王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第13章 2度目の学園生活

81 不穏な噂

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 クラウディアによるとBクラスを中心に私とコルネリアスの恋仲をアスカルテが邪魔をしているという噂が蔓延っているらしい。
 しかも、ただの噂というだけではなく悲恋の恋物語として広まりつつあるそうだ。
 それは例えるならシンデレラストーリーのようなもの。幼い頃に孤児となり不幸に見舞われながらもコルネリアスと恋に落ち幸せを掴むお話。
 けれど、平民の私と王太子のコルネリアスでは順風満帆とはいかない。公爵令嬢の立場を使って婚約者となったアスカルテが最大の障害となって立ちはだかるそうだ。

「くだらない噂ですね。貴族ともあろう方々が、このような噂に惑わされているのですか?」

「噂の出元は不明ですし信じていない者も多いですわ。ですがあくまで噂として広がっているのも事実。火のない所に煙は立たないとも言いますし,根拠のない噂であってもアスカルテ様を陥れる結果にはなるでしょう」

 つまりはアスカルテが何かをしたという話ではなく、アスカルテが何かをした噂があるという話が広まりつつあるのだろう。
 あくまで噂があるという話をしているのだから真実がどうであっても関係ない。噂の内容が間違いであっても嘘を付いたことにはならない。処罰されないギリギリのグレーゾーンだ。

「火のない所でも燃やせば煙は立ちますよ……噂を流して誘導するのは貴方たちの常套手段でしょう?」

「否定はできないですけれど、相手を直接陥れるような噂を流すなど三流以下のすること。だからこそ貴方のような平民が発端かと思ったのですけど……」

「まぁ私たち三人が親しい上で私とコルネリアスが恋仲になっている噂を流れれば良いなと考えていたのは本当ですけどね」

 二人が婚約しても私とコルネリアスが親しい様子を見せつけているのは、婚約する前から互いに恋情を抱いていたことを証明するためだった。
 あくまで私とコルネリアスは浮気をしているわけではない体裁が必要があり、アスカルテは認めているが家の都合で仕方がないことを示す必要があるからだ。

「そもそも婚約が発表されてからアスカルテは一度も学園に来ていないのにどうやって邪魔をするのですか?婚約だってアスカルテの一存で決められるわけがないでしょうに……それがまかり通るなら、私たちは苦労なんてしませんよ」

「ぐっ……それはそうでしょうけれど……」

 クラウディアは直情的なように見えて意外と素直なところがあるらしい。平民である私の言葉でも筋が通っていればある程度受け入れてくれそうだった。

「ですが、そこの平民が嘘をついている可能性もあるのでは?」

「平民が妃になるためには特別な事情が必要です。噂を流す理由はあります」

 けれど、取り巻きの令嬢たちは用心深かった。私の言葉を鵜呑みにはせずに全ての可能性を考慮しているようだ。

「いえ、嘘ではなさそうですわね……本当に残念です。貴方が原因であれば貴方を消してしまうだけで解決しましたのに」

「……普通、本人の目の前で消すとか言いますか?」

「お父様からは正当な理由さえあれば力で決着を付けろと言われてますので。アスカルテ様を傷つけるものは誰であれ許すつもりはありませんし」

 先ほどよぎった考えは訂正だ。
 クラウディアは直情というよりも脳筋に近い気がする。それも力で物事を解決しようとする割に勘が鋭く、本能で正解を選びとることができるタイプだ。

「その考え方は嫌いじゃないですけどね……でもアスカルテのことを好きすぎではないですか?」

 クラウディアを見ていると私の騎士たちのことを思い起こさせる。彼らのように忠誠や騎士の誓いを捧げているわけではないだろうに随分と慕っているように見える。

「アスカルテ様はわたくしたちの世代において最強格の剣士であり魔術士ですわ。たとえ歳が下だとしても、わたくしにとって憧れであり目標でありますもの。慕う理由としては十分ではなくて?」

「構わないと思いますよ。アスカルテは私にとって大切な親友です。理由は違くても慕っている気持ちに違いはないと思います……そう意味ではアスカルテを大切に想う者同士で協力できるとは思えませんか?」

 クラウディアの性格は私にとっても好ましかった。
 彼女であれば利害関係によって敵味方が変わることはないだろうし、アスカルテのことを裏切ることはないだろうと信頼感がある。少なくともアスカルテの味方でいる以上は身分に関係なく協力関係を築けるはずだ。

「何が言いたいのです……」

「クラウディア様はアスカルテの味方なのですよね?アスカルテの想いを遂げさせたいと思いますよね?そのためには私とコルネリアスが結ばれた方が良いと思いませんか?」

「……そのために貴方たちに協力しろということですの?」

 その返事を聞いて確信した。やはりクラウディアはアスカルテが隠している想いに気付いているようだ。

「私とコルネリアスに協力してもらえればクラウディア様にとっても良い結果になると思いますよ」

「それを実現させるためには貴方が妃になる必要がありますわ。ただの軟弱な平民が王妃の座につけるとでも?」

「試してみますか?」

 私はクラウディアの問いかけに殺気をのせた視線で返す。同時に魔力による全力の威圧を放つとクラウディアの取り巻き令嬢たちは、顔色を悪くして一歩後ろに下がった。
 そのような中でもクラウディアは顔色ひとつ変えないあたり中々やるようだ。

「……良いでしょう。わたくしに力を示すことができれば貴方に協力して差し上げます」

 私はクラウディアの言葉を聞いて笑みを浮かべた。
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