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異世界の環境改革
魔獣調査
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「か、可愛い……可愛いですね……いやほんと……可愛い……」
「おい。さっきから同じ言葉しか言ってないぞ?」
エネルが呆れ気味にツッコミを入れる。
エミリは今、エネル、アエラ、ジュードと共に、王城内にある魔獣の飼育場に来ていた。
目の前には、小さな羽をパタパタさせる二匹のトカゲような魔獣いる。
ころころ転がりながらじゃれ合っているその姿に、エミリの表情はとろけきっていた。
日々の仕事とストレスにより、ついに語彙力が崩壊したのである。
「この子たちは、やっと孵ったドラーグの赤ちゃんです。通常なら、三十年ほどで孵化するのですが……この子たちは五十年かかりました」
アエラが優しく説明する。その視線には、飼育員としての愛情と、深い懸念が滲んでいた。
「……なんと。五十年……私たち人間には信じられないスケールです」
エミリは驚きつつも、ふと「卵の段階でもう自分より年上…」と考えてしまい、魔族たちの年齢に対する好奇心がすっと霧散した。
「五十年もかかったということは……やはり王城周辺でも、魔素が薄まっているということですね」
ジュードが表情を引き締める。顎に手を当て、すでに頭の中ではいくつかの仮説が浮かび始めているようだった。
「魔獣の成長具合って……土地ごとの魔素濃度の指標になるんじゃ?」
エミリがふと思いついたように口を開く。
「なるほど……」
ジュードが目を細める。
「孵化までの年数、成育スピード、活動開始時期……それぞれの魔獣の記録を地図上に重ねていけば、魔素の偏在が見えてくるかもしれません」
「そこから原因の当たりもつけられそうだな…」
エネルも軽く頷いた。
「私、資料整理やります!」
とエミリが即座に手を挙げるが、ドラーグの赤ちゃんの鳴き声にすぐ気を取られ、頬がゆるんだままフリーズする。
「……かわいい……」
「完全に戻ってきてないな」
エネルが苦笑する。
場にはふわりと笑いが広がったが、その背後に流れる空気は、やはりどこか緊張感を孕んでいた。
そこには、大地と命の異変が確かにあった。
******
「とりあえず、魔族の領土を広範囲に調査したいですね。人間と魔族でチームを組んで、合同調査隊を編成しましょう。
人間領の三町からも、働き口として希望者を募れば、きっと協力してくれる人がいますよ。人間と魔族が力を合わせれば、思わぬ相乗効果が生まれるかもしれません」
「……なんかよくわからんが、お前が言うなら、そうなのかもな」
最近、すっかりイエスマンになりつつあるエネルだった。
「じゃあ、決まりですね! エネル、私たちも村に帰りましょう。エルヴィンさんとアレイスさんも、独立の件でいよいよ大詰めでしょうし」
「……あの二人にはさん付けするのに、俺にはいつの間にか呼び捨てかよ」
「えっ? 気にしてたんですか?じゃあ、“エネルさん”って呼びましょうか?」
「……いや、今さら”さん”付けられても逆に落ち着かねぇな」
「ふふ、じゃあやっぱり呼び捨てのままでいいですね」
「……なるほどな」
エネルはふっと口元を緩めて、彼女の横顔を盗み見るようにして言った。
「さん呼びをやめたってことは、俺には心を許したってことか?」
「……っ!」
彼女の足がぴたりと止まる。
目を逸らしたまま、微妙に口元を引き結んで、小さな声で答える。
「……ちがいます。ただ、呼びやすいだけです」
「へぇ?」
「……それに、エネルさんって呼ぶと、なんかこう……」
「なんか?」
「……忘れてください」
彼女はぷいと前を向き直して、早足になる。
それを追いかけるようにエネルが歩を進めながら、からかうように笑った。
「でもまぁ、嫌じゃないってことは確かだな」
「……うるさいです」
声は小さいけれど、確かに優しさがにじんでいた。
少し歩いたところで、エネルがぽつりとつぶやいた。
「……でも、ありがとな」
「え?」
彼は前を向いたまま、顔は見えない。でも、その声は少しだけ柔らかかった。
「……お前が、俺のこと、ちょっとでも特別に感じてくれているのがわかるっていうか。……いや、うまく言えねぇけど」
彼女は一瞬驚いた顔をして、それから目を伏せて小さく微笑んだ。
エネルは照れ隠しのように背伸びをひとつして、頭をかく。
「お前がいてくれて、助かってるよ。……本当に」
「……そ、そういうの、今言います?!」
「今がタイミングだったんだよ、たぶん」
彼の言葉は不器用だけれど、まっすぐだった。それだけで、彼女の胸が少しあたたかくなる。
夕焼け空の下、二人の影はすこしずつ近づいていた。
「おい。さっきから同じ言葉しか言ってないぞ?」
エネルが呆れ気味にツッコミを入れる。
エミリは今、エネル、アエラ、ジュードと共に、王城内にある魔獣の飼育場に来ていた。
目の前には、小さな羽をパタパタさせる二匹のトカゲような魔獣いる。
ころころ転がりながらじゃれ合っているその姿に、エミリの表情はとろけきっていた。
日々の仕事とストレスにより、ついに語彙力が崩壊したのである。
「この子たちは、やっと孵ったドラーグの赤ちゃんです。通常なら、三十年ほどで孵化するのですが……この子たちは五十年かかりました」
アエラが優しく説明する。その視線には、飼育員としての愛情と、深い懸念が滲んでいた。
「……なんと。五十年……私たち人間には信じられないスケールです」
エミリは驚きつつも、ふと「卵の段階でもう自分より年上…」と考えてしまい、魔族たちの年齢に対する好奇心がすっと霧散した。
「五十年もかかったということは……やはり王城周辺でも、魔素が薄まっているということですね」
ジュードが表情を引き締める。顎に手を当て、すでに頭の中ではいくつかの仮説が浮かび始めているようだった。
「魔獣の成長具合って……土地ごとの魔素濃度の指標になるんじゃ?」
エミリがふと思いついたように口を開く。
「なるほど……」
ジュードが目を細める。
「孵化までの年数、成育スピード、活動開始時期……それぞれの魔獣の記録を地図上に重ねていけば、魔素の偏在が見えてくるかもしれません」
「そこから原因の当たりもつけられそうだな…」
エネルも軽く頷いた。
「私、資料整理やります!」
とエミリが即座に手を挙げるが、ドラーグの赤ちゃんの鳴き声にすぐ気を取られ、頬がゆるんだままフリーズする。
「……かわいい……」
「完全に戻ってきてないな」
エネルが苦笑する。
場にはふわりと笑いが広がったが、その背後に流れる空気は、やはりどこか緊張感を孕んでいた。
そこには、大地と命の異変が確かにあった。
******
「とりあえず、魔族の領土を広範囲に調査したいですね。人間と魔族でチームを組んで、合同調査隊を編成しましょう。
人間領の三町からも、働き口として希望者を募れば、きっと協力してくれる人がいますよ。人間と魔族が力を合わせれば、思わぬ相乗効果が生まれるかもしれません」
「……なんかよくわからんが、お前が言うなら、そうなのかもな」
最近、すっかりイエスマンになりつつあるエネルだった。
「じゃあ、決まりですね! エネル、私たちも村に帰りましょう。エルヴィンさんとアレイスさんも、独立の件でいよいよ大詰めでしょうし」
「……あの二人にはさん付けするのに、俺にはいつの間にか呼び捨てかよ」
「えっ? 気にしてたんですか?じゃあ、“エネルさん”って呼びましょうか?」
「……いや、今さら”さん”付けられても逆に落ち着かねぇな」
「ふふ、じゃあやっぱり呼び捨てのままでいいですね」
「……なるほどな」
エネルはふっと口元を緩めて、彼女の横顔を盗み見るようにして言った。
「さん呼びをやめたってことは、俺には心を許したってことか?」
「……っ!」
彼女の足がぴたりと止まる。
目を逸らしたまま、微妙に口元を引き結んで、小さな声で答える。
「……ちがいます。ただ、呼びやすいだけです」
「へぇ?」
「……それに、エネルさんって呼ぶと、なんかこう……」
「なんか?」
「……忘れてください」
彼女はぷいと前を向き直して、早足になる。
それを追いかけるようにエネルが歩を進めながら、からかうように笑った。
「でもまぁ、嫌じゃないってことは確かだな」
「……うるさいです」
声は小さいけれど、確かに優しさがにじんでいた。
少し歩いたところで、エネルがぽつりとつぶやいた。
「……でも、ありがとな」
「え?」
彼は前を向いたまま、顔は見えない。でも、その声は少しだけ柔らかかった。
「……お前が、俺のこと、ちょっとでも特別に感じてくれているのがわかるっていうか。……いや、うまく言えねぇけど」
彼女は一瞬驚いた顔をして、それから目を伏せて小さく微笑んだ。
エネルは照れ隠しのように背伸びをひとつして、頭をかく。
「お前がいてくれて、助かってるよ。……本当に」
「……そ、そういうの、今言います?!」
「今がタイミングだったんだよ、たぶん」
彼の言葉は不器用だけれど、まっすぐだった。それだけで、彼女の胸が少しあたたかくなる。
夕焼け空の下、二人の影はすこしずつ近づいていた。
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