【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ

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【最終章】異世界改革

老人

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広場に、王都に残っていた住民たちが次々と集まってくる頃には、揺れもひとまず落ち着いていた。

だが油断は大敵である。

この揺れは、王城で起きている何かの影響。十中八九、また来るだろう。



「とりあえず、ここを避難所にしましょう!」

エミリは広場に集まった人々の前に立ち、声を張り上げた。

「また揺れがあるかもしれません! 家には戻らず、この広場にいてください!倒れてくるもののない場所がいちばん安全です!」

住民たちは互いに顔を見合わせ、静かに頷いてまとまっていく。震えた声で礼を言ってくる者もいた。

エミリは小声でエネルに囁く。

「……落ち着いたら、この人たちを王都の外に避難させた方がいいかも」

「だろうな」

エネルは落ち着いた様子で、腕を組んで霧の向こうの王城を睨む。だがエミリの胸中は、まだぐちゃぐちゃだった。

(これからどうするべき?人間の王と話すことすら、できない可能性もでてきたわ)

「何がなんだかわからないわ……」

ぽつりと漏らすと、エネルが横目で彼女を見た。

「魔族は関係ないからな?一応言っとくが。
……きっと大魔石を使ったものの、王が分不相応の力に呑まれたんだろ」

「……そんなこと、あるの?」

「ある。魔族でも、じぶんの魔力を制御できなければ死ぬ。ましてや人間なら尚更だ」

エミリは思わず息をのむ。
王都を覆う赤黒い霧をじっと見つめると、胸の奥が冷たくなる。

(もしかして……王様はもう……?)

「とりあえず、もう一度王城に行ってみる?
さっきの揺れで、何か状況が変わったかもしれないし」

エミリがそう提案すると、エネルも小さく頷いた。
もしかしたら、揺れの直後で城から誰かが出てきているかもしれない。
できることなら、そのまま中へ——そんな期待が胸の片隅にあった。

エミリとエネルが、城に向かって歩き出した時、
王城から広場へ続く道の先で、ひとりの老人がよろめきながらこちらへ全力で走ってくるのが見えた。

叫び声を上げ、明らかに錯乱している。

「なんだ?」

エネルが反射的にエミリの前へ一歩出る。
老人がぶつかる勢いで飛び込んできた瞬間、エネルは片手で老人の胸ぐらをひょいとつかみ、衝突の直前で持ち上げた。

「な、なんじゃあああッ!? お、おろせ!何をするんだ!!」

空中でじたばた暴れる老人。
だがエネルは眉ひとつ動かさず、冷静に言い放つ。

「落ち着け。あの勢いで突っ込んできたら危ないだろ。……お前はイノシか」

イノシ——この世界でイノシシに似た突進系の魔獣の名前である。

老人は空中で固まり、うわずった声をあげた。

「い、イノシじゃないわ!!その耳!?お前魔族か!はなせー!」

「魔族だが離さん。あと、黙れ」

エネルがそう言うと、空いている手の指をパチンと軽く鳴らした。
かすかな音がした直後、老人の口はぱくぱく動いているのに、一切声が聞こえなくなる。

「ちょ、ちょっとエネル!? なにしたの?」

「無音にした。うるさかったからな」


エミリはエネルを「本当にこの人は……」という目で見つつ、担がれたまま空中で足をばたつかせる老人へ向き直った。

「ごめんなさいね。危害を加えるつもりはありませんから」

エミリは優しい声色で、老人が落ち着くようゆっくり話しかける。

「今回のことは魔族が原因じゃないですよ、なにがあったのか教えていただけませんか?」

その声に老人の動きが徐々におさまり、怯えた目がエミリに向けられた。
エネルは老人を下ろすが、手は胸ぐらを掴んだままだ。

地面に下ろされた老人は、ぜえぜえと肩で息をしながら震える指を王城の方に向けた。

「王城で……王城の中で化け物が暴れている!!」

「化け物?」

エミリがそっと問い返す。
老人は大きく首を縦に振り、今にも再び泣き出しそうな顔で続けた。

「あの赤黒い霧の奥で、王が……王が何かに飲まれたように見えた。叫び声がして、兵が何人も霧の中へ引きずり込まれて……!わしは怖くなって逃げてきたんだ……!お前たちが、魔族がなんかしたんだろ!!」

エネルは掴んだ胸ぐらをぐっと自分の方へ引き寄せ、表情ひとつ変えずに冷ややかに言い放った。

「なんで俺たちがそんなことをやる? お前らが思ってるほど、こっちはお前らに興味ないぞ?」

老人は顔を真っ赤にして怒鳴り返そうとしたが、その前にエミリが二人の間へ滑り込むように割って入った。

わざとらしくコホンと咳払いし、穏やかな口調で話しかける。


「おじいさん、落ち着いてください。何度も言いますが、魔族は今回の件に関係ありません。
それに——第二王子のエルヴィン様がこちらに向かっていますから、心配はいりませんよ?……たぶん」

「殿下が……?」


エルヴィンの名を出した途端、老人の顔には一気に安堵の色が広がった。その肩が少し下がり、張り詰めていた緊張がゆるむ。


——が、

次の瞬間、老人の眉がぎゅっと寄り、むすっとした表情でエミリを睨む。

「わしのことをおじいさんと呼ぶでない! 無礼者!……この国の宰相、アゼル•カートンであるぞ!!」


エミリとエネルは同時に固まった。

(……え、この人、宰相?)

老人——いや、宰相アゼルは、なぜか誇らしげに胸を張ったまま、ふんと鼻を鳴らした。




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