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第12章 私を見つけるための旅
44 救援要請
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子どもたちとの顔合わせを終えた後は、残りの職員の人たちの元へ挨拶回りに行った。今いる人だけにはなるが、夕方くらいには一通り挨拶を交わすことができ顔と名前を覚えることができた。
そして翌日となる闇の日。
孤児院は学校や学園と同じで平日に授業などがあり、今日のような闇の日や聖の日は休日扱いだ。
休日は、子どもたちも自由な時間を過ごし教員たちも持ち回りで数名が留守を預かり残りの人たちは各々の時間を過ごすようになっている。
私の場合は職員というよりも臨時の教員みたいなものなので当番などはない。基本的に平日に子ども達に教える予定となっていて、休日である闇の日や聖の日は、孤児院の仕事がなく自由に過ごすことができた。
そのようなわけで二日間の休日となった私は、少し買い物でもしてから冒険者ギルドに向かい依頼でも受けようかと考えていた。酒場で聞いた冒険者たちが行方不明になる件も確認も兼ねて領都周辺の状況を見たかったからだ。
「また襲われたのか……今年に入ってから多いな」
「高位の冒険者じゃないと無理だろ。しばらく森の奥は避けるか」
大通りを歩いているとすれ違う冒険者から不穏な話が聞こえてきた。買い物する予定を変更してギルドへ急いで向かうと、建物の中は大勢の人が難しい顔でカウンターの様子を眺めていた。皆の視線の先には、一人の男がカウンターに詰め寄っている。男は包帯を巻いているが所々に血が滲み出ている。身に着けている防具も砕け散っていて片腕も失っていた。
「なにがあったんですか?」
「ん、あれか?冒険者パーティが魔物の群れに襲われたようでな。なんとか一人だけ逃げ出すことができて、救援要請を依頼してんだ」
近くにいた冒険者に聞いてみたところ親切に教えてくれた。
カウンターに詰め寄っている男の人はDランクパーティに所属している冒険者らしい。リーダがCランクで残りがDランクの計5人のパーティで最近勢いのあるパーティの内の一つだそうだ。
「他の人は救援に行かないんですか?」
「この街を拠点にしている冒険者は最高でもCランクで、そのCランクのパーティでさえ行方不明になっているくらいだ。魔物の群れってことは連れ去られた可能性が高い魔物の巣を攻略する必要がある。だがそれは、いくらなんでも無謀すぎる……あいつには悪いが、そもそも生き残っている可能性も低いんだ。こんな状況で助けに行く奴は、よほどのお人よしか馬鹿くらいだろう」
他の人たちも力になりたい気持ちはあるのだろう。だが、ミイラ取りになる可能性が高く、襲われた冒険者の生存が絶望的な状況だ。誰もが自身の命や生活が大切で普通は無茶なことはしない。
「頼む!俺が持つ全ての金を報酬にする。足りないというならこの先手に入れた報酬から払う!だからっ!……誰か助けてくれ」
男はカウンターから振り返ると表情を歪めながら懇願した。
「……辛いものだな。あれだけ必死に頼む奴を見るのは。叶わない願いを見届けるしかできないのは」
「そうですね。普通は依頼を受けないでしょうから」
「ああ。だからお前さんも気にすることはって、おい!何をするつもりだ!?」
私がカウンターの方へ歩いて行こうとすると親切な冒険者は驚いた声で呼び止めようとする。
「自分から進んで誰かを助けにいこうとは思わないですけど……誰かのためにあれだけ必死になれる人が目の前にいたら、助けたくなるじゃないですか」
私であれば無事に辿り着けるとは言わない。むしろ魔物の群れと戦っても負ける可能性もほうが高いだろう。けれど、それは魔物の群れを全滅させる場合だ。なにも魔物を倒さなければいけないわけではない。
そして、仲間とはいえ家族でもない他人のために必死になれる人のことを私は好ましいと思った。
私は人混みを通り抜けてカウンターのところまで歩いていく。
「その依頼、私が受けます。目的地まで案内してくれませんか?」
「はい!?」「え!?」
「私はDランク冒険者です。魔術使いの私だったら戦闘を避けながら目的の場所まで辿り着けるかもしれません」
私はそう言葉にすると治癒の魔術を行使する。右手に翳した魔力と光が冒険者の男の全体を包み込み、傷が徐々に治っていく。流石に欠損した片手までは治せないが、全身にあった擦過傷や骨折くらいなら治すことが可能だ。
魔術の中でも制御が難しいとされる治癒魔術。それは、魔術使いとしての実力を証明できる手段でもあった。
「「え!?」」
私の魔術によって冒険者の全身の傷がおおよそ治った。それを見て体感した受付嬢と件の冒険者の驚いた声が重なって響く。
二人にギルドカードを見せると、一先ず冒険者であることは信じてくれたようだ。だが、受付嬢は悲しそうな顔で「えぇ……」と言葉に詰まる。
「お気持ちはありがたいですが……いかに治癒に長けた魔術使いであろうと魔物の巣に向かうのは……」
受付嬢はこれ以上犠牲を増やしたくないと言いたげな表情で言葉を濁していた。
「お前は……どうして、俺を助けようとしてくれるんだ?」
「命が助かるかも知らない人が目の前にいて、見捨ててしまえばい目覚めが悪いです。単なる自己満足ですよ」
「これだけ凄い治癒の魔術を使えるくらいだ。もしかして、攻撃系の魔術も……?」
「攻撃や防御も一通り使えます。元々、分の悪い賭けだと考えているのでしょう?どうです、私に賭けてみませんか?」
私が笑みを浮かべて手を差し出すと、冒険者の男は悩む素振りを見せる。そして、少しだけ逡巡した後に、男は私の手を取った。
そして翌日となる闇の日。
孤児院は学校や学園と同じで平日に授業などがあり、今日のような闇の日や聖の日は休日扱いだ。
休日は、子どもたちも自由な時間を過ごし教員たちも持ち回りで数名が留守を預かり残りの人たちは各々の時間を過ごすようになっている。
私の場合は職員というよりも臨時の教員みたいなものなので当番などはない。基本的に平日に子ども達に教える予定となっていて、休日である闇の日や聖の日は、孤児院の仕事がなく自由に過ごすことができた。
そのようなわけで二日間の休日となった私は、少し買い物でもしてから冒険者ギルドに向かい依頼でも受けようかと考えていた。酒場で聞いた冒険者たちが行方不明になる件も確認も兼ねて領都周辺の状況を見たかったからだ。
「また襲われたのか……今年に入ってから多いな」
「高位の冒険者じゃないと無理だろ。しばらく森の奥は避けるか」
大通りを歩いているとすれ違う冒険者から不穏な話が聞こえてきた。買い物する予定を変更してギルドへ急いで向かうと、建物の中は大勢の人が難しい顔でカウンターの様子を眺めていた。皆の視線の先には、一人の男がカウンターに詰め寄っている。男は包帯を巻いているが所々に血が滲み出ている。身に着けている防具も砕け散っていて片腕も失っていた。
「なにがあったんですか?」
「ん、あれか?冒険者パーティが魔物の群れに襲われたようでな。なんとか一人だけ逃げ出すことができて、救援要請を依頼してんだ」
近くにいた冒険者に聞いてみたところ親切に教えてくれた。
カウンターに詰め寄っている男の人はDランクパーティに所属している冒険者らしい。リーダがCランクで残りがDランクの計5人のパーティで最近勢いのあるパーティの内の一つだそうだ。
「他の人は救援に行かないんですか?」
「この街を拠点にしている冒険者は最高でもCランクで、そのCランクのパーティでさえ行方不明になっているくらいだ。魔物の群れってことは連れ去られた可能性が高い魔物の巣を攻略する必要がある。だがそれは、いくらなんでも無謀すぎる……あいつには悪いが、そもそも生き残っている可能性も低いんだ。こんな状況で助けに行く奴は、よほどのお人よしか馬鹿くらいだろう」
他の人たちも力になりたい気持ちはあるのだろう。だが、ミイラ取りになる可能性が高く、襲われた冒険者の生存が絶望的な状況だ。誰もが自身の命や生活が大切で普通は無茶なことはしない。
「頼む!俺が持つ全ての金を報酬にする。足りないというならこの先手に入れた報酬から払う!だからっ!……誰か助けてくれ」
男はカウンターから振り返ると表情を歪めながら懇願した。
「……辛いものだな。あれだけ必死に頼む奴を見るのは。叶わない願いを見届けるしかできないのは」
「そうですね。普通は依頼を受けないでしょうから」
「ああ。だからお前さんも気にすることはって、おい!何をするつもりだ!?」
私がカウンターの方へ歩いて行こうとすると親切な冒険者は驚いた声で呼び止めようとする。
「自分から進んで誰かを助けにいこうとは思わないですけど……誰かのためにあれだけ必死になれる人が目の前にいたら、助けたくなるじゃないですか」
私であれば無事に辿り着けるとは言わない。むしろ魔物の群れと戦っても負ける可能性もほうが高いだろう。けれど、それは魔物の群れを全滅させる場合だ。なにも魔物を倒さなければいけないわけではない。
そして、仲間とはいえ家族でもない他人のために必死になれる人のことを私は好ましいと思った。
私は人混みを通り抜けてカウンターのところまで歩いていく。
「その依頼、私が受けます。目的地まで案内してくれませんか?」
「はい!?」「え!?」
「私はDランク冒険者です。魔術使いの私だったら戦闘を避けながら目的の場所まで辿り着けるかもしれません」
私はそう言葉にすると治癒の魔術を行使する。右手に翳した魔力と光が冒険者の男の全体を包み込み、傷が徐々に治っていく。流石に欠損した片手までは治せないが、全身にあった擦過傷や骨折くらいなら治すことが可能だ。
魔術の中でも制御が難しいとされる治癒魔術。それは、魔術使いとしての実力を証明できる手段でもあった。
「「え!?」」
私の魔術によって冒険者の全身の傷がおおよそ治った。それを見て体感した受付嬢と件の冒険者の驚いた声が重なって響く。
二人にギルドカードを見せると、一先ず冒険者であることは信じてくれたようだ。だが、受付嬢は悲しそうな顔で「えぇ……」と言葉に詰まる。
「お気持ちはありがたいですが……いかに治癒に長けた魔術使いであろうと魔物の巣に向かうのは……」
受付嬢はこれ以上犠牲を増やしたくないと言いたげな表情で言葉を濁していた。
「お前は……どうして、俺を助けようとしてくれるんだ?」
「命が助かるかも知らない人が目の前にいて、見捨ててしまえばい目覚めが悪いです。単なる自己満足ですよ」
「これだけ凄い治癒の魔術を使えるくらいだ。もしかして、攻撃系の魔術も……?」
「攻撃や防御も一通り使えます。元々、分の悪い賭けだと考えているのでしょう?どうです、私に賭けてみませんか?」
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