66 / 77
【最終章】異世界改革
王都の異変
しおりを挟む
「ちょっと下に降りて、何が起こっているのか確認しましょう」
エミリの言葉を合図に、エネルは手綱を軽く引く。
ドラーグが金色の羽をゆっくりとはためかせ、ゆるやかに高度を下げて森の奥へと舞い降りた。
木々の間に身を隠すように着地すると、二人はその巨体を残し、人々の列へと足を向けた。
近づいてみると、行列の人々は皆、泥にまみれ疲労と不安をその顔に刻んでいた。
手を引く親子、荷を背負った老人、泣きじゃくる子ども。
誰もが焦りを隠せず、エミリの呼びかけにも足を止めようとしない。
その中で、木陰に腰を下ろし、ひとり息を整えている老人が目に入った。
エミリは静かに近づき、しゃがみこんで声をかける。
「何があったのですか? たくさんの方が避難されていますが……」
老人はゆっくりと顔を上げ、虚ろな目でエミリを見た。
唇が乾き、声はかすれている。
「……わしらは、王都から逃げてきた者だ」
「王都から?」
驚いたエミリの声に、老人はうなずいた。
王都まではまだ距離がある。それを徒歩で来たというなら、すでに数日は経過しているはずだ。
「……王城が、急に赤黒い霧に包まれたのだ。誰も理由がわからん……魔族が攻め入ったという噂が広まってな。城下は混乱して、皆……逃げ出したのだ」
エミリはすぐにエネルの方を見る。
エネルは眉をひそめ、肩をすくめてみせた。
「俺たちじゃないな」
「……ええ、わかってます」
だが、それが逆に不安を募らせた。
魔族の仕業でないなら、赤黒い霧はもしかすると—
エミリの背中を、冷たい汗がつうっと流れ落ちる。
もしそれが、王自身がなにか魔術を使っているのだとしたら、王都で何か取り返しのつかないことが起きている。
「魔族領に兵を差し向けてきたばかりだし、一体何が……」
自分でも信じられないように呟く。
王都を守るはずの王が、なぜ赤黒い霧を発生させるのか。
エネルは腕を組み、低くうなる。
「……もし人間の王が大魔石を使ってなにか魔術を発動させているなら相当まずいな。それに人間どもは、俺たちの仕業だと信じきっているだろう」
「まさか……自分たちの王がそんなことをするなんて、誰も思わないものね」
避難していく人々の列は、どこまでも続いていた。その光景を見つめながら、エミリは唇をかみしめる。
「……先に進みましょう。王都で何が起こっているのか、確かめないと」
エネルは頷き、静かにドラーグの方へ視線を向けた。
******
数刻ののち、王都にたどり着いたエミリは、目の前に広がる光景に思わず息をのんだ。
――思っていたのと、まるで違う。
王都と聞いてエミリが思い描いていたのは、きらびやかな城と活気ある街並み。
行き交う人々の笑い声、市場の呼び込み、香ばしい屋台の匂い――そんな賑やかで人の温もりに満ちた場所を想像していた。
異世界に来てからというもの、魔族の小さな村から始まり、魔王城とナフレアの往復ばかりだった。
だからこそ、人間亮の王都に来ることを少しばかり楽しみにしていたのだ。
だが、実際に目にした王都はあまりに静かで、まるで廃墟のようだった。
王城は赤黒い霧に覆われ、まるで巨大な瘴気の塊のように不気味な雰囲気を醸し出している。
街路に人影はほとんどなく、開いている店も見当たらない。
残っているわずかな住民たちは不安げに荷をまとめ、どこかへ逃げ出そうとしていた。
「……これが、王都……?」
隣で霧を見つめていたエネルが、腕を組みながら低く呟く。
「……あの霧、魔素だな。けど魔族の仕業じゃない。人間の王が何かをやらかしたんだろう」
エミリはその言葉を聞きながら、霧に覆われた王城を見上げた。
どこか現実離れした光景に、背筋がぞくりとする。
「これじゃまるで、小説に出てくる魔王城そのものじゃない……」
皮肉にも、この世界に実在する魔王城は鬱蒼とした森の奥にありながら、木漏れ日が差し込む穏やかな場所だった。
どちらかといえば、御伽話に出てくるお姫様が暮らす城のような――光と静けさに満ちた場所。
その一方で、今目の前にある人間の王の城は、まるで闇そのものに飲み込まれたように沈黙している。
恐れられるべき魔王の姿が、皮肉にも人間側に現れていた。
エミリの言葉を合図に、エネルは手綱を軽く引く。
ドラーグが金色の羽をゆっくりとはためかせ、ゆるやかに高度を下げて森の奥へと舞い降りた。
木々の間に身を隠すように着地すると、二人はその巨体を残し、人々の列へと足を向けた。
近づいてみると、行列の人々は皆、泥にまみれ疲労と不安をその顔に刻んでいた。
手を引く親子、荷を背負った老人、泣きじゃくる子ども。
誰もが焦りを隠せず、エミリの呼びかけにも足を止めようとしない。
その中で、木陰に腰を下ろし、ひとり息を整えている老人が目に入った。
エミリは静かに近づき、しゃがみこんで声をかける。
「何があったのですか? たくさんの方が避難されていますが……」
老人はゆっくりと顔を上げ、虚ろな目でエミリを見た。
唇が乾き、声はかすれている。
「……わしらは、王都から逃げてきた者だ」
「王都から?」
驚いたエミリの声に、老人はうなずいた。
王都まではまだ距離がある。それを徒歩で来たというなら、すでに数日は経過しているはずだ。
「……王城が、急に赤黒い霧に包まれたのだ。誰も理由がわからん……魔族が攻め入ったという噂が広まってな。城下は混乱して、皆……逃げ出したのだ」
エミリはすぐにエネルの方を見る。
エネルは眉をひそめ、肩をすくめてみせた。
「俺たちじゃないな」
「……ええ、わかってます」
だが、それが逆に不安を募らせた。
魔族の仕業でないなら、赤黒い霧はもしかすると—
エミリの背中を、冷たい汗がつうっと流れ落ちる。
もしそれが、王自身がなにか魔術を使っているのだとしたら、王都で何か取り返しのつかないことが起きている。
「魔族領に兵を差し向けてきたばかりだし、一体何が……」
自分でも信じられないように呟く。
王都を守るはずの王が、なぜ赤黒い霧を発生させるのか。
エネルは腕を組み、低くうなる。
「……もし人間の王が大魔石を使ってなにか魔術を発動させているなら相当まずいな。それに人間どもは、俺たちの仕業だと信じきっているだろう」
「まさか……自分たちの王がそんなことをするなんて、誰も思わないものね」
避難していく人々の列は、どこまでも続いていた。その光景を見つめながら、エミリは唇をかみしめる。
「……先に進みましょう。王都で何が起こっているのか、確かめないと」
エネルは頷き、静かにドラーグの方へ視線を向けた。
******
数刻ののち、王都にたどり着いたエミリは、目の前に広がる光景に思わず息をのんだ。
――思っていたのと、まるで違う。
王都と聞いてエミリが思い描いていたのは、きらびやかな城と活気ある街並み。
行き交う人々の笑い声、市場の呼び込み、香ばしい屋台の匂い――そんな賑やかで人の温もりに満ちた場所を想像していた。
異世界に来てからというもの、魔族の小さな村から始まり、魔王城とナフレアの往復ばかりだった。
だからこそ、人間亮の王都に来ることを少しばかり楽しみにしていたのだ。
だが、実際に目にした王都はあまりに静かで、まるで廃墟のようだった。
王城は赤黒い霧に覆われ、まるで巨大な瘴気の塊のように不気味な雰囲気を醸し出している。
街路に人影はほとんどなく、開いている店も見当たらない。
残っているわずかな住民たちは不安げに荷をまとめ、どこかへ逃げ出そうとしていた。
「……これが、王都……?」
隣で霧を見つめていたエネルが、腕を組みながら低く呟く。
「……あの霧、魔素だな。けど魔族の仕業じゃない。人間の王が何かをやらかしたんだろう」
エミリはその言葉を聞きながら、霧に覆われた王城を見上げた。
どこか現実離れした光景に、背筋がぞくりとする。
「これじゃまるで、小説に出てくる魔王城そのものじゃない……」
皮肉にも、この世界に実在する魔王城は鬱蒼とした森の奥にありながら、木漏れ日が差し込む穏やかな場所だった。
どちらかといえば、御伽話に出てくるお姫様が暮らす城のような――光と静けさに満ちた場所。
その一方で、今目の前にある人間の王の城は、まるで闇そのものに飲み込まれたように沈黙している。
恐れられるべき魔王の姿が、皮肉にも人間側に現れていた。
23
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【書籍化&コミカライズ】死に役はごめんなので好きにさせてもらいます【2/20取り下げ予定】
橋本彩里(Ayari)
恋愛
【書籍化&コミカライズ企画進行中】
フェリシアは幼馴染で婚約者のデュークのことが好きで健気に尽くしてきた。
前世の記憶が蘇り、物語冒頭で死ぬ役目の主人公たちのただの盛り上げ要員であると知ったフェリシアは、死んでたまるかと物語のヒーロー枠であるデュークへの恋心を捨てることを決意する。
愛を返されない、いつか違う人とくっつく予定の婚約者なんてごめんだ。しかも自分は死に役。
フェリシアはデューク中心の生活をやめ、なんなら婚約破棄を目指して自分のために好きなことをしようと決める。
どうせ何をしていても気にしないだろうとデュークと距離を置こうとするが……
第二部に合わせて、『これからの私たち』以降修正しております。
たくさんのいいね、エール、感想、誤字報告をありがとうございます!
皆様の応援のおかげで書籍化&コミカライズ決定しました✨
詳細は近況ボードにて。
2026.1.20追記
【完結】パパ、私は犯人じゃないよ ~処刑予定の私、冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで~
チャビューヘ
ファンタジー
※タイトル変更しました。
「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。
「……お前の声だけが、うるさくない」
心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の物語。
-----
感想送っていただいている皆様へ
たくさんの嬉しい言葉や厳しい意見も届いており一つ一つがすごく嬉しいのと頑張ろうと感じています。ご意見を元に修正必要な部分は随時更新していきます。
成長のため感想欄を閉じませんが公開はする予定ありません。ですが必ず全て目を通しています。拙作にお時間を頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる