王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第12章 私を見つけるための旅

32 新しい関係

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「転移門を開きなさい!」

 サングレアの号令で門の両隣に居た兵士が魔術具を操作した。金属が軋むような重い音を鳴らしながら、高さ3メートルにも及ぶ重厚な扉がゆっくり開き始める。扉の奥は真っ黒な空間が広がっていて何とも不気味な感覚だ。

「空間接続問題なし。正常に稼動しています!」

 体感で1分ほど掛けて門の扉が完全に開くと門の淵が虹色に輝きだした。どうやら両側の扉が完全に開き空間が繋がっている間だけ光るそうだ。

「カレナ様、ティアさん、どうかお元気で。また会えることを願っています」

「「では失礼いたします」」

 私もカレナもサングレアとの別れは三人だけの時に済ませている。ここでは周りの目もあるため簡単な挨拶だけにした。

 転移門を潜り抜けると波のある砂浜に立っているかのように足元が掬われる感覚に襲われる。一瞬だけ暗転すると、次に視界が入ったのは見慣れないレンガの壁で覆われた部屋の中だった。

「ここはエインスレイス連邦側の転移門がある都市フルーフェン。飛空船や鉄道など輸送の拠点となっている街です。まずは宿に向かうとしましょうか?」

「かなり消耗しましたから休めるとありがたいです」

 私たちが利用する宿はサングレアから紹介だ。転移門の近くに建っている高級宿でサングレアもよく使う場所だそうだ。
 宿の人に紹介状を見せると、最上階にあるとても高級そうな装飾がされている大きな部屋に案内された。どうやら紹介状を持った一部の人しか借りることのできないペントハウスのようだ。

「サングレア様の紹介なだけあって凄いですね。街が一望できますよ」

 荷物を置いて窓際の椅子に腰掛けると街の様子が一望できる。全体的に明るい色のレンガで造られていてオレンジ色に灯る街灯が幻想的な雰囲気を醸していた。

 私がそんな風に夜景を眺めているとカレナが近付いてきた。振り返ると何ともいえないような真面目な表情で迷っているような仕草を見せている。

「カレナさん?」

 私が名前を呼んでもカレナは何かを聞きたそうに逡巡していた。

 カレナが私に気付いているのか分からない。気付いていないとしても私がラティアーナだったと伝えることが正しいのかも分からない。
 けれど、カレナが私に問いかけるなら誤魔化すつもりはない。嘘はもちろん言葉を濁すことなく答えるつもりだ。

 それから数分くらい経って意を決したようにカレナが口を開く。

「あなたを初めて見た時、カレナと名前を呼ばれた時……初対面であるはずなのに懐かしい感じがしました。それから一緒に行動するなかで、あなたの仕草や話し方は私の思い出を刺激させる……何度も偶然だと、勘違いだと考えました。ですが、あの剣術は貴方にしか使えない。なにより治癒魔術から感じた魔力は、とても懐かしいものでした」

 カレナはそこで言葉を区切ると片膝を床につき剣を腰から下ろした。

「貴方はラティアーナ様なのですよね?」

「……そうであるとも言えるしそうでないとも言えるわ。私は……確かにラティアーナとしての記憶を持っている。だけど、今は孤児として生まれて施設で育てられた、ただの10歳に満たないティアという名前の少女であることも間違いじゃないの。だから、カレナの主人であるラティアーナはもういないわ」

 そもそも同一人物とは何を指すのだろうか?
 記憶を持っていればいいのか、魂が同じならいいのか。それとも記憶がなくとも身体がそうならいいのか。
 前世の記憶を持つのは二度目だけれど、はっきりと全てを覚えているのは今回が初めてのこと。
 私は自身のことをどう考えれば良いのか未だに答えが出せずにいた。ただ前と違ってラティアーナの記憶にだけ拘るつもりもティアとしての新しい生にだけ拘るつもりもなかった。

「私が貴方に騎士の誓いを捧げたのは王族だったからではありません。貴方の在り方に惚れただけのこと。たとえ貴方がどう生きるつもりであっても私が貴方の騎士であることに変わりはありません。必要としてくれるのであれば、どこまでも駆けつけましょう」

「私は……これからどうするか全く決めてないの。一度エスペルト王国には行くつもりだけど、官僚や騎士にならないかもしれない。冒険者として活動するかも分からない……もしかしたら他の国に住むかもしれない」

「かまいません。騎士としてではなくても……仲間として、あるいはティア様が許してくださるのであれば友人として貴方を助けたい。もう……二度と失いたくないのです」

 カレナはくしゃりと顔を歪ませて目を赤くしながらも私を見上げて「ラティアーナ様……いえ、ティア様」と問いかけるような声で呟いた。

 カレナの震えた言葉に思わず瞼が熱くなった。嬉しさと懐かしさ、色々な感情が混ぜた絵の具のように混ざり合ってポロポロと涙が溢れてくる。

「……もちろん。カレナ、よろしくね」

 私とカレナは抱き合った状態で、しばらくは互いに言葉を発することはできなかった。静かな部屋の中に洟を啜る音が響いた。
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