王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第13章 2度目の学園生活

17 取り戻した力

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 ローザリンデとの抱擁は不思議な気分だった。
 ラティアーナだった頃はローザリンデの方が小さかったし最期の頃でも背の大きさはあまり変わらなかった。それが今では私の方が小さくローザリンデの身体に埋もれそうになる。

「お姉様……周りに人がいないときには昔のように接しても良いですか?」

 そっと身体を離すとローザリンデが不安げに瞳を揺らしながら聞いてきた。

「もちろん……今の私はラティアーナではないけれど、それでもローザリンデの事は大切な妹だと思っているから。むしろ私のほうがお願いしたいくらい」

 ティアとして血の繋がった家族と接した記憶がないせいか私にとっての家族はラティアーナとしての家族だけだ。母や姉のことは幸せになってほしいと願ってはいても、どこか距離を感じてしまう。
 私にとって気を許せる相手はローザリンデとリーファスだけだ。

「……もう少しゆっくり話したかったけれど、いつまでもこうしているわけにはいかないわね」

 私は外出していることになっているから問題ないとしてもローザリンデは学園内にいることになっている。長時間連絡がつかない状態はあまり良くはないだろう。

「大丈夫です。これからいくらでも時間はありますから」

 ローザリンデは名残惜しそうな笑みを浮かべてそう言った。

「さて、まずは氷を解かないとね……ローザリンデ。私の後ろに」

 ローザリンデが私の言葉に頷くと数歩後ろへと下がった。私はそれを確認してから近くに刺さっている黒い刀の所まで歩いていきの柄を強く握りしめた。ゆっくりと魔力を流すと僅かに反発しているらしく魔力が刀身から弾かれる。

「久しぶりね辰月……目覚めなさい」

 辰月に魔力と生命力を一気に込めると、弾かれていた魔力はゆっくりと馴染んでいき刀身から黒龍の力が溢れ出す。それはパチパチと火花を散らしながら氷に触れた部分を破壊していた。
 そして黒龍の魔力を薄く広げていき覆われていら氷を解いていく。
 すると音を立てて地面へ落ちた物があった。それは一本の黒い刀と二本の鞘、魔法袋を始めとした装飾品だった。

「それはお姉様が身につけていた……」

「保護の魔術がまだ効いてて助かったわ。この中には大切な物がたくさん入っているからね。魔力登録を書き換える必要があるから後でかな」

 魔法袋や換装用の魔術具は魔力の登録がされているため登録がされていない人では扱うことができない。だが、元々私の魔力ではあるし持ち主として緊急解除用の術式も知っている。仮に壊れていたとしても時間を掛ければ解除することは可能だ。

 辰月を納刀した私は、あとは夜月だけを取り戻すだけだと思って刀に触れようとする。その時だった。

「お姉様!?」

 手で触れた瞬間、バチンと音を立てて弾かれた。咄嗟に手を離し距離を取ったが僅かに魔力を吸われたようだ。
 夜月を中心に子どもくらいの大きさの魔力の塊が蠢きだすと人型の形へと変化していく。

「問題ないわ。それよりもこれは……私の魔力を奪って実体化したみたいね」

「これがお姉様が戦った悪魔……ですか?」

 ローザリンデは私の隣に来ると警戒を強めながら杖を構えていた。既に魔力弾を放つための術式を展開していて、いつでも撃ちだせる状態だ。

「相当弱っていそうだけれど……」

『悪魔の魂は既にあの刀の中に取り込まれているわ』

 私も警戒しているとプレアデスがあれの正体を教えてくれた。どうやら悪魔の魂の残滓が刀に纏わりついていて、私の魔力に触れたことで一時的に生み出された亡霊のようなものらしい。悪魔の魂自体は刀の中に完全に取り込まれていて桜月としての力を解放しない限りは外に出てこないそうだ。

「……私と契約している精霊の話だと悪魔の残滓、亡霊みたいなものらしいわ。悪魔自体は刀の中に封じられているみたい」

「なるほど。では倒してしまっても問題なさそうですね」

 次の瞬間、ローザリンデは魔力弾を斉射した。立て続けで放たれた爆撃によって亡霊の身体は大半が吹き飛び動きが止まる。

「流石ね!」

 私はそれだけ言うと、身体強化を行使して一歩踏み出した。辰月を抜刀すると同時に解放して黒龍の力を纏わせた状態ですれ違いざまに薙ぎ払って亡霊の後ろへと着地する。魔力を霧散させる黒龍の力は魔力でできた亡霊を跡形もなく消し飛ばし、カランと夜月が地面に落下した。

「夜月……」

 私が刀を拾い上げると夜月は勝手に魔力を邪気へ変換しようとした。強制的に力を吸い取ろうとする夜月に対して私は逆に生命力や魔力を流し込む。
 主導権を渡さないように気をつけつつも私の今の魔力で染め上げれば夜月も私が主人だと認めるだろう。むしろ最初に刀を持った時の思念が話しかけてこないあたり、私がラティアーナなのだと気がついているかもしれない。
 少しすると夜月から溢れていた邪気は収まりを見せた。

「とりあえず私が主人だと認めたみたいね。これでここでの用事も一先ず終わりかな」

「いつでも学園長室にきてください。わたくしも話す時間が欲しいですし力になれると思いますから」

 私が刀を鞘にしまっているとローザリンデが「いつでも人払いしますので」と言葉にしながら近づいてきた。
 確かに学園長室であれば防音や盗聴対策の魔術が張ってあって内緒話をするには適している。あの部屋であればローザリンデと色々な話ができそうだった。

「そうだね。あまり頻度が多いと怪しまれるだろうけれど、偶になら良さそうだわ」

「ええ。お待ちしています……そう言えば貴方がお姉様だと知っている者はまだいないのですか?」

「今のところ知っているのはカレナくらいかな。いくら全力で戦っている状態で共闘したとはいえ良く気がついたらものだわ」

 いくらラティアーナの頃と同じような戦い方をしたとはいえ、あの短時間でよく気が付いたものだと思い出していると、ローザリンデが苦笑しながら「お姉様の戦い方は唯一ですから」と答えた。

「それにお姉様の専属騎士ですからね」

 その後、元の場所は戻った私たちは空間の穴を閉じてから別れることにした。ローザリンデが正規のルートで帰るのを見送り、私は隠し通路を使って学園都市の外に出たのだった。
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