王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第13章 2度目の学園生活

87 稀代の悪女

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「それがあながち嘘でもないぞ。婚約者がいる、いない関わらず何人かの令息たちがティアのことを狙っているようだからな。全く……人の恋人を狙うなんて何をかんがえているのだか」

 コルネリアスは怒りを露わにして大きく息を吐いた。
 けれど、彼の言葉が可笑しくて笑いが溢れそうになる。

「それだけ聞くと私も同じだけどね。人の婚約者を奪い、他の令息たちから好意を持たれる。確かに男を誑かす稀代の悪女みたいだ」

 どうやら、想像していたよりも私は悪女だったらしい。私の見た目は、客観的に見ても平均より少し上くらいのはずだが、話したこともない男の人を誑かすことができるくらいには人気があるようだ。
 いずれはコルネリアスと結婚して王太子妃、未来の王妃となるのだから傾国の悪女と言っても過言ではないだろう。

「そして、わたくしはそんなティアを排除しようとする嫉妬にかられた令嬢と……ティアがどんなに悪女のような振る舞いをしていても不貞だけでは罪にならないですからね。逆にティアを排除するために危害を加えてことが露見すれば王太子の婚約者として不適格と見做されるでしょう。噂を流した相手からすれば邪魔なわたくしとティアを同時に片付けることができるわけですか」

 アスカルテ以外でコルネリアスと同年代で家格的に釣り合うとすればレジーナだろうが、ノーティア公爵家は政略結婚を一切しない家でもある。
 となれば侯爵家や影響力の強い伯爵家が政略的には選ばれやすいだろう。
 コルネリアスとの婚約を取り付けるために不穏な噂を流しているのであれば、その辺りの貴族の可能性が高い。

「だったら当初の予定通りに噂を流せばいいでしょ。私とコルネリアスが相思相愛でアスカルテも他に好いている相手がいるから身を引く。そんな新しい噂で上書きしてしまえばアスカルテを悪者に仕立てて嫌がらせすることもできなくなるはず」

「だが私を狙っている令嬢や婚約者の心を奪われた令嬢たちが逆恨みをしてきたらどうする?直接手を下さなくても手下の下位貴族を使っての嫌がらせをしてくるかもしれないぞ」

「それだけではありませんよ。王立学園の中はともかく、下手をすれば学園都市や街の外で襲われることもあるかもしれません」

 二人は不穏な噂を払拭したとしても私が狙われるかもしれないと心配そうな表情をしていた。
 けれど、私が狙われることは想定内。むしろ直接手を出してくれたほうが対処しやすくて助かると考えているくらいだ。

「私が狙われる分には大丈夫だと思う。貴重品は常に持ち歩いているし寮の部屋は結界で何重にも保護してるから手は出せない。それにコルネリアスの隣に立つためには二人に守ってもらうだけじゃないって証明しないとね」

「わかった。ティアに任せる」

「見守ることにはしますが、もし助力が必要な時はいつでも相談してください」

「ありがと。その時は遠慮なく相談させてもらうわ」

 二人が手を出さずにいてくれることを嬉しくて笑みが零れそうだった。
 大切な人たちが私を守ってくれることは嬉しさもあって感謝もしている。けれど、ただ守ってくれるだけの関係よりも、互いに守り協力する関係のほうが好んでいる。
 何より見守ってくれていること自体が信頼してくれているように感じられて心地よかった。

「後は噂の上書きだな。ティア、クラウディアの力は借りられると思っていいのか?」

 コルネリアスの問いかけに私は勿論と頷いた。噂を流したいと考えていることまで簡単に伝えていると言うと、コルネリアスは「滞りなく進みそうだな」と言葉にしてアスカルテを見た。

「アスカルテ。クラウディアと協力して噂を流してほしい。頼めるか?」

「任せてください。それにしてもクラウディア様が他の人のお願いを聞いてくれるのは珍しいですね」

 クラウディアと取り付けた約束について話すとアスカルテは驚いた様子を見せていた。
 アスカルテのことをかなり慕っていたように見えたが、周りには秘密にしていたらしい。加えてコルネリアスとクラウディアの仲を考えるとコルネリアスにも利になるような助力は意外だったそうだ。

「……模擬戦で勝ったら協力してくれるって話だったからね」

「クラウディア様らしいですね」

 アスカルテは納得したように頷いた。
 どちらかと言えば私の方から勝負を仕掛けたようなものだが、嘘ではないのだから問題はないだろう。あくまで言葉通りに模擬戦で力を示しただけなのだから。

 今後の方針を決めた私たちは、それから少しの間他愛のない話をしてからグラディウス公爵邸を後にした。
 コルネリアスは王城に一度帰り明日の夜に学園都市に戻ると言っていたため、貴族街の門まで送ってもらって別れることにした。
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