海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ

文字の大きさ
7 / 75
異世界恋愛改革

異世界の国際問題

しおりを挟む
朝、エミリは目を覚ますと、あたりを見渡した。
古風な作りの部屋――昨晩、眠りについた村長の家の一室がそこにある。

「……夢じゃなかったのか。なるほど、なるほど」

部屋の外から肉を焼いている匂いがする気もするが、気のせいだと思いたい。

「朝起きたらこれが全部夢で、あたり一面死体だった、なんて展開よりはマシか……」

小さくため息をつきながら、身だしなみを整えて部屋の外へ出る。

「おはようございますー! よく眠れましたか? 朝食、もう準備できてますよー!」

ピリカがまぶしいほどの笑顔で駆け寄ってきた。
肉ばかり食べているせいか、異様に元気だ。若さがほとばしっている。まぶしい。

「……ところでその朝食なんですが、どんな感じのでしょうか?」

「どんなって……エミリ様の世界では、朝昼晩で食べる物が違うんですか?」

そんなこと言われると、朝食の観念とは何なのか?フルーツだけの人もいるし、パンの人もいる。朝から牛丼を食べる人もいるかもしれない。
結局、人によるよね?という結論に落ち着いた。

そんなことを考えながら席につくと、案の定、肉が出てきた。昨晩より量は控えめだが、それでも肉。
うすうす感づいていた。ここは肉の国なのだ。
エミリは自分の胃を奮い立たせ、覚悟を決めて席についた。


ちょうどそのとき、昨日助けた人間の青年アレイスとエルヴィンがやってきた。

「おはようございます。お二人とも、体調は大丈夫ですか?」

エミリが声をかけると、アレイスは頭を深く下げた。

「なんとお礼を言えばよいか……貴女のおかげで命拾いしました。感謝してもしきれません」

「いえいえ。回復魔法を使ったのはピリカさんですから。お礼はピリカさんにお願いします」

アレイスがピリカに向かって深々と頭を下げると、ピリカは「ひぃっ」と謎の悲鳴をあげて後退りした。

……魔族、意外とシャイなのかもしれない。

「魔族って、なんというか……朝から肉、いくんだな」

と、エルヴィンがぼそっと漏らした。
エミリはぱっと彼に視線を向ける。
ここに――同志がいた!

「昨晩もお肉でしたし、どうやら肉が主食のようですね。人間の皆さんは朝は何を食べるんですか?」

「俺はフルーツとか、軽いものが多いな」

「私はだいたいパンですね」

エルヴィンとアレイスの返答を聞いて、ああ、普通だ……とエミリは心の中で召喚術師を恨んだ。
なぜこっち(魔族側)に飛ばした。

朝食後、エミリは村長、ピリカ、エルヴィン、アレイスを呼び集め、状況確認のための小さな交流会を開くことにした。
まずは情報収集だ。わからないことは、聞いてみないと始まらない。

「コホン。それでは第一回交流会を開催します。プレゼンターは私、森沢エミリが務めさせていただきます」

「ぷ、ぷれぜん……?」

「なんだそれ、翻訳の問題か……?」

「エミリ様が神の国の言葉を……ピリカ、記録せよ!」

「は、はい!」

騒がしいが、無視して進めることにした。

「まず最初の議題です。『魔族とは? 人間とは?』」

するとエルヴィンがすっと手を上げる。

「はい、エルさんどうぞ」

「人間側の認識だけど――魔族は魔法を使い、特殊な能力を持っていて、ツノや羽といった身体的特徴がある。人間はそういう特徴がない」

……魔族の方が強くない?
なぜこんなに人間を恐れているのか疑問が湧く。

「魔族の皆さん、補足や訂正などありますか?」

「大体あっとるが、ひとつ加えるとすれば、人族は魔術を使うんじゃ」

「魔法と魔術って、どう違うんです?」

「魔法は体の中の魔力を使って発動する。魔術は魔法陣を描いて、魔石を使って外から魔力を引き出す。だから時間がかかるし効率も悪い。だが、予想もつかん術を出す者もいる。油断はできん」

「でも魔術を使える人は一握りで、基本は国に囲われてる。王の命令でしか動かない」

村長のデランに、アレイスが補足する。

「……ふむ。話を聞くかぎり、魔族の方が強そうですが、なぜ人間に怯えているのでしょうか?」

「魔族は強い。だが数が少ない。人間は多い。魔術もあるし、剣や弓も使い、大群で攻めてくる」

「しかも、ヘンテコな飛び道具まで使ってくるんです!」

「ヘンテコな?」

「魔道具のことだな。魔石を入れれば、魔法陣なしで攻撃できるやつ」

「なるほど、戦力は拮抗している……というわけですね」

うんうん、とエミリが頷いて、次の議題にうつる。

「では次の議題。人間側はなぜ魔王討伐に熱心なのでしょう? 魔王がいると世界が闇に包まれる的な展開? 実際に被害でも?」

ピリカが手を挙げる。

「魔王様はただの代表者です。数年ごとに魔族の中から選ばれるだけで、特に何か起きるわけではありません。にもかかわらず、人間はなぜか攻撃してくるのです!」

「……なるほど。魔王様は大統領みたいなものですね。あ、大統領って言葉はスルーしてください」

「ではなぜ、問題のない魔王を討伐しようと?」

「いずれ人間の国を滅ぼすから、その前に倒さねばならない――というのが、人間側の理屈です。歴代の王は異世界から強者を召喚し、魔術師とともに魔王を討ちに行くんです」

「ふむ……話を聞く限り、人間側の完全な被害妄想ですね? 国力があるからって相手の大統領を先制攻撃するなんて、私の世界でもまずい行為ですよ。ちゃんと理由がなければ」

もっともな理由があってもダメだろ、というツッコミは誰からも入らなかった。

「……いや、全く理由がないわけではない。過去に魔族が町を襲ったこともあった」

「それは人間たちが魔族領に入り、魔石を採掘しようとするからじゃ。理由もなく町を壊したりはせん」

「なるほど……レアアース問題ですね。私の世界でもあります。
要は、魔石が戦略物資だから、魔族側は勝手に採られるのを防ぎたい。で、勝手に取られたら――町を壊す。理にはかなってますね」

町を壊すのが理にかなっているのかはともかく、誰も否定はしなかった。

「大体、見えてきました。これは、ただの国際問題ですね?
ならば、魔王と人間の王の間に、私が入って仲裁をしましょう。第三者がいれば、きっと話し合いもうまくいくはずです」

エミリはふと、自分がカップルセラピーのカウンセラーみたいだなと思った。
夫婦のどちらが悪いというわけではない。ただ、お互いに相手の話を聞かず、自分の主張だけをぶつけ合うからこじれる。
間に立って橋をかけてあげれば、案外なんとかなるものなのだ――と、少し楽しくなってくる。

「なんか、エミリ殿ならできそうな気がする……」

「説得力がすごいな……」

「よくわからんが、神々しい……」

「女神様です!!」

気づけば四人から拝まれていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……

ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。  そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。 ※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。 ※残酷描写は保険です。 ※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

無能だと捨てられた第七王女、前世の『カウンセラー』知識で人の心を読み解き、言葉だけで最強の騎士団を作り上げる

☆ほしい
ファンタジー
エルミート王国の第七王女リリアーナは、王族でありながら魔力を持たない『無能』として生まれ、北の塔に長年幽閉されていた。 ある日、高熱で生死の境をさまよった彼女は、前世で臨床心理士(カウンセラー)だった記憶を取り戻す。 時を同じくして、リリアーナは厄介払いのように、魔物の跋扈する極寒の地を治める『氷の辺境伯』アシュトン・グレイウォールに嫁がされることが決定する。 死地へ送られるも同然の状況だったが、リリアーナは絶望しなかった。 彼女には、前世で培った心理学の知識と言葉の力があったからだ。 心を閉ざした辺境伯、戦争のトラウマに苦しむ騎士たち、貧困にあえぐ領民。 リリアーナは彼らの声に耳を傾け、その知識を駆使して一人ひとりの心を丁寧に癒していく。 やがて彼女の言葉は、ならず者集団と揶揄された騎士団を鉄の結束を誇る最強の部隊へと変え、痩せた辺境の地を着実に豊かな場所へと改革していくのだった。

記憶喪失となった転生少女は神から貰った『料理道』で異世界ライフを満喫したい

犬社護
ファンタジー
11歳・小学5年生の唯は交通事故に遭い、気がついたら何処かの部屋にいて、目の前には黒留袖を着た女性-鈴がいた。ここが死後の世界と知りショックを受けるものの、現世に未練があることを訴えると、鈴から異世界へ転生することを薦められる。理由を知った唯は転生を承諾するも、手続き中に『記憶の覚醒が11歳の誕生日、その後すぐにとある事件に巻き込まれ、数日中に死亡する』という事実が発覚する。 異世界の神も気の毒に思い、死なないルートを探すも、事件後の覚醒となってしまい、その影響で記憶喪失、取得スキルと魔法の喪失、ステータス能力値がほぼゼロ、覚醒場所は樹海の中という最底辺からのスタート。これに同情した鈴と神は、唯に統括型スキル【料理道[極み]】と善行ポイントを与え、異世界へと送り出す。 持ち前の明るく前向きな性格の唯は、このスキルでフェンリルを救ったことをキッカケに、様々な人々と出会っていくが、皆は彼女の料理だけでなく、調理時のスキルの使い方に驚くばかり。この料理道で皆を振り回していくものの、次第に愛される存在になっていく。 これは、ちょっぴり恋に鈍感で天然な唯と、もふもふ従魔や仲間たちとの異世界のんびり物語。

生贄公爵と蛇の王

荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
 妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。 「お願いします、私と結婚してください!」 「はあ?」  幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。  そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。  しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...