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第12章 私を見つけるための旅
38 血の繋がり
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エスペルト王国西部中央に位置するルークス子爵領。その中でも領地の辺境近くにある小さな街。
私たちは街全体を一望できる近くの丘にいた。
目の前の街は、一応壁に囲われているが半分くらいは畑などの農地だ。住民も数百人くらいしかいなく宿も一つあるだけの、ごくありふれた田舎と言える場所だろう。
真夜中ともなると出歩く人は誰も居ない。街灯なども消されているため月明かりだけが薄っすらと照らしていた。
「結界は特になし。感知系の魔術も仕掛けられてなさそうね」
プレアデスは眼を使って街の様子を視る。
そもそも、大都市ならともかく辺境の小さな街の警備はそれほど厳重ではない。基本的には門ごとに数人の衛兵がいるだけだ。
であれば、人の目にだけ気をつければいい。
「じゃあ、さっさと用を済ませようか」
私とプレアデスは闇夜に紛れて街を覆う壁の傍まで近付く。周りにさっと視線を向けて誰もいないことを確認すると、音を立てないように気をつけて上空へ跳躍した。そのまま、空中に魔力障壁を生み出し、空を蹴って屋根へと移る。屋根から屋根へと飛び移り、街の中央にある建物を目掛けて走りだした。
目指す先は、この街の役所のような場所だ。
「あそこね……誰か建物の中に人はいる?」
街の中央に領地の紋章と街の紋章が刻まれている建物を見つけた。
「……誰もいなそうだけど、建物に結界が張ってあるわよ」
プレアデスに教えてもらい微弱で範囲を限定した感知魔術を行使する。すると、建物の壁を覆うように魔力の反応があった。
「分かった。とりあえず裏口のところに降りようか」
建物の裏手にある職員用の入り口の前に着地をして壁の結界にそっと手を触れる。結果に反応されない程度の僅かな魔力を流して解析を行った。
「恐らく建物の強度を上げるのと……非常用の警報かな?建物を破壊しなければ大丈夫そうね。申し訳ないけどお願いできる?」
「もちろんよ。鍵を回すだけでいいのよね?」
精霊は実体化を解消すれば物理的な法則に縛られなくなる。魔力を完全に防ぐ壁や空間を遮断する壁などでないかぎりは物質を透過することが可能だ。
プレアデスは外套を異空間にしまうと少しの間だけ実体化を解除して扉をすり抜けた。そのまま内側から鍵を開けてもらい扉を開けてもらう。
「ありがとう。助かるわ」
魔術を使えば鍵を開けること自体は造作もない。しかし、鍵を解析するには魔力を流す必要があるため、どうしても痕跡が残ってしまう。
このような辺境の小さな街では、事件が起きない限りは調べもしないだろうが念のため痕跡は残したくない。
「部屋は見当ついてるの?」
「なんとなくはね」
私たちは真っ暗な役所の中を突き進んでいく。
目的の住民登録用の魔術具が置いてある部屋の場所は知らないが、おおよその位置を推察することはできた。
役所の大きさは街の大きさに比例する。そして住民登録用の魔術具は、それなりの大きさを誇り龍脈と繋ぐ関係上、必ず一階に存在する。
それらの条件に当てはめて外から見え辛い厳重な部屋となれば候補が絞られてくる。
条件に当てはまりそうな部屋を片っ端から確認していくと、大柄の男性くらいの大きさのある魔術具が目に入った。
「見つけた……これなら直ぐに使えそうね」
魔術具の一部が虹色に明滅していて魔力が通っていることがわかる。
私は手を翳して魔力を流すと頭の中で王鍵への接続を強く意識する。この手の魔術具は、基本的に魔力登録している人間しか使えない。けれど、王鍵を利用している場合は王鍵を使える人間であれば上位権限といった形で干渉することができる。
王族の中でも国王や次期国王くらいしか知らない秘密事項だった。
「私の魔力と血縁関係がありそうな人を検索して……繋がりがより深い人……該当するのは一人だけか」
魔術具に映し出された名前は、ミア。
エスペルト王国西部辺境近くにあるウルケール男爵領の領都に住民登録されている15歳の女性だった。
「その子がそうなの?」
「血の繋がりが濃いのは確かだね。年齢を考えると、恐らくだけど姉じゃないかな?」
魔力による血縁判定は、DNA鑑定のように正確な続柄が分かるわけじゃない。あくまで血縁が濃いか薄いかが分かるだけだ。
実の姉妹であれば親子とほぼ変わらない結果となるだろう。
「じゃあ両親については何も?」
「ミアさんが住民登録をしたのが数年前。それもウィリアム商会を経営している夫婦の養子になっているから……孤児院から引き取った可能性が高いかな」
エスペルト王国では平民でも養子縁組が認められている。
主に親戚の子を引き取るために行うことが多いが、稀に商会などの跡継ぎにするために行う場合もあった。
「孤児院の情報はこれで分からないの?」
「孤児院は王国でやってるわけじゃないから……それぞれ調べるしかないかな」
孤児院は長くても成人する15歳までの面倒を見てくれる場所だ。精霊教が保有する教会や貴族が慈善事業として行っている孤児院など運営が多岐に渡っている。孤児の管理にしても孤児院によってバラバラで場合によっては教会や領城が担っていることもある。
どちらにせよ、ここで調べられることはもうなさそうだった。
私たちは街全体を一望できる近くの丘にいた。
目の前の街は、一応壁に囲われているが半分くらいは畑などの農地だ。住民も数百人くらいしかいなく宿も一つあるだけの、ごくありふれた田舎と言える場所だろう。
真夜中ともなると出歩く人は誰も居ない。街灯なども消されているため月明かりだけが薄っすらと照らしていた。
「結界は特になし。感知系の魔術も仕掛けられてなさそうね」
プレアデスは眼を使って街の様子を視る。
そもそも、大都市ならともかく辺境の小さな街の警備はそれほど厳重ではない。基本的には門ごとに数人の衛兵がいるだけだ。
であれば、人の目にだけ気をつければいい。
「じゃあ、さっさと用を済ませようか」
私とプレアデスは闇夜に紛れて街を覆う壁の傍まで近付く。周りにさっと視線を向けて誰もいないことを確認すると、音を立てないように気をつけて上空へ跳躍した。そのまま、空中に魔力障壁を生み出し、空を蹴って屋根へと移る。屋根から屋根へと飛び移り、街の中央にある建物を目掛けて走りだした。
目指す先は、この街の役所のような場所だ。
「あそこね……誰か建物の中に人はいる?」
街の中央に領地の紋章と街の紋章が刻まれている建物を見つけた。
「……誰もいなそうだけど、建物に結界が張ってあるわよ」
プレアデスに教えてもらい微弱で範囲を限定した感知魔術を行使する。すると、建物の壁を覆うように魔力の反応があった。
「分かった。とりあえず裏口のところに降りようか」
建物の裏手にある職員用の入り口の前に着地をして壁の結界にそっと手を触れる。結果に反応されない程度の僅かな魔力を流して解析を行った。
「恐らく建物の強度を上げるのと……非常用の警報かな?建物を破壊しなければ大丈夫そうね。申し訳ないけどお願いできる?」
「もちろんよ。鍵を回すだけでいいのよね?」
精霊は実体化を解消すれば物理的な法則に縛られなくなる。魔力を完全に防ぐ壁や空間を遮断する壁などでないかぎりは物質を透過することが可能だ。
プレアデスは外套を異空間にしまうと少しの間だけ実体化を解除して扉をすり抜けた。そのまま内側から鍵を開けてもらい扉を開けてもらう。
「ありがとう。助かるわ」
魔術を使えば鍵を開けること自体は造作もない。しかし、鍵を解析するには魔力を流す必要があるため、どうしても痕跡が残ってしまう。
このような辺境の小さな街では、事件が起きない限りは調べもしないだろうが念のため痕跡は残したくない。
「部屋は見当ついてるの?」
「なんとなくはね」
私たちは真っ暗な役所の中を突き進んでいく。
目的の住民登録用の魔術具が置いてある部屋の場所は知らないが、おおよその位置を推察することはできた。
役所の大きさは街の大きさに比例する。そして住民登録用の魔術具は、それなりの大きさを誇り龍脈と繋ぐ関係上、必ず一階に存在する。
それらの条件に当てはめて外から見え辛い厳重な部屋となれば候補が絞られてくる。
条件に当てはまりそうな部屋を片っ端から確認していくと、大柄の男性くらいの大きさのある魔術具が目に入った。
「見つけた……これなら直ぐに使えそうね」
魔術具の一部が虹色に明滅していて魔力が通っていることがわかる。
私は手を翳して魔力を流すと頭の中で王鍵への接続を強く意識する。この手の魔術具は、基本的に魔力登録している人間しか使えない。けれど、王鍵を利用している場合は王鍵を使える人間であれば上位権限といった形で干渉することができる。
王族の中でも国王や次期国王くらいしか知らない秘密事項だった。
「私の魔力と血縁関係がありそうな人を検索して……繋がりがより深い人……該当するのは一人だけか」
魔術具に映し出された名前は、ミア。
エスペルト王国西部辺境近くにあるウルケール男爵領の領都に住民登録されている15歳の女性だった。
「その子がそうなの?」
「血の繋がりが濃いのは確かだね。年齢を考えると、恐らくだけど姉じゃないかな?」
魔力による血縁判定は、DNA鑑定のように正確な続柄が分かるわけじゃない。あくまで血縁が濃いか薄いかが分かるだけだ。
実の姉妹であれば親子とほぼ変わらない結果となるだろう。
「じゃあ両親については何も?」
「ミアさんが住民登録をしたのが数年前。それもウィリアム商会を経営している夫婦の養子になっているから……孤児院から引き取った可能性が高いかな」
エスペルト王国では平民でも養子縁組が認められている。
主に親戚の子を引き取るために行うことが多いが、稀に商会などの跡継ぎにするために行う場合もあった。
「孤児院の情報はこれで分からないの?」
「孤児院は王国でやってるわけじゃないから……それぞれ調べるしかないかな」
孤児院は長くても成人する15歳までの面倒を見てくれる場所だ。精霊教が保有する教会や貴族が慈善事業として行っている孤児院など運営が多岐に渡っている。孤児の管理にしても孤児院によってバラバラで場合によっては教会や領城が担っていることもある。
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