46 / 77
異世界の環境改革
第一回ゼル族、アラン族交流会
しおりを挟む
「これで……完了っと!」
ゼル族、アラン族立ち合いのもと、エミリは渓谷の広範囲と、聖地とされる魔獣の巣の魔素数値を測り終えた。
「エネル、この数値を魔王城のトリスタンさんたちに報告してください。あ、それと…嘆願書にあった別案件を片付けるから遅れるってことも伝えといてくださいね」
「ああ、わかった」
エネルは受け取った資料を片手に、淡く魔力をまとわせる。次の瞬間、それは光の粒となって異空間へ消えた。
「おぉー! 転移魔法!! エネルが出し渋ってるから、存在しないんじゃないかと薄々思ってました」
「お前な……」
「で、どうしましょう。仲裁、やらなきゃですよね? 私なりのやり方で、とりあえずやってみます?」
エミリは声を落としてエネルにそう告げ、調査に立ち会っているゼル族とアラン族の若者たちをちらりと見やる。
「そうだな……族長を呼ぶか。魔獣のこともあるし、早く片付けたい」
エネルはため息をひとつ吐くと、両部族の若者たちに視線を向けた。
「族長を呼んできてくれ」
短く指示を飛ばすと、若者たちは互いに視線を交わしながら、それぞれの集落へと駆けていった。
*******
「では、記念すべき第一回、ゼル族とアラン族の交流会を開催しまーす! プレゼンターはこの私、森沢エミリがお送りします!」
「……久しぶりすぎて、普通に受け入れてしまった、この不必要なエミリ発言を。」
エネルがぼそりと漏らす。
「俺たちは何をやらされてるんだ?」
「ぷれぜんたー? 新しい呪文か何かか?」
族長たちが眉をひそめるが、エミリは完全にスルーした。
「はい、こちらの砂時計をご覧くださーい! 砂が全部落ちるまでが“あなたのターン”です。落ちたら、くるっとひっくり返して相手の番。
相手の番のときは私かエネル以外はぜーったい口を開かないこと。
では、どちらからでもOK。まず言いたいこと、ある方いらっしゃいますかー?」
そのエミリの言葉を聞いて、アラン族の族長グラズが人差し指を立てた。
「はい、グラズさん。ではアラン族からいきましょうか」
エミリはそう言って、砂時計を逆さにした。
「調査に来ているなら知っているだろうが…ここ数年、魔獣の卵が孵らず、眠りについて起きるはずの時期になっても目覚めなくなってきている。それを頭の悪いゼル族の猿どもは、俺たちアラン族のせいだと言いがかりをつけ、聖地に足を踏み入れるなと妨害してくるんだ」
「なんだと?! 頭の悪いのはお前たちだ、そもそも――」
「ゼル族長のプーラさん、まだあなたの番ではないので口を開かないでください。グラズ族長も、煽るような発言は謹んでください」
エミリは二人を鋭く睨みつけると、淡々と続けた。
「この地で起きている異変は、今や各地で確認されています。では、ゼル族の皆さんは何を根拠に“アラン族のせい”だとおっしゃるのですか?」
落ち切った砂時計を再びひっくり返し、ゼル族のプーラに話の番を渡す。
「我らは千年ほど前、同じゼル族だった。だが、こいつらの祖先が裏切り、アラン族と名乗って別の地に村を作った」
「千年も前のことなら、今はお互い独自の文化を築いているでしょう。そこまで突っかかる必要は――」
エミリの言葉を、プーラは首を振って遮った。
「始めのうちはそう思っていた。だが、魔獣の異変が起こった直後、聖地に黄金の光が降り注ぎ、神託が届いたのだ。
『獣の眠りは、谷の影より来たる穢れによって長引く。その影を払う客人に、道を示せ』
谷の影――それはこの渓谷の向こうに住むアラン族に他ならん。神がそう告げたのだ。こいつらがいる限り、魔獣は目覚めん」
エミリは眉をひそめ、話を真剣に聞いた。
「……黄金の光と神託。それが原因で疑いが生まれたのですね。ですが、『谷の影』が必ずしもアラン族を指すとは限らないと思います。
魔獣の異変は各地で起こっています。他の何かを示しているのかもしれません。もしアラン族が原因なら、もっとはっきりと名指しされるはずです」
プーラは静かに口を開いた。
「『谷の影』が、かつて同じ族から別れた奴ら以外に誰がいる?存在が俺らの影も同然だろ」
「そんな曖昧な表現で我々を責めるのは筋違いだ。疑いをかけられる理由はない」
グラズは言葉を荒げた。
エミリは落ち着いた声で続けた。
「分かりました。お二人の言い分は理解しましたが、感情的になっていては解決は遠のきます。私たちがここにいるのは、真実を見つけるためです」
エネルも静かに頷き、双方の族長を見つめた。
「争いを続けるより、共に真実を探すのが先決だ」
その言葉に、一瞬、重い空気が和らいだ。
一旦この場は解散となり、話し合いはまた次回に持ち越された。
「千年前から燻っていた火種をまた再燃させるとは、神託も厄介ですね…」
エネルとニ人きりになると、エミリはため息をついた。
「今回の神託がなくても、遅かれ早かれ揉めていたと思うぞ?ちょっとしたきっかけを待っていただけだ。同じ場所を聖地として崇めているが、祀る“神”が違うというのも根深い問題だ」
エネルがぽつりと言った。
「宗教や伝承の違いが表面にあるけれど、実際には歴史の傷や積もった感情、そして誰かの思惑が影響しているのかもしれませんね…….。
私の世界でも似たような問題があるので他人事とは思えないです」
「異世界もこの世界も、人も魔族も、結局は似たようなことをやってるんだな…」
二人はしばらく沈黙し、これからの調査と対話の重さを改めて噛み締めていた。
ゼル族、アラン族立ち合いのもと、エミリは渓谷の広範囲と、聖地とされる魔獣の巣の魔素数値を測り終えた。
「エネル、この数値を魔王城のトリスタンさんたちに報告してください。あ、それと…嘆願書にあった別案件を片付けるから遅れるってことも伝えといてくださいね」
「ああ、わかった」
エネルは受け取った資料を片手に、淡く魔力をまとわせる。次の瞬間、それは光の粒となって異空間へ消えた。
「おぉー! 転移魔法!! エネルが出し渋ってるから、存在しないんじゃないかと薄々思ってました」
「お前な……」
「で、どうしましょう。仲裁、やらなきゃですよね? 私なりのやり方で、とりあえずやってみます?」
エミリは声を落としてエネルにそう告げ、調査に立ち会っているゼル族とアラン族の若者たちをちらりと見やる。
「そうだな……族長を呼ぶか。魔獣のこともあるし、早く片付けたい」
エネルはため息をひとつ吐くと、両部族の若者たちに視線を向けた。
「族長を呼んできてくれ」
短く指示を飛ばすと、若者たちは互いに視線を交わしながら、それぞれの集落へと駆けていった。
*******
「では、記念すべき第一回、ゼル族とアラン族の交流会を開催しまーす! プレゼンターはこの私、森沢エミリがお送りします!」
「……久しぶりすぎて、普通に受け入れてしまった、この不必要なエミリ発言を。」
エネルがぼそりと漏らす。
「俺たちは何をやらされてるんだ?」
「ぷれぜんたー? 新しい呪文か何かか?」
族長たちが眉をひそめるが、エミリは完全にスルーした。
「はい、こちらの砂時計をご覧くださーい! 砂が全部落ちるまでが“あなたのターン”です。落ちたら、くるっとひっくり返して相手の番。
相手の番のときは私かエネル以外はぜーったい口を開かないこと。
では、どちらからでもOK。まず言いたいこと、ある方いらっしゃいますかー?」
そのエミリの言葉を聞いて、アラン族の族長グラズが人差し指を立てた。
「はい、グラズさん。ではアラン族からいきましょうか」
エミリはそう言って、砂時計を逆さにした。
「調査に来ているなら知っているだろうが…ここ数年、魔獣の卵が孵らず、眠りについて起きるはずの時期になっても目覚めなくなってきている。それを頭の悪いゼル族の猿どもは、俺たちアラン族のせいだと言いがかりをつけ、聖地に足を踏み入れるなと妨害してくるんだ」
「なんだと?! 頭の悪いのはお前たちだ、そもそも――」
「ゼル族長のプーラさん、まだあなたの番ではないので口を開かないでください。グラズ族長も、煽るような発言は謹んでください」
エミリは二人を鋭く睨みつけると、淡々と続けた。
「この地で起きている異変は、今や各地で確認されています。では、ゼル族の皆さんは何を根拠に“アラン族のせい”だとおっしゃるのですか?」
落ち切った砂時計を再びひっくり返し、ゼル族のプーラに話の番を渡す。
「我らは千年ほど前、同じゼル族だった。だが、こいつらの祖先が裏切り、アラン族と名乗って別の地に村を作った」
「千年も前のことなら、今はお互い独自の文化を築いているでしょう。そこまで突っかかる必要は――」
エミリの言葉を、プーラは首を振って遮った。
「始めのうちはそう思っていた。だが、魔獣の異変が起こった直後、聖地に黄金の光が降り注ぎ、神託が届いたのだ。
『獣の眠りは、谷の影より来たる穢れによって長引く。その影を払う客人に、道を示せ』
谷の影――それはこの渓谷の向こうに住むアラン族に他ならん。神がそう告げたのだ。こいつらがいる限り、魔獣は目覚めん」
エミリは眉をひそめ、話を真剣に聞いた。
「……黄金の光と神託。それが原因で疑いが生まれたのですね。ですが、『谷の影』が必ずしもアラン族を指すとは限らないと思います。
魔獣の異変は各地で起こっています。他の何かを示しているのかもしれません。もしアラン族が原因なら、もっとはっきりと名指しされるはずです」
プーラは静かに口を開いた。
「『谷の影』が、かつて同じ族から別れた奴ら以外に誰がいる?存在が俺らの影も同然だろ」
「そんな曖昧な表現で我々を責めるのは筋違いだ。疑いをかけられる理由はない」
グラズは言葉を荒げた。
エミリは落ち着いた声で続けた。
「分かりました。お二人の言い分は理解しましたが、感情的になっていては解決は遠のきます。私たちがここにいるのは、真実を見つけるためです」
エネルも静かに頷き、双方の族長を見つめた。
「争いを続けるより、共に真実を探すのが先決だ」
その言葉に、一瞬、重い空気が和らいだ。
一旦この場は解散となり、話し合いはまた次回に持ち越された。
「千年前から燻っていた火種をまた再燃させるとは、神託も厄介ですね…」
エネルとニ人きりになると、エミリはため息をついた。
「今回の神託がなくても、遅かれ早かれ揉めていたと思うぞ?ちょっとしたきっかけを待っていただけだ。同じ場所を聖地として崇めているが、祀る“神”が違うというのも根深い問題だ」
エネルがぽつりと言った。
「宗教や伝承の違いが表面にあるけれど、実際には歴史の傷や積もった感情、そして誰かの思惑が影響しているのかもしれませんね…….。
私の世界でも似たような問題があるので他人事とは思えないです」
「異世界もこの世界も、人も魔族も、結局は似たようなことをやってるんだな…」
二人はしばらく沈黙し、これからの調査と対話の重さを改めて噛み締めていた。
33
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【書籍化&コミカライズ】死に役はごめんなので好きにさせてもらいます【2/20取り下げ予定】
橋本彩里(Ayari)
恋愛
【書籍化&コミカライズ企画進行中】
フェリシアは幼馴染で婚約者のデュークのことが好きで健気に尽くしてきた。
前世の記憶が蘇り、物語冒頭で死ぬ役目の主人公たちのただの盛り上げ要員であると知ったフェリシアは、死んでたまるかと物語のヒーロー枠であるデュークへの恋心を捨てることを決意する。
愛を返されない、いつか違う人とくっつく予定の婚約者なんてごめんだ。しかも自分は死に役。
フェリシアはデューク中心の生活をやめ、なんなら婚約破棄を目指して自分のために好きなことをしようと決める。
どうせ何をしていても気にしないだろうとデュークと距離を置こうとするが……
第二部に合わせて、『これからの私たち』以降修正しております。
たくさんのいいね、エール、感想、誤字報告をありがとうございます!
皆様の応援のおかげで書籍化&コミカライズ決定しました✨
詳細は近況ボードにて。
2026.1.20追記
【完結】パパ、私は犯人じゃないよ ~処刑予定の私、冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで~
チャビューヘ
ファンタジー
※タイトル変更しました。
「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。
「……お前の声だけが、うるさくない」
心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の物語。
-----
感想送っていただいている皆様へ
たくさんの嬉しい言葉や厳しい意見も届いており一つ一つがすごく嬉しいのと頑張ろうと感じています。ご意見を元に修正必要な部分は随時更新していきます。
成長のため感想欄を閉じませんが公開はする予定ありません。ですが必ず全て目を通しています。拙作にお時間を頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる