海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ

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異世界の環境改革

魔獣と魔族

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数日後。

エミリはエネルに頼み、魔獣に詳しい魔族を呼んでもらい、会議を開くことにした。

「なんで私まで……他にやることあるんだけど……」

魔王ゼアが小声でぶつぶつ言っているが、特に誰も気に留めていない。会議は予定通り進む。

「ではまず、嘆願書を提出してくださった方と、魔獣に詳しい方……お名前、伺ってもよろしいでしょうか」

「はい、嘆願書を出したのは私です! 城で魔獣の飼育を担当してます、アエラといいます。 魔王様にお話ししたら、すぐ対応してくださって……ありがとうございます!」

アエラは透き通るようなブルーの髪を揺らしながら、魔王に憧れの眼差しを向けていた。

なかなか目立つ色だ。というか、どうやったらそうなるんだろう。色素?それとも光学的な何か?

エミリはアエラの髪にじっと見入り、「これこそファンタジー……魔法少女だわ」と感心していると、隣の席の男性が口を開いた。

「僕はジュード。魔獣の研究をしています。アエラさんが動いてくれて助かりました。実は僕も、最近ちょっと変だと思っていて。でも研究室にこもってたら……まあ、報告を後回しにしてました」

こちらは赤い髪だった。

綺麗に赤い。人工的な色ではないようで、つまりこれは生まれつきの赤らしい。

ゼアとエネルは銀髪なので、今この場には青・赤・銀が揃っている。

髪色の主張が強い。

なんならスタンプラリーができそうだ、とエミリは思った。
青、赤、銀。あと何色でコンプリートだろう。緑?ピンク?

などと考えていると、隣から声が飛んでくる。


「……おい。エミリ。聞いてるのか。おまえ今、絶対くだらないこと考えてただろ」

「……はっ!私としたことが!すみません、今戻ってきました」

淡々と反省の姿勢を示し、会議に集中するふりを始めたエミリだった。



「一つ疑問なんですけど、魔物と魔獣って、何が違うんです?」

ふとエミリが口にする。

「よく聞いてくれた」と、エネルがすっと表情を改める。

「魔物は、魔素の澱みから自然発生する。土地に魔素が長く滞留して、穢れて……腐ることで生まれる存在なんだ」

「腐る……つまり、悪い魔力?」

「そう。澱んだ魔素、負のエネルギーが具現化したのが魔物。だから、存在自体が不安定で、理性もない。暴走するし、喰うだけ喰って、何も残さない」

「対して魔獣は?」 

「魔獣は、もともと自然界の獣。長い時間をかけて、魔素に触れて変化した存在だ。魔素を取り込み、共生して生きている。魔素を糧にする生き物だな」

「なるほど……魔物は腐敗、魔獣は進化って感じ?」

「的を射てる。魔物はこの世界の負そのもの、魔獣はこの世界の適応の一つ。見た目が似てても、全くの別物さ」

ふーん、とエミリは頷きながら、自分の中でざっくりと分類した。

(つまり……魔物=モンスター、魔獣=魔力付きの動物……でいいか)

「じゃあ、エネルが言ってた魔族と魔獣は切っても切れない関係って、どういう意味です?」

エネルは少し間をおいて、言葉を選ぶように答えた。

「魔族が死ぬと、その身体も魔力も、すべて魔素に戻るんだ。それが大地に溶けて、長い時間をかけて……魔獣が生まれる。魔獣もまた死んだら、それがやがて魔族の魔力の源になる」

「……循環してるってこと?」

「ああ。魔族と魔獣は、命の環をぐるぐる回してる。片方がいないと、回らなくなる」

「でも……魔獣がいなくても、魔族が死ねば魔素になるんでしょ?それだけで循環すればよくないですか?」

「それがダメなんだ。魔素はただのエネルギーであって、扱える魔力になるには命を一度通過しないといけない。魔獣の体内で、時間をかけて命として濾過されて、初めて魔族が使える力になるんだよ」

「……つまり、魔獣はろ過装置なんですね……」

「そう。魔素という川を濾して、澄んだ魔力に変えるフィルターみたいなものだ」

「それが減ってるって……かなりマズいのでは?」

「だからこそ、今回の孵らない卵、目覚めない魔獣は、俺たちにとって致命的な警告なんだよ」

エミリはゾクリと背筋が冷えるのを感じた。



「ジュードさん、原因とかって予想はついてるんですか?」

そう聞いたエミリに、ジュードは少し黙ってから、魔獣の標本図が描かれた分厚いノートを開いた。

「……仮説ならあります」

眼鏡越しの視線が真剣そのもので、エミリは自然と背筋を正す。

「魔獣は、魔素を糧に生きています。草食獣が草を食むように、呼吸するように、日々当たり前に魔素を取り込んで、体をつくり、成長していく」

「はい」

「だが最近、その当たり前が崩れてきている…魔素の流れに異常があります」

「流れ……って?」

「本来、魔素は風や水と似た性質を持ってる。土地の力に沿って流れ、循環し、偏ることはほとんどないです。ところが最近は、特定の地域では魔素濃度が異様に高くなり、逆に別の場所では急激に薄くなってる…」

「つまり薄くなっている場所では、魔獣たちが魔素を吸えなくなってるってことですか?」

「ええ。結果、魔素が足りない場所では、魔獣が育たない。卵は力を蓄えられず、孵化できない。冬眠中の個体は、目覚めるだけの魔素を吸収できない」

ジュードは、魔獣の成育グラフを示したページをめくった。

「これは、過去百年分の記録です。繁殖率、成長率、活動周期……全てが徐々に落ち込んでたのに、ここ数年でガクンと急降下している。自然の変化とは思えません」

「明らかに、外的な要因があるってことですね」

そのとき、背後から低い声が割って入った。

「……ほう。興味深いな」

いつのまにか魔王ゼアが背後に立っていた。珍しく、その瞳に冗談の色はなかった。

「残念ながら原因までは特定できてないです…だけどこのまま放置すれば、魔獣は絶滅傾向に入る。しかも静かに、確実にです」

「……」

「魔素の流れを乱してる何かがある。それが何であれ、この異常は魔獣だけの問題じゃない…いずれ魔族の生態にも影を落とします…」

「命の循環が止まってしまう、ってことですね」

「そうです。魔獣はただの野生生物じゃない。この私たちにとって魔素の濾過装置であり、循環装置でもある。だからこそ、この異常には、もっと本気で向き合わなきゃならないんです」

ジュードはそう言って、静かにノートを閉じた。







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