い一本道だ。敵が前後にしか移動できないのは必然。
密集している部隊は、味方が邪魔して動きが阻害される。遠距離攻撃も曲射のような形にしなければ射線が通らないが、弾着観測ができなければ意味を成さない。
その状態で部隊の左右が魔術にさらされ、前方は騎士隊との戦闘。中央から後方にかけては、上空から降り注ぐ爆発する矢の雨。
爆発する矢や魔術による攻撃は、敵を吹き飛ばすだけでなく、地面にも当たって足元を崩していく。
足元が悪い場所で敵の攻撃に晒され、一瞬で逆の立場になったナイトメア軍は恐慌状態に陥った。
私自身も再び斬りかかる。
何度か身体に打撃を打ち込んで、刀を斬り結んできた。
おかげで敵についてわかってきたことがある。
敵は自我を失っているわけではない。あくまで感情が薄れているだけ。感覚も少しは残っているらしい。
であれば、もちろん生物としての本能も残っているわけで。
「騎士隊は少し下がりなさい。アドリアス、わたくしと同調して!」
私の言葉にアドリアスは笑みを浮かべて聖槍を掲げる。
再び「ファスケスト同調開始」と呟く。
私とアドリアス、2人だけの同調。
人数を絞った分だけ同調率が高くなり、魔力が近い者同士の同調と同じくらいになる。
「俺は聖剣グラディウスの一撃を放つ…だから!」
「わたくしはその一撃の威力を強化する。聖属性の魔力を上乗せするわ!」
アドリアスは左手に聖槍ファスケストを右手に聖剣グラディウスを持って魔力を込める。
私も聖剣へと魔力を渡して……
「「はあああああっ!」」
息を合わせて魔力を込めた。同時にアドリアスも聖剣を振りかぶって。
強力な聖属性の斬撃が放たれる。射線状にいた敵は、強力な聖属性の斬撃に触れるとそのまま消え去った。
強力な一撃を受けた敵はさらに恐怖を深めていく。
前にいた敵は逃げようとするが敵軍同士が邪魔になって混乱を深めていた。
「よし…このまま行くわよ!」
私たちは騎士隊と共に総攻撃を再び仕掛けていく。
戦いはさらに鐘一つ続く。
結果として攻めてきたナイトメア軍の8割が死亡、2割が敗走した。そして全体からすれば微々たる物だが、辛うじて生存していた5百名ほどが捕虜になった。
戦いが終わり昼食と休憩を取った後。
私たちは斥候部隊と最低限の見張りを残して本陣である飛空船まで下がっていた。
今この場には私の他にアドリアスとイリーナ、シクスタス、エクハルトの5人が居る。
戦況の把握と今後の作戦の共有のための話し合いだ。
「まずはお疲れ様。無事に死者を出すことなく戦いを終えられたことを嬉しく思うわ」
「敵軍に高火力の攻撃を放てる者が居なかったのが大きいだろうな」
「ええ。魔術による攻撃も弓矢のような攻撃もなかったわ。敵は剣や槍が主流だったものね」
エスペルト王国軍は最低でも簡易的な防御魔術を刻んだ防具を身に着けている。ある程度までの防刃、対衝撃を備えているため急所にまともに攻撃を受けない限り即死はないという一品だ。
今回のように怪我をしても魔術士や回復薬による即時治癒を行えば生存率は高くできる。
「私は遠くから観察していましたが…敵軍自体妙ですね。やはり治癒魔術の行使も見られませんでしたし、あの回復力は魔術ではない別の何かだというのが妥当かと」
シクスタスは弓兵隊という関係上、常に遠くから戦場全体を観察している。近くにいた私たちとは違う視点で見ているはずで、どちらもが魔術の発動を見逃すというのは考えにくい。
「捕虜を調べて分かるといいけれど…」
「そちらは専門の部隊に任せるしかないだろうな。次はどうする?敵陣を叩くのだろう?」
私の言葉にアドリアスが答えた。
捕虜については簡易的な牢に拘束中だ。文官の皆が詳しいことは確認してくれるだろう。
それよりも敵の大部隊を撃退した今、陣地を叩き潰すことができればこの辺り一帯の戦況を変えることができるだろう。
「ええ…斥候隊の報告の内容次第だけどね。他の戦況はどうなってるかしら?」
「エインスレイス連邦は国境沿いで交戦中のようね。戦況は五分五分…数的不利を地形や砦を使って補っているわ。対してドラコロニアは国境から少し引いた状態で交戦中のようね」
「どこも苦戦しているみたいね。この辺りで一度風向きを変えたいわ…」
他国の戦況に思わずため息をつきながら呟いた瞬間、耳元の魔術具から音が聞こえる。
「こちら斥候部隊より報告…敵陣を発見しました!」
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