王女の夢見た世界への旅路

ライ

文字の大きさ
473 / 494
第13章 2度目の学園生活

83 クラウディアとの決着

しおりを挟む
「えっ?」

 魔剣グラヴが私に触れる寸前、驚いた声と共にクラウディアの身体が空へと跳ねた。
 これは増加した重力とクラウディアの勢いを利用した柔術や合気のような投げ技だ。それを私自身ではなく魔術盾を複数展開して動かすことによって疑似的に再現したものになる。

「ここまでです」

 クラウディアも体術を得意としているらしく受け身をとるのは流石だった。
 けれど、受け身をとる瞬間に杖の先端を首元に当ててしまえばクラウディアとて反応することは難しい。
 加えて、互いに体勢を崩している状態だが魔術の発動速度という点では杖を当てている私に分がある。
 そのことを理解しているクラウディアは悔しそうな表情を浮かべて「降参しますわ」と言って高重力を解除した。

「では協力していただけますよね?」

「……約束は守りますわ」

 立ち上がって手を伸ばすとクラウディアは渋々私の手をとった。
 内心は納得できていないかもしれないが、それでも決闘の結果を遵守するのは高位貴族としての誇りだろう。

「ですが協力するのはわたくし1人だけ。それも、わたくしが協力できる範囲に限りますわよ」

 クラウディアはアウレリアとクラシリアの二人は無関係だと庇うように前に立った。
 けれど、二人はクラウディアに感謝を告げてから力強い表情を浮かべて口を開いた。

「わたくしも助力いたします……決して貴方のためではなくてよ」

「ええ。クラウディア様のためです」

「わかってます。あくまでこの戦いは私とクラウディア様のものですからね。それに無理なことをお願いするつもりもありません」

 クラウディアにお願いしたい内容で簡単に思いつくのは2つ。
 簡単な噂を流すことと、いずれ顔つなぎをしてほしいことだ。今後の流れ次第では別の内容もお願いすることになるかもしれないが、少なくとも罪になるようなことや貴族令嬢としての立場を悪くすることは、お願いするつもりはない。

「どちらにしてもアスカルテが来ないと話を進めることはできません。細かい話は来週でいかがでしょうか?」

「……わかりましたわ。教室では目立ちますから何かあれば寮の部屋に来てくださると助かります。アウレリア、クラシリア、行きますわよ!」

 クラウディアが2人を引き連れて去っていくのを見送り、姿が見えなくなったことを確認した私はその場に腰を下ろした。

「ふぅ……まともな身体強化を使わずにあのレベルの相手をするのは厳しいわね。流石はガイアスの娘だわ」

 クラウディアはコルネリアスやアスカルテたちとも同格の実力者だ。その中でも剣術だけを見れば学生の中では最高位といっても過言ではない。
 本来の決闘方式であれば今の私が勝利を収めるのは苦労したはずだ。

 私は少しだけ休息をとると寮へ戻ろうとした。
 けれど、修練場を出てすぐにコルネリアスの姿を見つけた私は呆れた表情を浮かべて彼に近づいた。

「見てたなら声をかけてくれれば良かったのに」

 この場にいるということはクラウディアとの戦いを見ていたのだろう。わざわざ帰り道で待つくらいなら戦いが終わったときに来れば良いと言葉にすると、コルネリアスは眉をひそめて困ったような表情をしていた。

「すまない。私とクラウディアは少し複雑な間柄だから顔を出さないほうが良いかと思った」

「従姉弟なんだから幼い頃からの付き合いじゃないの?」

 王侯貴族の子息が表舞台に出るのはお披露目以降だが、親しい間柄では幼い頃から親交をもつことがほとんどだ。
 実際、ラティアーナも幼いころからイリーナやアドリアスたちとは親しくしていた。従姉弟であれば互いの家や領地の行き来はよくあることだろう。

「幼い頃は仲が良かったのだが……まぁ色々とあっただけだ」

 普段はっきりとしているコルネリアスにしては煮え切らない態度で言葉を濁していた。
 気にはなるがコルネリアスが言いたくないのであれば無理に聞くこともないだろうと話題を変えることにした。

「そう……それで、話ってなに?ここで待っているってことは何か用があるのでしょう?」

「あぁそうだった。これから王都に帰るつもりなんだが……その時にアスカルテのお見舞いに行こうかと考えていてな。一緒にどうだ?」

 アスカルテのことは気になっていた。会えるのであれば、こちらからお願いしたいくらいだ。

「もちろん。私もアスカルテと会いたかったから嬉しい」

「それは良かった。すぐに出られそうか?」

「準備は必要ないから荷物だけ部屋に置いてマリアに一言声を掛けてからかな」

 王都に行くのであれば二日くらいは戻って来れなくなる。同室のマリアには連絡しておいた方が心配をかけずに済むだろう。

「了解した。では馬車を用意するように言ってくるから半刻後に私の寮の入口集合で構わないか?」

「わかった。すぐに準備をしてくる」

 私はコルネリアスと別れてから寮へと戻った。
 寮の部屋の中は暗くマリアもまだ帰ってきていないようだ。
 学園で使う荷物を片付けて、マリア宛の置き手紙を書いてから待ち合わせの場所へと向かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

生贄公爵と蛇の王

荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
 妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。 「お願いします、私と結婚してください!」 「はあ?」  幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。  そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。  しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

処理中です...