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第13章 2度目の学園生活
72 アリアの強さ
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アリアの戦いは私が知っているものとは一線を画していた。立ち回りを教えてくれた時に剣術もある程度使えるとは言っていたが、ある程度の範疇を超えている。
私の記憶にあるラティアーナだった頃の彼女は、武具を持たずに素手で魔術を扱う治癒や支援に特化したタイプだった。剣術はもちろんのこと簡単な護身術も習得していない。近接戦闘や魔術を含め攻撃や防御は全てノアやドムの2人に任せていたはずだ。
だが、今のマリアは全く違う。
両手で聖剣を持ち身体強化を行使しながら聖なる魔力を纏わせた斬撃を素早く放つ。それも力任せではなく型に則った綺麗で重い剣だ。
「……後ろから援護をと思っていたけど必要なさそうですね」
邪気に染まった魔物は、膂力が強化されている代わりに知力が低く本能のままに行動することが多い。
襲いかかってくる魔物たちは、まるで火に集まる夏の虫のようだった。先頭を進むアリアの魔力に引き寄せられた瞬間、聖なる斬撃を受けて両断されて沈黙していく。
「アリアは精霊教流剣術の師範代です。単純な剣術だけで見れば精霊教会の中でも十本の指には入ります。それに……」
魔物たちもたて続けに屠られたことで本能が命の危機を感じとったようだった。距離をとって私たちを囲むような動きを見せるが、囲まれるよりも早くアリアが動く。
アリアは聖属性の魔力弾を複数創り出すと魔物の群れに目掛けて斉射した。魔力弾に砕かれた十を超える魔物たちは避ける余裕すらもなく同時に崩れ落ちていく。
「すごい……」
元々得意だった魔力制御に加えて剣術も攻撃系統の魔術も堅実で一流と言って差し支えないだろう。この10年でどれだけ練習したのか分からないが並大抵の努力では辿り着けない領域だった。
「ふふ。アリア様はエスペルト王国の教会の中で最強の騎士様ですから!」
隣ではマリアがすごく嬉しそうにしていた。
それを見た私も嬉しい気持ちになった。
それから、私たちは森の奥へと進んでいった。
向かってくる敵のほとんどはアリアの剣と魔術が粉砕し、偶にくる後方や側方からの敵もロナの魔術によって消滅する。
私やマリアが出る幕はなく、当初の依頼通りに森の中を案内するだけとなった。
常闇の大迷宮まで最短距離を突っ切って進めば日が暮れる頃には洞窟が見える場所まで辿り着くことができた。
「ここまでですね……マリア。これ以上の無理は禁物です」
「ご、ごめんなさい……」
私の隣ではマリアが顔色を悪くして、しゃがみ込んでいた。
私の付与魔術とロナの加護によって邪気による影響は大幅に軽減されている。それでも呼吸をすれば少なからず邪気に染まった魔力を取り込んでしまうだろう。常闇の大迷宮に繋がっている洞窟の近くは、ことさら想定以上に魔力濃度が高いことも体調を崩す原因の1つになっているはずだ。
「洞窟のところまで来ることができれば第一目標は達成できました。想定以上に邪気が濃いですしダンジョンの中に入るには十全な用意をしたほうが良さそうです。マリアの気にするところではありませんよ」
アリアは申し訳なさそうにするマリアに対して優しそうな笑みを浮かべて頭を撫でる。
2人の関係は師匠と弟子の関係に近いそうだ。けれどたまに親子みたいな関係に見えることがあって微笑ましい気持ちで一杯になる。アリアが孤児院の子どもたちに接していた時のことを思い出して懐かしい気分だ。
「……アリア。早くここを離れたほうがいいかもしれません。洞窟の中から何かが来る」
感傷に浸っていると、ロナの厳しい声が響いた。
同時に嫌な気配を感じて私とアリアがほぼ同時に洞窟の入口に顔を向けた。探知系の魔術を使わなくても感じ取れるほどの強大な気配だ。
「ロナ。マリアとティアさんを連れて先に行きなさい」
「わかりました。アリアは?」
「私はここで足止めを……時間を稼いだらすぐに合流するので」
嫌な気配は私たちがいる場所を目掛けて一直線に近づいてきている。敵が私たちのことを狙っているのは、まず間違いなさそうだった。
「ロナさんだったらマリアを連れた状態でも魔物を相手にしながら進めますか?」
「私は元々魔術が主体ですから……森にいた魔物であれば例え囲まれたとしても問題ありません」
森にいた魔物の群れの強さは冒険者で例えるならBランクパーティと同等くらいだ。並のAランク1人でも誰かを守りながら戦うのは厳しいはず。それを全く問題ないと断言できるのだからロナも相当強くなっているのだろう。
であれば私がいなくても大丈夫なはずだ。
「近付いてくる気配は私が常闇の大迷宮の地下深くに落ちた時に遭遇したものと似ています。なので私もここに残ります」
「……危険ですよ?」
アリアは私の実力をある程度把握しているらしくあからさまに反対しなかった。それでも当初の依頼よりも危険ではあるため念押ししてきたが、2人なら大丈夫だと告げると私がここに残ることを了承してくれた。
そしてロナとマリアが出発した直後のことだ。
洞窟の入口からは3メートル近い大きさの邪気の染まった生物が姿を現した。
「あれは……悪獣ですか?」
「みたいですね。迷宮で倒したものと似てますが、邪気に染まっているだけ禍々しく感じます」
私の記憶にあるラティアーナだった頃の彼女は、武具を持たずに素手で魔術を扱う治癒や支援に特化したタイプだった。剣術はもちろんのこと簡単な護身術も習得していない。近接戦闘や魔術を含め攻撃や防御は全てノアやドムの2人に任せていたはずだ。
だが、今のマリアは全く違う。
両手で聖剣を持ち身体強化を行使しながら聖なる魔力を纏わせた斬撃を素早く放つ。それも力任せではなく型に則った綺麗で重い剣だ。
「……後ろから援護をと思っていたけど必要なさそうですね」
邪気に染まった魔物は、膂力が強化されている代わりに知力が低く本能のままに行動することが多い。
襲いかかってくる魔物たちは、まるで火に集まる夏の虫のようだった。先頭を進むアリアの魔力に引き寄せられた瞬間、聖なる斬撃を受けて両断されて沈黙していく。
「アリアは精霊教流剣術の師範代です。単純な剣術だけで見れば精霊教会の中でも十本の指には入ります。それに……」
魔物たちもたて続けに屠られたことで本能が命の危機を感じとったようだった。距離をとって私たちを囲むような動きを見せるが、囲まれるよりも早くアリアが動く。
アリアは聖属性の魔力弾を複数創り出すと魔物の群れに目掛けて斉射した。魔力弾に砕かれた十を超える魔物たちは避ける余裕すらもなく同時に崩れ落ちていく。
「すごい……」
元々得意だった魔力制御に加えて剣術も攻撃系統の魔術も堅実で一流と言って差し支えないだろう。この10年でどれだけ練習したのか分からないが並大抵の努力では辿り着けない領域だった。
「ふふ。アリア様はエスペルト王国の教会の中で最強の騎士様ですから!」
隣ではマリアがすごく嬉しそうにしていた。
それを見た私も嬉しい気持ちになった。
それから、私たちは森の奥へと進んでいった。
向かってくる敵のほとんどはアリアの剣と魔術が粉砕し、偶にくる後方や側方からの敵もロナの魔術によって消滅する。
私やマリアが出る幕はなく、当初の依頼通りに森の中を案内するだけとなった。
常闇の大迷宮まで最短距離を突っ切って進めば日が暮れる頃には洞窟が見える場所まで辿り着くことができた。
「ここまでですね……マリア。これ以上の無理は禁物です」
「ご、ごめんなさい……」
私の隣ではマリアが顔色を悪くして、しゃがみ込んでいた。
私の付与魔術とロナの加護によって邪気による影響は大幅に軽減されている。それでも呼吸をすれば少なからず邪気に染まった魔力を取り込んでしまうだろう。常闇の大迷宮に繋がっている洞窟の近くは、ことさら想定以上に魔力濃度が高いことも体調を崩す原因の1つになっているはずだ。
「洞窟のところまで来ることができれば第一目標は達成できました。想定以上に邪気が濃いですしダンジョンの中に入るには十全な用意をしたほうが良さそうです。マリアの気にするところではありませんよ」
アリアは申し訳なさそうにするマリアに対して優しそうな笑みを浮かべて頭を撫でる。
2人の関係は師匠と弟子の関係に近いそうだ。けれどたまに親子みたいな関係に見えることがあって微笑ましい気持ちで一杯になる。アリアが孤児院の子どもたちに接していた時のことを思い出して懐かしい気分だ。
「……アリア。早くここを離れたほうがいいかもしれません。洞窟の中から何かが来る」
感傷に浸っていると、ロナの厳しい声が響いた。
同時に嫌な気配を感じて私とアリアがほぼ同時に洞窟の入口に顔を向けた。探知系の魔術を使わなくても感じ取れるほどの強大な気配だ。
「ロナ。マリアとティアさんを連れて先に行きなさい」
「わかりました。アリアは?」
「私はここで足止めを……時間を稼いだらすぐに合流するので」
嫌な気配は私たちがいる場所を目掛けて一直線に近づいてきている。敵が私たちのことを狙っているのは、まず間違いなさそうだった。
「ロナさんだったらマリアを連れた状態でも魔物を相手にしながら進めますか?」
「私は元々魔術が主体ですから……森にいた魔物であれば例え囲まれたとしても問題ありません」
森にいた魔物の群れの強さは冒険者で例えるならBランクパーティと同等くらいだ。並のAランク1人でも誰かを守りながら戦うのは厳しいはず。それを全く問題ないと断言できるのだからロナも相当強くなっているのだろう。
であれば私がいなくても大丈夫なはずだ。
「近付いてくる気配は私が常闇の大迷宮の地下深くに落ちた時に遭遇したものと似ています。なので私もここに残ります」
「……危険ですよ?」
アリアは私の実力をある程度把握しているらしくあからさまに反対しなかった。それでも当初の依頼よりも危険ではあるため念押ししてきたが、2人なら大丈夫だと告げると私がここに残ることを了承してくれた。
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