王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第8章 女王の日常と南の国々

34 終息へ向けて

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 地上へと続く風穴を開けてしばらく。
 辺り一帯を襲っていた揺れは収まりつつあった。風の障壁で落ちてくる瓦礫や土砂を防いだため誰も怪我はしていない。

「収まりましたね…」

「そうね…今のうちに地上に上がりましょう。このまま地上まで運べる?」

「なんとかやってみます…」

 アルキオネはドーム上に展開している風のドームを地中にも広げていく。完全な球状し包み込むとそのまま少しずつ浮かせていった。

「おおお?」

 周りで怯えながらも様子を窺っていた者たちから驚く声が聞こえる。
 中には青ざめていたり恐怖で腰を抜かしていたりする者もいるが、風の球体は、ぐんぐんと地上へ昇っていく。

 穴を抜けて地上へ出ると比較的地面がしっかりしていそうな場所まで移動した。

「これは地震というよりも自爆みたいね」

 周りを見ると監獄のあった街だけが崩れているように見える。大方施設を破棄する仕掛けが作動したのだろう。

「用済みとなれば味方であってもお構いなしですか…許せませんね」

 アルキオネは怒りをあらわにして呟いた。



 しばらくするとシリウスとデトロークがやってくる。後ろには鎖に縛られたナイトメアの兵たちも見えた。抵抗しようと暴れているが手を拘束されていて身動きがとれないようだった。

「そちらも無事そうで良かったわ」

「ええ。生き埋めになるかと思いました。デトロークが上手にいなしてくれたおかげですね」

 シリウスはデトロークの方に視線を向けながら言葉にする。
 シリウスでは風の防壁で守ることはできても、そのまま移動させることは難しい。本人は生き埋めにされた程度どうにでもなるだろうが、拘束した敵がどうなっていたか分からない。

「なに…運がいいことに建材に鉄骨が多かったからな。雷撃で逸らす程度は簡単だ。それにシリウスが天井を吹き飛ばしたのも大きい」

 デトロークは遠くを見ながら口にする。その行いがどことなく照れ隠しをしているようにも見えた。

 思わずくすりと微笑むとデトロークが訝しげな視線を向けてきて「なんでもないわ」と返す。

 そうしているうちに二隻の船が飛んでくるのが見えた。

「来たわね」

 輸送船に捕らわれていた人を保護して、ナイトメアの兵を拘留する。

 私たちは旗艦エスペルトの艦橋へと戻った。



「陛下お疲れ様でした。簡単な報告になりますが、第一目標は制圧完了です。現在アドリアス様とシクスタス様が現場にて指揮を取られています」

 艦橋に入るとエクハルトが出迎えてくれて報告してくれた。隣にはイリーナが居て「怪我人は出たけれど治療は済んでいるわ。犠牲者もいない」と言う。

「では成功ね…現状の判明している拠点でエスペルト王国が担当する区域には敵拠点は見当たらないわ。支援に移りましょうか。それから人員も整理しないとね」

 ナイトメアの大戦力を崩し、いくつかの拠点も折り返しつつある今、王国軍をこのまま維持し続ける必要もないだろう。
 遠距離攻撃による支援であれば飛空船艦隊あれば事足りるため、騎士隊と魔術士隊、弓兵隊の人数を減らすつもりだった。

「それからこの魔術具を解析して結果を送っといてもらえるかしら?」

「これは…拠点間通信の魔術具ですか!?これがあれば、拠点の探査が大分楽になりますね!至急解析します!」

 エクハルトに渡したのは押収した通信用の魔術具だ。
 魔術具の構造上、通信先が指定されている。解析が進めば細かい位置は無理でも、おおよその位置がわかるはずだ。

 いくつかの魔術具を解析してもらうことにした。

 それから二日経った頃。

 魔術具の解析が完了した。
 魔術具や資料からは、敵拠点の位置がいくつか判明。探知用の砲弾と合わせて絞り込みが行われていく。
 さらには邪気によるドーピング剤の作成方法がわかったことで、解除方法についても研究が進められることになった。

 これらの情報は魔術通信を介してエインスレイス連邦とドラコロニア王国にも伝えられた。これによってロニア国とセレーナ王国、アルカイド連合国の領土奪還が加速していくことになるだろう。

 エスペルト王国としても今後の方針を決定することになるわけで、私と各部隊長で話をすることになった。

「まずはここまで付いてきてくれたことを嬉しく思うわ。本当にありがとう。さて、この戦いもおよそ一月が経過したわ。戦況は上々…防衛線から奪還戦に切り替わってからも優勢を維持できている」

「そうだな…最初の時の大群は厄介だった。しかし、それ以降は大規模部隊による侵攻はなさそうだ。他の防衛線にも追加部隊はいなさそうだし油断はできないが問題ないだろうな」

「相手に魔術を使う者も少ないのもあるわね」

「しかし尚のこと警戒する必要がありますな…手負いの獣は何をするのか分かりません。理性ある相手であればまだ良いです。保身がある分守ると言うことをします。ですが…理性なく保身すら無い者が何かをするとして、追い詰められた時に何をするかわからない怖さがありますから」

 アドリアスとイリーナの言う通りナイトメアの戦力の大半は、回復力に任せた兵士だ。近接戦闘しかできないためアウトレンジで潰せばこちらの犠牲は無くせる。

 それでもシクスタスの言うことももっともだ。

 王国軍として経験が豊富なシクスタスは、この中の誰よりも戦いを知っている。
 自軍が有利な時こそ油断が起きやすいことを。
 何かしらの一つの行動が万丈の全てをひっくり返すかも知らないことを。
 破滅寸前のなりふり構わぬ相手が、想像もしない行動で自爆覚悟で動くかもしれないことを。

 ナイトメアの総戦力は未だ不明。現在観測できている範囲も奪還作戦を行っている範囲までだ。元々のナイトメア国にどれだけの戦力がいるのか、ナイトメアの上層部がどのような者か全く分かっていない。

 ありとあらゆる可能性を考慮して、警戒を強める必要がある。

「もちろん警戒は緩めないし油断もしない。しばらくは戦力を維持して後方支援はそのまま。もちろん物資の支援も継続する。けれど正式には軍属でないイリーナはここまで。アドリアスも…学園を卒業したことで正式に軍属になるでしょう?ドミニクの話では割とすぐに元帥を引き継ぎたいみたいだし要相談ね。だからシクスタスとエクハルトの二人に司令官を任せたいと思っているわ」

「ということは…陛下も戻る予定ですか?」

「ここまでくれば二人でも大丈夫でしょうしわたくしも余り長い間、王国を不在にしていたくないからね」

 シクスタスの疑問に首肯して答える。

 私が王国から離れている間は、新しい改革はできていない。北の国境や国内も落ち着いていないことも理由だ。

 なによりシクスタスであれば最善の戦略を建てると、エクハルトであれば船を上手く扱えると信じている。二人に任せて大丈夫なことを知っている。

「もちろん細かい報告は受けるし大まかな指示は出すつもりよ。状況が悪化した場合は、またわたくしも赴くかもしれないわね。というわけで、シクスタスを総司令官にエクハルトを副司令官に任命するわ。お願いね」

「「はっ!お任せを」」

 私とイリーナ、アドリアスは、エスペルト王国に戻ることになった。
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