2 / 75
異世界恋愛改革
禁忌はなんですか?
しおりを挟む
森沢エミリ、29歳。
NGO(非政府組織)が実施するプロジェクトや支援活動の調整役を務めてきた。
関係者との連絡・交渉、現地スタッフの管理、資金のやり繰り、広報の発信まで、まさに何でも屋だ。
異世界に転移する前は、某国の難民キャンプで働いていた。
最後に覚えているのは、空から落ちてきた爆音――対立国による空爆。
「国際人道法の下で保護されてるはずの難民キャンプを爆撃とか、正気じゃない……」
「あ、あの……勇者様? 聞いておられる……?」
ふと我に返ると、前にいるのは角の生えた男。
厳つい顔つきなのに、態度はやけに丁寧。タルーア村の村長――デランと名乗った。
エミリは小さくうなずいて答える。
「あー、はいはい。すみません、少しボーッとしてました。
で、なんでしたっけ? 神託によると、このタルーア村に異世界から勇者が降り立つ……でしたね。ちゃんと聞いてましたよ、安心してください」
「そ、そうじゃ。神託では、降り立った勇者がこの魔族の国ヴァルディアを勝利へと導くと出ておるのじゃ……!」
「なるほど、いくつか確認させていただきたいことがありますが……その前に自己紹介を。森沢エミリです。エミリと気軽に呼んでください」
「ゆ、勇者エミリ殿じゃな……」
「いえ、“勇者”というのはやめてもらってもいいでしょうか?
よくある小説にありがちな、神様や女神様から加護とかスキルとか……いただいてません。普通の人間です。ホモ・サピエンスです。あなた達のほうがきっと強いですよ?」
「ホ、ホモ……?」
「人類の学名です。深い意味はありません。気にしないでください」
村人たちがそっとひそひそと話し始める。
この人、本当に神託の勇者なのか? けど、異世界から来たのは確かみたいだし……。
エミリは肩を回しながら尋ねる。
「ところで、神託ってどのような宗教ベースでしょうか?
食べてはいけないものとか、触れてはいけないものとか、禁忌があるなら事前に教えていただけると助かります。文化的対立の火種になりやすいので」
村長の口が半開きのまま固まった。
「そ、そうじゃな……まあ、特には……」
「よかった。それなら、できる限り協力させていただきます。
何かお困りごとがあって、神託の勇者をお待ちになっていたという認識でよろしいですか?」
「う、うむ。人間の者たちが、また魔王様討伐などと騒いでおっての。
我ら魔族はただ平和に暮らしたいだけなのじゃが……」
「なるほど。異種間の確執ですね? わかります。
私の世界でもありましたよ。種族ではなく、人種、宗教、文化の違いで争ってました。
生まれも育ちも違うのに、わかり合えって言う方が無理な話です」
「ま、まあ……そうかもしれぬのう……」
「では善は急げ。人間側のお話も聞きに行きましょう。
両方の話を聞かないと、公平な判断ができませんので」
そう言ってエミリが立ち上がった瞬間、膝ががくんと崩れた。
「……おっと」
「無理はなさらぬ方がよい。ここの空気には“魔素”が含まれておる。
異世界の者には、しばらく馴染むまで動くのも難しいのじゃ」
「なるほど、土地も違えば空気も違うんですね。理解しました」
地球の常識は、ここでは非常識。
でもエミリは、そんなことはとうの昔に慣れていた。
NGO(非政府組織)が実施するプロジェクトや支援活動の調整役を務めてきた。
関係者との連絡・交渉、現地スタッフの管理、資金のやり繰り、広報の発信まで、まさに何でも屋だ。
異世界に転移する前は、某国の難民キャンプで働いていた。
最後に覚えているのは、空から落ちてきた爆音――対立国による空爆。
「国際人道法の下で保護されてるはずの難民キャンプを爆撃とか、正気じゃない……」
「あ、あの……勇者様? 聞いておられる……?」
ふと我に返ると、前にいるのは角の生えた男。
厳つい顔つきなのに、態度はやけに丁寧。タルーア村の村長――デランと名乗った。
エミリは小さくうなずいて答える。
「あー、はいはい。すみません、少しボーッとしてました。
で、なんでしたっけ? 神託によると、このタルーア村に異世界から勇者が降り立つ……でしたね。ちゃんと聞いてましたよ、安心してください」
「そ、そうじゃ。神託では、降り立った勇者がこの魔族の国ヴァルディアを勝利へと導くと出ておるのじゃ……!」
「なるほど、いくつか確認させていただきたいことがありますが……その前に自己紹介を。森沢エミリです。エミリと気軽に呼んでください」
「ゆ、勇者エミリ殿じゃな……」
「いえ、“勇者”というのはやめてもらってもいいでしょうか?
よくある小説にありがちな、神様や女神様から加護とかスキルとか……いただいてません。普通の人間です。ホモ・サピエンスです。あなた達のほうがきっと強いですよ?」
「ホ、ホモ……?」
「人類の学名です。深い意味はありません。気にしないでください」
村人たちがそっとひそひそと話し始める。
この人、本当に神託の勇者なのか? けど、異世界から来たのは確かみたいだし……。
エミリは肩を回しながら尋ねる。
「ところで、神託ってどのような宗教ベースでしょうか?
食べてはいけないものとか、触れてはいけないものとか、禁忌があるなら事前に教えていただけると助かります。文化的対立の火種になりやすいので」
村長の口が半開きのまま固まった。
「そ、そうじゃな……まあ、特には……」
「よかった。それなら、できる限り協力させていただきます。
何かお困りごとがあって、神託の勇者をお待ちになっていたという認識でよろしいですか?」
「う、うむ。人間の者たちが、また魔王様討伐などと騒いでおっての。
我ら魔族はただ平和に暮らしたいだけなのじゃが……」
「なるほど。異種間の確執ですね? わかります。
私の世界でもありましたよ。種族ではなく、人種、宗教、文化の違いで争ってました。
生まれも育ちも違うのに、わかり合えって言う方が無理な話です」
「ま、まあ……そうかもしれぬのう……」
「では善は急げ。人間側のお話も聞きに行きましょう。
両方の話を聞かないと、公平な判断ができませんので」
そう言ってエミリが立ち上がった瞬間、膝ががくんと崩れた。
「……おっと」
「無理はなさらぬ方がよい。ここの空気には“魔素”が含まれておる。
異世界の者には、しばらく馴染むまで動くのも難しいのじゃ」
「なるほど、土地も違えば空気も違うんですね。理解しました」
地球の常識は、ここでは非常識。
でもエミリは、そんなことはとうの昔に慣れていた。
15
あなたにおすすめの小説
キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。
ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
※本作は他サイトでも掲載しています
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……
ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。
そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。
※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。
※残酷描写は保険です。
※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。
魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
無能だと捨てられた第七王女、前世の『カウンセラー』知識で人の心を読み解き、言葉だけで最強の騎士団を作り上げる
☆ほしい
ファンタジー
エルミート王国の第七王女リリアーナは、王族でありながら魔力を持たない『無能』として生まれ、北の塔に長年幽閉されていた。
ある日、高熱で生死の境をさまよった彼女は、前世で臨床心理士(カウンセラー)だった記憶を取り戻す。
時を同じくして、リリアーナは厄介払いのように、魔物の跋扈する極寒の地を治める『氷の辺境伯』アシュトン・グレイウォールに嫁がされることが決定する。
死地へ送られるも同然の状況だったが、リリアーナは絶望しなかった。
彼女には、前世で培った心理学の知識と言葉の力があったからだ。
心を閉ざした辺境伯、戦争のトラウマに苦しむ騎士たち、貧困にあえぐ領民。
リリアーナは彼らの声に耳を傾け、その知識を駆使して一人ひとりの心を丁寧に癒していく。
やがて彼女の言葉は、ならず者集団と揶揄された騎士団を鉄の結束を誇る最強の部隊へと変え、痩せた辺境の地を着実に豊かな場所へと改革していくのだった。
記憶喪失となった転生少女は神から貰った『料理道』で異世界ライフを満喫したい
犬社護
ファンタジー
11歳・小学5年生の唯は交通事故に遭い、気がついたら何処かの部屋にいて、目の前には黒留袖を着た女性-鈴がいた。ここが死後の世界と知りショックを受けるものの、現世に未練があることを訴えると、鈴から異世界へ転生することを薦められる。理由を知った唯は転生を承諾するも、手続き中に『記憶の覚醒が11歳の誕生日、その後すぐにとある事件に巻き込まれ、数日中に死亡する』という事実が発覚する。
異世界の神も気の毒に思い、死なないルートを探すも、事件後の覚醒となってしまい、その影響で記憶喪失、取得スキルと魔法の喪失、ステータス能力値がほぼゼロ、覚醒場所は樹海の中という最底辺からのスタート。これに同情した鈴と神は、唯に統括型スキル【料理道[極み]】と善行ポイントを与え、異世界へと送り出す。
持ち前の明るく前向きな性格の唯は、このスキルでフェンリルを救ったことをキッカケに、様々な人々と出会っていくが、皆は彼女の料理だけでなく、調理時のスキルの使い方に驚くばかり。この料理道で皆を振り回していくものの、次第に愛される存在になっていく。
これは、ちょっぴり恋に鈍感で天然な唯と、もふもふ従魔や仲間たちとの異世界のんびり物語。
生贄公爵と蛇の王
荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。
「お願いします、私と結婚してください!」
「はあ?」
幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。
そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。
しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる