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第13章 2度目の学園生活
58 夢想輪廻
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闇属性精神干渉系の最上級魔術、夢想輪廻。
これは相手を終わらない夢へと誘う魔術だ。術者が思い描いた感覚を伴う永い夢を見せることで相手を無力化し、使い方によっては痛みを与え続けたり精神を破壊したりすることも可能である。
夢に囚われてしまえば余程の精神力がない限り自力で解くことが難しく、長い時をかけるか術者か高位の魔術使いである第三者しか解放できないとも言われている。
魔力消費や難易度が高いため使える術者が少なく、他の精神干渉系魔術と同様に相手の魔力が高かったり精神が強固であれば防がれる可能性が高いため使い勝手こそ良くないものの、とても強力な魔術と言えるだろう。
「はぁはぁはぁ……」
とはいえ他の魔術に乗せる無茶な運用は、思いのほか魔力の消費が激しかった。全身を冷や汗が溢れ出しつい息が荒くなってしまう。
私の魔力量はラティアーナの頃の10倍くらいあってエスペルト王国の伯爵家の平均並には魔力が多い。
そのような今の私であっても全魔力量の8割を消費するこの魔術は負担がかなり大きく下手に行使することはできないくらいだ。
「なんだ……失敗か?」
部屋の中に光が戻ると、目の前にいる男たちは何も変わらない姿で私のことを見ていた。全員が夢に囚われることなく目の前の男が勝ち誇った表情で呟く。
けれど、この結果は私の想定通りだ。
「いえ。成功してますよ。貴方たちのお仲間は……サチの家族を見張っていた者たちは全て無力化しましたから」
男たちが身につけている魔術具には特定の魔術具を作動させるほかに仲間との通信を行う機能が盛り込まれていた。
通信用の魔術には相手を特定するための対になる仕組みが存在するため術式を解析できれば相手を特定することも可能となる。
あとは魔術の通信に夢想輪廻を乗せれば遠く離れた相手にも魔術を行使するおとができる。距離が離れるほど魔術の効力は落ちるが、並の人間に使うだけなら十分すぎる。
「……ありえない。届くはずがない……」
「事実、王都にいた6人とも何もできませんから」
「っ……」
通信魔術の経路を辿れば相手の位置を把握することもできる。場所さえ判明してしまえば反則に近い方法ではあるが、一瞬だけ王鍵に接続して眼を使えば状況を確認することは造作もない。
これで人質の安全も高まったというわけだ。
「ま、まだ他にも仲間はいる……お前が下手なことをすれば俺達でも把握していない上の連中が人質を殺すことになる」
「馬鹿ですか?人質は生きているからこそ意味があるのですよ。貴方たちが簡単だと考えているそれは、危険がかなり大きい賭けのような方法です」
私は近くに転がっていた杖を足で弾いて手に取ると足元を軽く叩いた。
「私が魔力を込めればこの部屋の魔力糸を一斉に収縮することも可能です。貴方たちを傷つけずに拘束することもできれば無数の糸によって斬り刻むこともできます」
試しに僅かに魔力糸の拘束を強めてみると男たちから悲鳴のような声が漏れた。皮膚の部分が少し食い込んだだけだが流血を伴う痛みは恐怖を強く思わせる。
「大人しくするから……俺だけでも、た、助けてくれ……」
「何でもするから、見逃して……」
「お、おい!?」
集団の中で1人でも命乞いをする者が現れれば、あとは数珠つなぎのように連鎖していく。もはや私に抵抗しようとしているのは目の前にいるリーダー格の男だけだ。
「さて、貴方たちに指示を出したのは誰ですか?」
魔力糸の拘束を強めつつ杖を向けて先端に大気中の魔力を集束させていく。拳くらいの大きさの魔力弾を高速回転させながら問いかけると、目の前の男も諦めたように涙目で叫んだ。
「わかった!わかったから!こ、殺さないでくれ!俺たちはただ依頼を受け……」
ちょうど、その時だった。
部屋の外に強大な魔力を感じた瞬間、建物を揺らすほどの轟音が襲い掛かる。魔力を遮り頑丈に造られているはずの壁や天井などが瓦解し、私の魔力糸を基点とした結界も持ちこたえる間もなく弾け飛んだ。
部屋の中にサチやユウ、男たちの悲鳴が響き渡るなか、私は杖を構えて迫りくる魔力の前に躍り出る。腰の袋から取り出した宝石に魔力を流して飽和させた。
「伏せて!」
行使するのは上級防御魔術。対魔力用の反射効果を付与した魔力の盾を造り出すものだ。
私が杖を薙ぎ払えば杖の先端近くに生み出した魔術の盾も同じように連動して動く。
敵の強大な魔力のせいで魔術の盾の一部がひび割れて削られるが、弾いた敵の攻撃は私たちから逸れて建物の天井を消し去って上空へと消えていった。
「サチ、ユウ、2人とも無事?」
「けほっ……だ、大丈夫です」
「どうして……」
瓦礫と土煙が舞う部屋の中でサチは咳き込みながらも答えてくれた。近くにいたユウも怪我はなさそうだが私の行動に納得できないようで色白い表情で不思議そうに赤い目を向けてくる。
「2人のことは傷つけないと言ったでしょう?今回の件は脅されていただけで2人に責はない……全てはここに転がっている男たちのせいだから」
私はそう言って近くの床に束なって転がっている男たちに目を向けた。先ほどの攻撃から守るために拘束していた魔力糸を引き寄せたわけだが強引に動かしたせいで気を失ってしまったらしい。
骨や腕の数本くらい逝った気がするが命が助かったのだから感謝してほしいくらいだ。
「それにしても王立学園の結界や建物を破壊するなんて何者ですか?」
私が見上げた先には顔を隠した一人の人間が空に立っていた。
肩にはまるでロケットランチャーみたいな大きな魔術具が背負われていて、恐らく今の攻撃を放った物なのだろう。それ以外にも魔術具を沢山身に付けているようで得体が知らない相手だ。
「……待て!」
目の前の相手は私の問いかけに何も反応を示さずに後ろへ振り向いた。
相手を逃がさないように魔力糸による拘束をしようと魔力を込めようとするが、相手の方が一歩早かったようだ。
空間転移の魔術式が浮かび上がると同時に、王立学園の上空から黒い球体が疎雨のように降り注ぐ。
それらは地面に落ちた瞬間、パリッと音を立てて球体にひびが入り弾け飛んだ。
「魔物か……」
黒い球体の中から現れたのは森の奥に生息するような比較的強い魔物たちだった。
これは相手を終わらない夢へと誘う魔術だ。術者が思い描いた感覚を伴う永い夢を見せることで相手を無力化し、使い方によっては痛みを与え続けたり精神を破壊したりすることも可能である。
夢に囚われてしまえば余程の精神力がない限り自力で解くことが難しく、長い時をかけるか術者か高位の魔術使いである第三者しか解放できないとも言われている。
魔力消費や難易度が高いため使える術者が少なく、他の精神干渉系魔術と同様に相手の魔力が高かったり精神が強固であれば防がれる可能性が高いため使い勝手こそ良くないものの、とても強力な魔術と言えるだろう。
「はぁはぁはぁ……」
とはいえ他の魔術に乗せる無茶な運用は、思いのほか魔力の消費が激しかった。全身を冷や汗が溢れ出しつい息が荒くなってしまう。
私の魔力量はラティアーナの頃の10倍くらいあってエスペルト王国の伯爵家の平均並には魔力が多い。
そのような今の私であっても全魔力量の8割を消費するこの魔術は負担がかなり大きく下手に行使することはできないくらいだ。
「なんだ……失敗か?」
部屋の中に光が戻ると、目の前にいる男たちは何も変わらない姿で私のことを見ていた。全員が夢に囚われることなく目の前の男が勝ち誇った表情で呟く。
けれど、この結果は私の想定通りだ。
「いえ。成功してますよ。貴方たちのお仲間は……サチの家族を見張っていた者たちは全て無力化しましたから」
男たちが身につけている魔術具には特定の魔術具を作動させるほかに仲間との通信を行う機能が盛り込まれていた。
通信用の魔術には相手を特定するための対になる仕組みが存在するため術式を解析できれば相手を特定することも可能となる。
あとは魔術の通信に夢想輪廻を乗せれば遠く離れた相手にも魔術を行使するおとができる。距離が離れるほど魔術の効力は落ちるが、並の人間に使うだけなら十分すぎる。
「……ありえない。届くはずがない……」
「事実、王都にいた6人とも何もできませんから」
「っ……」
通信魔術の経路を辿れば相手の位置を把握することもできる。場所さえ判明してしまえば反則に近い方法ではあるが、一瞬だけ王鍵に接続して眼を使えば状況を確認することは造作もない。
これで人質の安全も高まったというわけだ。
「ま、まだ他にも仲間はいる……お前が下手なことをすれば俺達でも把握していない上の連中が人質を殺すことになる」
「馬鹿ですか?人質は生きているからこそ意味があるのですよ。貴方たちが簡単だと考えているそれは、危険がかなり大きい賭けのような方法です」
私は近くに転がっていた杖を足で弾いて手に取ると足元を軽く叩いた。
「私が魔力を込めればこの部屋の魔力糸を一斉に収縮することも可能です。貴方たちを傷つけずに拘束することもできれば無数の糸によって斬り刻むこともできます」
試しに僅かに魔力糸の拘束を強めてみると男たちから悲鳴のような声が漏れた。皮膚の部分が少し食い込んだだけだが流血を伴う痛みは恐怖を強く思わせる。
「大人しくするから……俺だけでも、た、助けてくれ……」
「何でもするから、見逃して……」
「お、おい!?」
集団の中で1人でも命乞いをする者が現れれば、あとは数珠つなぎのように連鎖していく。もはや私に抵抗しようとしているのは目の前にいるリーダー格の男だけだ。
「さて、貴方たちに指示を出したのは誰ですか?」
魔力糸の拘束を強めつつ杖を向けて先端に大気中の魔力を集束させていく。拳くらいの大きさの魔力弾を高速回転させながら問いかけると、目の前の男も諦めたように涙目で叫んだ。
「わかった!わかったから!こ、殺さないでくれ!俺たちはただ依頼を受け……」
ちょうど、その時だった。
部屋の外に強大な魔力を感じた瞬間、建物を揺らすほどの轟音が襲い掛かる。魔力を遮り頑丈に造られているはずの壁や天井などが瓦解し、私の魔力糸を基点とした結界も持ちこたえる間もなく弾け飛んだ。
部屋の中にサチやユウ、男たちの悲鳴が響き渡るなか、私は杖を構えて迫りくる魔力の前に躍り出る。腰の袋から取り出した宝石に魔力を流して飽和させた。
「伏せて!」
行使するのは上級防御魔術。対魔力用の反射効果を付与した魔力の盾を造り出すものだ。
私が杖を薙ぎ払えば杖の先端近くに生み出した魔術の盾も同じように連動して動く。
敵の強大な魔力のせいで魔術の盾の一部がひび割れて削られるが、弾いた敵の攻撃は私たちから逸れて建物の天井を消し去って上空へと消えていった。
「サチ、ユウ、2人とも無事?」
「けほっ……だ、大丈夫です」
「どうして……」
瓦礫と土煙が舞う部屋の中でサチは咳き込みながらも答えてくれた。近くにいたユウも怪我はなさそうだが私の行動に納得できないようで色白い表情で不思議そうに赤い目を向けてくる。
「2人のことは傷つけないと言ったでしょう?今回の件は脅されていただけで2人に責はない……全てはここに転がっている男たちのせいだから」
私はそう言って近くの床に束なって転がっている男たちに目を向けた。先ほどの攻撃から守るために拘束していた魔力糸を引き寄せたわけだが強引に動かしたせいで気を失ってしまったらしい。
骨や腕の数本くらい逝った気がするが命が助かったのだから感謝してほしいくらいだ。
「それにしても王立学園の結界や建物を破壊するなんて何者ですか?」
私が見上げた先には顔を隠した一人の人間が空に立っていた。
肩にはまるでロケットランチャーみたいな大きな魔術具が背負われていて、恐らく今の攻撃を放った物なのだろう。それ以外にも魔術具を沢山身に付けているようで得体が知らない相手だ。
「……待て!」
目の前の相手は私の問いかけに何も反応を示さずに後ろへ振り向いた。
相手を逃がさないように魔力糸による拘束をしようと魔力を込めようとするが、相手の方が一歩早かったようだ。
空間転移の魔術式が浮かび上がると同時に、王立学園の上空から黒い球体が疎雨のように降り注ぐ。
それらは地面に落ちた瞬間、パリッと音を立てて球体にひびが入り弾け飛んだ。
「魔物か……」
黒い球体の中から現れたのは森の奥に生息するような比較的強い魔物たちだった。
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