王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第13章 2度目の学園生活

43 ダンジョン演習が終わって

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 調査団が築いていた陣地で一夜を明かした翌日。
 私たちは森を抜けて馬車に乗り王立学園へと帰ってきた。

 王立学園の門を潜り抜けて校舎の入り口に降り立つと、とても懐かしい気持ちが湧き上がってくる。時間にして1週間程度だったが色々な出来事がありすぎて一月くらい帰っていなかったように感じるくらいだ。

「まずは全員で医務室の方へ向かいましょう。毒に冒されたアスカルテさんやティアさんはもちろんのこと、他の皆さんも過酷な時間を過ごしましたからね」

 カトレアに連れられて医務室に向かうと1人1人順番に診てもらうことになった。
 丁寧な診察だったため時間が掛かったが全員怪我は完治していたそうだ。私とアスカルテの毒も完全に消えていて通常通りの生活をして問題ないとのお墨付きが出された。

 他にも学園長であるローザリンデに常闇の大迷宮で起きた一連のことやレイガード侯爵をはじめとした調査団のことを報告したりと慌ただしい時間を過ごした。

「皆さん遅くまでお疲れさまでした。今日と明日については臨時休暇とします。ゆっくりと休んでください」

 全てが終わる頃には日が暮れて星が輝きだす時間になっていた。臨時休暇と週末を合わせれば4日間の休みとなっていて疲れた身体を癒すには十分な時間だろう。

 その後、寮に戻るとサチが「おかえり」と出迎えてくれた。
 彼女の言葉を聞いてようやく帰ってきたのだと実感した。



 一方で生徒たちを見送ったカトレアは、再び王立学園の校舎へと戻っていった。
 時間が遅いこともあって生徒たちはもちろんのこと、教師の大半も寮や学園都市に借りている家へ帰宅していて学園の中に人はほとんど残っていない。
 人気のない廊下を進んだ先にある扉をノックして「どうぞ」という返事を聞いてから部屋の中に入った。

「やはり来ましたか」

「ええ。少し2人きりで話がしたいと思いまして」

 カトレアはそう言って学園長室に備え付けられているソファーへと腰掛けた。
 ローザリンデもソファーへと移動して2人分の紅茶を淹れて席に着くと「それで話とは?」と要件を促す。

「ローザリンデ様は一体どこまで把握していたのですか?」

 ローザリンデはカトレアにいざというとき生徒たちを頼るように言っていた。最初は常闇の大迷宮というダンジョンで危険に対抗するために実力が高い者の名を上げただけかと思っていたが、ティアがラティアーナと知った後では意味が変わってくる。
 王太子に公爵家の子息、正体を隠しているとはいえ元女王。この6人はAクラスの最高戦力であると同時に貴族たちの横やりに慣れている者たちでもあるからだ。

「コルネリアスやアスカルテが狙われる可能性は考えていましたが把握まではしていませんでしたよ。今の王家とレイガード侯爵家の仲が悪いので嫌がらせくらいはあるかもと考えていましたが……」

「今回の件、レイガード侯爵の差し金だと思いますか?」

「憶測にはなりますが関係ないと思います。レイガード侯爵の目的が次期国王にイグニス侯爵家の血筋を残したいのか自身の権威を高めたいのかは分かりません。ですが、わたくしがレイガード侯爵の立場であれば違う手段を選んだでしょう」

 もしもローザリンデであればコルネリアスたちを危険な目にあわせることはしないだろう。不慮の事故に見せかけるにはダンジョン内では不確定過ぎる。何より下手をすれば反逆罪として問われてしまう危険もあるわけでリスクが大きすぎるからだ。

「それに報告では悪獣が出現したと聞いています。それが本当であれば悪魔に関する何かが常闇の大迷宮に存在することになりますし、ただの人間がそのような存在を上手く扱えるとも思えません」

「では、ただの事故だと?」

「そこまでは何とも言えませんね。偶然か必然か……本当に事故の可能性も、複数人の狙いが交錯した可能性も、きっかけだけ与えただけの可能性も……ありとあらゆる可能性を否定できませんから」

「そうですか……」

 カトレアはローザリンデの何も分からないとの言葉に深いため息を吐く。王立学園の学園長でもあり元王族でもある彼女が分かっていないのであれば難しいのだろうと一旦置いておくことにした。

「それで?本題もあるのでしょう?」

「はい。ローザリンデ様もよく知っていると思いますがティアのことです」

 カトレアがその名を出すとローザリンデは納得した様子で頷いていた。

「聞いたのですね?」

「ええ。常闇の大迷宮で遭遇した2人を助けた後に。彼女の刀を見れば気付かない方がおかしいでしょう?」

 辰月も夜月もラティアーナだけが持っているはずの刀だ。その両方を使いこなせる者など彼女しか有り得ないと確信がある。彼女と親交があって共に戦った者であれば誰もが気が付くことだろう。
 ローザリンデも納得したように頷いた。

「ローザリンデ様もラティアーナの……ティアの力になりたいと考えていると思って良いのですよね?」

「もちろんですとも。お姉様は命を賭けてわたくしとリーファスを守り続けてくれました……きっと困難があったとしても何とかしてしまうのでしょうけれど、それでも学園長と侯爵家当主の立場は何かと便利なはず。必要があるのであれば、わたくしの全てを持って彼女の力になりたいです……これで、ようやく恩を返すことができます」

 ローザリンデにとってラティアーナだけが唯一の家族としての優しさと安心をくれた人だった。父や母、兄たちとの関係も良いほうではあるが、あくまで王侯貴族でいう家族を基準にした場合だ。弟であり現国王のリーファスについても、どちらかといえば守るべき存在だという認識が強い。

「その言葉を聞くことができて安心しました。いざという時、事情を知っている者がいるのといないのでは違いますからね」

 カトレアとしてもティアのために全てを掛ける覚悟はあるが守るべき家族がいる分だけ身動きが取りにくくなる可能性がある。協力者の存在は純粋に有難かった。

「お姉様も正体を隠したいようですから、しばらくは見守るだけになると思いますが、いざという時はよろしくお願いしますね」

「こちらこそ。よろしくお願いします」

 こうして、本人が知らぬ間に影ながらティアを応援する同盟が結成されたのだった。
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