王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第12章 私を見つけるための旅

17 旅立ち

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 昼食を食べた後、二人の案内できたのは食料品を取り扱っているお店だ。
 他の国ではあまり見ない野菜や果物、お酒や調味料など幅広い品揃えとなっている。

「んー買いたいけど……難しいか……」

 取り扱っている品の中には、当然味噌なども含まれている。捜し求めていた身からすると、どうしても手に入れたい一品だった。だが、日持ちは問題ないとしても重い物を持ち歩くのは難しい。

「よほど先ほどの味を気に入ってくれたようですね。ただ移動のことを考えると……」

「わかってる。次に来た時の楽しみにしておくよ。このあたりが無難かな」

 私は他の国では見ないような手頃そうな菓子類をいくつか手に取った。
 折角の機会に何も買わないのは勿体無いと感じていた。それに今日の夜は三人一緒の部屋で寝る予定だった。いつもよりも遅くまで起きているだろうし、話すときに何か口に入れるものがあっても良いだろう。

 私はいくつかのお店で、それぞれ美味しそうな菓子を買ったのだった。



「楽しい時間が過ぎるのは早いね」

 買い物を終えた頃には、日差しが赤く染まり始めていた。綺麗な空を目を細めて眺めていると、同じく買い物を終えた紫陽と黒羽が近くにやってくる。

「そうですね。終わって欲しくない気持ちと、この後のことを楽しみにしている気持ちと……どちらも本当の気持ちですけど混ざり合って不思議な気分です」

 感慨深そうに呟く紫陽に黒羽が諭すように声を掛けた。

「今生の別れというわけではないのだし明日の朝まではティアと一緒だ。思いに耽るのはその後にしておいたほうがいい。それに、これから見せたいものがあるのだろう?」

「見せたいもの?」

「はい。ついてきてくれますか?」

 私はもちろんだと頷いた。
 どこに向かうかは内緒のようで紫陽と黒羽に導かれれるように付いて行く。屋敷のある場所を通り越して門を抜けて街の外れのほうへと歩みを進めた。さらに長い階段や坂を昇って辿り着いた先には、ちょっとした展望台のような場所だった。

「っ……!?」

 視界に広がるのは赤く染まった空と海だ。どこまでも続くような景色に思わず言葉にならないほどだが、それだけではなかった。
 赤く染まる海と空、満開の桜と風に揺られて舞い踊る花弁が私たちを包み込もうとしているようだ。

「……凄いね。なんて言っていいのか分からないくらいに綺麗というか幻想的というか」

 まるで自然や世界に包まれているような感覚だ。自分自身など本当にちっぽけな存在で悩みがあったとしても吹き飛んでしまいそうなくらいに壮大な光景だった。

「普段も幻想的ではあるのですが……私はこの時間が一番好きなのですよ」

「私たちにとっても思い出で定期的に訪れる場所なんだ。この光景をどうしても見せたかった」

「二人との思い出はどれも大切だから忘れないけど……この光景、この時間は、ずっと鮮明に印象に残り続けると思う。ありがとうね」

 私たちは日が沈むまでの少しの間、無言で景色を眺め続けていた。

 その後、私たちは屋敷へ戻ると夕食を食べて部屋へと戻る。
 この日の夜は布団を並べて三人で並んで寝転びながら夜遅くまで話し合うのだった。



 そして、次の日の朝。
 私がガロンと共に桜花皇国を旅立つ日がやってくる。

「ガロン殿にティア殿、改めて感謝を。また再び出会えることを願っている」

 見送りにしてくれたのは陽炎と紫陽と黒羽の三人だ。陽炎はガロンと私に感謝を告げたあと頭を軽く下げた。

「こちらこそ世話になりました。使節団のこと、これからのこと、どうかよろしくお願いします」

「私の方こそありがとうございました。この出会いには感謝しかありません」

 ガロンと私が返事をすると陽炎はふっと笑みを浮かべて「二人にとってもいい出会いだったようだ」と呟いた。そして、一歩下がると紫陽と黒羽の肩を後押しする。

「では私は先に準備していますね」

 ガロンはそう言ってワイバーンの元へと歩いて行った。陽炎も少し離れた場所へと下がっていて、二人とも気を遣ってくれたのかもしれない。

「短い間だったけど楽しかった。また会おう」

 二人とは昨日の夜にもたくさん話している。別れも済ませているし涙も流した後だ。最後は笑顔でいたい。

「ああ、私もだ。また必ず」

 私と黒羽が話し合えると今度は紫陽が私の元にやってくる。

「これをもらってくれませんか?」

 紫陽がそう言って渡してきたのは小さなネックレスだった。綺麗な竹や木材で編まれたブローチには綺麗なアクアマリンと白い花弁が一枚あしらわれていた。

「ありがとう……綺麗……」

「良かったです。今日のために急いで作ってもらいましたから」

 これは紫陽が昨日のお店を回っているときに注文した物のようだった。私たち三人のお揃いにしてくれたらしい。

「桜花皇国の風習で一つの花の花弁を分け合った飾り物を持っていると離れていても通じ合うというものがあります。幸福の意味を持つ石と信頼の意味を持つ花です。それぞれの旅路への幸運と、再び会うことへの約束を、このプレゼントに込めました……また会いましょう」

「うん……また会おう」

 私は二人と握手を交わしてガロンの元へと向かう。
 皆に見送られながらワイバーンの背に乗りこむと私たちは空へと羽ばたいた。

「またね!」

 私は皆が小さくなって見えなくなるまで片手を振り続けた。
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