王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第13章 2度目の学園生活

34 人外魔境

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 魔力を使いすぎないように気をつけながら迷宮の壁や天井を抜いて脱出を目指していたが進みはあまりよろしくなかった。
 この辺りの迷宮の天井は、破壊しても数秒もあれば修復されてしまう。強度もとてつもなく高くて、上層の床や天井はもちろんのこと、この辺りの壁を抜くのとは比べものにならないくらいだ。
 私やアスカルテの火力なら無理やり通ることは可能とはいえ2人合わせても1日で5回くらいが限度となる。
 私たちは天井抜きが無駄にならないように気を付けながら脱出を目指して歩き続けていた。

「はぁ……これで3層くらいは、上がったはずだけど……」

 ぶち抜いた穴を抜けて上の階層に飛び乗るが迷宮の作りに変わりはない。どこを見ても黒い岩やレンガでできた道が広がるだけだ。

「地上には近づいているはずです。どんなに距離があったとしても上に突き進んでいけば、いずれは……」

 そんな時、何も踏んでいないのにガコンと音がした。
 次の瞬間、壁の左右から針のような物が無数に飛来してくる。
 咄嗟に私が左からくる針を全て斬り落とし、アスカルテの魔術盾が右からくる針を全て受け止めようとする。
 だが、少し遅れて床からも複数の針が襲い掛かってきた。
 咄嗟に魔装を使って叩き落とせなかった針を防ぐが、一部の針には魔封石のような素材が使われているらしい。身体を掠った部分からポタポタと血が流れた。

「ティア!大丈夫で……」
「まだ終わりじゃない!」

 この罠は相当性格が悪いらしい。
 頭上から煙のようなものが吹き付けられて辺りが視界が白くなり呼吸が苦しくなる。更には壁の左右と床から立て続けに矢が放たれた。今度の矢は、全てに魔力を破る効果があるらしく魔装や魔術の盾でも完全に防ぐことは難しい。

「ちっ……」

 刀と体術で、できる限りの攻撃を弾いていくが蹴りで叩き落とした一部は脚に傷を与えていく。また完全に防げなかった矢が身体中を掠めたことで、僅かとはいえ血飛沫が舞った。

 さらに、視界の端でカチッと火花が見えた。
 どうやら炎熱属性の魔術が仕掛けられていたらしく火花から煙へと炎が移り、粉塵爆発が発生する。
 かなりの衝撃と熱が襲い掛かり、壁や天井に叩きつけられながら10メートル近く吹き飛んだ。

「つぅ……アスカルテ、大丈夫!?」

 揺れる視界を我慢しながら身体を起こすと、近くに倒れこんでいるアスカルテの姿が目に入る。慌ててアスカルテの元に駆け寄ると咳き込みながらも「大丈夫です」と返事があった。

「けほっ……これくらいの傷なら支障はないです。ティアも大丈夫ですか?」

「大丈夫、だけど……ごめん。少しだけ、休みた……いや、なんでもないわ」

「……これを退けたら休みましょうか」

 即死級の罠のフルコースでは足りないのか複数のスケルトンが前後から迫り寄ってくる。

 私とアスカルテは背中合わせに立ち上がると襲い掛かってくるスケルトンの群れを迎え撃った。



 時間にしておよそ10分程度戦い続けた頃。
 スケルトンの群れを全て撃退しし辺りには息遣いの音だけが残っていた。

「はぁはぁ……」

 ここまで消耗するのは久しぶりだった。
 刀を地面に刺して膝を片足を地面に付きながら乱れた呼吸を整える。
 周りにこれ以上の危険がないことを確認してから壁に体重を掛けて座り込んだ。

「ティア。大丈夫ですか?」

「だいじょうぶ……少し、休めば動ける、はず」

 破れた制服を使って赤く染まった箇所を縛り付けながらも、ふとアスカルテの様子を窺う。

 アスカルテはスケルトンとの戦いで傷を負っていないものの、中級以上の魔術を連発していた。これまでのことを考えれば流石に相当な魔力を消費しているだろう。

「アスカルテこそ……大丈夫?」

「わたくしは大丈夫ですよ。ただ、治癒魔術は少しだけお待ちください」

 アスカルテはそう言うと私の隣に座った。魔法袋の中からポーションが入っている瓶を3つ取り出して床に置くと、私の方に顔を向けてくる。

「魔力回復と治癒と解毒のポーションです。解毒のポーションも念のためですけどね」

 解毒のポーションは弱い毒なら完治可能で、強めの毒でも症状を緩和することができる万能型のものだ。
 罠に毒が仕込まれていた可能性を否定できないため用心するに越したことはないだろう。

「ありがと……少し、休むわ」

 私は貰ったポーションを一息に口に含んで飲み干す。

「それにしても……この迷宮って一体誰が、造ったのだろう……」

「これだけ悪辣な罠を人が考えたとは思いたくないですね。それにスケルトンや悪獣の存在が防衛機構の一部として成り立っているなら……人では扱えないでしょうし」

「そうなんだよね……」

 常闇の大迷宮を人が作ったとは思えないが人以外でここまで細かい建築や罠の作成を行う存在にも心当たりがない。悪獣という言葉に頭の中にふとした可能性が浮かぶが、流石にあり得ないだろうと即座に考えを否定する。
 何にせよ、ここで考えても意味はないと割り切って目を瞑って休むことに専念した。


 それから少しの間休んだ私たちは、互いに治癒魔術を掛けて怪我を治してから再度脱出に向けて歩き出した。

「ん?」

 壁に気をつけて少し進むとゴゴゴと地鳴りのような音が聞こえてくる。どうやら壁と壁が迫ってきているらしく通った人を押し潰すような仕掛けらしい。

「せいっ!」

 魔力を纏わせた拳で壁を撃ち抜くと内部から炸裂させて迫り来る壁を粉砕する。隣ではアスカルテも壁に杖を当てて魔術を行使していた。地属性の魔術によって触れた場所を粉々に分解して壁を消し飛ばす。

「最初の罠よりはマシだけど次から次へと……」

「走り抜けましょう。相手をしていてはキリがありません」

 それからも走り抜けながら、いくつもの罠と遭遇していく。
 ギロチンのように刃が落ちてくるものや通路全体が一瞬で燃やされるもの、強力な酸の雨が降り注ぐものなどバリエーションに富んだものだった。
 けれど、最初に遭遇した罠に比べれば優しく感じるものだ。
 私たちはそれらの罠を防ぎ破壊し、時には凍結させることで何とかやり過ごしていく。

 だが、翌朝になって事態が悪い方向に傾いた。

「ティア!?」

 アスカルテの呼ぶ声で目を覚ました。彼女の慌てたような声にどうかしたのかと身体を起こしたが倦怠感があることに気付く。
 寝ている間に汗をかいていたらしく下着がベタついていた。
 どうやら熱が出てしまったようだった。
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