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第13章 2度目の学園生活
32 転移罠
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「けほけほっ……流石に地面に頭からめり込むと迷宮の変な味が……」
埋まった部分の地面を魔力で粉砕して、なんとか埋まった場所から脱出すると口の中にまぎれた土や石に思わず咳き込んでしまった。
「うぇっ……苦い味がまだ口に残ってる……頭から地面に刺さるものじゃないわね」
転移された時、咄嗟に身体強化と魔装で身を守った事が少し仇となったらしい。私の身体は頭から地面に落下し肩くらいまで埋まってしまっていた。外から見れば有名な某推理小説を彷彿とさせるような姿だったに違いない。
「さて……とりあえず視覚への干渉は解いたけど……」
周りを見渡すと巨大な長方形状になっている部屋の中にいた。僅かな灯りはあるものの四方が扉もない壁になっていて箱のように感じられた。
空間転移でここに運ばれたことを考えると、まるでゴミ箱にでも捨てるかのような乱暴な扱いだ。
「アスカルテ様!無事ですか!?近くにいますか!?」
試しに大きな声を上げても呼びかけてみるが、返ってきたのは自身の声が山彦のように響くだけだった。少なくとも声が届く範囲にはいないらしい。
何の反応もなく、これからどうしようかと考えているとガコンと機械が動いたような重低音が聞こえてくる。
「うえ……?」
音のしたほうを見上げたが何もなかった。だが、気のせいかと顔の向きを変えようとしたところで異変に気付く。
この部屋の天井が徐々に狭まってきていたのだ。
どうやら、迷い彷徨っていた私やアスカルテは、いつの間にか常闇の大迷宮の未発見区域か調査が済んでいない階層に辿り着いていたらしい。無縁だと思っていた常闇の大迷宮の凶悪が罠が待ち構えていた。
一先ずはこの場から脱出しようと壁に向かって魔術を放ってみる。術式を省略し生成された氷の槍は高速で回転しながら壁へと撃ちだされる。
「無理か……」
氷系の魔術の利点は物理も兼ねていることだ。魔封石のような魔力を通さない物に対しても効果のあるわけだが、純粋に壁の強度が相当なものらしい。
壁に僅かな傷を付けるだけで逆に氷の槍が砕け落ちた。
「仕方がないか……授業で使うつもりはなかったけれど……」
私はそう言うと魔法袋の中から2本の刀を取り出して身に着ける。
「夜月」
名前を呼びながら抜刀の構えをとった。
刀を鞘に納めたまま魔力を込めると夜月の刀身から邪気が溢れだす。さらには私自身の魔力も上乗せすることで2つの力を高めていく。
抜刀と同時に高めた力によって横に斬る。甲高い音と共に私を中心として270°くらいの範囲を黒の斬撃が広がり壁に一筋の亀裂が入った。
斬った感触から右前の奥50メートルくらいに空間が空いていることがわかった。黒い力を纏った夜月を空間に向かって何度か振るって身体強化に任せて壁を蹴り飛ばすと辺りを揺らしながら向こうは側への道ができた。
背を屈めながら作った道を歩いて行くと黒い岩でできた真っ暗で大きな部屋へ辿り着く。
その時だった。
右奥の壁が真っ赤に染まると、まるで溶岩のようにボコボコと泡立つ。そこから白く輝く炎が吹き出してきて周りの一部が蒸発しドロドロに溶けて音を立てながら爆散した。
敵が来るのかと警戒して刀の鞘に触れるが、壁の奥から近付いてくる魔力に気付いて警戒を解く。この優しい感じの魔力の持ち主はアスカルテのものだからだ。
「アスカルテ様」
「やはり、こちらにいましたか。無事に合流できて良かったです」
どうやらアスカルテの方も私と同じような罠のある部屋に飛ばされたようだった。転移直後に重力魔術を使って体勢を整えたらしいが、天井が落ちてきていることに気付いて急いで脱出を考える。
その時に丁度私が迷宮を斬ったことで衝撃を感じて、およその方向を把握することができたそうだ。
「合流できたのは嬉しいですがこれからどうしましょうか?私としては道を探すのでなく作る方に変えたほうが良いかもしれないと思い始めたところなのですが……」
空間転移によって現在地が検討すらつかない状態だ。食糧の貯えが十分にあるとはいえ脱出するまでにどれくらいの日数が掛かるかは想像すらつかない。
「奇遇ですね。わたくしもティアと同じ事を考えていました。少しだけ無茶をしてみますか?」
アスカルテも私と同じ考えを抱いていたらしく互いにニコリと笑みを浮かべあう。
「ですがその前に……」
「ええ。お客様がお見えのようですね」
私とアスカルテが見上げた先の天井が割れて一体の巨人が落ちてくる。
5メートル超の高さを持つ黒い魔力でできた巨人のような獣だった。片手には黒い魔力が物質化したような大太刀を持っていて私たちを見下ろすと醜悪なほどの殺気を放っていた。
「悪獣……」
私はそれを知っている。ラティアーナだった頃に似た存在と2回ほど戦ったことがあるからだ。
1度目は王都の地下に囚われていた獣。
2度目はナイトメアの本陣でバルトロスが生み出した獣。
あれが悪獣と呼んでいた悪魔に飼われていたという獣だ。
過去に戦った相手よりも人の形をしているが感じる力の質は同じ類だ。このような場所にいるとは思っていなかったが、まず間違いはないだろう。
「……お父様から話だけは聞いたことがありますが……あれが……っ!?」
思わずその名を呟くとアスカルテは驚いた様子を見せる。
だが、同時に目の前の敵は大太刀を振り上げると、私たちを目掛けて振り下ろしてきた。
埋まった部分の地面を魔力で粉砕して、なんとか埋まった場所から脱出すると口の中にまぎれた土や石に思わず咳き込んでしまった。
「うぇっ……苦い味がまだ口に残ってる……頭から地面に刺さるものじゃないわね」
転移された時、咄嗟に身体強化と魔装で身を守った事が少し仇となったらしい。私の身体は頭から地面に落下し肩くらいまで埋まってしまっていた。外から見れば有名な某推理小説を彷彿とさせるような姿だったに違いない。
「さて……とりあえず視覚への干渉は解いたけど……」
周りを見渡すと巨大な長方形状になっている部屋の中にいた。僅かな灯りはあるものの四方が扉もない壁になっていて箱のように感じられた。
空間転移でここに運ばれたことを考えると、まるでゴミ箱にでも捨てるかのような乱暴な扱いだ。
「アスカルテ様!無事ですか!?近くにいますか!?」
試しに大きな声を上げても呼びかけてみるが、返ってきたのは自身の声が山彦のように響くだけだった。少なくとも声が届く範囲にはいないらしい。
何の反応もなく、これからどうしようかと考えているとガコンと機械が動いたような重低音が聞こえてくる。
「うえ……?」
音のしたほうを見上げたが何もなかった。だが、気のせいかと顔の向きを変えようとしたところで異変に気付く。
この部屋の天井が徐々に狭まってきていたのだ。
どうやら、迷い彷徨っていた私やアスカルテは、いつの間にか常闇の大迷宮の未発見区域か調査が済んでいない階層に辿り着いていたらしい。無縁だと思っていた常闇の大迷宮の凶悪が罠が待ち構えていた。
一先ずはこの場から脱出しようと壁に向かって魔術を放ってみる。術式を省略し生成された氷の槍は高速で回転しながら壁へと撃ちだされる。
「無理か……」
氷系の魔術の利点は物理も兼ねていることだ。魔封石のような魔力を通さない物に対しても効果のあるわけだが、純粋に壁の強度が相当なものらしい。
壁に僅かな傷を付けるだけで逆に氷の槍が砕け落ちた。
「仕方がないか……授業で使うつもりはなかったけれど……」
私はそう言うと魔法袋の中から2本の刀を取り出して身に着ける。
「夜月」
名前を呼びながら抜刀の構えをとった。
刀を鞘に納めたまま魔力を込めると夜月の刀身から邪気が溢れだす。さらには私自身の魔力も上乗せすることで2つの力を高めていく。
抜刀と同時に高めた力によって横に斬る。甲高い音と共に私を中心として270°くらいの範囲を黒の斬撃が広がり壁に一筋の亀裂が入った。
斬った感触から右前の奥50メートルくらいに空間が空いていることがわかった。黒い力を纏った夜月を空間に向かって何度か振るって身体強化に任せて壁を蹴り飛ばすと辺りを揺らしながら向こうは側への道ができた。
背を屈めながら作った道を歩いて行くと黒い岩でできた真っ暗で大きな部屋へ辿り着く。
その時だった。
右奥の壁が真っ赤に染まると、まるで溶岩のようにボコボコと泡立つ。そこから白く輝く炎が吹き出してきて周りの一部が蒸発しドロドロに溶けて音を立てながら爆散した。
敵が来るのかと警戒して刀の鞘に触れるが、壁の奥から近付いてくる魔力に気付いて警戒を解く。この優しい感じの魔力の持ち主はアスカルテのものだからだ。
「アスカルテ様」
「やはり、こちらにいましたか。無事に合流できて良かったです」
どうやらアスカルテの方も私と同じような罠のある部屋に飛ばされたようだった。転移直後に重力魔術を使って体勢を整えたらしいが、天井が落ちてきていることに気付いて急いで脱出を考える。
その時に丁度私が迷宮を斬ったことで衝撃を感じて、およその方向を把握することができたそうだ。
「合流できたのは嬉しいですがこれからどうしましょうか?私としては道を探すのでなく作る方に変えたほうが良いかもしれないと思い始めたところなのですが……」
空間転移によって現在地が検討すらつかない状態だ。食糧の貯えが十分にあるとはいえ脱出するまでにどれくらいの日数が掛かるかは想像すらつかない。
「奇遇ですね。わたくしもティアと同じ事を考えていました。少しだけ無茶をしてみますか?」
アスカルテも私と同じ考えを抱いていたらしく互いにニコリと笑みを浮かべあう。
「ですがその前に……」
「ええ。お客様がお見えのようですね」
私とアスカルテが見上げた先の天井が割れて一体の巨人が落ちてくる。
5メートル超の高さを持つ黒い魔力でできた巨人のような獣だった。片手には黒い魔力が物質化したような大太刀を持っていて私たちを見下ろすと醜悪なほどの殺気を放っていた。
「悪獣……」
私はそれを知っている。ラティアーナだった頃に似た存在と2回ほど戦ったことがあるからだ。
1度目は王都の地下に囚われていた獣。
2度目はナイトメアの本陣でバルトロスが生み出した獣。
あれが悪獣と呼んでいた悪魔に飼われていたという獣だ。
過去に戦った相手よりも人の形をしているが感じる力の質は同じ類だ。このような場所にいるとは思っていなかったが、まず間違いはないだろう。
「……お父様から話だけは聞いたことがありますが……あれが……っ!?」
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