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異世界恋愛改革
交流会三回目
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森沢エミリは考え込んでいた。
「私はこれでいいのか」と。
異世界に来て、もう一週間以上。
ファンタジー小説であれば、そろそろ冒険が始まっている頃だろう。仲間と旅に出るとか、未知なる力に目覚めるとか。
エミリはというと——
「エミリ様、見てください! 手です! 手を繋いでます!!」
「うん、そりゃ繋ぐでしょう。恋人同士なんだから」
「ひぃーっ……な、なんてことですか。人間はやっぱりよく分かりません!」
「なんか……俺たち、悪いことしてる気分になるな」
ピリカが驚いているのは、男同士が手を繋いでいることではない。
恋人同士が触れ合うという文化そのものに、びびり散らかしているのだ。
ただいま、交流会・第三回を開催中である。
しかも、今回も魔族の不思議な生態に出くわすことになった。
きっかけは、ピリカのひとことだった。
「第三回交流会を始めます! 本日もプレゼンターは私、森沢エミリがお送りします!」
「毎回それ、言うんだな……」
エネルというツッコミ役が定着したおかげで、進行はだいぶスムーズになった。
「さて、今回のテーマは恋愛について。魔族の皆さんはどうなんですか? 少子化が深刻って聞きましたけど、結婚する方が少ないんですか? ちなみにピリカさんは、お付き合いされてる方とか?」
「はい! 夢の恋人がいます!」
「夢の恋人……?」
「魔法で好みの英雄を恋人として夢の中に呼ぶんです! 寝ている間、一緒に過ごせるんですよ! 今の若い子はみんな夢の恋人がいます!」
「あー……二次元の恋人みたいな感じですね。分かります、私の世界にもありました」
「ダメじゃー! 今の魔族は恋愛をしなくなってしまっておる! この変な魔法が流行ってから、現実の相手と関係を築こうとしなくなったんじゃ!」
「だって夢の恋人の方が完璧なんですよ。現実で恋愛したって、相手が私を好きになるとは限らないし、効率が悪すぎます」
「うん……まあ、その気持ちはわかります。自分の好みを詰め込んだ相手に、現実の人が勝つのは、正直むずかしいですね」
「でもさ、ピリカ殿。夢の恋人は、触れ合えないよ? ほら、こういうふうに……」
アレイスが、そっとエルヴィンの手に触れる。
そして、冒頭の場面に戻る。
「……なんか、私、ジェネレーションギャップを感じています。魔族の若者って、手を繋ぐこともしないんですか?」
「今の若者はみんなこうじゃ。ここ百年ほど、魔族は長寿だからつい放っておいたが……取り返しのつかないところまで来ておる」
——まあ、脳筋がトップに立ってるしな。
エミリはうっすら納得する。
「エネルさん、ちょっと失礼しますね」
そう言って、エミリはエネルの肩に軽く触れた。
「な、なにをするんだぁーーー!!」
……なるほど。こいつもか。
「ここ百年で育った世代の魔族は、ほぼ全員こんな感じじゃ、これではそのうち魔族が消滅してしまう」
村長デランは頭を抱えた。
「ピリカさん。恋愛に効率を求めちゃダメですよ?
人を好きになって、その人が他の女の子(あるいは男の子)と仲良くしてて胸が痛くなったり、振られて一晩中泣いたり……そういうのも、悪くないですよ?」
「……え、嫌です。そんな苦痛、わざわざ経験したくありません」
「ピリカはまだマシな方じゃ。中には、朝も昼も夢の中に恋人会いに行くために寝続けるやつもおる」
「……それ、健康にも悪いですよね」
エミリはひとつ深呼吸して、手を組んだ。
「分かりました。夢の恋人を否定するつもりはありません。恋愛は自由だし、誰を好きになるかは人それぞれです。でもね、現実の誰とも関わらないままだと、やっぱりちょっと危ないと思うんです」
そう言って、エミリはにこっと笑う。
「私がここに来たのも何かの縁。できる範囲で協力します。とはいえ、いきなり手を繋げとか抱きしめろとか言っても無理ですよね。分かってます。なので、まずは——恋愛シミュレーションから始めましょう」
「……シミュレーション?」
エネルが眉をひそめた。
「そう。私と誰かで、仮想恋愛をやります。
『第一印象最悪のふたりが雨宿りをきっかけに急接近』とか、『喧嘩ばかりだった幼なじみが、ふとした瞬間に……』みたいなシチュエーションを演じて、恋愛ってどういう感情か、どういう距離感かを体験してもらいます!」
「……演劇か?」
「まあ、そんな感じですね。観客はピリカさんたち若者。きゅんきゅんするシーンを見せて、恋愛っていいな~って思わせるのが目的です」
「……きゅんきゅん?……」
ピリカが聞きなれない言葉を口に出し、顔を赤らめた。
「エミリ殿、それは本当に有効なのか?」
「たぶん。でも、現実に恋するよりはリスク少ないし、楽しいでしょ?」
「わしは嫌な予感しかしないのう……」
村長デランがぼそっとつぶやいた。
エミリは無視して、ぴっと指を立てた。
「じゃあ決まりです! まずは——シチュエーション1!
『雨宿りでふたりきり、濡れた髪がふいに目に入ってドキッ』の巻! 相手役エネルさん、お願いします!」
「えええええええっ!!??」
「私はこれでいいのか」と。
異世界に来て、もう一週間以上。
ファンタジー小説であれば、そろそろ冒険が始まっている頃だろう。仲間と旅に出るとか、未知なる力に目覚めるとか。
エミリはというと——
「エミリ様、見てください! 手です! 手を繋いでます!!」
「うん、そりゃ繋ぐでしょう。恋人同士なんだから」
「ひぃーっ……な、なんてことですか。人間はやっぱりよく分かりません!」
「なんか……俺たち、悪いことしてる気分になるな」
ピリカが驚いているのは、男同士が手を繋いでいることではない。
恋人同士が触れ合うという文化そのものに、びびり散らかしているのだ。
ただいま、交流会・第三回を開催中である。
しかも、今回も魔族の不思議な生態に出くわすことになった。
きっかけは、ピリカのひとことだった。
「第三回交流会を始めます! 本日もプレゼンターは私、森沢エミリがお送りします!」
「毎回それ、言うんだな……」
エネルというツッコミ役が定着したおかげで、進行はだいぶスムーズになった。
「さて、今回のテーマは恋愛について。魔族の皆さんはどうなんですか? 少子化が深刻って聞きましたけど、結婚する方が少ないんですか? ちなみにピリカさんは、お付き合いされてる方とか?」
「はい! 夢の恋人がいます!」
「夢の恋人……?」
「魔法で好みの英雄を恋人として夢の中に呼ぶんです! 寝ている間、一緒に過ごせるんですよ! 今の若い子はみんな夢の恋人がいます!」
「あー……二次元の恋人みたいな感じですね。分かります、私の世界にもありました」
「ダメじゃー! 今の魔族は恋愛をしなくなってしまっておる! この変な魔法が流行ってから、現実の相手と関係を築こうとしなくなったんじゃ!」
「だって夢の恋人の方が完璧なんですよ。現実で恋愛したって、相手が私を好きになるとは限らないし、効率が悪すぎます」
「うん……まあ、その気持ちはわかります。自分の好みを詰め込んだ相手に、現実の人が勝つのは、正直むずかしいですね」
「でもさ、ピリカ殿。夢の恋人は、触れ合えないよ? ほら、こういうふうに……」
アレイスが、そっとエルヴィンの手に触れる。
そして、冒頭の場面に戻る。
「……なんか、私、ジェネレーションギャップを感じています。魔族の若者って、手を繋ぐこともしないんですか?」
「今の若者はみんなこうじゃ。ここ百年ほど、魔族は長寿だからつい放っておいたが……取り返しのつかないところまで来ておる」
——まあ、脳筋がトップに立ってるしな。
エミリはうっすら納得する。
「エネルさん、ちょっと失礼しますね」
そう言って、エミリはエネルの肩に軽く触れた。
「な、なにをするんだぁーーー!!」
……なるほど。こいつもか。
「ここ百年で育った世代の魔族は、ほぼ全員こんな感じじゃ、これではそのうち魔族が消滅してしまう」
村長デランは頭を抱えた。
「ピリカさん。恋愛に効率を求めちゃダメですよ?
人を好きになって、その人が他の女の子(あるいは男の子)と仲良くしてて胸が痛くなったり、振られて一晩中泣いたり……そういうのも、悪くないですよ?」
「……え、嫌です。そんな苦痛、わざわざ経験したくありません」
「ピリカはまだマシな方じゃ。中には、朝も昼も夢の中に恋人会いに行くために寝続けるやつもおる」
「……それ、健康にも悪いですよね」
エミリはひとつ深呼吸して、手を組んだ。
「分かりました。夢の恋人を否定するつもりはありません。恋愛は自由だし、誰を好きになるかは人それぞれです。でもね、現実の誰とも関わらないままだと、やっぱりちょっと危ないと思うんです」
そう言って、エミリはにこっと笑う。
「私がここに来たのも何かの縁。できる範囲で協力します。とはいえ、いきなり手を繋げとか抱きしめろとか言っても無理ですよね。分かってます。なので、まずは——恋愛シミュレーションから始めましょう」
「……シミュレーション?」
エネルが眉をひそめた。
「そう。私と誰かで、仮想恋愛をやります。
『第一印象最悪のふたりが雨宿りをきっかけに急接近』とか、『喧嘩ばかりだった幼なじみが、ふとした瞬間に……』みたいなシチュエーションを演じて、恋愛ってどういう感情か、どういう距離感かを体験してもらいます!」
「……演劇か?」
「まあ、そんな感じですね。観客はピリカさんたち若者。きゅんきゅんするシーンを見せて、恋愛っていいな~って思わせるのが目的です」
「……きゅんきゅん?……」
ピリカが聞きなれない言葉を口に出し、顔を赤らめた。
「エミリ殿、それは本当に有効なのか?」
「たぶん。でも、現実に恋するよりはリスク少ないし、楽しいでしょ?」
「わしは嫌な予感しかしないのう……」
村長デランがぼそっとつぶやいた。
エミリは無視して、ぴっと指を立てた。
「じゃあ決まりです! まずは——シチュエーション1!
『雨宿りでふたりきり、濡れた髪がふいに目に入ってドキッ』の巻! 相手役エネルさん、お願いします!」
「えええええええっ!!??」
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