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第12章 私を見つけるための旅
5 見知らぬ天井
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目が覚めたら知らない天井なんて物語の中だけだと思っていたが実際に体験してみると何とも言えない気分だった。
これが治安のいい国にいたのならまだ分かるが、私たちは居た場所は森の中。それも獣人国家で丁重に保護されるはずがない。
せめて民間の家のような場所なら納得できる。しかし、無機質な石造りの部屋は普通の家ではないだろう。装飾が派手なわけではないが壁や柱には所々に文様が刻まれていて厳かな雰囲気だった。
いっそのこと夢なのだろうかとも考えたが、体中から感じる痛みと熱っぽさが現実だと告げている。
「ここは……どこかな?」
喉が渇いているせいか久しぶりに話したかのように掠れた声がでた。けれど、誰からも反応が返ってくることはない。
「捕まった……にしては丁寧すぎるか。プレアデスいる?」
服も綺麗なものに変わっているし手足が拘束されていることもない。そもそも額に濡れタオルが乗っていることからも誰かが看病してくれているようだった。
一先ずプレアデスに声をかけてみるが、しばらく経っても返事がない。
『プレアデス?』
離れた場所にいるのかと思って今度は念話を送ってみる。すると『ティア!?目が覚めたのね!』と大きな声が聞こえてきた。
『今さっきね。私は……というか私たちはどうなったの?』
『簡単に言うと銀狼との戦いから二日が経っているわ。ここはシャスタニアにある拠点。二人とも無事よ』
思ったよりも時間が過ぎていたことに驚くが紫陽と黒羽が無事だったことに安堵する。
『二人とも無事で良かった……』
『良かったじゃないわ。ティアのほうがよっぽど重症じゃない』
プレアデスが少し怒ったような口調で説明してくれたが今の私は見た目以上にぼろぼろらしい。
元々魂が欠落しているせいで成長が遅いわけだが、未熟な身体で度重なる戦闘と膨大な魔力の行使を立て続けに行ったことで負担がかかりすぎているようだった。
しかも弱っているところで夜営による連日の行軍も追い討ちをかけたようだった。雨に濡れたせいか重い風邪のようなものを患っているようだ。
『魔力の制御には自信あったんだけどね……』
『そもそもティアの魔力制御がなかったら魔力回路が傷つくか魔臓が壊れて今頃生きてないわ。下手したら魔力や生命力が暴発して魂そのものが壊れる可能性もあるのよ?ただ魂が欠けたままだと……』
『分かっているわ』
成長するにつれて身体がついていかないことも薄っすらと気づいていた。そして、今回戦うたびに全力で戦うことができる時間が減りつつあることも。
『ならいいけど……ともかく。私はこのままティアの魔力と生命力の安定に努めるからしばらくは表に出ないわ。話があるなら念話してよね……』
プレアデスは最後に『無理はしないでね』と言い残して念話を切った。
いくら魂同士が繋がっていても念話する分だけ魔力を使う。消費量自体は微々たるものだが私の負担にならないようにしてくれているのだろう。
「やっぱり……一度エスペルト王国に行く必要があるか」
欠けた魂に心当たりがあるとすれば私の愛刀である夜月だろう。生命力すらも喰らうあの刀であれば、私の魂を喰らっていてもおかしくない。
どちらにせよ紫陽と黒羽の三人で桜花皇国に向かうのが先決だと考えていると部屋の外に見知らぬ気配が訪れる。
扉をコンコンと叩く音が聞こえてきたので返事をすると「失礼しますね」と少し渋めの声が聞こえてきた。
「お目覚めになられたようでよかったです。体調はいかがですかな?」
やってきたのは老齢な男性な小柄な男性だった。白衣で隠れているが手足からは青い毛が見え隠れしていて短い尻尾がちょこんと出ている。
白髪交じりの青い髪からも短い耳が覗かせていた。
「少し楽になりましたけど……あなたは?」
「ああ。失礼しました。私は公国シャスタニアに仕えます医師のシアと言います。あなたからすれば犬人族と言ったほうが分かりやすいかもしれませんね」
正確には犬人のなかでも青犬種と呼ばれる種族のようだった。
シアはとても丁寧で紳士的なお爺さんと言った印象で物腰がとても柔らかい。
「シアさん。今回は助けていただきありがとうございました」
「いえいえ……私たちではあなたを治療することができませんでした。お礼を言われるようなことはなにも」
「それでもです。そもそも病気や怪我ではないのは私が一番知ってますから。こうして、休ませてくれただけでもありがたい」
たとえ治りが遅くても安静にしていれば日常生活くらいなら当面できる。
だからこそ、改めて感謝を告げるとシアは少し落ち着かない様子で「慣れませんね……」と呟いた。
「私もこの場所で長いこと医師をしていましたから人間の方を診るのは何度かありましたが、あなたのような人は始めてだ」
どこか珍しい者でも見るような視線だが悪い意味ではなさそうだった。
どういうことか気になって視線を向けるとシアは少しだけ眉毛を下げて教えてくれる。
「大抵の人間は獣人を見ると恐怖や畏怖、敵意などを覚えるものです。あなたと一緒にいた彼女たちであっても警戒心がとても強かった」
「それは……知らない場所をさまよっていれば警戒もするでしょう。でも私の場合は保護してもらった後です」
無防備な私を保護して看てくれていたのだ。いまさら警戒する必要がないと答えるとシアは「そうではないのです」と首を横に振る。
「桜花皇国の人間は獣人との比較的獣人との交流があります。ですがあなたはこの大陸出身なのでしょう?特にこの辺りでは獣人と人間とで争いが絶えませんから非公式の交流もほとんどありません。だというのにあなたは始めてみた私に全く恐れを抱かなかった」
人は未知なるものに恐怖を覚えやすい。ましてや敵対関係にある者だったり自身よりも強大な相手だったりすれば余計に恐怖を感じるだろう。それは、人の生存本能としては正しいのかもしれない。
「いろいろと過去にあったからかも知れません。それに……人間以外の種族と話すのも初めてではありませんし」
けれど、私の場合は少し状況が違う。
王女として女王として同じ人間同士であっても腹の探り合いが日常だった。だからこそ、ある意味では裏切りや襲われるというのもに慣れていた。
最初から警戒するよりも一先ず信じてみて、もし何かあったときは対応すればいいとの考えが強い。
そう考えているとシアは何ともいえないような表情で私を見ていることに気付く。戸惑いのような驚きのような、はたまた嬉しいような微妙な表情。
それに対して、どのように言葉をかけようか悩みだしたところで部屋の外に見知った気配を感じ取る。
「ティア大丈夫か!?」
「痛いところなどありませんか!?」
黒羽と紫陽が扉を勢いよく開けて慌てた様子でやってきた。
これが治安のいい国にいたのならまだ分かるが、私たちは居た場所は森の中。それも獣人国家で丁重に保護されるはずがない。
せめて民間の家のような場所なら納得できる。しかし、無機質な石造りの部屋は普通の家ではないだろう。装飾が派手なわけではないが壁や柱には所々に文様が刻まれていて厳かな雰囲気だった。
いっそのこと夢なのだろうかとも考えたが、体中から感じる痛みと熱っぽさが現実だと告げている。
「ここは……どこかな?」
喉が渇いているせいか久しぶりに話したかのように掠れた声がでた。けれど、誰からも反応が返ってくることはない。
「捕まった……にしては丁寧すぎるか。プレアデスいる?」
服も綺麗なものに変わっているし手足が拘束されていることもない。そもそも額に濡れタオルが乗っていることからも誰かが看病してくれているようだった。
一先ずプレアデスに声をかけてみるが、しばらく経っても返事がない。
『プレアデス?』
離れた場所にいるのかと思って今度は念話を送ってみる。すると『ティア!?目が覚めたのね!』と大きな声が聞こえてきた。
『今さっきね。私は……というか私たちはどうなったの?』
『簡単に言うと銀狼との戦いから二日が経っているわ。ここはシャスタニアにある拠点。二人とも無事よ』
思ったよりも時間が過ぎていたことに驚くが紫陽と黒羽が無事だったことに安堵する。
『二人とも無事で良かった……』
『良かったじゃないわ。ティアのほうがよっぽど重症じゃない』
プレアデスが少し怒ったような口調で説明してくれたが今の私は見た目以上にぼろぼろらしい。
元々魂が欠落しているせいで成長が遅いわけだが、未熟な身体で度重なる戦闘と膨大な魔力の行使を立て続けに行ったことで負担がかかりすぎているようだった。
しかも弱っているところで夜営による連日の行軍も追い討ちをかけたようだった。雨に濡れたせいか重い風邪のようなものを患っているようだ。
『魔力の制御には自信あったんだけどね……』
『そもそもティアの魔力制御がなかったら魔力回路が傷つくか魔臓が壊れて今頃生きてないわ。下手したら魔力や生命力が暴発して魂そのものが壊れる可能性もあるのよ?ただ魂が欠けたままだと……』
『分かっているわ』
成長するにつれて身体がついていかないことも薄っすらと気づいていた。そして、今回戦うたびに全力で戦うことができる時間が減りつつあることも。
『ならいいけど……ともかく。私はこのままティアの魔力と生命力の安定に努めるからしばらくは表に出ないわ。話があるなら念話してよね……』
プレアデスは最後に『無理はしないでね』と言い残して念話を切った。
いくら魂同士が繋がっていても念話する分だけ魔力を使う。消費量自体は微々たるものだが私の負担にならないようにしてくれているのだろう。
「やっぱり……一度エスペルト王国に行く必要があるか」
欠けた魂に心当たりがあるとすれば私の愛刀である夜月だろう。生命力すらも喰らうあの刀であれば、私の魂を喰らっていてもおかしくない。
どちらにせよ紫陽と黒羽の三人で桜花皇国に向かうのが先決だと考えていると部屋の外に見知らぬ気配が訪れる。
扉をコンコンと叩く音が聞こえてきたので返事をすると「失礼しますね」と少し渋めの声が聞こえてきた。
「お目覚めになられたようでよかったです。体調はいかがですかな?」
やってきたのは老齢な男性な小柄な男性だった。白衣で隠れているが手足からは青い毛が見え隠れしていて短い尻尾がちょこんと出ている。
白髪交じりの青い髪からも短い耳が覗かせていた。
「少し楽になりましたけど……あなたは?」
「ああ。失礼しました。私は公国シャスタニアに仕えます医師のシアと言います。あなたからすれば犬人族と言ったほうが分かりやすいかもしれませんね」
正確には犬人のなかでも青犬種と呼ばれる種族のようだった。
シアはとても丁寧で紳士的なお爺さんと言った印象で物腰がとても柔らかい。
「シアさん。今回は助けていただきありがとうございました」
「いえいえ……私たちではあなたを治療することができませんでした。お礼を言われるようなことはなにも」
「それでもです。そもそも病気や怪我ではないのは私が一番知ってますから。こうして、休ませてくれただけでもありがたい」
たとえ治りが遅くても安静にしていれば日常生活くらいなら当面できる。
だからこそ、改めて感謝を告げるとシアは少し落ち着かない様子で「慣れませんね……」と呟いた。
「私もこの場所で長いこと医師をしていましたから人間の方を診るのは何度かありましたが、あなたのような人は始めてだ」
どこか珍しい者でも見るような視線だが悪い意味ではなさそうだった。
どういうことか気になって視線を向けるとシアは少しだけ眉毛を下げて教えてくれる。
「大抵の人間は獣人を見ると恐怖や畏怖、敵意などを覚えるものです。あなたと一緒にいた彼女たちであっても警戒心がとても強かった」
「それは……知らない場所をさまよっていれば警戒もするでしょう。でも私の場合は保護してもらった後です」
無防備な私を保護して看てくれていたのだ。いまさら警戒する必要がないと答えるとシアは「そうではないのです」と首を横に振る。
「桜花皇国の人間は獣人との比較的獣人との交流があります。ですがあなたはこの大陸出身なのでしょう?特にこの辺りでは獣人と人間とで争いが絶えませんから非公式の交流もほとんどありません。だというのにあなたは始めてみた私に全く恐れを抱かなかった」
人は未知なるものに恐怖を覚えやすい。ましてや敵対関係にある者だったり自身よりも強大な相手だったりすれば余計に恐怖を感じるだろう。それは、人の生存本能としては正しいのかもしれない。
「いろいろと過去にあったからかも知れません。それに……人間以外の種族と話すのも初めてではありませんし」
けれど、私の場合は少し状況が違う。
王女として女王として同じ人間同士であっても腹の探り合いが日常だった。だからこそ、ある意味では裏切りや襲われるというのもに慣れていた。
最初から警戒するよりも一先ず信じてみて、もし何かあったときは対応すればいいとの考えが強い。
そう考えているとシアは何ともいえないような表情で私を見ていることに気付く。戸惑いのような驚きのような、はたまた嬉しいような微妙な表情。
それに対して、どのように言葉をかけようか悩みだしたところで部屋の外に見知った気配を感じ取る。
「ティア大丈夫か!?」
「痛いところなどありませんか!?」
黒羽と紫陽が扉を勢いよく開けて慌てた様子でやってきた。
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