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第一章
障害と復旧
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「んじゃイアン、俺はバリスタを点検して回ってくるから指揮は頼んだぞ」
「わかった親父」
西の陣頭指揮はイアンが行っている。
東側はボルタが指揮を取っているが、彼にはジェイミーという優秀な弟子がいるため、バリスタやクロスボウの不具合対処を任せる事が出来た。
しかしジェイコブは弟子を取っていないため、西側は彼が技術的なフォローを担当、現場の指揮は正規軍人でもあるイアンに任せる事になった。
西側の担当には他にベァナもいるのだが、彼女は治療役として後方にいるため前線のここには居ない。
本人は魔物を討伐した実績を理由にあくまで前線で戦う事にこだわっていたが、他に治療役が居ない事もあり、危機的状況になった場合は前線に助けに入ってもらう、という条件で手を打ってもらった。
東側への襲撃は始まっていたが、こちら側にまだ敵は現れていない。
「さすがホブゴブリン対策で考えられた武器だけあって、すごい威力らしいな」
イアンは近くに居たショーンに話しかけた。
「まぁうちの親父は口は悪いけど腕はいいっすからね……」
ショーンはその武器がヒースによる発案だという事実には一切触れなかった。
彼を褒めるくらいなら、いつも怒鳴られている親父のほうを褒めた方がまだマシという事なのだろう。
「ショーンさぁ。前も言ったけどヒースさんがベァナちゃんにちょっかい出してるわけじゃないんだし、仕方無いじゃないか。ベァナちゃんって昔から大人っぽい人が好きだって言ってたし」
「……分かってるっすよ。子供の頃に誰が好きかって話になって、出て来た名前がイアンさんだったっすからね……」
「ああその話な……というか俺らの村、そもそも人少ないから選択肢無いよな」
イアンは昔話を思い出して苦笑いをする。
ショーン達が十にも満たない頃の話だ。
「それにイアンさんとあいつで模擬訓練していたのをちょっとだけ見たんすけど、騎士団の隊長さん並みの腕だったっす。あれは本当にすごいと思ったす」
「だろ? ヒースさんって自分が何歳なのかよくわからないそうだけど、多分俺と同じくらいなんだよ。どんな修業したらあんな動き出来るのかって……」
徴兵制に従って見習い兵として軍に入ったショーンではあったが、その先の事については色々と悩んでいた。
ベァナが騎士であった父を尊敬していたのは知っていたし、自分自身も村を守れるくらい戦えるようになりたいとも思っていた。
そして自分と同様、親が職人であるイアンが軍に居るというのもあり、そのまま軍に残って騎士を目指そうかとも思っていたが……
先輩であるイアンを見て、騎士になる事がどれだけ大変なのかを痛感していた。
騎士見習いから騎士になれるのは、ほんの一握りの人間なのだ。
そしてその殆どが貴族出身の兵士たちである。
騎士団が貴族を優遇しているわけではない。
完全に実力主義の組織ではあった。
しかし貴族と平民では、それまで学んできた知識や技術が格段に違うのだ。
見習い兵として軍に入団した時点で、貴族出身の兵士との差は歴然だった。
成りたいものに自由に成れるほど、この世の中は甘くはない。
その事実をショーンは社会に出て初めて痛感した。
「ま、お互い頑張ろうぜ。ショーンがいつまで軍にいるのかはわからないけどな!」
考えが見透かされているのか、イアンは冗談交じりにそう言うのだった。
西に敵が現れたのはそれからすぐの事だった。
「よし、いつもの訓練通りに全員配置に付いてくれ!」
イアンは軍でグループ戦闘の指揮を取る演習を何度か行っている。
演習ではあまり得意では無かったが、村の人間は全員家族のようなものだ。
個人個人の性格や特長はしっかり把握出来ている。
暫くして、魔物の軍勢が有効射程距離に入った。
「撃ち方……始め!」
バリスタとクロスボウによる迎撃が始まった。
その威力は試し打ちで実際に見ていたため、疑うべくもない。
『……こんな武器、軍のどこでも見たことが無い。こんなものが軍に配備されたりなんかしたら……パワーバランスが大幅に崩れてしまうだろう』
イアンは軍人としての率直な感想を感じていた。
魔物対策ならまだしも、これが戦争で使われるようになったりしたら……
イアンは狂信者集団の鎮圧等で、多少の対人戦闘の経験はあった。
しかも今襲って来ている魔族は見た目こそ違うものの、二足歩行の人型魔族だ。
そこから人同士の大規模戦闘を想像する事はそれほど難しい事ではない。
「イアンさん、ちょっと防護柵やばくないですか?」
「おっとすまん。どれどれ……こりゃちょっとまずいな。ホブゴブリンの数が想定より前線に多いせいか、防護柵の損傷が激しい……」
『巣分け』で襲ってくる集団はホブゴブリンとゴブリンの混成部隊で、その多くがゴブリンである。
今回の作戦では彼らが通る道を防護柵で塞いでしまい、殺到したゴブリン自体を障害物にしてしまうという効果も期待していた。
ゴブリン達が前にいるせいで先に進めなくなったホブゴブリンを、バリスタで狙い撃ちするわけである。
もちろん今回のように想定通りに行かなかった場合も考え、防護柵が壊れる直前に道路脇の崖に設置した落石トラップを発動し、敵の進軍数を減らすという対策も講じてある。
「ちょっとタイミング的に早いが止むを得ない。戦線を後退させよう」
イアンは声を張り上げた。
「全部隊っ! 第二狙撃地点に後退準備!」
村人達はバリスタ操作しつつ、落石が来るタイミングを待った。
再びイアンの声が辺りに響く。
「おやじーっ!! 落石トラップの発動頼む!」
「はいよっ! ふんっ!」
ジェイコブは張り詰められたロープを鉈で思いっきり切り離した。
……
ロープは確かに切られた。
しかし、暫く待っても落石は起きない。
「うそだろ……」
イアンが絶句する。
落石トラップに何か不具合が起きたらしい。
「くそっ!……仕方ない。人が作ったものだ。こういう事もあるって。俺がちょっと見てきてちょちょっと直して来る。現場は任せた」
「おいおい、気を付けて行ってくれよ?……罠を発動させた後はどこまで戦線が後退するかわからなくなるから、一旦村まで戻ってから戦線に復帰してくれ」
イアンの言葉に左手を挙げて答え、ジェイコブは鉈一つ持って、崖の上に繋がる裏道に向かって走って行ってしまった。
「……親父が何とかするまで、こちらも持たせないとな」
イアンは今一度、村人達に伝達をした。
「落石トラップに不具合があった! みんなすまんが、そのままバリスタの操作を続行、前線のホブゴブリンを狙い撃ちしてくれ! あと誰か後方まで戻って櫓の連絡担当に『緊急事態』を出すよう伝えてくれ! 急ぎで頼む!」
村人達はすぐに行動を開始した。
「ショーン、すり抜けて来たゴブリンを俺たちで叩く。剣で戦えるか?」
「大丈夫。頑張る」
防護柵の一部が壊れかかって来ていた。
また仲間を踏み台にして柵を越えるゴブリン達も出始めている。
魔物をバリスタ部隊へ近づかせないよう、排除しなければならない。
近接攻撃の訓練を受けているのはイアンとショーンだけだ。
「ホブゴブリンが抜けてきたら……全力で第二狙撃地点へ行け。いいな」
「うん、わかった」
「んじゃ行くぞ!」
もし防護柵が一気に崩されてしまったら……
二人だけではその大群を抑える事は出来ないだろう。
そうなったら間違いなく、彼らの命は無い。
二人はその恐怖と戦いながら、目の前の魔物達と戦う決意をした。
◆ ◇ ◇
崖の上のトラップまでずっと走って来たためか、ジェイコブの息は荒かった。
だかそんな事は些細なことだ。
トラップを早く稼働させないと、自分の息どころか村の息の根が止まってしまう。
「えーと……ロープはちゃんと外れているし……ああこいつか。この枯れ枝が途中で邪魔をしていたんだな……」
トラップは間違って稼働しないように二段階で発動する構造になっている。
良く見てみると一段階目の罠の途中に枯れ枝が引っかかっていた。
一段目の重しが本来はそこに無いはずの枯れ枝にぶつかって狙いが外れ、想定した場所に落ちなかったのが原因らしい。
トラップ発動用の装置は、普段は作動しないよう外してあった。迎撃態勢を取る時に事前にボルタから説明された通りに設置するのだが、枯れ枝を見落としたのか、設置した後にどこからか落ちてきて挟まってしまったのだろう。
どちらにせよ一段目は既に作動してしまった後で使い物にならない。
これを稼働させる為にはもう一度セットしなおすしかない。
ただし、一度落ちてしまった重しを持ち上げてくる時間は無い。
どうするか?
するとその時、少し離れた木々の間に巨大な影が現れた。
人よりも頭一つ分以上抜けた体高。
緑色の皮膚。
子供の胴体くらいある足や腕の太さ。
そして右手に持つ巨大な木の根。
ホブゴブリンだ。
「おいおいおい、今はお前なんかの相手をしている場合では……あっ、そうか……」
ジェイコブはおもむろに右手の鉈を構え、ホブゴブリンを威嚇した。
このトラップの後ろはすぐ崖になっていて、逃げられる場所は無い。
前方にはホブゴブリンが待ち構えている。
鉈なんかで倒せる相手でない事は十分理解していた。
ただ彼は自分の役目に忠実だった。
彼の役目……それはこのトラップを稼働させる事なのだ。
「稼働させるための重しはどこかに行っちまっている。しかし俺の体重くらいでは稼働しないはずだ。ボルタがそんな危なっかしいものを作るわけがない……」
目の前のホブゴブリンは唸り声を出しながら少しずつ近づいて来た。
『……んじゃどうするか?……』
ホブゴブリンが右手の棍棒を振り上げた。
「おしその調子だ! その物騒な小枝を、俺の足元に叩き付けてみやがれ!!」
木の根が振り下ろされようとしていた。
以前ヒースから、ホブゴブリンは棍棒を振り下ろすのが遅いという事聞いている。
チャンスは今しかない。
ジェイコブは罠とは逆方向に跳躍する。
怪物の武器が彼の居た場所に打ち下ろされた途端、その場が崩れ始めた。
ボルタの設置した岩石トラップが作動したのだ!
巨大な岩が崖を伝って次々と落ちていく。
足元が崩れた事で、巨大な魔物も巨石と共に崖の下に転落していった。
ジェイコブは罠の発動を確認し、安堵の表情を浮かべた。
罠は崖の真上にある。
そのまま落ちるのは魔物の群れに飛び込むのと同じだ。
ひとまずそれだけは避けられたが、正直助かるかどうかは運次第だった。
そもそも彼が跳んだ方向には……
最初から着地するべき地面など無かった。
モンスターの群れとは別方向だが、崖を落ちるという事実に変わりは無かった。
彼の体は木々にぶつかりながら転がり落ちていった。
「わかった親父」
西の陣頭指揮はイアンが行っている。
東側はボルタが指揮を取っているが、彼にはジェイミーという優秀な弟子がいるため、バリスタやクロスボウの不具合対処を任せる事が出来た。
しかしジェイコブは弟子を取っていないため、西側は彼が技術的なフォローを担当、現場の指揮は正規軍人でもあるイアンに任せる事になった。
西側の担当には他にベァナもいるのだが、彼女は治療役として後方にいるため前線のここには居ない。
本人は魔物を討伐した実績を理由にあくまで前線で戦う事にこだわっていたが、他に治療役が居ない事もあり、危機的状況になった場合は前線に助けに入ってもらう、という条件で手を打ってもらった。
東側への襲撃は始まっていたが、こちら側にまだ敵は現れていない。
「さすがホブゴブリン対策で考えられた武器だけあって、すごい威力らしいな」
イアンは近くに居たショーンに話しかけた。
「まぁうちの親父は口は悪いけど腕はいいっすからね……」
ショーンはその武器がヒースによる発案だという事実には一切触れなかった。
彼を褒めるくらいなら、いつも怒鳴られている親父のほうを褒めた方がまだマシという事なのだろう。
「ショーンさぁ。前も言ったけどヒースさんがベァナちゃんにちょっかい出してるわけじゃないんだし、仕方無いじゃないか。ベァナちゃんって昔から大人っぽい人が好きだって言ってたし」
「……分かってるっすよ。子供の頃に誰が好きかって話になって、出て来た名前がイアンさんだったっすからね……」
「ああその話な……というか俺らの村、そもそも人少ないから選択肢無いよな」
イアンは昔話を思い出して苦笑いをする。
ショーン達が十にも満たない頃の話だ。
「それにイアンさんとあいつで模擬訓練していたのをちょっとだけ見たんすけど、騎士団の隊長さん並みの腕だったっす。あれは本当にすごいと思ったす」
「だろ? ヒースさんって自分が何歳なのかよくわからないそうだけど、多分俺と同じくらいなんだよ。どんな修業したらあんな動き出来るのかって……」
徴兵制に従って見習い兵として軍に入ったショーンではあったが、その先の事については色々と悩んでいた。
ベァナが騎士であった父を尊敬していたのは知っていたし、自分自身も村を守れるくらい戦えるようになりたいとも思っていた。
そして自分と同様、親が職人であるイアンが軍に居るというのもあり、そのまま軍に残って騎士を目指そうかとも思っていたが……
先輩であるイアンを見て、騎士になる事がどれだけ大変なのかを痛感していた。
騎士見習いから騎士になれるのは、ほんの一握りの人間なのだ。
そしてその殆どが貴族出身の兵士たちである。
騎士団が貴族を優遇しているわけではない。
完全に実力主義の組織ではあった。
しかし貴族と平民では、それまで学んできた知識や技術が格段に違うのだ。
見習い兵として軍に入団した時点で、貴族出身の兵士との差は歴然だった。
成りたいものに自由に成れるほど、この世の中は甘くはない。
その事実をショーンは社会に出て初めて痛感した。
「ま、お互い頑張ろうぜ。ショーンがいつまで軍にいるのかはわからないけどな!」
考えが見透かされているのか、イアンは冗談交じりにそう言うのだった。
西に敵が現れたのはそれからすぐの事だった。
「よし、いつもの訓練通りに全員配置に付いてくれ!」
イアンは軍でグループ戦闘の指揮を取る演習を何度か行っている。
演習ではあまり得意では無かったが、村の人間は全員家族のようなものだ。
個人個人の性格や特長はしっかり把握出来ている。
暫くして、魔物の軍勢が有効射程距離に入った。
「撃ち方……始め!」
バリスタとクロスボウによる迎撃が始まった。
その威力は試し打ちで実際に見ていたため、疑うべくもない。
『……こんな武器、軍のどこでも見たことが無い。こんなものが軍に配備されたりなんかしたら……パワーバランスが大幅に崩れてしまうだろう』
イアンは軍人としての率直な感想を感じていた。
魔物対策ならまだしも、これが戦争で使われるようになったりしたら……
イアンは狂信者集団の鎮圧等で、多少の対人戦闘の経験はあった。
しかも今襲って来ている魔族は見た目こそ違うものの、二足歩行の人型魔族だ。
そこから人同士の大規模戦闘を想像する事はそれほど難しい事ではない。
「イアンさん、ちょっと防護柵やばくないですか?」
「おっとすまん。どれどれ……こりゃちょっとまずいな。ホブゴブリンの数が想定より前線に多いせいか、防護柵の損傷が激しい……」
『巣分け』で襲ってくる集団はホブゴブリンとゴブリンの混成部隊で、その多くがゴブリンである。
今回の作戦では彼らが通る道を防護柵で塞いでしまい、殺到したゴブリン自体を障害物にしてしまうという効果も期待していた。
ゴブリン達が前にいるせいで先に進めなくなったホブゴブリンを、バリスタで狙い撃ちするわけである。
もちろん今回のように想定通りに行かなかった場合も考え、防護柵が壊れる直前に道路脇の崖に設置した落石トラップを発動し、敵の進軍数を減らすという対策も講じてある。
「ちょっとタイミング的に早いが止むを得ない。戦線を後退させよう」
イアンは声を張り上げた。
「全部隊っ! 第二狙撃地点に後退準備!」
村人達はバリスタ操作しつつ、落石が来るタイミングを待った。
再びイアンの声が辺りに響く。
「おやじーっ!! 落石トラップの発動頼む!」
「はいよっ! ふんっ!」
ジェイコブは張り詰められたロープを鉈で思いっきり切り離した。
……
ロープは確かに切られた。
しかし、暫く待っても落石は起きない。
「うそだろ……」
イアンが絶句する。
落石トラップに何か不具合が起きたらしい。
「くそっ!……仕方ない。人が作ったものだ。こういう事もあるって。俺がちょっと見てきてちょちょっと直して来る。現場は任せた」
「おいおい、気を付けて行ってくれよ?……罠を発動させた後はどこまで戦線が後退するかわからなくなるから、一旦村まで戻ってから戦線に復帰してくれ」
イアンの言葉に左手を挙げて答え、ジェイコブは鉈一つ持って、崖の上に繋がる裏道に向かって走って行ってしまった。
「……親父が何とかするまで、こちらも持たせないとな」
イアンは今一度、村人達に伝達をした。
「落石トラップに不具合があった! みんなすまんが、そのままバリスタの操作を続行、前線のホブゴブリンを狙い撃ちしてくれ! あと誰か後方まで戻って櫓の連絡担当に『緊急事態』を出すよう伝えてくれ! 急ぎで頼む!」
村人達はすぐに行動を開始した。
「ショーン、すり抜けて来たゴブリンを俺たちで叩く。剣で戦えるか?」
「大丈夫。頑張る」
防護柵の一部が壊れかかって来ていた。
また仲間を踏み台にして柵を越えるゴブリン達も出始めている。
魔物をバリスタ部隊へ近づかせないよう、排除しなければならない。
近接攻撃の訓練を受けているのはイアンとショーンだけだ。
「ホブゴブリンが抜けてきたら……全力で第二狙撃地点へ行け。いいな」
「うん、わかった」
「んじゃ行くぞ!」
もし防護柵が一気に崩されてしまったら……
二人だけではその大群を抑える事は出来ないだろう。
そうなったら間違いなく、彼らの命は無い。
二人はその恐怖と戦いながら、目の前の魔物達と戦う決意をした。
◆ ◇ ◇
崖の上のトラップまでずっと走って来たためか、ジェイコブの息は荒かった。
だかそんな事は些細なことだ。
トラップを早く稼働させないと、自分の息どころか村の息の根が止まってしまう。
「えーと……ロープはちゃんと外れているし……ああこいつか。この枯れ枝が途中で邪魔をしていたんだな……」
トラップは間違って稼働しないように二段階で発動する構造になっている。
良く見てみると一段階目の罠の途中に枯れ枝が引っかかっていた。
一段目の重しが本来はそこに無いはずの枯れ枝にぶつかって狙いが外れ、想定した場所に落ちなかったのが原因らしい。
トラップ発動用の装置は、普段は作動しないよう外してあった。迎撃態勢を取る時に事前にボルタから説明された通りに設置するのだが、枯れ枝を見落としたのか、設置した後にどこからか落ちてきて挟まってしまったのだろう。
どちらにせよ一段目は既に作動してしまった後で使い物にならない。
これを稼働させる為にはもう一度セットしなおすしかない。
ただし、一度落ちてしまった重しを持ち上げてくる時間は無い。
どうするか?
するとその時、少し離れた木々の間に巨大な影が現れた。
人よりも頭一つ分以上抜けた体高。
緑色の皮膚。
子供の胴体くらいある足や腕の太さ。
そして右手に持つ巨大な木の根。
ホブゴブリンだ。
「おいおいおい、今はお前なんかの相手をしている場合では……あっ、そうか……」
ジェイコブはおもむろに右手の鉈を構え、ホブゴブリンを威嚇した。
このトラップの後ろはすぐ崖になっていて、逃げられる場所は無い。
前方にはホブゴブリンが待ち構えている。
鉈なんかで倒せる相手でない事は十分理解していた。
ただ彼は自分の役目に忠実だった。
彼の役目……それはこのトラップを稼働させる事なのだ。
「稼働させるための重しはどこかに行っちまっている。しかし俺の体重くらいでは稼働しないはずだ。ボルタがそんな危なっかしいものを作るわけがない……」
目の前のホブゴブリンは唸り声を出しながら少しずつ近づいて来た。
『……んじゃどうするか?……』
ホブゴブリンが右手の棍棒を振り上げた。
「おしその調子だ! その物騒な小枝を、俺の足元に叩き付けてみやがれ!!」
木の根が振り下ろされようとしていた。
以前ヒースから、ホブゴブリンは棍棒を振り下ろすのが遅いという事聞いている。
チャンスは今しかない。
ジェイコブは罠とは逆方向に跳躍する。
怪物の武器が彼の居た場所に打ち下ろされた途端、その場が崩れ始めた。
ボルタの設置した岩石トラップが作動したのだ!
巨大な岩が崖を伝って次々と落ちていく。
足元が崩れた事で、巨大な魔物も巨石と共に崖の下に転落していった。
ジェイコブは罠の発動を確認し、安堵の表情を浮かべた。
罠は崖の真上にある。
そのまま落ちるのは魔物の群れに飛び込むのと同じだ。
ひとまずそれだけは避けられたが、正直助かるかどうかは運次第だった。
そもそも彼が跳んだ方向には……
最初から着地するべき地面など無かった。
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