407 / 494
第13章 2度目の学園生活
17 取り戻した力
しおりを挟む
ローザリンデとの抱擁は不思議な気分だった。
ラティアーナだった頃はローザリンデの方が小さかったし最期の頃でも背の大きさはあまり変わらなかった。それが今では私の方が小さくローザリンデの身体に埋もれそうになる。
「お姉様……周りに人がいないときには昔のように接しても良いですか?」
そっと身体を離すとローザリンデが不安げに瞳を揺らしながら聞いてきた。
「もちろん……今の私はラティアーナではないけれど、それでもローザリンデの事は大切な妹だと思っているから。むしろ私のほうがお願いしたいくらい」
ティアとして血の繋がった家族と接した記憶がないせいか私にとっての家族はラティアーナとしての家族だけだ。母や姉のことは幸せになってほしいと願ってはいても、どこか距離を感じてしまう。
私にとって気を許せる相手はローザリンデとリーファスだけだ。
「……もう少しゆっくり話したかったけれど、いつまでもこうしているわけにはいかないわね」
私は外出していることになっているから問題ないとしてもローザリンデは学園内にいることになっている。長時間連絡がつかない状態はあまり良くはないだろう。
「大丈夫です。これからいくらでも時間はありますから」
ローザリンデは名残惜しそうな笑みを浮かべてそう言った。
「さて、まずは氷を解かないとね……ローザリンデ。私の後ろに」
ローザリンデが私の言葉に頷くと数歩後ろへと下がった。私はそれを確認してから近くに刺さっている黒い刀の所まで歩いていきの柄を強く握りしめた。ゆっくりと魔力を流すと僅かに反発しているらしく魔力が刀身から弾かれる。
「久しぶりね辰月……目覚めなさい」
辰月に魔力と生命力を一気に込めると、弾かれていた魔力はゆっくりと馴染んでいき刀身から黒龍の力が溢れ出す。それはパチパチと火花を散らしながら氷に触れた部分を破壊していた。
そして黒龍の魔力を薄く広げていき覆われていら氷を解いていく。
すると音を立てて地面へ落ちた物があった。それは一本の黒い刀と二本の鞘、魔法袋を始めとした装飾品だった。
「それはお姉様が身につけていた……」
「保護の魔術がまだ効いてて助かったわ。この中には大切な物がたくさん入っているからね。魔力登録を書き換える必要があるから後でかな」
魔法袋や換装用の魔術具は魔力の登録がされているため登録がされていない人では扱うことができない。だが、元々私の魔力ではあるし持ち主として緊急解除用の術式も知っている。仮に壊れていたとしても時間を掛ければ解除することは可能だ。
辰月を納刀した私は、あとは夜月だけを取り戻すだけだと思って刀に触れようとする。その時だった。
「お姉様!?」
手で触れた瞬間、バチンと音を立てて弾かれた。咄嗟に手を離し距離を取ったが僅かに魔力を吸われたようだ。
夜月を中心に子どもくらいの大きさの魔力の塊が蠢きだすと人型の形へと変化していく。
「問題ないわ。それよりもこれは……私の魔力を奪って実体化したみたいね」
「これがお姉様が戦った悪魔……ですか?」
ローザリンデは私の隣に来ると警戒を強めながら杖を構えていた。既に魔力弾を放つための術式を展開していて、いつでも撃ちだせる状態だ。
「相当弱っていそうだけれど……」
『悪魔の魂は既にあの刀の中に取り込まれているわ』
私も警戒しているとプレアデスがあれの正体を教えてくれた。どうやら悪魔の魂の残滓が刀に纏わりついていて、私の魔力に触れたことで一時的に生み出された亡霊のようなものらしい。悪魔の魂自体は刀の中に完全に取り込まれていて桜月としての力を解放しない限りは外に出てこないそうだ。
「……私と契約している精霊の話だと悪魔の残滓、亡霊みたいなものらしいわ。悪魔自体は刀の中に封じられているみたい」
「なるほど。では倒してしまっても問題なさそうですね」
次の瞬間、ローザリンデは魔力弾を斉射した。立て続けで放たれた爆撃によって亡霊の身体は大半が吹き飛び動きが止まる。
「流石ね!」
私はそれだけ言うと、身体強化を行使して一歩踏み出した。辰月を抜刀すると同時に解放して黒龍の力を纏わせた状態ですれ違いざまに薙ぎ払って亡霊の後ろへと着地する。魔力を霧散させる黒龍の力は魔力でできた亡霊を跡形もなく消し飛ばし、カランと夜月が地面に落下した。
「夜月……」
私が刀を拾い上げると夜月は勝手に魔力を邪気へ変換しようとした。強制的に力を吸い取ろうとする夜月に対して私は逆に生命力や魔力を流し込む。
主導権を渡さないように気をつけつつも私の今の魔力で染め上げれば夜月も私が主人だと認めるだろう。むしろ最初に刀を持った時の思念が話しかけてこないあたり、私がラティアーナなのだと気がついているかもしれない。
少しすると夜月から溢れていた邪気は収まりを見せた。
「とりあえず私が主人だと認めたみたいね。これでここでの用事も一先ず終わりかな」
「いつでも学園長室にきてください。わたくしも話す時間が欲しいですし力になれると思いますから」
私が刀を鞘にしまっているとローザリンデが「いつでも人払いしますので」と言葉にしながら近づいてきた。
確かに学園長室であれば防音や盗聴対策の魔術が張ってあって内緒話をするには適している。あの部屋であればローザリンデと色々な話ができそうだった。
「そうだね。あまり頻度が多いと怪しまれるだろうけれど、偶になら良さそうだわ」
「ええ。お待ちしています……そう言えば貴方がお姉様だと知っている者はまだいないのですか?」
「今のところ知っているのはカレナくらいかな。いくら全力で戦っている状態で共闘したとはいえ良く気がついたらものだわ」
いくらラティアーナの頃と同じような戦い方をしたとはいえ、あの短時間でよく気が付いたものだと思い出していると、ローザリンデが苦笑しながら「お姉様の戦い方は唯一ですから」と答えた。
「それにお姉様の専属騎士ですからね」
その後、元の場所は戻った私たちは空間の穴を閉じてから別れることにした。ローザリンデが正規のルートで帰るのを見送り、私は隠し通路を使って学園都市の外に出たのだった。
ラティアーナだった頃はローザリンデの方が小さかったし最期の頃でも背の大きさはあまり変わらなかった。それが今では私の方が小さくローザリンデの身体に埋もれそうになる。
「お姉様……周りに人がいないときには昔のように接しても良いですか?」
そっと身体を離すとローザリンデが不安げに瞳を揺らしながら聞いてきた。
「もちろん……今の私はラティアーナではないけれど、それでもローザリンデの事は大切な妹だと思っているから。むしろ私のほうがお願いしたいくらい」
ティアとして血の繋がった家族と接した記憶がないせいか私にとっての家族はラティアーナとしての家族だけだ。母や姉のことは幸せになってほしいと願ってはいても、どこか距離を感じてしまう。
私にとって気を許せる相手はローザリンデとリーファスだけだ。
「……もう少しゆっくり話したかったけれど、いつまでもこうしているわけにはいかないわね」
私は外出していることになっているから問題ないとしてもローザリンデは学園内にいることになっている。長時間連絡がつかない状態はあまり良くはないだろう。
「大丈夫です。これからいくらでも時間はありますから」
ローザリンデは名残惜しそうな笑みを浮かべてそう言った。
「さて、まずは氷を解かないとね……ローザリンデ。私の後ろに」
ローザリンデが私の言葉に頷くと数歩後ろへと下がった。私はそれを確認してから近くに刺さっている黒い刀の所まで歩いていきの柄を強く握りしめた。ゆっくりと魔力を流すと僅かに反発しているらしく魔力が刀身から弾かれる。
「久しぶりね辰月……目覚めなさい」
辰月に魔力と生命力を一気に込めると、弾かれていた魔力はゆっくりと馴染んでいき刀身から黒龍の力が溢れ出す。それはパチパチと火花を散らしながら氷に触れた部分を破壊していた。
そして黒龍の魔力を薄く広げていき覆われていら氷を解いていく。
すると音を立てて地面へ落ちた物があった。それは一本の黒い刀と二本の鞘、魔法袋を始めとした装飾品だった。
「それはお姉様が身につけていた……」
「保護の魔術がまだ効いてて助かったわ。この中には大切な物がたくさん入っているからね。魔力登録を書き換える必要があるから後でかな」
魔法袋や換装用の魔術具は魔力の登録がされているため登録がされていない人では扱うことができない。だが、元々私の魔力ではあるし持ち主として緊急解除用の術式も知っている。仮に壊れていたとしても時間を掛ければ解除することは可能だ。
辰月を納刀した私は、あとは夜月だけを取り戻すだけだと思って刀に触れようとする。その時だった。
「お姉様!?」
手で触れた瞬間、バチンと音を立てて弾かれた。咄嗟に手を離し距離を取ったが僅かに魔力を吸われたようだ。
夜月を中心に子どもくらいの大きさの魔力の塊が蠢きだすと人型の形へと変化していく。
「問題ないわ。それよりもこれは……私の魔力を奪って実体化したみたいね」
「これがお姉様が戦った悪魔……ですか?」
ローザリンデは私の隣に来ると警戒を強めながら杖を構えていた。既に魔力弾を放つための術式を展開していて、いつでも撃ちだせる状態だ。
「相当弱っていそうだけれど……」
『悪魔の魂は既にあの刀の中に取り込まれているわ』
私も警戒しているとプレアデスがあれの正体を教えてくれた。どうやら悪魔の魂の残滓が刀に纏わりついていて、私の魔力に触れたことで一時的に生み出された亡霊のようなものらしい。悪魔の魂自体は刀の中に完全に取り込まれていて桜月としての力を解放しない限りは外に出てこないそうだ。
「……私と契約している精霊の話だと悪魔の残滓、亡霊みたいなものらしいわ。悪魔自体は刀の中に封じられているみたい」
「なるほど。では倒してしまっても問題なさそうですね」
次の瞬間、ローザリンデは魔力弾を斉射した。立て続けで放たれた爆撃によって亡霊の身体は大半が吹き飛び動きが止まる。
「流石ね!」
私はそれだけ言うと、身体強化を行使して一歩踏み出した。辰月を抜刀すると同時に解放して黒龍の力を纏わせた状態ですれ違いざまに薙ぎ払って亡霊の後ろへと着地する。魔力を霧散させる黒龍の力は魔力でできた亡霊を跡形もなく消し飛ばし、カランと夜月が地面に落下した。
「夜月……」
私が刀を拾い上げると夜月は勝手に魔力を邪気へ変換しようとした。強制的に力を吸い取ろうとする夜月に対して私は逆に生命力や魔力を流し込む。
主導権を渡さないように気をつけつつも私の今の魔力で染め上げれば夜月も私が主人だと認めるだろう。むしろ最初に刀を持った時の思念が話しかけてこないあたり、私がラティアーナなのだと気がついているかもしれない。
少しすると夜月から溢れていた邪気は収まりを見せた。
「とりあえず私が主人だと認めたみたいね。これでここでの用事も一先ず終わりかな」
「いつでも学園長室にきてください。わたくしも話す時間が欲しいですし力になれると思いますから」
私が刀を鞘にしまっているとローザリンデが「いつでも人払いしますので」と言葉にしながら近づいてきた。
確かに学園長室であれば防音や盗聴対策の魔術が張ってあって内緒話をするには適している。あの部屋であればローザリンデと色々な話ができそうだった。
「そうだね。あまり頻度が多いと怪しまれるだろうけれど、偶になら良さそうだわ」
「ええ。お待ちしています……そう言えば貴方がお姉様だと知っている者はまだいないのですか?」
「今のところ知っているのはカレナくらいかな。いくら全力で戦っている状態で共闘したとはいえ良く気がついたらものだわ」
いくらラティアーナの頃と同じような戦い方をしたとはいえ、あの短時間でよく気が付いたものだと思い出していると、ローザリンデが苦笑しながら「お姉様の戦い方は唯一ですから」と答えた。
「それにお姉様の専属騎士ですからね」
その後、元の場所は戻った私たちは空間の穴を閉じてから別れることにした。ローザリンデが正規のルートで帰るのを見送り、私は隠し通路を使って学園都市の外に出たのだった。
10
あなたにおすすめの小説
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す
RINFAM
ファンタジー
なんの罰ゲームだ、これ!!!!
あああああ!!!
本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!
そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!
一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!
かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。
年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。
4コマ漫画版もあります。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
生贄公爵と蛇の王
荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。
「お願いします、私と結婚してください!」
「はあ?」
幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。
そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。
しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。
転生騎士団長の歩き方
Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】
たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。
【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。
【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?
※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる