【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ

文字の大きさ
51 / 77
異世界の環境改革

雨降って地固まる

しおりを挟む
「せっかく魔王様に謁見できるというのに、お前と同行だと思うと気が滅入る」

「それはこっちの台詞だ。俺ひとりで十分だ、わざわざお前が出しゃばる必要はない」


祭りから数日後。
両部族の共通の聖地にて、ゼル族の族長プーラと、アラン族の族長グラズがまたもや火花を散らしていた。

和解を果たしたはずの二人だったが、長年積み重ねた癖はそう簡単には抜けない。
まるで呼吸をするように、互いを罵り合ってしまうのだ。

その横で荷物の最終確認をしていたエミリは、たまらず顔を上げる。


「私の国では、“嫌よ嫌よも好きのうち”って言葉があるんですよ」

「「はぁ!?」」

二人が同時に声を上げると、エミリはぱっと笑顔になった。

「ほら!声までぴったり揃ってます!
本当に嫌いなら無視すればいいのに、わざわざ言い争うってことは……つまり仲良しなんですよ。ね?」

プーラとグラズは同時にむっとした顔を向けたが、反論が出てこない。
代わりに「仲良しなどではない!」と声を重ねて言い張った。

「……くくっ」

そんな二人の様子を見て、エネルがついに堪えきれず肩を揺らして笑い出す。

「なんだかんだで、案外いい相棒になれるんじゃないか?」

エミリも満足げにうなずく。




確執が一朝一夕で消えるわけではない。
それでも祭りをきっかけに両部族は互いに話し合う場を持ち、若者たちの交流も始まった。

あとは、柔軟な世代が時間をかけて頑固な長老たちを導いていけばいい。

エミリは「自分にできることはここまで」と判断し、次なる目的地――魔王城へ戻ると告げた。

すると、プーラとグラズが、息を合わせたように代表としての同行を申し出たのだ。

「……やっぱり仲良いんじゃ」

「「黙れ!」」

エミリの茶化しに、二人の怒号が再び重なり、周囲に失笑が広がった。


***

「各地に散らばった調査隊の報告も、そろそろ城に集まっている頃ですよね?」

「そうだな。一番遠方に派遣した組も、じきに帰還するはずだ」

エネルが真面目に答える。

「じゃあのんびりしてられませんね。早く戻らないと……」


エミリは小さく息を吐き、自分の手のひらを見つめた。
やがて目を閉じ、ゆっくりと口を開く。

「ルー〇……」

「……おい、何をしてる」

呆れ声で問いかけるエネル。



「世界一有名な移動呪文です!……やっぱりまだ発動しませんけど」

「……そろそろ懲りろ」

「いやいや!異世界転移者って、普通は隠された力に目覚めるんですよ!
もしかしたら私、遅咲きタイプかもしれないし。習慣づけって大事じゃないですか!」

「馬鹿言うな。お前には魔力が――」

エネルの言葉がふと途切れる。

エミリを見つめた瞬間、胸の奥をかすめるような微かな“揺らぎ”を感じたのだ。
風が通り抜けたような、光が一瞬きらめいたような……確かにそこに何かがあった。

「……ん?」

「え?どうかしました?」

エミリがきょとんと首をかしげる。

エネルは目を細め、再び彼女をじっと見た。
だが、先ほどの感覚はもうどこにもない。

「……いや。気のせいだ」



そう言って視線を逸らしたが、エネルの心にわずかな違和感だけが残った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【書籍化&コミカライズ】死に役はごめんなので好きにさせてもらいます【2/20取り下げ予定】

橋本彩里(Ayari)
恋愛
【書籍化&コミカライズ企画進行中】 フェリシアは幼馴染で婚約者のデュークのことが好きで健気に尽くしてきた。 前世の記憶が蘇り、物語冒頭で死ぬ役目の主人公たちのただの盛り上げ要員であると知ったフェリシアは、死んでたまるかと物語のヒーロー枠であるデュークへの恋心を捨てることを決意する。 愛を返されない、いつか違う人とくっつく予定の婚約者なんてごめんだ。しかも自分は死に役。 フェリシアはデューク中心の生活をやめ、なんなら婚約破棄を目指して自分のために好きなことをしようと決める。 どうせ何をしていても気にしないだろうとデュークと距離を置こうとするが…… 第二部に合わせて、『これからの私たち』以降修正しております。 たくさんのいいね、エール、感想、誤字報告をありがとうございます! 皆様の応援のおかげで書籍化&コミカライズ決定しました✨ 詳細は近況ボードにて。 2026.1.20追記

【完結】パパ、私は犯人じゃないよ ~処刑予定の私、冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで~

チャビューヘ
ファンタジー
※タイトル変更しました。 「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。 「……お前の声だけが、うるさくない」 心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の物語。 ----- 感想送っていただいている皆様へ たくさんの嬉しい言葉や厳しい意見も届いており一つ一つがすごく嬉しいのと頑張ろうと感じています。ご意見を元に修正必要な部分は随時更新していきます。 成長のため感想欄を閉じませんが公開はする予定ありません。ですが必ず全て目を通しています。拙作にお時間を頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

処理中です...