王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第8章 女王の日常と南の国々

30 三カ国合同作戦

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 目が覚めた私は、重い身体を起こす。
 部屋のカーテンを開けると既に日が高く登っていた。
 思ったよりも長く眠っていたようだ。

 身支度をして艦橋へ向かうと、皆揃っていた。

「おはよう」

「「「おはようございます陛下」」」

 私に気付いた皆が挨拶を返す。
 そして代表してシクスタスが一歩前に出た。

「現状敵影はありません。また昨夜に指示された内容についてですが、こちらをご確認ください」
 空中に映像が投影されると大陸の一帯を示す大きな地図が表示された。

 昨日のうちに出した指示は二つ。より広範囲の観測とエインスレイス連邦とドラコロニアの状況確認だ。

「まずエインスレイス連邦とドラコロニア王国の戦況ですが両国ともやや優勢のようです。数で負けているものの砦などへの篭城戦や地形を生かした奇襲などが功を奏したようですね。国境線は死守できています。そして周辺観測の結果は地図に表示していますが…拠点や敵影などは見つかっていません」

 周辺観測には探知用の特殊弾頭が使われている。
 魔術省が開発した探知魔術と通信魔術が込められた戦艦用砲弾。撃ちだしてから着弾するまでの間、魔術通信によって探知結果を送るという代物。砲弾自体が炸裂しなくても質量によって着弾箇所を破壊するため味方や住民が居る場合では扱えないが、今回のような場合では気にせず使えるだろう。
 そんなわけでナイトメア軍のみ居ると想定される方面に適当に数発撃ったわけだ。

「目視による観測は範囲に限りがあるし、こちらの船の位置が露見する。しばらくはこのまま撃ち続けて探知するしかないわね。敵の性質上、補給路が存在しないけれど拠点を潰すことができればこちらの有利になるわ。わたくしとしては前線を少し押し上げておきたいけれどどうかしら?」

 補給を必要とせず魔力さえあれば不死身に近い敵。
 ただでさえ数的不利なこの状況は、早急にどうにかしたいと考えていた。今のようにいつでも攻めて来れる状態は避けたいところだ。

「いいのではないか?国境沿いの防衛戦は戦いやすいが不安も残るのは、エスペルト王国でもよく実感しているからな」

「そうですね…エインスレイス連邦にせよドラコロニア王国にせよ、いつまでも避難民を抱えたままというわけには行かないでしょう。十中八九、侵略された領地を取り返すという方針を目指すと思います」

 アドリアスとシクスタスも同意した。残るイリーナも「最善でしょうね」と言ってエクハルトも首肯する。

「ではその方向で進めるわ。両国に書簡を送っておいてね」



 それから数日かけてナイトメア軍拠点への広域索敵が行われた。探知魔術の砲弾や渓谷上空を飛空船の限界高度まで上げての観測。

 それらの情報を分析し敵拠点、行軍位置の座標を割り出していく。そして位置情報を両国に伝えた翌日、緊急通信が入った。

「急な通信でありながらエスペルト王国、ドラコロニア王国おもに応じてくれたことに感謝します」

「いえ。防衛戦は現状やや有利といったところ。一先ず防衛には成功しているけれど、ずっとこのままというわけにも行かないわ。わたくしとしても良いタイミングでした」

「こちらも同じく。もうそろそろ次の一手を打ちたいと考えていた」

 レオンからの通信で始まった会談。
 私も一度、話し合いを持ちたいと考えていた。

 そもそも敵の位置情報を集めていたのは、戦況を変えるための一手が欲しいからだ。戦術的に勝利を重ねている今だからこそ、戦略的一手を撃ち戦況を一変させる必要がある。
 そして私以外の二人も同じような考えだったようで内心で安堵する。

「では私から提案を。我がエインスレイス連邦とエスペルト王国、ドラコロニア王国の三国合同での反攻作戦を行いたいのです。エスペルト王国からの状況で敵位置、構成等の把握が進んでいます。三カ国で協力し、元ロニア国、セレーナ王国、アルカイド連合国まで取り返したいと考えています」

 ロニア国、セレーナ王国、アルカイド連合国の三国は、エインスレイス連邦とドラコロニアの南側に隣接していた国だ。
 奪還することができればナイトメアと隣接しなくなるだろう。

「こちらも同じ考えだ。三カ国からの避難民と王族などの代表はこちらに居る。殿を務めた兵士以外もだ…奪還作戦となれば彼らも協力してくれるだろう」

「ええ。それに避難民の中には集落に住んでいた者も多い。協力を得られれば心強いでしょうな」
 基本的にこの世界で魔物が入ってこない平和な場所は、城壁などに囲まれた都市くらいだ。
 集落にも魔物避けの植物などが存在するが、魔物の浸入を完璧に防ぐことはできない。
 日々の生活を魔物と共に過ごす住民は、都市に住む駆け出しの冒険者よりも強い。

「援軍を送るのは防衛が厳しいときのみ。本来であれば反攻作戦には援軍を出さないところだけど…戦線を下げるまでは厳しい状況と見なせるわ。エスペルト王国からも、今展開している軍はそのまま作戦に参加する」

 合同作戦を行うことが決まったことで、詳細の内容を詰めていった。

 作戦決行日は二日後。
 それぞれの砦から軍を南下、拠点を奪還しつつ補給路を構築していくことになった。
 エスペルト王国は今回の戦闘で殲滅した南側中央部の防衛。そしてアウトレンジからの砲撃による支援と物資の運搬を担うことに決まった。
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