320 / 494
第11章 壊れかけのラメルシェル
29 ルドルフ・シャッハ
しおりを挟む
一方で黒羽とルドルフの戦いは熾烈を極めていた。
黒羽が刀を主体とした接近戦で挑むのに対し、ルドルフも薙刀と体術を主体にした近接戦で受け止める。
ティアとコルキアスのような広範囲に及ぶ派手な魔術戦とは打って変わって力と力、武器と武器をぶつけ合う静かな戦いを繰り広げていた。
「ほう……コルキアスが倒されたか。我が相手したほうが良かったのかもしれんな」
ティアが最後に放った巨大魔力弾による砲撃を見たルドルフは意外そうに呟く。
「はぁはぁ……安心するといい。すぐに同じ思いをさせてやる」
「いや無理だな。お前では我に勝てん。その程度で破られるほど青龍の名は安くない」
黒羽は刀を突き出すと「瞬閃」と呟いた。次の瞬間には刀の切っ先がルドルフの喉元に現れるがその前に薙刀によって薙ぎ払われて刀の軌道がずれる。
「っ……爆炎」
黒羽とルドルフの間に業火が巻き起こる。炎は球状に圧縮された直後、大爆発を起こした。
爆炎は下級ではあるが射程が短い代わりに威力の高いこの技は、消費魔力の少なさもあって万能な霊術でもある。
炎と衝撃がルドルフを包み込み一帯が煙に覆われた。しかし煙が晴れると無傷の状態で佇んでいる。
「全く効かないか……」
爆発の衝撃を利用して距離を取った黒羽は悔しそうに唇をかみ締める。
「力も強く速度もある。魔術も速度、威力ともに申し分ないだろう。だが我々を相手にするには足りんな」
黒羽も幼い頃から鍛錬していたこともあって個々の技術だけ見ればルドルフに勝てないまでも並び立つことくらいはできる。
しかし19歳という若さと環境が相俟って実戦経験はあまりなかった。それこそ、ほとんどが魔物との実戦で対人戦は稽古や試合形式のものばかりだ。
その経験の差がこの戦いにおいては顕著な差となる。
ルドルフは薙刀の扱いが異常に上手だった。どのように斬りこんでもいなされて返す刀を瞬時に向かってくる。
たとえ、それを忍んだとしても脚蹴りを主体とした二撃目が存在していて、黒羽も何度も蹴り飛ばされていた。
霊術を挟んでも速度や力で押しても読まれたような動きで隙がない反撃をしてくるそんな男だった。
しかも、魔術による攻撃を一度も使っていないのだから質が悪い。
「だとしても、このまま敗れるわけにはいかない」
「だが結果は変わらん。コルキアスを倒した少女はすぐには動けないだろう。後ろの少女も支援としては優秀だが我を直接相手するには力不足だ」
現状でルドルフと戦うことができるのは黒羽のみだろう。
ティアは近くで膝をつき肩で息をしていて直ぐに参戦はできそうにない。そして紫陽は様々な意味で参戦できない。
そもそもルドルフのほうが強いが黒羽を無視して紫陽を狙えるほど実力差があるわけじゃなかった。だからこそ後方で距離をとっている紫陽は安全な場所から霊術による支援ができているわけだ。
しかし、距離がある状態で攻撃系の霊術を使っても効果はあまりない。となれば距離を詰めることは必然になるのだが、ルドルフの間合いであれば黒羽と紫陽の二人を同時に相手にして倒される危険性もあった。
そして、紫陽の役目は支援だけではない。
「悔しいがこのまま戦い続けても十中八九敗れるだろう。できれば手の内を暴いておきたかったが……」
黒羽は一瞬だけ視線を外して後ろにいる紫陽を見やった。
黒羽の位置を察した紫陽は言葉を口にすることなく首を縦に振る。
「……なにをするつもりだ?」
黒羽と紫陽の無言の合図を感じ取ったルドルフは怪訝な表情で二人を見やる。
「フリーダ完全同調。荒れ狂え、暴風刃!」
黒羽の答えは精霊フリーダとの完全同調。瞬間的に増大した魔力を放ち、暴風を圧縮して創り出した無数の刃を刀に纏わせる。
「むっ!?」
そして、黒羽は全力で駆け抜けて距離を詰めるとルドルフに対して刀を振り下ろした。
ルドルフは薙刀で受け止めるが急に上がった速度と力の前に受け流すことができないかった。驚きの声を上げて目を見開いたまま真正面から受け止める。
だが、ここにきて初めて黒羽とルドルフの鍔競り合いが発生した。
「アリーナ。同調、憑依……全解放!」
紫陽は自身の精霊と同調させると同時に精霊を身体に宿す。さらに、ティアと同じように精霊の力を解放し膨大な魔力が吹き荒れた。
「むっ!?魔力だけじゃない……なにをした!?」
「あれが私たちの切り札。悪いがこのまま大人しくしていてもらう!」
ルドルフも危険を感じたようだが黒羽が妨害を許さない。
黒羽とルドルフが刀と薙刀を交えて動きを止めている間に紫陽が桜陽を地面に刺して口を開く。
「桜陽。咲き狂いなさい!」
地面に刺さった桜陽の刀身を基点に地面がひび割れていく。
中から紅い光が浮かび上がって周囲を照らすと紅色の魔力が上へと伸びだした。それは巨大な樹木のように成長していく。
「あの紅い樹は……魔力を吸っているのか!?」
紅い大樹は地面に根を張り空へと枝を伸ばしていく。そして、大地や大気中に存在する魔力を吸収し紫陽やアリーナの魔力を養分として花を咲かせていく。
その光景を見たルドルフは顔を引き攣らせて「大海」と呟いた。
「っ!?」
ルドルフと鍔競り合いをしていた黒羽は慌てて後ろに下がる。ほぼ同時に、ルドルフの足元から水柱が噴きあがった。
更にルドルフを中心に半径10メートルくらいを円を描くように、いくつもの水柱が出現する。
「お前もコルキアスとの戦いで見たのなら知っているだろう?我々の武具には伝説の獣が使われていると。我が扱う青龍は自然と生命を象徴すると言われている。当然、この薙刀も同じだ」
顕現した水は聖なる光を帯びてルドルフの周囲を包み込むように広がり始める。巨大な水の柱だったものは水の塊から水滴へと代わり、次第に霧へと変化していった。
「だが此方のほうが早い!紫陽様!」
「桜陽。散華!」
紫陽の言葉と同時に紅い大樹は紅い粒子となって戦場を舞い踊る。
それらの大半がルドルフの元に降り注ぐと霧とぶつかり合った。
戦場一帯が二つの混ざり合った膨大な魔力に包み込まれ紅い光に照らされる。
次いで、とてつもなく大きな衝撃が駆け巡り、大地を揺らした。
黒羽が刀を主体とした接近戦で挑むのに対し、ルドルフも薙刀と体術を主体にした近接戦で受け止める。
ティアとコルキアスのような広範囲に及ぶ派手な魔術戦とは打って変わって力と力、武器と武器をぶつけ合う静かな戦いを繰り広げていた。
「ほう……コルキアスが倒されたか。我が相手したほうが良かったのかもしれんな」
ティアが最後に放った巨大魔力弾による砲撃を見たルドルフは意外そうに呟く。
「はぁはぁ……安心するといい。すぐに同じ思いをさせてやる」
「いや無理だな。お前では我に勝てん。その程度で破られるほど青龍の名は安くない」
黒羽は刀を突き出すと「瞬閃」と呟いた。次の瞬間には刀の切っ先がルドルフの喉元に現れるがその前に薙刀によって薙ぎ払われて刀の軌道がずれる。
「っ……爆炎」
黒羽とルドルフの間に業火が巻き起こる。炎は球状に圧縮された直後、大爆発を起こした。
爆炎は下級ではあるが射程が短い代わりに威力の高いこの技は、消費魔力の少なさもあって万能な霊術でもある。
炎と衝撃がルドルフを包み込み一帯が煙に覆われた。しかし煙が晴れると無傷の状態で佇んでいる。
「全く効かないか……」
爆発の衝撃を利用して距離を取った黒羽は悔しそうに唇をかみ締める。
「力も強く速度もある。魔術も速度、威力ともに申し分ないだろう。だが我々を相手にするには足りんな」
黒羽も幼い頃から鍛錬していたこともあって個々の技術だけ見ればルドルフに勝てないまでも並び立つことくらいはできる。
しかし19歳という若さと環境が相俟って実戦経験はあまりなかった。それこそ、ほとんどが魔物との実戦で対人戦は稽古や試合形式のものばかりだ。
その経験の差がこの戦いにおいては顕著な差となる。
ルドルフは薙刀の扱いが異常に上手だった。どのように斬りこんでもいなされて返す刀を瞬時に向かってくる。
たとえ、それを忍んだとしても脚蹴りを主体とした二撃目が存在していて、黒羽も何度も蹴り飛ばされていた。
霊術を挟んでも速度や力で押しても読まれたような動きで隙がない反撃をしてくるそんな男だった。
しかも、魔術による攻撃を一度も使っていないのだから質が悪い。
「だとしても、このまま敗れるわけにはいかない」
「だが結果は変わらん。コルキアスを倒した少女はすぐには動けないだろう。後ろの少女も支援としては優秀だが我を直接相手するには力不足だ」
現状でルドルフと戦うことができるのは黒羽のみだろう。
ティアは近くで膝をつき肩で息をしていて直ぐに参戦はできそうにない。そして紫陽は様々な意味で参戦できない。
そもそもルドルフのほうが強いが黒羽を無視して紫陽を狙えるほど実力差があるわけじゃなかった。だからこそ後方で距離をとっている紫陽は安全な場所から霊術による支援ができているわけだ。
しかし、距離がある状態で攻撃系の霊術を使っても効果はあまりない。となれば距離を詰めることは必然になるのだが、ルドルフの間合いであれば黒羽と紫陽の二人を同時に相手にして倒される危険性もあった。
そして、紫陽の役目は支援だけではない。
「悔しいがこのまま戦い続けても十中八九敗れるだろう。できれば手の内を暴いておきたかったが……」
黒羽は一瞬だけ視線を外して後ろにいる紫陽を見やった。
黒羽の位置を察した紫陽は言葉を口にすることなく首を縦に振る。
「……なにをするつもりだ?」
黒羽と紫陽の無言の合図を感じ取ったルドルフは怪訝な表情で二人を見やる。
「フリーダ完全同調。荒れ狂え、暴風刃!」
黒羽の答えは精霊フリーダとの完全同調。瞬間的に増大した魔力を放ち、暴風を圧縮して創り出した無数の刃を刀に纏わせる。
「むっ!?」
そして、黒羽は全力で駆け抜けて距離を詰めるとルドルフに対して刀を振り下ろした。
ルドルフは薙刀で受け止めるが急に上がった速度と力の前に受け流すことができないかった。驚きの声を上げて目を見開いたまま真正面から受け止める。
だが、ここにきて初めて黒羽とルドルフの鍔競り合いが発生した。
「アリーナ。同調、憑依……全解放!」
紫陽は自身の精霊と同調させると同時に精霊を身体に宿す。さらに、ティアと同じように精霊の力を解放し膨大な魔力が吹き荒れた。
「むっ!?魔力だけじゃない……なにをした!?」
「あれが私たちの切り札。悪いがこのまま大人しくしていてもらう!」
ルドルフも危険を感じたようだが黒羽が妨害を許さない。
黒羽とルドルフが刀と薙刀を交えて動きを止めている間に紫陽が桜陽を地面に刺して口を開く。
「桜陽。咲き狂いなさい!」
地面に刺さった桜陽の刀身を基点に地面がひび割れていく。
中から紅い光が浮かび上がって周囲を照らすと紅色の魔力が上へと伸びだした。それは巨大な樹木のように成長していく。
「あの紅い樹は……魔力を吸っているのか!?」
紅い大樹は地面に根を張り空へと枝を伸ばしていく。そして、大地や大気中に存在する魔力を吸収し紫陽やアリーナの魔力を養分として花を咲かせていく。
その光景を見たルドルフは顔を引き攣らせて「大海」と呟いた。
「っ!?」
ルドルフと鍔競り合いをしていた黒羽は慌てて後ろに下がる。ほぼ同時に、ルドルフの足元から水柱が噴きあがった。
更にルドルフを中心に半径10メートルくらいを円を描くように、いくつもの水柱が出現する。
「お前もコルキアスとの戦いで見たのなら知っているだろう?我々の武具には伝説の獣が使われていると。我が扱う青龍は自然と生命を象徴すると言われている。当然、この薙刀も同じだ」
顕現した水は聖なる光を帯びてルドルフの周囲を包み込むように広がり始める。巨大な水の柱だったものは水の塊から水滴へと代わり、次第に霧へと変化していった。
「だが此方のほうが早い!紫陽様!」
「桜陽。散華!」
紫陽の言葉と同時に紅い大樹は紅い粒子となって戦場を舞い踊る。
それらの大半がルドルフの元に降り注ぐと霧とぶつかり合った。
戦場一帯が二つの混ざり合った膨大な魔力に包み込まれ紅い光に照らされる。
次いで、とてつもなく大きな衝撃が駆け巡り、大地を揺らした。
10
あなたにおすすめの小説
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す
RINFAM
ファンタジー
なんの罰ゲームだ、これ!!!!
あああああ!!!
本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!
そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!
一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!
かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。
年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。
4コマ漫画版もあります。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
生贄公爵と蛇の王
荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。
「お願いします、私と結婚してください!」
「はあ?」
幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。
そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。
しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。
転生騎士団長の歩き方
Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】
たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。
【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。
【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?
※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる