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第12章 私を見つけるための旅
16 思い出作りと懐かしい味
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「お待たせしました」
「すまない。待たせた」
「大丈夫だよ。二人とも今日はよろしくね」
泊まっている部屋がある屋敷の入り口で待っていると紫陽と黒羽の二人がやってきた。
二人とも街へ出かけるための簡素な格好だ。普段は髪を一つに纏めている黒羽も下ろしていて新鮮に感じる。
「昨日は観光まではしていないのですよね?」
「そうだね。どうせなら二人に案内して欲しかったから……紹介してもらった鍛冶師とか図書館に行っただけだよ」
斑の元を訪れた後は、屋敷に戻って昼食を取り、そのまま図書館で本を読んで過ごしていた。
街の中も少しは歩いているが、こうしてゆっくりと散策するのは今回が初めてだ。
「どこか行きたい場所はありますか?」
「二人のおすすめの場所だったらどこでも。あとは桜花皇国ならではの料理は食べたいかな」
屋敷で出してくれた料理は大陸の料理を基にしたものだった。恐らくは獣人のガロンに合わせてくれたのだろうが、せっかくならその土地ならではの食事も楽しみたい。
「わかりました。では順番に行きましょうか!」
紫陽はそう言うと私たちを急かすかのように前を進んでいく。そのような紫陽の様子に黒羽は苦笑しながら教えてくれる。
「紫陽様は今日を楽しい良い一日にしたいと昨日からはしゃいでいた。いつもよりもテンションが高いだろうが目を瞑ってやって欲しい」
「もちろん。私も楽しいから大歓迎だよ」
明日の朝には別れるのだ。
丸一日一緒の時間を過ごすことができる最後の日は、しみじみするよりも明るく楽しく過ごしたほうが断然良いだろう。
私と黒羽は紫陽の後を少しだけ早歩きで追いかけた。
紫陽に案内されて街の中をぶらぶらと見て回る。
最初に向かったのは明るい色の建物が多い大きな街道だった。近くには大きな噴水がある広場や芝に覆われた公園のようなものもある。広場や公園の端には露店などもあって美味しそうな匂いも伝わってきていた。
「ここが桜花皇国の中で最も人が多い場所です。少し高価なものやお手頃の物まで、日常品はもちろんのこと装飾品や化粧品みたいな嗜好品も多くありますよ」
「へぇ……賑やかだね。お祭りみたい」
エスペルト王国でも露店などは多くあった。それでも全ての露天に人が並ぶほど混み合うのは建国祭くらいのものだ。
「今日は週に一度の休日だからな。普段はもう少し人が少ないんだ」
「大陸と同じなんだね。賑やかなのを見ていると楽しくなってくる気がするよ」
お店の人も並んで買い物をしている人も両方が笑顔で活気がある。賑やかな空気が好きな私にとって、見ているだけでも伝わってくる。
「綺麗……」
お店を覗いて見ると、たくさんの装飾品が置いてあった。中には宝石をあしらった物もあるが、宝石の質が良いだけではない。細かい加工なども綺麗にされていてかなり良い品だろう。
「私たちの国は細かい加工を得意とする職人が多いからな」
「なるほどね。よく見てみると技術の凄さが分かるよ……これも凄い」
品物を見て回っているとクリスタルのような物が目に入る。複雑な形に加工されていて光の反射がとても綺麗だ。
「それは霊結晶を混ぜたクリスタルガラスですね。加工がかなり難しいのですよ」
霊結晶というのは、億年桜の樹液に含まれる霊力が結晶化したものらしい。他の素材とも馴染みやすいが、とても強度があり限られた職人しか加工することができないそうだ。
「初めて見るものが多くて驚いた……本当に凄いわ」
私が目をきらきらさせて品物を眺めていると紫陽は「気に入ってくれたようでよかったです」と笑みを向けてきた。
その後もアクセサリや工芸品、衣料品など様々な物を見て回った。大陸で見たことがない桜花皇国独自の物がたくさんあってとても楽しく感じる。
因みに桜花皇国のお金は大陸とは別のものになっている。施設から持ち出した貴重品を売ったりラメルシェル王国に協力した報奨金として受け取った分は、ここに来たときに両替してあった。
高価な物までは手を出せないが少しは買うことができる。
私は荷物が多くならない程度に服や小物をいくつか買うことにした。
「お待たせ……あれ紫陽は?」
買い物を終えて店を出ると黒羽が待っていた。しかし、周りを見渡しても紫陽の姿が見当たらない。
「所要で少しだけ席を外しているだけだ。あと少ししたら来るだろうから先に食事処に向かおう」
「わかった……ご飯も楽しみだね」
黒羽の案内で行ったお店は少し古風な作りをしていた。先に店に入って席に着くと、すぐに紫陽もやってきた。
二人のおすすめも注文してもらって楽しみに待っていると店員の人が料理を持ってくる。
「これは……」
私は思わず言葉に詰まってしまう。目の前にあるのは私が好きだった物の一つに近い。朧げに覚えている日本での記憶にある食べ物だ。
「これは味噌煮込み蕎麦ですね。慣れないと少し癖があるかもしれませんがおすすめですよ」
「味噌と蕎麦ね……」
大陸でも場所によってはガレットを食べるところがあった。当然原料となる蕎麦粉はある。
実際のところ私も蕎麦を作ろうと考えたことはあったのだ。しかし、作り方が難しくて断念していた。
そして、味噌もまた私が追い求めていた物でもある。だが、作り方が全く分からず、探し出そうとしたがエスペルト王国内にはないことが分かった。探し出そうとしても名前がわからない物を探すのは難しく諦めていた。
そんな二つが目の前にあって感慨深い気分になる。
「あー……そうでした。このままでは難しいですよね」
「私がカトラリーを持ってこよう」
私が固まっていると二人の視線が料理と一緒に運ばれた箸へと向けられる。
エスペルト王国に限らず大陸ではカトラリーを使うのが基本だ。箸を使う文化は、私が訪れた国では初めてになる。
だから食べ方がわからないのだと思ったのだろう。
「ありがとう。でも、そのままで大丈夫」
私は箸を持つとそのまま麺を啜る。あまりに久しぶりすぎて最初はぎこちなかったが慣れてくるとスムーズになってきた。
「上手いですね」
「とても初めてには見えないな」
二人とも前世のことは知っているが、さらに昔の前々世の記憶については何も知らない。話しても良いとは思っているが、そもそも異世界の記憶になるため説明が難しすぎるだろう。
「……かなり昔に使ったことがあるからね。それにしても本当に美味しいよ」
私は少しだけ言葉を濁したが、二人は納得してくれたようで「良かったです」と嬉しそうにしていた。
「すまない。待たせた」
「大丈夫だよ。二人とも今日はよろしくね」
泊まっている部屋がある屋敷の入り口で待っていると紫陽と黒羽の二人がやってきた。
二人とも街へ出かけるための簡素な格好だ。普段は髪を一つに纏めている黒羽も下ろしていて新鮮に感じる。
「昨日は観光まではしていないのですよね?」
「そうだね。どうせなら二人に案内して欲しかったから……紹介してもらった鍛冶師とか図書館に行っただけだよ」
斑の元を訪れた後は、屋敷に戻って昼食を取り、そのまま図書館で本を読んで過ごしていた。
街の中も少しは歩いているが、こうしてゆっくりと散策するのは今回が初めてだ。
「どこか行きたい場所はありますか?」
「二人のおすすめの場所だったらどこでも。あとは桜花皇国ならではの料理は食べたいかな」
屋敷で出してくれた料理は大陸の料理を基にしたものだった。恐らくは獣人のガロンに合わせてくれたのだろうが、せっかくならその土地ならではの食事も楽しみたい。
「わかりました。では順番に行きましょうか!」
紫陽はそう言うと私たちを急かすかのように前を進んでいく。そのような紫陽の様子に黒羽は苦笑しながら教えてくれる。
「紫陽様は今日を楽しい良い一日にしたいと昨日からはしゃいでいた。いつもよりもテンションが高いだろうが目を瞑ってやって欲しい」
「もちろん。私も楽しいから大歓迎だよ」
明日の朝には別れるのだ。
丸一日一緒の時間を過ごすことができる最後の日は、しみじみするよりも明るく楽しく過ごしたほうが断然良いだろう。
私と黒羽は紫陽の後を少しだけ早歩きで追いかけた。
紫陽に案内されて街の中をぶらぶらと見て回る。
最初に向かったのは明るい色の建物が多い大きな街道だった。近くには大きな噴水がある広場や芝に覆われた公園のようなものもある。広場や公園の端には露店などもあって美味しそうな匂いも伝わってきていた。
「ここが桜花皇国の中で最も人が多い場所です。少し高価なものやお手頃の物まで、日常品はもちろんのこと装飾品や化粧品みたいな嗜好品も多くありますよ」
「へぇ……賑やかだね。お祭りみたい」
エスペルト王国でも露店などは多くあった。それでも全ての露天に人が並ぶほど混み合うのは建国祭くらいのものだ。
「今日は週に一度の休日だからな。普段はもう少し人が少ないんだ」
「大陸と同じなんだね。賑やかなのを見ていると楽しくなってくる気がするよ」
お店の人も並んで買い物をしている人も両方が笑顔で活気がある。賑やかな空気が好きな私にとって、見ているだけでも伝わってくる。
「綺麗……」
お店を覗いて見ると、たくさんの装飾品が置いてあった。中には宝石をあしらった物もあるが、宝石の質が良いだけではない。細かい加工なども綺麗にされていてかなり良い品だろう。
「私たちの国は細かい加工を得意とする職人が多いからな」
「なるほどね。よく見てみると技術の凄さが分かるよ……これも凄い」
品物を見て回っているとクリスタルのような物が目に入る。複雑な形に加工されていて光の反射がとても綺麗だ。
「それは霊結晶を混ぜたクリスタルガラスですね。加工がかなり難しいのですよ」
霊結晶というのは、億年桜の樹液に含まれる霊力が結晶化したものらしい。他の素材とも馴染みやすいが、とても強度があり限られた職人しか加工することができないそうだ。
「初めて見るものが多くて驚いた……本当に凄いわ」
私が目をきらきらさせて品物を眺めていると紫陽は「気に入ってくれたようでよかったです」と笑みを向けてきた。
その後もアクセサリや工芸品、衣料品など様々な物を見て回った。大陸で見たことがない桜花皇国独自の物がたくさんあってとても楽しく感じる。
因みに桜花皇国のお金は大陸とは別のものになっている。施設から持ち出した貴重品を売ったりラメルシェル王国に協力した報奨金として受け取った分は、ここに来たときに両替してあった。
高価な物までは手を出せないが少しは買うことができる。
私は荷物が多くならない程度に服や小物をいくつか買うことにした。
「お待たせ……あれ紫陽は?」
買い物を終えて店を出ると黒羽が待っていた。しかし、周りを見渡しても紫陽の姿が見当たらない。
「所要で少しだけ席を外しているだけだ。あと少ししたら来るだろうから先に食事処に向かおう」
「わかった……ご飯も楽しみだね」
黒羽の案内で行ったお店は少し古風な作りをしていた。先に店に入って席に着くと、すぐに紫陽もやってきた。
二人のおすすめも注文してもらって楽しみに待っていると店員の人が料理を持ってくる。
「これは……」
私は思わず言葉に詰まってしまう。目の前にあるのは私が好きだった物の一つに近い。朧げに覚えている日本での記憶にある食べ物だ。
「これは味噌煮込み蕎麦ですね。慣れないと少し癖があるかもしれませんがおすすめですよ」
「味噌と蕎麦ね……」
大陸でも場所によってはガレットを食べるところがあった。当然原料となる蕎麦粉はある。
実際のところ私も蕎麦を作ろうと考えたことはあったのだ。しかし、作り方が難しくて断念していた。
そして、味噌もまた私が追い求めていた物でもある。だが、作り方が全く分からず、探し出そうとしたがエスペルト王国内にはないことが分かった。探し出そうとしても名前がわからない物を探すのは難しく諦めていた。
そんな二つが目の前にあって感慨深い気分になる。
「あー……そうでした。このままでは難しいですよね」
「私がカトラリーを持ってこよう」
私が固まっていると二人の視線が料理と一緒に運ばれた箸へと向けられる。
エスペルト王国に限らず大陸ではカトラリーを使うのが基本だ。箸を使う文化は、私が訪れた国では初めてになる。
だから食べ方がわからないのだと思ったのだろう。
「ありがとう。でも、そのままで大丈夫」
私は箸を持つとそのまま麺を啜る。あまりに久しぶりすぎて最初はぎこちなかったが慣れてくるとスムーズになってきた。
「上手いですね」
「とても初めてには見えないな」
二人とも前世のことは知っているが、さらに昔の前々世の記憶については何も知らない。話しても良いとは思っているが、そもそも異世界の記憶になるため説明が難しすぎるだろう。
「……かなり昔に使ったことがあるからね。それにしても本当に美味しいよ」
私は少しだけ言葉を濁したが、二人は納得してくれたようで「良かったです」と嬉しそうにしていた。
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