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異世界恋愛改革
EPエミリ
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エミリは真剣な表情で水晶スクリーンを凝視していた。
その異様な集中ぶりに、隣のピリカが不安げに声をかける。
「エミリ様……何か問題がありましたか? トラブルとかですか……?」
「違います。むしろその逆……。これは……実に良い……実に良い展開です……」
「え、あの、共同生活のですか? 今日はどんな感じなんです?」
ピリカが尋ねると、エミリは神妙な面持ちのまま頷いた。
数日前から、エミリ――森沢エミリ・エグゼクティブプロデューサーの企画により、魔族の若者たちによる共同生活が始まっていた。
男女混合、日替わりで無作為にペアを組まされ、朝から晩まで各種“接触イベント”を強制される生活。
はじめはぎこちなく当たり障りのない会話ばかりだった彼らも、次第に緊張がとけ、あちこちで甘酸っぱい感情の芽生えが垣間見えるようになっていた。
「今日はね、ダール君が相談部屋に来たの。『これは恋なんでしょうか』って……」
エミリは椅子から立ち上がって、両手を胸の前で組む。
「他の子と手を繋いでも何ともないのに、ユリハちゃんとだけは触れるとドキドキして息が詰まるんだって!でもね、ゲイル君もダール君のことが気になるみたいで……!これは三角関係が始まる予感です!ピリカさん、私は誰を応援すべきだと思います?」
「えっ……えっと……ユリハさんのツノって立派ですよね、あれって武器にもなりそうで……ちょっと怖いので心拍数もあがるかもです?」
「…………ピリカさん。あなたも共同生活に参加してみたらどうですか? 思考回路が根本的に違う気がします」
ああだめだ、とエミリはため息をついた。まともな話相手は、アレイスかエルヴィンが戻ってくるまでお預けらしい。
その時、にこにこ顔の村長・デランが鼻歌まじりに部屋へ入ってきた。
「エミリ様! 今さっき他の村の村長たちから連絡がありましてな、夕方に流れる『一日のまとめ映像』、あれに村中が夢中らしいんじゃ。若者だけでなく年寄りまで、晩飯の前に正座して観とるそうじゃぞ!」
その言葉に、エミリの脳内で「収益化」の鐘が鳴る。
──これは……市場がある。
ならば、次は範囲を広げてもっと大きな町で配信する。反響がよければ完全保存版の制作に乗り出し、特典つきの限定版を販売。ついでに共同生活の舞台となったこの村の“巡礼ツアー”を企画すれば、地元も潤い地域振興にも繋がる。
しかも、地球で培ったノウハウがそのまま応用できる。これほど安全確実なビジネスは他にない。
エミリはふっと笑みを浮かべた。
「……次は、グッズ展開だな。アクスタ、缶バッジ、ブロマイド、あと恋愛成就お守りもありかも…… それから一定額以上で握手会…完璧だわ…」
傍らでピリカが首をかしげた。
「その“グッズ”って、呪い道具の一種ですか?」
「うん、購買欲っていう呪いが発動するやつですね」
さらりと答えるエミリの表情は冗談のようでいて、どこか本気だった。
視線の先、スクリーンの中では、浴槽を掃除しに行ったハンナが、ずぶ濡れで飛び出してくるところだった。
そのすぐ後ろを、タオルを抱えて慌てて追いかけるジャン。
カメラはしっかり、彼の耳が真っ赤になっているのを捉えていた。
(……よし。動揺、困惑、距離の近さ。完璧な三拍子)
エミリは、やや口角を上げてニヤリと笑った。
細工は、見事に成功したようだ。
恋が動き出すには、きっかけがいる。
穏やかな日々の中でも、心が少しずつ惹かれ合うことはある。
けれど――それだけでは、どうしても時間がかかる。
だからこそエミリは、意図的に“ハプニング”を仕込んだ。
浴場裏の配管に細工をしたのは昨日の夜。
正直、ベタすぎるかと一度は迷ったが、結局エミリはやった。
驚き、混乱、濡れたままの急接近。
そんな不安定な状況は、心の隙間に入り込むにはもってこいだ。
“吊り橋効果”という名の演出。
一瞬の勘違いで生まれた恋心でも、そこから始めればいい。
むしろ、揺らいだ心ほど火はつきやすい。
それが真実かどうかは問題じゃない。
育てば、本物になる。エミリはそれを知っていた。
その異様な集中ぶりに、隣のピリカが不安げに声をかける。
「エミリ様……何か問題がありましたか? トラブルとかですか……?」
「違います。むしろその逆……。これは……実に良い……実に良い展開です……」
「え、あの、共同生活のですか? 今日はどんな感じなんです?」
ピリカが尋ねると、エミリは神妙な面持ちのまま頷いた。
数日前から、エミリ――森沢エミリ・エグゼクティブプロデューサーの企画により、魔族の若者たちによる共同生活が始まっていた。
男女混合、日替わりで無作為にペアを組まされ、朝から晩まで各種“接触イベント”を強制される生活。
はじめはぎこちなく当たり障りのない会話ばかりだった彼らも、次第に緊張がとけ、あちこちで甘酸っぱい感情の芽生えが垣間見えるようになっていた。
「今日はね、ダール君が相談部屋に来たの。『これは恋なんでしょうか』って……」
エミリは椅子から立ち上がって、両手を胸の前で組む。
「他の子と手を繋いでも何ともないのに、ユリハちゃんとだけは触れるとドキドキして息が詰まるんだって!でもね、ゲイル君もダール君のことが気になるみたいで……!これは三角関係が始まる予感です!ピリカさん、私は誰を応援すべきだと思います?」
「えっ……えっと……ユリハさんのツノって立派ですよね、あれって武器にもなりそうで……ちょっと怖いので心拍数もあがるかもです?」
「…………ピリカさん。あなたも共同生活に参加してみたらどうですか? 思考回路が根本的に違う気がします」
ああだめだ、とエミリはため息をついた。まともな話相手は、アレイスかエルヴィンが戻ってくるまでお預けらしい。
その時、にこにこ顔の村長・デランが鼻歌まじりに部屋へ入ってきた。
「エミリ様! 今さっき他の村の村長たちから連絡がありましてな、夕方に流れる『一日のまとめ映像』、あれに村中が夢中らしいんじゃ。若者だけでなく年寄りまで、晩飯の前に正座して観とるそうじゃぞ!」
その言葉に、エミリの脳内で「収益化」の鐘が鳴る。
──これは……市場がある。
ならば、次は範囲を広げてもっと大きな町で配信する。反響がよければ完全保存版の制作に乗り出し、特典つきの限定版を販売。ついでに共同生活の舞台となったこの村の“巡礼ツアー”を企画すれば、地元も潤い地域振興にも繋がる。
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エミリはふっと笑みを浮かべた。
「……次は、グッズ展開だな。アクスタ、缶バッジ、ブロマイド、あと恋愛成就お守りもありかも…… それから一定額以上で握手会…完璧だわ…」
傍らでピリカが首をかしげた。
「その“グッズ”って、呪い道具の一種ですか?」
「うん、購買欲っていう呪いが発動するやつですね」
さらりと答えるエミリの表情は冗談のようでいて、どこか本気だった。
視線の先、スクリーンの中では、浴槽を掃除しに行ったハンナが、ずぶ濡れで飛び出してくるところだった。
そのすぐ後ろを、タオルを抱えて慌てて追いかけるジャン。
カメラはしっかり、彼の耳が真っ赤になっているのを捉えていた。
(……よし。動揺、困惑、距離の近さ。完璧な三拍子)
エミリは、やや口角を上げてニヤリと笑った。
細工は、見事に成功したようだ。
恋が動き出すには、きっかけがいる。
穏やかな日々の中でも、心が少しずつ惹かれ合うことはある。
けれど――それだけでは、どうしても時間がかかる。
だからこそエミリは、意図的に“ハプニング”を仕込んだ。
浴場裏の配管に細工をしたのは昨日の夜。
正直、ベタすぎるかと一度は迷ったが、結局エミリはやった。
驚き、混乱、濡れたままの急接近。
そんな不安定な状況は、心の隙間に入り込むにはもってこいだ。
“吊り橋効果”という名の演出。
一瞬の勘違いで生まれた恋心でも、そこから始めればいい。
むしろ、揺らいだ心ほど火はつきやすい。
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