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第8章 女王の日常と南の国々
33 監獄での戦い
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扉の格子から見える範囲では、敵が数人いるだけのようだ。牢の中には囚われている人もいるが、目立った傷はなさそうに見える。
後はこの先、どのように動くかが問題だった。
ここの監獄に囚われている人々を助けることは決定事項。そして敵を殲滅することも優先度が落ちるものの、ほぼ確定事項である。
しばらくの間、聞き耳を立てながら様子を窺っていると中の様子が少し慌しくなった。
「前線兵がほぼやられたらしい…急いで増産しろとのお達しだ」
「またかよ…この前の侵攻作戦で在庫をほとんど出した後だぞ」
「仕方ないだろう…物量差で勝てるはずが劣勢に追い込まれているんだ。さっさと牢から全員連れて来い!兵を作るのに数日はかかるんだから急げよ!」
聞こえてくる話からすると時間に余裕はなさそうだった。
「突撃しますか?」
「そうね。できればもう少し様子見したいところだけれど仕方がないわ……というわけだからシリウスたちもよろしくね」
「かしこまりました。こちらもいくつか牢は見つけてあります」
「であれば順に保護して行きましょう。こちらは四人、敵の総数は不明。であれば…」
「保護しつつ向かってくる敵を全て返り討ちすれば良いと…了解です。御武運を」
シリウスたちにも伝達するとアルキオネとアイコンタクトを取った。
準備できていることを確認した私は、身体強化をして足に魔力を纏わせると扉を蹴り飛ばす。
扉を固定していた金具は砕けて、大きな音を響かせて扉が吹き飛んだ。
「わっ!」
「なんだ!?」
中に居た人たちの驚いた声が聞こえてきて、一斉に視線が私たちを捉える。
「わたくしはエスペルト王国の王、ラティアーナ・エスペルト!全員武器を捨てて投降なさい。さすれば捕虜として丁重に扱ってあげるわ」
私が大声で叫ぶと相手は顔を顰めた。
「はっ…笑わせてくれるね。貴族…それも一国の王がたった二人でいるなんてありえないだろうに。侵入者二名を捕らえろ。ただ聞きたいことがあるから最低限話せるくらいにはしておけ」
五人ほどの男たちが剣を構えて近付いてくる。首元に注射器のような物を刺すと、身体を覆う魔力が禍々しく変化していく。
恐らくはナイトメアの兵士が使っていた物とは違い一時的に効果があるドーピングのようなもの。それも副作用がある可能性がある。
「兵士たちに使っていた物とは違うようだけれど…」
襲ってきた男の手首を掴んで捻りあげる。同時に足を払ってバランスを崩させると手首を掴んだまま地面へ叩きつけた。
「ぐっ…」
男は呻き声を上げて苦しそうにする。それでも抵抗しようと暴れるが手刀で叩いて気絶させた。
他の四人も襲いかかろうとしていたようだが、アルキオネの剣によって全員無力化されている。
「馬鹿な…強化された者たちを、今の一瞬で倒すなどあり得ない」
「十分強いと思うわよ?実際殺さないように手加減しなくても気絶させることが出来たもの。けれどそれだけ。並みの人間相手には通用しても、一流の相手には通用しないわ」
残った男は悔しそうな表情をして、服から何かを取り出そうとする。しかし一瞬早く、アルキオネが剣で叩いて無力化した。
「一応気絶させましたが…どうしますか?」
「敵は全員縛っておくわ。遅くとも夜になれば迎えが来るだろうから、それまでに片を付けるわよ。わたくしは牢にいる人たちを助けるから、アルキオネは敵の捕縛と広域探知をお願いね」
第一目標の制圧と奪取には早くて昼過ぎ、遅くても日が暮れる頃には終わる予定になっている。
奪取まで完了した後は、戦艦と輸送船を一隻ずつこちらに来るはずだ。
そして敵の捕縛と広域探知はアルキオネに任せて牢のほうへ向かった。牢の中には比較的若い男の人が多く、一番歳が大きい人でも壮年といったところだろう。
「わたくしたちはエスペルト王国から来ました。あなたたちをここから解放した後、一度エインスレイス連邦もしくはドラコロニア王国に渡します。両国には避難民もいますから、あなたたちの知り合いもいるかもしれません」
「ありがとうございます…もう一生外に出ることは叶わないと思ってました」
手前から順番に牢の格子を斬っていく。
少し言葉を交わしていると、ここに捕まっている人は同じ年代くらいの男の人のみということが分かった。
元々この辺りに住んでいた人々が逃げるための時間を稼ぐために残った殿。その中で生き残った人がここに収容されているらしい。
見える範囲にある全ての牢に捕まっていた人を全て解放するとおよそ200人近くになった。
次の行動を考えていると通信が入る。
「こちらも制圧完了しました。捕らわれていた人はいなくて兵士が少し多かったくらいです」
「了解よ。こっちは牢に結構な人数が捕まっていたわ。全員解放して数人いた敵は無力化してある。一旦地上に集めましょうか」
「かしこまりました」
シリウスとの通信が終わるとアルキオネが報告に来た。
「広域探知を使ったところ数人の魔力反応はありましたが、敵のようですね。牢に捕らわれている人は見つかりませんでした」
アルキオネは探知魔術に風魔術を組み合わせることで、探知範囲内の魔力反応だけでなく構造を把握することも可能にしていた。
魔力的な探知と物理的な探知。その二つでも見つからないということは、牢になっている場所はここだけなのだろう。
「わかったわ。アルキオネは皆の様子を見てあげて。わたくしは少しこの場所を調べるわ」
近くには実験に使われると思われる物だけでなく、さまざまな魔術具や書類も置かれていた。
魔術具の中には通信用の魔術も含まれている。双方向の通信用であれば、こちらから通信を送ることもできるが受信するだけの物のようだ。
相手が単に警戒心が強いだけなのか、あるいはこの場所は切り捨てる前提だけだったのか。意図はわからないが、通信の発信元を特定することは難しいだろう。
そして置いてある書類には、実験の結果について記載されている。基本的な内容はバルトロスが話していた内容と合致するが、他にも重要な内容が書いてある。
魔力が低い者もしくは精神力が弱い者。どちらかを満たす者に邪気を与えると自我が薄くなり攻めてきた兵士のようになる。しかし強い者に使うと自我が残り、一時的な強化状態になるようだ。
ある意味で夜月に宿っている力と同種の物と言えるかもしれない。
最低限確認したい事は分かったため、書類の簡単な画像だけ写してから皆の元へ向かう。その頃には捕らわれていた人々の確認も終わったようで、彼らの知り合いはここに揃っていることが分かった。
「確認を取れたから一旦地上へ戻りましょうか。残っている敵は、保護している人々の安全を確保した後に捕らえるわよ」
「かしこまりました。では早速っ!?」
アルキオネと話していると、急に辺りが揺れだした。地響きが起きて壁や天井に亀裂が広がっていく。
「これは地震かしら?それとも別の何か?」
「分かりませんが…このままだと地下が崩落しますよ!」
揺れは徐々に大きくなり、揺れに伴って亀裂も大きくなっていく。天井の一部が崩れそうになり少しずつ砂利が落ちていた。
「アルキオネは皆の保護を!今から天井を撃ち抜くわ!」
私は指示を出すと魔法袋の中から魔力入りの宝石を取り出す。
イリーナに用意してもらった宝石は、私自身の魔力が込められていないため身体強化に利用するようなことはできない。しかし通常の魔術を行使するための魔力として、利用するだけであれば造作もない。
アルキオネは保護している人たちを一纏めに集めたあと、風の魔術を行使した。ドーム上に出現した風の防壁は、土砂や衝撃から身を守ってくれるだろう。
皆の安全が確保されたことで、取り出した宝石を全てを砕いた。
行使するのは無属性の下級魔術。
魔力を変化させて撃ち出すだけの単純なものだ。
「今から地上までの一本道を通すから…全員、目と耳を塞いでなさいっ!」
風に守られている人々が慌ててしゃがみこんで、耳を手で押さえるのを確認する。
そして上級を超える膨大な魔力を持って、巨大な魔力の槍を生成。一気に撃ちだした。
巨大な魔力の槍は、天井に触れると轟音と衝撃を響かせて貫いていく。今までよりも強い衝撃が襲った直後、天井が跡形もなく消えていた。
開いた穴からは青空が顔を出していた。
後はこの先、どのように動くかが問題だった。
ここの監獄に囚われている人々を助けることは決定事項。そして敵を殲滅することも優先度が落ちるものの、ほぼ確定事項である。
しばらくの間、聞き耳を立てながら様子を窺っていると中の様子が少し慌しくなった。
「前線兵がほぼやられたらしい…急いで増産しろとのお達しだ」
「またかよ…この前の侵攻作戦で在庫をほとんど出した後だぞ」
「仕方ないだろう…物量差で勝てるはずが劣勢に追い込まれているんだ。さっさと牢から全員連れて来い!兵を作るのに数日はかかるんだから急げよ!」
聞こえてくる話からすると時間に余裕はなさそうだった。
「突撃しますか?」
「そうね。できればもう少し様子見したいところだけれど仕方がないわ……というわけだからシリウスたちもよろしくね」
「かしこまりました。こちらもいくつか牢は見つけてあります」
「であれば順に保護して行きましょう。こちらは四人、敵の総数は不明。であれば…」
「保護しつつ向かってくる敵を全て返り討ちすれば良いと…了解です。御武運を」
シリウスたちにも伝達するとアルキオネとアイコンタクトを取った。
準備できていることを確認した私は、身体強化をして足に魔力を纏わせると扉を蹴り飛ばす。
扉を固定していた金具は砕けて、大きな音を響かせて扉が吹き飛んだ。
「わっ!」
「なんだ!?」
中に居た人たちの驚いた声が聞こえてきて、一斉に視線が私たちを捉える。
「わたくしはエスペルト王国の王、ラティアーナ・エスペルト!全員武器を捨てて投降なさい。さすれば捕虜として丁重に扱ってあげるわ」
私が大声で叫ぶと相手は顔を顰めた。
「はっ…笑わせてくれるね。貴族…それも一国の王がたった二人でいるなんてありえないだろうに。侵入者二名を捕らえろ。ただ聞きたいことがあるから最低限話せるくらいにはしておけ」
五人ほどの男たちが剣を構えて近付いてくる。首元に注射器のような物を刺すと、身体を覆う魔力が禍々しく変化していく。
恐らくはナイトメアの兵士が使っていた物とは違い一時的に効果があるドーピングのようなもの。それも副作用がある可能性がある。
「兵士たちに使っていた物とは違うようだけれど…」
襲ってきた男の手首を掴んで捻りあげる。同時に足を払ってバランスを崩させると手首を掴んだまま地面へ叩きつけた。
「ぐっ…」
男は呻き声を上げて苦しそうにする。それでも抵抗しようと暴れるが手刀で叩いて気絶させた。
他の四人も襲いかかろうとしていたようだが、アルキオネの剣によって全員無力化されている。
「馬鹿な…強化された者たちを、今の一瞬で倒すなどあり得ない」
「十分強いと思うわよ?実際殺さないように手加減しなくても気絶させることが出来たもの。けれどそれだけ。並みの人間相手には通用しても、一流の相手には通用しないわ」
残った男は悔しそうな表情をして、服から何かを取り出そうとする。しかし一瞬早く、アルキオネが剣で叩いて無力化した。
「一応気絶させましたが…どうしますか?」
「敵は全員縛っておくわ。遅くとも夜になれば迎えが来るだろうから、それまでに片を付けるわよ。わたくしは牢にいる人たちを助けるから、アルキオネは敵の捕縛と広域探知をお願いね」
第一目標の制圧と奪取には早くて昼過ぎ、遅くても日が暮れる頃には終わる予定になっている。
奪取まで完了した後は、戦艦と輸送船を一隻ずつこちらに来るはずだ。
そして敵の捕縛と広域探知はアルキオネに任せて牢のほうへ向かった。牢の中には比較的若い男の人が多く、一番歳が大きい人でも壮年といったところだろう。
「わたくしたちはエスペルト王国から来ました。あなたたちをここから解放した後、一度エインスレイス連邦もしくはドラコロニア王国に渡します。両国には避難民もいますから、あなたたちの知り合いもいるかもしれません」
「ありがとうございます…もう一生外に出ることは叶わないと思ってました」
手前から順番に牢の格子を斬っていく。
少し言葉を交わしていると、ここに捕まっている人は同じ年代くらいの男の人のみということが分かった。
元々この辺りに住んでいた人々が逃げるための時間を稼ぐために残った殿。その中で生き残った人がここに収容されているらしい。
見える範囲にある全ての牢に捕まっていた人を全て解放するとおよそ200人近くになった。
次の行動を考えていると通信が入る。
「こちらも制圧完了しました。捕らわれていた人はいなくて兵士が少し多かったくらいです」
「了解よ。こっちは牢に結構な人数が捕まっていたわ。全員解放して数人いた敵は無力化してある。一旦地上に集めましょうか」
「かしこまりました」
シリウスとの通信が終わるとアルキオネが報告に来た。
「広域探知を使ったところ数人の魔力反応はありましたが、敵のようですね。牢に捕らわれている人は見つかりませんでした」
アルキオネは探知魔術に風魔術を組み合わせることで、探知範囲内の魔力反応だけでなく構造を把握することも可能にしていた。
魔力的な探知と物理的な探知。その二つでも見つからないということは、牢になっている場所はここだけなのだろう。
「わかったわ。アルキオネは皆の様子を見てあげて。わたくしは少しこの場所を調べるわ」
近くには実験に使われると思われる物だけでなく、さまざまな魔術具や書類も置かれていた。
魔術具の中には通信用の魔術も含まれている。双方向の通信用であれば、こちらから通信を送ることもできるが受信するだけの物のようだ。
相手が単に警戒心が強いだけなのか、あるいはこの場所は切り捨てる前提だけだったのか。意図はわからないが、通信の発信元を特定することは難しいだろう。
そして置いてある書類には、実験の結果について記載されている。基本的な内容はバルトロスが話していた内容と合致するが、他にも重要な内容が書いてある。
魔力が低い者もしくは精神力が弱い者。どちらかを満たす者に邪気を与えると自我が薄くなり攻めてきた兵士のようになる。しかし強い者に使うと自我が残り、一時的な強化状態になるようだ。
ある意味で夜月に宿っている力と同種の物と言えるかもしれない。
最低限確認したい事は分かったため、書類の簡単な画像だけ写してから皆の元へ向かう。その頃には捕らわれていた人々の確認も終わったようで、彼らの知り合いはここに揃っていることが分かった。
「確認を取れたから一旦地上へ戻りましょうか。残っている敵は、保護している人々の安全を確保した後に捕らえるわよ」
「かしこまりました。では早速っ!?」
アルキオネと話していると、急に辺りが揺れだした。地響きが起きて壁や天井に亀裂が広がっていく。
「これは地震かしら?それとも別の何か?」
「分かりませんが…このままだと地下が崩落しますよ!」
揺れは徐々に大きくなり、揺れに伴って亀裂も大きくなっていく。天井の一部が崩れそうになり少しずつ砂利が落ちていた。
「アルキオネは皆の保護を!今から天井を撃ち抜くわ!」
私は指示を出すと魔法袋の中から魔力入りの宝石を取り出す。
イリーナに用意してもらった宝石は、私自身の魔力が込められていないため身体強化に利用するようなことはできない。しかし通常の魔術を行使するための魔力として、利用するだけであれば造作もない。
アルキオネは保護している人たちを一纏めに集めたあと、風の魔術を行使した。ドーム上に出現した風の防壁は、土砂や衝撃から身を守ってくれるだろう。
皆の安全が確保されたことで、取り出した宝石を全てを砕いた。
行使するのは無属性の下級魔術。
魔力を変化させて撃ち出すだけの単純なものだ。
「今から地上までの一本道を通すから…全員、目と耳を塞いでなさいっ!」
風に守られている人々が慌ててしゃがみこんで、耳を手で押さえるのを確認する。
そして上級を超える膨大な魔力を持って、巨大な魔力の槍を生成。一気に撃ちだした。
巨大な魔力の槍は、天井に触れると轟音と衝撃を響かせて貫いていく。今までよりも強い衝撃が襲った直後、天井が跡形もなく消えていた。
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