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第12章 私を見つけるための旅
19 宿場街ギルセリア
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街を覆う壁には街道ごとに門を設けているらしい。門の近くには衛兵が二人ほど立っていて、私に気付くとその内の一人が駆け寄ってきた。
「止まれ!……一人だけか?」
私の顔を見た衛兵は訝しげな表情で問いかけてくる。
恐らくは、こんな夜遅くに年端も行かない少女が一人で尋ねてきたことを怪しんでいるのだろう。もしかしたらどこかの悪党に利用されている子どもと思われているのかも知れない。
「一人だけです。街に入れてもらえませんか?」
「街に家族や知り合いはいるか?」
「いません」
「じゃあ、何か身分を証明できるものは?」
「持っていません」
私が否定的な答えを繰り返していると衛兵は困ったような仕草をする。何を質問しても判断できるような答えが返ってこなくて悩んでいるようだ。
「ここまではどうやってきた?どこから来たんだ?」
「獣人の国から来たんですけど……森で一人になって、そこから歩いてきました」
「そうか……それは災難だったな。ちょっと待ってろ」
衛兵はそう言って門の所へ戻ると、中から出てきた少し格好の違う衛兵と話し出す。距離が離れていて声は聞こえないが、辛うじて唇を見ることができた。
「あの少女ですが一人で身分も分からないのです。街に入れてあげてもいいですかね?」
「盗賊の手先とかじゃないのか?近頃、悪党どもが子どもを買って使い捨ての駒にするのが多いだろ」
「だとしたら昼間にするでしょう。こんな時間に子ども一人を送り出すって警戒しろと言ってるもんじゃないですか?」
「それもそうだが……まぁ怪しいと決まったわけじゃないしな。念のため中の衛兵にも連携は必要だが許可しても構わないだろう。だが、規則は変わらんからな」
二人は話し終えたようで衛兵が私の元へ戻ってくる。
「とりあえず許可は下りたんだが……住民以外を入れるにはお金を払う決まりでな。銀貨1枚が必要なんだが持っているか?」
規則と言っていたのでどのようなものかと警戒していたが、街を出入りするためのお金と聞いて納得した。
どこの国でもそうだが、基本的に関所や大きな街を出入りする場合はお金を払うことがほとんどだからだ。
私は腰のポーチから銀貨を取り出すと衛兵に渡した。
衛兵はあっさりと銀貨を渡した私に驚きつつも、どこか安堵した様子だった。そのまま名前などの最低限の情報を教えて、手続きを行ってもらうと証明書のような物を渡してくれた。
「これは街への通行証です。街の中での身分証にもなるので必ず持ち歩くようにしてください。今日から五日間は有効ですが、それ以降も滞在する場合は更新が必要となります」
私はお礼を言いながら通行証を受け取る。
すると衛兵は「ようこそ、ギルセリアへ」と言って扉を開けてくれたのだった。
門を抜けて街の中へ入る。ごく普通の街と言った印象だ。
門を抜けた先には広場があり、そこからいくつかの大通りが繋がっている。この辺りは露店や小さなお店が多いようだ。今の時間は真っ暗で人もいないが、昼間であれば恐らく活況なのだろう。
「ともかく宿を確保しないと……」
宿の場所は手続きを行った時に教えてもらっていた。聞いた目印を頼りに宿に向かうと大柄な強面の男性が出迎えてくれる。
「いらっしゃい……こんな夜遅くに嬢ちゃん一人でどうしたんだ?」
「一泊したいんですけど部屋開いてますか?」
「保護者は……」
「この街に一人で来たので誰も。つい先ほど、到着したばかりなんですよ」
私はそう言って門でもらった通行証を取り出して見せた。これには街に入った日時が記載されていて、私の言葉が嘘でないことの証明にもなるはずだ。
「確かに本物のようだな……門番も許可しているなら問題なさそうだ。一拍は小銀貨6枚、朝食付なら追加で小銀貨1枚だ」
「では朝食付きでお願いします」
「分かった。朝食が欲しいときは食堂で鍵を見せれば良い」
小銀貨を渡して鍵を受け取ると、そのまま借りた部屋へと向かう。
部屋は一人用としては十分な広さがあった。ベッドやチェストなどの置いてあり全体的に清潔に保たれているようだった。
私は魔術を使って汗を流して、着ていた服を綺麗にするとベッドに横になることにした。
翌朝、窓から入り込む日差しで目が覚めた私はベッドから起き上がると、魔術による水で顔を洗う。
身だしなみを整え終わる頃には、外を歩く人が増えてくる時間になっていた。
「昨日くらいであれば体調は問題なさそうだね」
魔術を行使するときには、魔力回路の負担にならないように最低限の魔力を徐々に放出し、大気中の魔力で補うようにしていた。
加えて、昨夜は森の中でそれなりに激しく動いていたが大きな問題はなさそうで少し安心する。
「ま、体力がないのは徐々になんとかするとして……とりあえず朝食かな」
私は部屋を出て食堂がある宿の一階に降りた。受付をしている人は昨夜から変わっておばさんになったようで、挨拶をしつつ食堂へ向かう。
食堂の空いている席に着くと宿の人が朝食を運んできてくれた。プレートの上には、パンが2個と葉物のサラダと水だ。
私はパンを口に含みながらも、これからのことを考える。
今の私が、ここからエスペルト王国まで向かうには街道沿いにいくつもの街を経由するしかない。だが、前にこの辺りを歩いたのは20年以上前で、そもそも野営なども含めていた。
おおよその地理は把握しているつもりだけど、20年の間にどれくらい変化しているか分からない。詳しい人の協力が欲しいところだ。
そして、資金的な問題もある。
残りの手持ちは、およそ金貨1枚ほどだ。宿に泊まる生活を続けるだけでも二月程度しか持たないだろうし、何より旅をするにしてもお金がかかる。
「お金と情報と……全てを解決するには冒険者ギルドに行くしかないか。それに身分証があったほうが旅をするには便利だし」
冒険者ギルドのプレートがあれば通行料を払うのは変わらなくても審査を簡略化しやすい。旅をするのも依頼をするか受けるかは別として、ギルドを利用しない手はないだろう。
私は朝食を終えると、宿を引き取って街へ出る。宿の人に教えてもらった場所にある冒険者ギルドの本部へ向かうことにした。
「止まれ!……一人だけか?」
私の顔を見た衛兵は訝しげな表情で問いかけてくる。
恐らくは、こんな夜遅くに年端も行かない少女が一人で尋ねてきたことを怪しんでいるのだろう。もしかしたらどこかの悪党に利用されている子どもと思われているのかも知れない。
「一人だけです。街に入れてもらえませんか?」
「街に家族や知り合いはいるか?」
「いません」
「じゃあ、何か身分を証明できるものは?」
「持っていません」
私が否定的な答えを繰り返していると衛兵は困ったような仕草をする。何を質問しても判断できるような答えが返ってこなくて悩んでいるようだ。
「ここまではどうやってきた?どこから来たんだ?」
「獣人の国から来たんですけど……森で一人になって、そこから歩いてきました」
「そうか……それは災難だったな。ちょっと待ってろ」
衛兵はそう言って門の所へ戻ると、中から出てきた少し格好の違う衛兵と話し出す。距離が離れていて声は聞こえないが、辛うじて唇を見ることができた。
「あの少女ですが一人で身分も分からないのです。街に入れてあげてもいいですかね?」
「盗賊の手先とかじゃないのか?近頃、悪党どもが子どもを買って使い捨ての駒にするのが多いだろ」
「だとしたら昼間にするでしょう。こんな時間に子ども一人を送り出すって警戒しろと言ってるもんじゃないですか?」
「それもそうだが……まぁ怪しいと決まったわけじゃないしな。念のため中の衛兵にも連携は必要だが許可しても構わないだろう。だが、規則は変わらんからな」
二人は話し終えたようで衛兵が私の元へ戻ってくる。
「とりあえず許可は下りたんだが……住民以外を入れるにはお金を払う決まりでな。銀貨1枚が必要なんだが持っているか?」
規則と言っていたのでどのようなものかと警戒していたが、街を出入りするためのお金と聞いて納得した。
どこの国でもそうだが、基本的に関所や大きな街を出入りする場合はお金を払うことがほとんどだからだ。
私は腰のポーチから銀貨を取り出すと衛兵に渡した。
衛兵はあっさりと銀貨を渡した私に驚きつつも、どこか安堵した様子だった。そのまま名前などの最低限の情報を教えて、手続きを行ってもらうと証明書のような物を渡してくれた。
「これは街への通行証です。街の中での身分証にもなるので必ず持ち歩くようにしてください。今日から五日間は有効ですが、それ以降も滞在する場合は更新が必要となります」
私はお礼を言いながら通行証を受け取る。
すると衛兵は「ようこそ、ギルセリアへ」と言って扉を開けてくれたのだった。
門を抜けて街の中へ入る。ごく普通の街と言った印象だ。
門を抜けた先には広場があり、そこからいくつかの大通りが繋がっている。この辺りは露店や小さなお店が多いようだ。今の時間は真っ暗で人もいないが、昼間であれば恐らく活況なのだろう。
「ともかく宿を確保しないと……」
宿の場所は手続きを行った時に教えてもらっていた。聞いた目印を頼りに宿に向かうと大柄な強面の男性が出迎えてくれる。
「いらっしゃい……こんな夜遅くに嬢ちゃん一人でどうしたんだ?」
「一泊したいんですけど部屋開いてますか?」
「保護者は……」
「この街に一人で来たので誰も。つい先ほど、到着したばかりなんですよ」
私はそう言って門でもらった通行証を取り出して見せた。これには街に入った日時が記載されていて、私の言葉が嘘でないことの証明にもなるはずだ。
「確かに本物のようだな……門番も許可しているなら問題なさそうだ。一拍は小銀貨6枚、朝食付なら追加で小銀貨1枚だ」
「では朝食付きでお願いします」
「分かった。朝食が欲しいときは食堂で鍵を見せれば良い」
小銀貨を渡して鍵を受け取ると、そのまま借りた部屋へと向かう。
部屋は一人用としては十分な広さがあった。ベッドやチェストなどの置いてあり全体的に清潔に保たれているようだった。
私は魔術を使って汗を流して、着ていた服を綺麗にするとベッドに横になることにした。
翌朝、窓から入り込む日差しで目が覚めた私はベッドから起き上がると、魔術による水で顔を洗う。
身だしなみを整え終わる頃には、外を歩く人が増えてくる時間になっていた。
「昨日くらいであれば体調は問題なさそうだね」
魔術を行使するときには、魔力回路の負担にならないように最低限の魔力を徐々に放出し、大気中の魔力で補うようにしていた。
加えて、昨夜は森の中でそれなりに激しく動いていたが大きな問題はなさそうで少し安心する。
「ま、体力がないのは徐々になんとかするとして……とりあえず朝食かな」
私は部屋を出て食堂がある宿の一階に降りた。受付をしている人は昨夜から変わっておばさんになったようで、挨拶をしつつ食堂へ向かう。
食堂の空いている席に着くと宿の人が朝食を運んできてくれた。プレートの上には、パンが2個と葉物のサラダと水だ。
私はパンを口に含みながらも、これからのことを考える。
今の私が、ここからエスペルト王国まで向かうには街道沿いにいくつもの街を経由するしかない。だが、前にこの辺りを歩いたのは20年以上前で、そもそも野営なども含めていた。
おおよその地理は把握しているつもりだけど、20年の間にどれくらい変化しているか分からない。詳しい人の協力が欲しいところだ。
そして、資金的な問題もある。
残りの手持ちは、およそ金貨1枚ほどだ。宿に泊まる生活を続けるだけでも二月程度しか持たないだろうし、何より旅をするにしてもお金がかかる。
「お金と情報と……全てを解決するには冒険者ギルドに行くしかないか。それに身分証があったほうが旅をするには便利だし」
冒険者ギルドのプレートがあれば通行料を払うのは変わらなくても審査を簡略化しやすい。旅をするのも依頼をするか受けるかは別として、ギルドを利用しない手はないだろう。
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