370 / 494
第12章 私を見つけるための旅
41 ウルケール領の孤児院
しおりを挟む
ウルケール男爵領の領都にある孤児院は、全部で五つあるそうだ。内一つは教会、二つが男爵家、残り二つが有志によるものらしい。
その中で私が向かったのは、領城の近くにある男爵家が運営する一番大きな孤児院だった。
孤児院の門は閉まっていて周囲に人影は見当たらなかった。だが、中に人の気配はあったため門の脇についていたドアノックを鳴らしてみる。すると、少ししてから白髪混じりのおじいさんがやってきた。歳のせいか動きは少しゆったりとしているが、意外と隙がない動きだ。魔力のほうもそれなりに持っているようだった。
「おや……何かお困りですかな?」
「ここで、仕事を紹介してもらえると聞いて来ました」
私がこの街に来たばかりだということ、身近な人がいなくて一人で行動していること、冒険者ギルドで孤児院に行けば安全な仕事を受けることができると聞いたことを簡単に伝えた。
全てを聞いたおじさんは「なるほど……」と呟くと笑みを浮かべる。
「私たちの使命は全ての子どもたちを守ること。貴方を歓迎しましょう」
おじさんはそう言葉にして門をゆっくりと開けてくれた。おじさんに付いて進んでいくと、手入れされた庭を抜けて建物の中に入る。
孤児院の建物は、昔ながらの造りだがとても綺麗になっていて、一番奥にある部屋に案内された。
「では改めて。私は、ここの孤児院長を務めているライゼと申します。それで仕事を探しているということでしたな?」
「ええ。この街にいる間の路銀を稼ぐことができればと」
「ふむ。正直なところ安全な仕事がないわけではありませんが……宿代まで含むと足りないでしょうな」
ライゼの話では私くらいの歳の子が街の中で受けることができる仕事は、農作業の手伝いや配達、掃除のような比較的簡単な仕事らしい。一応、文字の読み書きが出来れば給金が高い事務作業の手伝いや書類整理もあるそうだが、雇い主と面識がないと難しいそうだ。
「こちらには、どれくらい滞在する予定で?」
「まだ、決めていませんが長くても一月くらいでしょうか」
一月もあれば領地内の全ての孤児院を調べるくらいはできる。今の手掛かりがミアだけで、新しい情報が何もで出てこないのであればダラダラと長く滞在するつもりはなかった。
「でしたら滞在している間だけで構いません。幸い院内に空いている客室もありますし食事を提供することもできます。代わりに冒険者として子どもたち教えてあげていただけないでしょうか」
どうやら、孤児院では魔術だけではなく簡単な護身術や街の外での歩き方も教えているそうだ。魔術に関しては領地としても魔術を扱える人材は貴重なため魔術士を派遣してくれるらしいが、それ以外の人は孤児院として用意する必要がある。
今までは街の外でも活動できるEランク冒険者に依頼を出していたようだが、私であれば戦闘もできるDランクだ。
滞在期間中の食事や教えた日の報酬を追加したとしても冒険者を雇うよりは安くすむらしい。
そして、ライゼの提案は私にとってもありがたいことだった。プレアデスが調べてくれている孤児院の記録に加えて、知っていそうな人に聞くことができるのは大きい。
「こちらこそ、よろしくお願いしたいです」
「では、少し細かい話だけ先に済ませましょうか」
それから私とライゼは色々な話をした。
私からは簡単な身の上話や冒険者として子ども達に教えられること、ライゼからは孤児院の状況や子ども達のこと、ウルケール男爵領のこと、領都周辺の状況などだ。
気が付いたときには陽が薄っすらと色が付く時間になっていて、翌朝に再び伺うことを伝えて孤児院長室を後にした。
「こんにちは!」
「こんにちは」
私よりも年代が上の子どもたちは、昼間は仕事などで外にいる。夕方になって街から帰ってきたようで、昼間は見なかった子たちと見かけるようになった。
皆、元気いっぱいに挨拶をしてくれて私も笑顔で挨拶を返した。
「みんな、元気で良いですね」
「ええ。これが当たり前の光景になれることを願うばかりです」
ライゼが子どもたちを見る目には、どこか哀愁漂っていた。
「ではティアさん。また明日会いましょう……比較的治安が良いこの街ですが、暗くなると旅人を狙う賊がでます。くれぐれも気をつけてください」
「分かっています。では、また明日に」
ライゼと別れ孤児院を後にした私は、街の繁華街の方へ歩みを進める。夕方は酒場など飲食店が込みだす時間だ。昼間とは客層も異なり酔っている人間が多いこの時間は、情報を集めやすい時間でもあった。
それにライゼの言葉通り夜遅くになるに連れて危険が多くなってくる。それこそ、ただの酔っ払いや喧嘩っ早い人間だけでなく暗殺者や盗賊なども出やすい時間なため裏の人間と接触しやすくもあった。
街の中を少し歩き回っていると路地裏にある少し暗い酒場を見つけた。扉を開けて中に入ると人相が悪そうな男たちが騒ぎながら酒を飲んでいた。
カウンターへ近付いていくと男たちが私に気付いたらしく不躾な視線を投げてくる。だが、特に気にする素振りも見せずにマスターの元へ向かった。
「嬢ちゃんのみたいな奴が来るとこじゃない……さっさと帰るんだな」
「私はお酒を飲みに来たの。バーボンのロックを頂戴」
お酒は大人が飲むものではあるが、エスペルト王国も含めて年齢制限がかかっている国はほとんどない。
一般的な平民であれば家族が飲ませないであろうが家を出ている冒険者であればお酒を飲む人も少なくはなかった。
ちなみに高位の貴族や王族ほど幼い頃から飲酒をする習慣ある。ラティアーナだった頃も各地域の特産となるお酒からウォッカのようなものまで一通り嗜んでいる。
「ふん……どうなっても知らんぞ」
「どうも」
怪訝な顔をしたマスターからグラスを受け取った私は、ちびちびとお酒を口に含みながら周りの会話を聞こうと耳を澄ました。
その中で私が向かったのは、領城の近くにある男爵家が運営する一番大きな孤児院だった。
孤児院の門は閉まっていて周囲に人影は見当たらなかった。だが、中に人の気配はあったため門の脇についていたドアノックを鳴らしてみる。すると、少ししてから白髪混じりのおじいさんがやってきた。歳のせいか動きは少しゆったりとしているが、意外と隙がない動きだ。魔力のほうもそれなりに持っているようだった。
「おや……何かお困りですかな?」
「ここで、仕事を紹介してもらえると聞いて来ました」
私がこの街に来たばかりだということ、身近な人がいなくて一人で行動していること、冒険者ギルドで孤児院に行けば安全な仕事を受けることができると聞いたことを簡単に伝えた。
全てを聞いたおじさんは「なるほど……」と呟くと笑みを浮かべる。
「私たちの使命は全ての子どもたちを守ること。貴方を歓迎しましょう」
おじさんはそう言葉にして門をゆっくりと開けてくれた。おじさんに付いて進んでいくと、手入れされた庭を抜けて建物の中に入る。
孤児院の建物は、昔ながらの造りだがとても綺麗になっていて、一番奥にある部屋に案内された。
「では改めて。私は、ここの孤児院長を務めているライゼと申します。それで仕事を探しているということでしたな?」
「ええ。この街にいる間の路銀を稼ぐことができればと」
「ふむ。正直なところ安全な仕事がないわけではありませんが……宿代まで含むと足りないでしょうな」
ライゼの話では私くらいの歳の子が街の中で受けることができる仕事は、農作業の手伝いや配達、掃除のような比較的簡単な仕事らしい。一応、文字の読み書きが出来れば給金が高い事務作業の手伝いや書類整理もあるそうだが、雇い主と面識がないと難しいそうだ。
「こちらには、どれくらい滞在する予定で?」
「まだ、決めていませんが長くても一月くらいでしょうか」
一月もあれば領地内の全ての孤児院を調べるくらいはできる。今の手掛かりがミアだけで、新しい情報が何もで出てこないのであればダラダラと長く滞在するつもりはなかった。
「でしたら滞在している間だけで構いません。幸い院内に空いている客室もありますし食事を提供することもできます。代わりに冒険者として子どもたち教えてあげていただけないでしょうか」
どうやら、孤児院では魔術だけではなく簡単な護身術や街の外での歩き方も教えているそうだ。魔術に関しては領地としても魔術を扱える人材は貴重なため魔術士を派遣してくれるらしいが、それ以外の人は孤児院として用意する必要がある。
今までは街の外でも活動できるEランク冒険者に依頼を出していたようだが、私であれば戦闘もできるDランクだ。
滞在期間中の食事や教えた日の報酬を追加したとしても冒険者を雇うよりは安くすむらしい。
そして、ライゼの提案は私にとってもありがたいことだった。プレアデスが調べてくれている孤児院の記録に加えて、知っていそうな人に聞くことができるのは大きい。
「こちらこそ、よろしくお願いしたいです」
「では、少し細かい話だけ先に済ませましょうか」
それから私とライゼは色々な話をした。
私からは簡単な身の上話や冒険者として子ども達に教えられること、ライゼからは孤児院の状況や子ども達のこと、ウルケール男爵領のこと、領都周辺の状況などだ。
気が付いたときには陽が薄っすらと色が付く時間になっていて、翌朝に再び伺うことを伝えて孤児院長室を後にした。
「こんにちは!」
「こんにちは」
私よりも年代が上の子どもたちは、昼間は仕事などで外にいる。夕方になって街から帰ってきたようで、昼間は見なかった子たちと見かけるようになった。
皆、元気いっぱいに挨拶をしてくれて私も笑顔で挨拶を返した。
「みんな、元気で良いですね」
「ええ。これが当たり前の光景になれることを願うばかりです」
ライゼが子どもたちを見る目には、どこか哀愁漂っていた。
「ではティアさん。また明日会いましょう……比較的治安が良いこの街ですが、暗くなると旅人を狙う賊がでます。くれぐれも気をつけてください」
「分かっています。では、また明日に」
ライゼと別れ孤児院を後にした私は、街の繁華街の方へ歩みを進める。夕方は酒場など飲食店が込みだす時間だ。昼間とは客層も異なり酔っている人間が多いこの時間は、情報を集めやすい時間でもあった。
それにライゼの言葉通り夜遅くになるに連れて危険が多くなってくる。それこそ、ただの酔っ払いや喧嘩っ早い人間だけでなく暗殺者や盗賊なども出やすい時間なため裏の人間と接触しやすくもあった。
街の中を少し歩き回っていると路地裏にある少し暗い酒場を見つけた。扉を開けて中に入ると人相が悪そうな男たちが騒ぎながら酒を飲んでいた。
カウンターへ近付いていくと男たちが私に気付いたらしく不躾な視線を投げてくる。だが、特に気にする素振りも見せずにマスターの元へ向かった。
「嬢ちゃんのみたいな奴が来るとこじゃない……さっさと帰るんだな」
「私はお酒を飲みに来たの。バーボンのロックを頂戴」
お酒は大人が飲むものではあるが、エスペルト王国も含めて年齢制限がかかっている国はほとんどない。
一般的な平民であれば家族が飲ませないであろうが家を出ている冒険者であればお酒を飲む人も少なくはなかった。
ちなみに高位の貴族や王族ほど幼い頃から飲酒をする習慣ある。ラティアーナだった頃も各地域の特産となるお酒からウォッカのようなものまで一通り嗜んでいる。
「ふん……どうなっても知らんぞ」
「どうも」
怪訝な顔をしたマスターからグラスを受け取った私は、ちびちびとお酒を口に含みながら周りの会話を聞こうと耳を澄ました。
10
あなたにおすすめの小説
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す
RINFAM
ファンタジー
なんの罰ゲームだ、これ!!!!
あああああ!!!
本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!
そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!
一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!
かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。
年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。
4コマ漫画版もあります。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
生贄公爵と蛇の王
荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。
「お願いします、私と結婚してください!」
「はあ?」
幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。
そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。
しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。
転生騎士団長の歩き方
Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】
たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。
【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。
【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?
※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる