王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第13章 2度目の学園生活

47 決闘騒ぎ

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 私とフルールは助けを求めにきた1年生の女子生徒と共に修練場へと急いで向かうことにした。

「それで一体誰と誰が決闘しているのですか?」

「ユウ君……私のクラスメイトで平民の男の子と2年生で貴族のアレク様です。魔術の練習のために少し場所を広く使いたくてアレク様にお願いしたところで口論になって……」

 彼女の説明によると修練場の一画を使ってユウが魔術の練習を行いアレクが剣術の練習をしていたらしい。
 ユウも最初の頃は魔術の構築や魔力制御の練習をしていただけだったので広い場所は必要としていなかった。だが、実際に魔術を放つとなれば誤射を防ぐためにも広い場所が必要となる。そのためユウがアレクに少し場所を開けてくれないだろうかとお願いしたそうだ。

「アレク様は平民のお前ごときが指図するなと取り合ってくれなくて。それに怒ったユウ君が貴族なんて偉そうにしているだけの役立たずって言い返したらアレク様に剣を向けられて決闘を言い渡されたんです」

 決闘というのは元々貴族同士の争いを決着させるための手段の1つだ。
 見届ける貴族を1人以上選出した上で互いの要求を契約として残し、決闘の結果によって決着をつけるというもの。
 元々は領地間の争いが大規模な戦争にならないように当主同士で決着させるために生まれたものだった。

「決闘とは穏やかではありませんね……そもそも爵位を持たぬ貴族子息では決闘など成立しないではないですか…っと、あの場所のようですね」

 走りながら状況を確認しているうちに騒ぎのあった修練場に辿り着いた。
 修練場の周りには大勢の人が集まっていて場が喧騒に包まれていて、奥のほうには2人の姿が見えた。
 彼女の話によると杖を持っているのがユウで剣を持っているのがアレクだそうで、丁度アレクの放った斬撃にユウが吹き飛ばされたところだ。

「一先ず止めないといけないですね……ティアは後から彼女と一緒についてきてください」

 フルールはそう言うと身体強化を使って人垣を跳び越えて修練場の中に割り込んだ。

「そこまでです!双方引き下がりなさい!」

 追い打ちをかけようとしたアレクの剣をフルールのレイピアが受け止め、苦し紛れに放ったユウの魔術もフルールの魔術障壁が受け止める。
 フルールが代々騎士の家系とはいえ、手加減をしてないであろう2人の攻撃を1人で止めるのは流石は生徒会に選ばれることはありそうだ。少なくとも王立学園の中で10本の指には入っているだろう。

「ユウ君……」

 その隙に私たちも人垣をすり抜けて修練場の上に辿り着いた。

「フルール……これは俺とこいつの戦いだ。邪魔をするな!」
「生徒会もどうせ貴族の味方なんだろ!?」

 アレクもユウもどちらも引き下がるつもりはないようだった。それどころか邪魔をするなら生徒会である私やフルールにも牙を剥きかねないくらいには激昂しているようだった。

「修練場の中では保護されていますから今引けばどちらも軽い注意くらいでは済みます……ですが、これ以上抵抗すると言うのでしたら生徒会として処罰を下す必要が出てきます……アレク。貴族としての誇りを傷つけるつもりですか?」

「っ……」

 王立学園は最低限のルールの上に立つ場所だ。特に生徒会が学園の運営に関わっている現在は貴族社会そのものの縮図に近いだろう。
 そのような生徒会が処罰を下したとなれば当然アレクの家にも連絡がいく。情報収集が得意な大半の貴族は隠してもいない学園内の出来事は簡単に把握できるだろう。
 つまりは瑕疵まではいかなくても将来の弱みになってしまうわけだ。
 そのことをよく知っているアレクは言葉に詰まって剣を下ろす。だが、フルールの言葉に納得できなかったユウは怒りに満ちた表情で反論してきた。

「最初に敵意を向けてきたのはアレクの方です。悪いのは彼だけのはずだ……」

「大勢がいる前で言い返した時点で貴方も同じです。ユウさん引き下がってもらえませんか?」

 貴族であるフルールよりは同じ平民の私が説得した方が良いだろうとユウの前に立つ。

「お前だって同じ平民だろ!?俺たちがどれだけ貴族から搾取されてきたかは知っているはずだ。それともなにか!?生徒会に入って、力を持って、お前もそっち側に立ったとでも言うのかよ!?」

「少なくとも王立学園の中では平民も貴族も同じ扱いです。処罰にしても褒章にしても評価に差はありませんよ」

「信じられるかよ!?」

 ユウはそう言うと手のひらに魔力を集めようとした。彼の実力であれば1秒もあれば術式を構築して魔術を発動させることができるだろう。
 だが、この状況で魔術を行使してしまうと、その段階で抵抗したとして重い処分が下されてしまう。たとえ魔術が防がれて誰も傷つかなかったとしてもだ。

 私としてもユウがこのまま処分を受けるのは望むことではない。そのため魔術が発動される前に対処することにした。術式が構築される一瞬を狙って微弱な魔力波をぶつけて妨害する。タイミングが限られているうえに術者の魔力制御力が高いと使えないが、こういう状況では役にたつ技術だ。

「なっ……!?」

「もしも、何かしらの意見があるのでしたら正式な手順に則ってもらえれば生徒会で精査します。今日のところは、どちらも注意を受け入れて大人しく引き下がった。それで構いませんよね?」

 ユウは魔術が発動しなかったことに驚いていたが私の言葉を聞いて渋々納得する様子を見せた。
 フルールも私が行ったことに気づいていそうだが異論はないらしい。

「構いませんよ。わたくしとしても生徒同士で意見をぶつけ合うことには賛成ですし」

 問題が解消されたわけではないが、一先ずは事態を鎮静化することができたようだ。
 けれど、この事態が王立学園内の平民と貴族の溝を深め、争いの激化を招く引き金を引くことになる。
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