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異世界恋愛改革
恋愛伝染病作戦
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参加希望者は予想をはるかに上回り、くじ引きの結果、男性五人・女性五人の計十人が選ばれた。
準備のため、詳細は後日伝えることにして、若者たちはそれぞれの村へと帰っていった。
「それで、エミリ殿は次に何を考えているの?」
アレイスが首を傾げると、エミリはニヤリと笑みを浮かべて、目の前にいたピリカ、村長、エネル、アレイス、エルヴィンたち――通称“チームエミリ”へと向き直った。
「私の世界では、恋人同士が“これからの人生を一緒に生きよう”と決めると、結婚という契約を結ぶのです。そして、その契約をみんなに祝ってもらうために“結婚式”というお披露目会を開きます」
「お披露目会……で、それが今回の作戦とどう繋がるんですか?」
ピリカが不思議そうに眉を寄せると、エミリは胸を張って言った。
「その結婚式には友人や親戚、同僚が呼ばれます。幸せそうな二人を見て、彼らは思うんです。“ああ、私も恋人が欲しい”“結婚したい”って」
「そんなもんか?」
エネルがピンとこない様子で肩をすくめた。
「赤の他人の幸せならそこまで心は動きません。でも、知っている人だったら話は別です。その心理的効果を、私は利用します」
エミリの声が、少しだけ力を帯びた。
「今回選ばれた男女には、一定期間共同生活をしてもらいます。そして、劇でやったような恋愛シチュエーションを自然に起こしてもらうんです。その様子を、彼らの村の若者たちに“見せつける”。そうすれば、“自分もやってみたい”って思うはず!」
「……それは、生き恥じゃないか?」
エネルのツッコミは、当然のようにエミリに無視された。
「ところで、魔族の皆さん。目の前の出来事をそのまま記録できる魔法、あったりします?」
「わしができるぞ」
村長が手を挙げると、エミリは大きくうなずいた。
「よかった。実はそれ前提で考えてたので、なかったら詰んでました。では村長、若者たちの共同生活の様子を毎日記録して、それを各村に届け、日に一度“鑑賞する時間”を設けてください」
「わ、わかったが……本当に上手くいくのかのう?」
「大丈夫です。今回の劇で、手応えがありましたから」
そう言ってエミリは、ふっと微笑む。
「実はこの“男女共同生活”も、私の世界の受け売りなんです。娯楽としても、ちゃんと成立しています。恋愛模様って、それだけで人の心を揺らすんですよ。たとえ台本があろうが、なかろうがね」
エミリには、よくある異世界主人公のようなチート能力はない。
女神の加護もなければ、万能知識で村を救える頭脳もない。
だけど――
長年、毎月欠かさず払い続けた某映像系サブスクの恩恵は、確かに残っている。
そう、エンターテイメントの知識なら、誰にも負けない自信がある。
誰が誰を好きになって、どうすれ違って、どう修羅場って、どう仲直りしたのか。
ときに笑い、ときに泣き、ときに画面越しに手を握りたくなるほどの恋のかたちを何百通りも見てきた。
だからこそ、彼女にはわかる。
これは――
絶対に、上手くいく。
エミリの目に、迷いはなかった。
その熱を受けて、“チームエミリ”の面々も、次第に空気にのまれていく。
なんかよくわからないけれど、やってみるか——そんな気持ちが、じわじわと。
「それでですね、アレイスさん、エルヴィンさん。お二人には、ある重要な任務をお願いしたいのです」
「俺たちが? いや、俺たちは魔族と違って魔法も使えないし、戦えるわけでも——」
「私も……特に役に立てそうな能力は……ないと思うんですけど……?」
ふたりが顔を見合わせながら首をかしげると、エミリはにこりと笑った。
穏やかな笑顔。けれどその裏に、妙に抗いがたい“何か”があった。
「魔族の若者たちは、恋愛についてはまだ赤子のようなものです。何もわからず、手探りで関係を築こうとする姿を見るのも、それはそれで味がありますが……」
エミリの声がふわりと落ち着く。
それと同時に、どこか遠くから冷たい風が吹いた気がした。
「彼らには導き手が必要です。困った時、背中を押してくれる人。つまり——恋愛のプロであるお二人には、アドバイザーとして動いてほしいのです」
「恋愛のぷろ?」
「あ……あどば……?」
「そこは流していただいて結構です。要は相談役です」
アレイスとエルヴィンは釈然としないまま視線を交わした。
が、もう断れる空気ではなかった。
「さて。そうと決まれば、私は脚本を練ってきます。村長、若者たちが共同生活を送れる家をひとつ、用意しておいてください。アレイスさんとエルヴィンさんは……村人たちにわかるように、イチャイチャでもしておいてください。ピリカさんとエネルさんは……まあ、適当に! じゃ、解散で!」
そう言い残すと、エミリは軽やかに踵を返し、ぱたぱたと小走りにその場を去っていった。
背中からは、妙に楽しげな気配が漂っている。
しばしの静寂。
「……なんか、こう……」
「うん。俺も……言葉にはできないが、エミリ殿って、すごいな」
「意味は……よくわかんないですけど。でも、こう……妙な説得力があるというか……押し切られるというか……」
「うむ。エミリ殿が“いける”って言うなら、なんかもう……いける気がしてくるから不思議だ」
誰ともなくつぶやいたその言葉に、一同がゆっくりと頷いた。
風が吹いた。
ほんの少しだけ、未来が動いた気がした。
準備のため、詳細は後日伝えることにして、若者たちはそれぞれの村へと帰っていった。
「それで、エミリ殿は次に何を考えているの?」
アレイスが首を傾げると、エミリはニヤリと笑みを浮かべて、目の前にいたピリカ、村長、エネル、アレイス、エルヴィンたち――通称“チームエミリ”へと向き直った。
「私の世界では、恋人同士が“これからの人生を一緒に生きよう”と決めると、結婚という契約を結ぶのです。そして、その契約をみんなに祝ってもらうために“結婚式”というお披露目会を開きます」
「お披露目会……で、それが今回の作戦とどう繋がるんですか?」
ピリカが不思議そうに眉を寄せると、エミリは胸を張って言った。
「その結婚式には友人や親戚、同僚が呼ばれます。幸せそうな二人を見て、彼らは思うんです。“ああ、私も恋人が欲しい”“結婚したい”って」
「そんなもんか?」
エネルがピンとこない様子で肩をすくめた。
「赤の他人の幸せならそこまで心は動きません。でも、知っている人だったら話は別です。その心理的効果を、私は利用します」
エミリの声が、少しだけ力を帯びた。
「今回選ばれた男女には、一定期間共同生活をしてもらいます。そして、劇でやったような恋愛シチュエーションを自然に起こしてもらうんです。その様子を、彼らの村の若者たちに“見せつける”。そうすれば、“自分もやってみたい”って思うはず!」
「……それは、生き恥じゃないか?」
エネルのツッコミは、当然のようにエミリに無視された。
「ところで、魔族の皆さん。目の前の出来事をそのまま記録できる魔法、あったりします?」
「わしができるぞ」
村長が手を挙げると、エミリは大きくうなずいた。
「よかった。実はそれ前提で考えてたので、なかったら詰んでました。では村長、若者たちの共同生活の様子を毎日記録して、それを各村に届け、日に一度“鑑賞する時間”を設けてください」
「わ、わかったが……本当に上手くいくのかのう?」
「大丈夫です。今回の劇で、手応えがありましたから」
そう言ってエミリは、ふっと微笑む。
「実はこの“男女共同生活”も、私の世界の受け売りなんです。娯楽としても、ちゃんと成立しています。恋愛模様って、それだけで人の心を揺らすんですよ。たとえ台本があろうが、なかろうがね」
エミリには、よくある異世界主人公のようなチート能力はない。
女神の加護もなければ、万能知識で村を救える頭脳もない。
だけど――
長年、毎月欠かさず払い続けた某映像系サブスクの恩恵は、確かに残っている。
そう、エンターテイメントの知識なら、誰にも負けない自信がある。
誰が誰を好きになって、どうすれ違って、どう修羅場って、どう仲直りしたのか。
ときに笑い、ときに泣き、ときに画面越しに手を握りたくなるほどの恋のかたちを何百通りも見てきた。
だからこそ、彼女にはわかる。
これは――
絶対に、上手くいく。
エミリの目に、迷いはなかった。
その熱を受けて、“チームエミリ”の面々も、次第に空気にのまれていく。
なんかよくわからないけれど、やってみるか——そんな気持ちが、じわじわと。
「それでですね、アレイスさん、エルヴィンさん。お二人には、ある重要な任務をお願いしたいのです」
「俺たちが? いや、俺たちは魔族と違って魔法も使えないし、戦えるわけでも——」
「私も……特に役に立てそうな能力は……ないと思うんですけど……?」
ふたりが顔を見合わせながら首をかしげると、エミリはにこりと笑った。
穏やかな笑顔。けれどその裏に、妙に抗いがたい“何か”があった。
「魔族の若者たちは、恋愛についてはまだ赤子のようなものです。何もわからず、手探りで関係を築こうとする姿を見るのも、それはそれで味がありますが……」
エミリの声がふわりと落ち着く。
それと同時に、どこか遠くから冷たい風が吹いた気がした。
「彼らには導き手が必要です。困った時、背中を押してくれる人。つまり——恋愛のプロであるお二人には、アドバイザーとして動いてほしいのです」
「恋愛のぷろ?」
「あ……あどば……?」
「そこは流していただいて結構です。要は相談役です」
アレイスとエルヴィンは釈然としないまま視線を交わした。
が、もう断れる空気ではなかった。
「さて。そうと決まれば、私は脚本を練ってきます。村長、若者たちが共同生活を送れる家をひとつ、用意しておいてください。アレイスさんとエルヴィンさんは……村人たちにわかるように、イチャイチャでもしておいてください。ピリカさんとエネルさんは……まあ、適当に! じゃ、解散で!」
そう言い残すと、エミリは軽やかに踵を返し、ぱたぱたと小走りにその場を去っていった。
背中からは、妙に楽しげな気配が漂っている。
しばしの静寂。
「……なんか、こう……」
「うん。俺も……言葉にはできないが、エミリ殿って、すごいな」
「意味は……よくわかんないですけど。でも、こう……妙な説得力があるというか……押し切られるというか……」
「うむ。エミリ殿が“いける”って言うなら、なんかもう……いける気がしてくるから不思議だ」
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