海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ

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異世界恋愛改革

恋愛活性化

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「なんということでしょう……まさか、ここまでの神展開になるなんて、夢にも思いませんでした……」

エミリは呆れと感動が入り混じったような声でぽつりと呟いた。ナージャの代わりに新たに加入したのは、魔族の中でも屈指の美青年・エルディア。その加入から、まだ一週間しか経っていないというのに——。

かつて“神託の勇者”としてもてはやされたエミリの名は、今やすっかり話題の外だ。

そんな彼女はというと、プロデューサーとしての職務に日々奔走していた。

 

「それにしても……最近、みんな恋愛に前向きになってきたのは良いことだが……。エルディアを巡って決闘騒ぎになるとはな。これは魔族らしいと言うべきか?それとも、肉ばかり食べてるせいで力が余ってるのか……?」

腕を組んで難しい顔をするエルヴィンの隣で、エミリが微笑む。

「それでいいんです。視聴者は、あくまで魔族の皆さんなんですから。国の代表を“力の強さ”で決める、脳…いえ、パワー志向の文化です。一人の青年を巡って真剣勝負、なんて……まさに“キュン”の見せ場。視聴率、跳ね上がってますよ」

 「うちの村でも、毎晩みんなで集まって見てますよ。村長なんて『神託の勇者がついに少子化対策に乗り出した!』って、喜びのあまり宴を開いてましたから」

ピリカが目を輝かせて報告すると、エミリは疲れたように頭を抱えた。

 「いやいや、私はそんな高尚な目的でやってるつもりじゃ……」

 「でも結果的に、“恋をする空気”が村や町に広がって、若者の心を動かしているのなら、それはそれで立派な一歩だと思います。たとえ加護も魔法もなくても、エミリ様は異世界に“必要とされている”ということです」

アレイスの真面目なフォローに、エミリの表情が少し緩んだ。

「今や、あちこちの劇団が“キュン劇”を真似しているそうですよ。エルディアが照れながら花束を受け取るシーンなんて、もはや定番中の定番です」

「キュン劇……ネーミングセンスが破滅的ですね……」

肩を落とすエミリをよそに、アレイスがふと思い出したように口を開いた。

 

「あっ、この間、エルヴィンとエネルさんと三人で”キュン劇”を観に行ったんですよ。けっこう面白かったです」

その一言で、エミリとピリカがぴたりと動きを止めた。そしてゆっくりとアレイスの方を振り向く。

 

「え、エネルさんと一緒に……!?」

 

「はい。意外かもしれませんが、エネルさんって、共同生活の映像も欠かさず観てるんですよ。それにキュン劇もすっかりお気に入りで、最近じゃ感想まで語ってくれるんです」

 

「それは、驚き……。魔王選出トーナメントのときは、無口で鋼のような強さしか印象に残ってなかったのに……。まるで別人」

 

「ピリカさん、それを私の世界では“ギャップ萌え”と言います」

エミリがぽつりと補足すると、場の空気がどっと和んだ。

 

彼女は今、異世界にいる。加護も、魔法も持たない。ただの人間。

なのに“神託の勇者”として召喚され、訳も分からぬままここに来た。

 

——だが。

 

特別な力がなくとも、心で人と向き合い、日々を少しずつ変えていく。

その姿勢が、確かに魔族たちの心を動かし、この国の未来を変えつつある。

 

「エミリ様ー! 大変じゃー!」

 

突然、入口からドタバタと駆け込んできたのは村長だった。額には汗、声は切羽詰まっている。

 

「どうなさいました、村長? 私でよければ、お話お聞きいたしますよ」

 

すっと立ち上がったエミリの声は、どこか頼もしく響いていた。
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