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異世界の環境改革
独立宣言
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エミリは、数ヶ月ぶりにタルーア村へと帰ってきた。
人間領の町でなんやかんやして、魔王城で魔王に会い、仕事を押し付けられ、やっとはじまりの村へと戻ってきたのだ。
まるで、長い冒険の最後にスタッフロールが流れるような、そんな感慨深さがあった。
「……なんて、そんな都合のいい話はないですよね」
まだ人間領の問題は山積みだし、魔獣問題に至っては、これから対策を練らないといけない。
「エミリ様だー!」
「エミリ様ー!おかえりなさーい!」
「エミリ様ー!私、最近彼氏できましたー!」
「肉スープ作ったんです!食べに来てください!」
エミリの姿を見つけた村の魔族たちが、わらわらと集まってくる。
長老たちは手を合わせて「ありがたや、ありがたや」と拝みはじめた。
「留守にしていた間、皆さんお元気でしたか?」
「「「はーい!」」」
変わらぬ笑顔に囲まれ、エミリも自然と微笑みを浮かべる。
だが、ふと、探していた“あの魔族”の姿が見えないことに気づく。
「あれ? ピリカさんはどこに?」
その問いに、村の若者の一人が答えた。
「ああ、ピリカなら、数日前に人間たちと一緒に人間領へ行きましたよ」
その言葉を聞いて、エミリは肩をがっくりと落とす。
「……私の癒しが……。もうこうなったら魔物でもなんでもいいから肉球を触らせてほしい。できれば、もふもふの毛の中に顔をうずめて、お腹あたりを吸わせてほしい……エネルは魔獣に変身とかできないんですか?」
「……なあ、さっきから発言が危うくなってきてるぞ? 変身できたとしても、腹は吸わせないからな」
呆れたように言いながらも、どこか本気で心配している様子のエネルに、エミリは悪びれもせず答える。
「ケチですねぇ……癒しが足りないと、心が干からびてしまうというのに……」
「おまえの“癒し”の基準が異常なんだよ。そもそも肉球とかお腹とか、どの辺が癒しなんだよ……」
「全部です。質感、ぬくもり、匂い、密度、沈み具合…………」
「やめろやめろ、こっちが恥ずかしくなる。あと村の子どもたちが聞いてるからな」
「え? わあ、ごめんねみんな!これはね、大人の会話です!将来の参考にしちゃダメだからね!」
「……」
エネルが思わず頭を抱えると、周囲の魔族たちからくすくすと笑い声がこぼれた。
その和やかな空気の中で、エミリはぱん、と手を打って気持ちを切り替える。
「……よし、それじゃ、まずは村長さんに魔獣の異変について報告しましょう!そのあと、私たちもナフレアの町へ向かいます!調査隊の人員も確保したいし、独立の進捗も気になりますからね!」
「おう、やっとまともなこと言ったな」
「なんですか、今の“やっと”って!」
そんな漫才のようなやり取りをしながら、エミリとエネルは村の奥へと歩き出した。
夕暮れの光が、穏やかに彼らの背中を照らしていた。
*******
ナフレア、トランベル、カリエラ——三つの町を束ねる領主の館。
ピリカ、エルヴィン、アレイスは、到着して間もなく非常鐘の音に迎えられた。
外では、王国旗を掲げた騎士団が敷地を包囲している。
正門前から響くのは、規律正しい号令と、鉄の匂い。
部屋に通されたエルヴィンは、用意された椅子に腰を沈め、重い息を吐いた。
「……間一髪だったな。俺たちがもう少し遅ければ、正面から鉢合わせしていたかもしれない」
窓の外を一瞥し、アレイスが肩を竦める。
「魔王様に渡された結界符、貼っておいて本当に良かった……。あれがなかったら、今ごろこの館ごと占拠されてたね」
エルヴィンは静かにアレイスへ視線を向け、そっと彼の頬へ手を伸ばした。
「君の……かつての友人や同僚たちと、こうして剣を向け合うことになってしまった。俺の選択は、これで良かったんだろうか……。君を、本当に幸せにできているのか?」
アレイスはその手に自分の手を重ね、いたずらっぽく微笑む。
「友人は普通、瀕死になるまで切り刻んだりしないよ? あれはもう、友人でも同僚でもない。ただの王国の剣だ。それに……本当はあのお姫様と婚約して、王城で穏やかに暮らしたかった、って後悔してたりして?」
「してない。していないとも。俺は——」
その時、館の外から拡声の魔道具を通した声が響いた。
『領主館の者たち、ならびに——第二王子エルヴィン殿下! 王命により拘束する! 直ちに投降せよ!』
エルヴィンの指先が微かに震える。
“殿下”と呼ばれる響きは、もはや過去に置いてきたはずの肩書きだった。
ピリカが静かに扉を開き、外の様子をうかがう。
少しして、軽い調子で振り返った。
「数は多くないですね。どうやら、前回のデモが王都に伝わって、それで“とりあえず”兵を送った……って感じかと。まさか第二王子がいるとは思ってなかったんでしょう」
彼女の目がきらりと光る。
「このくらいなら、私ひとりで散らせますよ?」
「……いや、ピリカ嬢」
エルヴィンはゆっくりと立ち上がり、胸元に忍ばせていた封筒を取り出した。
「なるべく手荒なことはしたくない。こちらは敵意があるわけじゃない。争うよりも、話し合いで道を切り拓きたいんだ。——平和に、独立を成し遂げたい」
ピリカは一瞬だけ唇を尖らせたが、すぐに肩をすくめて笑う。
「了解。私は後ろで見守ってます。いざという時は全力で援護しますけどね」
そのとき、アレイスがエルヴィンの肩にそっと手を置いた。
「迷うな。突き進め。あなたの選んだ未来を、今ここで形にするんだ」
エルヴィンは、短く息を整えると静かに頷いた。
重厚な扉が軋む音と共に、夕日が広場を染める。
王国の騎士たちが一斉に視線を向ける中、エルヴィンの隣に立つ男が前に出た。
——ナフレア・トランベル・カリエラを治める正当な地権者、デラルド・アレンクス伯爵。その口がまず開く。
「我が名は、デラルド・アレンクス。領を預かる領主として、この地に暮らすすべての民の名において、今ここに宣言する!」
続いて、エルヴィンが歩み出る。
「我が名は、エルヴィン=セレイド=カリア。かつてカリア王国第二王子であり——いま、ひとりの人間としてこの未来を選ぶ者だ!」
二人の声が重なる。
「この瞬間をもって、我らはカリア王国から独立を宣言する!」
風が吹き抜ける。
騎士たちは一歩も動けなかった。ただ、その言葉の重みに、静かに立ち尽くしていた。
この日——
血と地の正統を備えた二人、エルヴィンとアレンクス伯爵は、民と未来のために、王国からの独立を宣言した。
人間領の町でなんやかんやして、魔王城で魔王に会い、仕事を押し付けられ、やっとはじまりの村へと戻ってきたのだ。
まるで、長い冒険の最後にスタッフロールが流れるような、そんな感慨深さがあった。
「……なんて、そんな都合のいい話はないですよね」
まだ人間領の問題は山積みだし、魔獣問題に至っては、これから対策を練らないといけない。
「エミリ様だー!」
「エミリ様ー!おかえりなさーい!」
「エミリ様ー!私、最近彼氏できましたー!」
「肉スープ作ったんです!食べに来てください!」
エミリの姿を見つけた村の魔族たちが、わらわらと集まってくる。
長老たちは手を合わせて「ありがたや、ありがたや」と拝みはじめた。
「留守にしていた間、皆さんお元気でしたか?」
「「「はーい!」」」
変わらぬ笑顔に囲まれ、エミリも自然と微笑みを浮かべる。
だが、ふと、探していた“あの魔族”の姿が見えないことに気づく。
「あれ? ピリカさんはどこに?」
その問いに、村の若者の一人が答えた。
「ああ、ピリカなら、数日前に人間たちと一緒に人間領へ行きましたよ」
その言葉を聞いて、エミリは肩をがっくりと落とす。
「……私の癒しが……。もうこうなったら魔物でもなんでもいいから肉球を触らせてほしい。できれば、もふもふの毛の中に顔をうずめて、お腹あたりを吸わせてほしい……エネルは魔獣に変身とかできないんですか?」
「……なあ、さっきから発言が危うくなってきてるぞ? 変身できたとしても、腹は吸わせないからな」
呆れたように言いながらも、どこか本気で心配している様子のエネルに、エミリは悪びれもせず答える。
「ケチですねぇ……癒しが足りないと、心が干からびてしまうというのに……」
「おまえの“癒し”の基準が異常なんだよ。そもそも肉球とかお腹とか、どの辺が癒しなんだよ……」
「全部です。質感、ぬくもり、匂い、密度、沈み具合…………」
「やめろやめろ、こっちが恥ずかしくなる。あと村の子どもたちが聞いてるからな」
「え? わあ、ごめんねみんな!これはね、大人の会話です!将来の参考にしちゃダメだからね!」
「……」
エネルが思わず頭を抱えると、周囲の魔族たちからくすくすと笑い声がこぼれた。
その和やかな空気の中で、エミリはぱん、と手を打って気持ちを切り替える。
「……よし、それじゃ、まずは村長さんに魔獣の異変について報告しましょう!そのあと、私たちもナフレアの町へ向かいます!調査隊の人員も確保したいし、独立の進捗も気になりますからね!」
「おう、やっとまともなこと言ったな」
「なんですか、今の“やっと”って!」
そんな漫才のようなやり取りをしながら、エミリとエネルは村の奥へと歩き出した。
夕暮れの光が、穏やかに彼らの背中を照らしていた。
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ナフレア、トランベル、カリエラ——三つの町を束ねる領主の館。
ピリカ、エルヴィン、アレイスは、到着して間もなく非常鐘の音に迎えられた。
外では、王国旗を掲げた騎士団が敷地を包囲している。
正門前から響くのは、規律正しい号令と、鉄の匂い。
部屋に通されたエルヴィンは、用意された椅子に腰を沈め、重い息を吐いた。
「……間一髪だったな。俺たちがもう少し遅ければ、正面から鉢合わせしていたかもしれない」
窓の外を一瞥し、アレイスが肩を竦める。
「魔王様に渡された結界符、貼っておいて本当に良かった……。あれがなかったら、今ごろこの館ごと占拠されてたね」
エルヴィンは静かにアレイスへ視線を向け、そっと彼の頬へ手を伸ばした。
「君の……かつての友人や同僚たちと、こうして剣を向け合うことになってしまった。俺の選択は、これで良かったんだろうか……。君を、本当に幸せにできているのか?」
アレイスはその手に自分の手を重ね、いたずらっぽく微笑む。
「友人は普通、瀕死になるまで切り刻んだりしないよ? あれはもう、友人でも同僚でもない。ただの王国の剣だ。それに……本当はあのお姫様と婚約して、王城で穏やかに暮らしたかった、って後悔してたりして?」
「してない。していないとも。俺は——」
その時、館の外から拡声の魔道具を通した声が響いた。
『領主館の者たち、ならびに——第二王子エルヴィン殿下! 王命により拘束する! 直ちに投降せよ!』
エルヴィンの指先が微かに震える。
“殿下”と呼ばれる響きは、もはや過去に置いてきたはずの肩書きだった。
ピリカが静かに扉を開き、外の様子をうかがう。
少しして、軽い調子で振り返った。
「数は多くないですね。どうやら、前回のデモが王都に伝わって、それで“とりあえず”兵を送った……って感じかと。まさか第二王子がいるとは思ってなかったんでしょう」
彼女の目がきらりと光る。
「このくらいなら、私ひとりで散らせますよ?」
「……いや、ピリカ嬢」
エルヴィンはゆっくりと立ち上がり、胸元に忍ばせていた封筒を取り出した。
「なるべく手荒なことはしたくない。こちらは敵意があるわけじゃない。争うよりも、話し合いで道を切り拓きたいんだ。——平和に、独立を成し遂げたい」
ピリカは一瞬だけ唇を尖らせたが、すぐに肩をすくめて笑う。
「了解。私は後ろで見守ってます。いざという時は全力で援護しますけどね」
そのとき、アレイスがエルヴィンの肩にそっと手を置いた。
「迷うな。突き進め。あなたの選んだ未来を、今ここで形にするんだ」
エルヴィンは、短く息を整えると静かに頷いた。
重厚な扉が軋む音と共に、夕日が広場を染める。
王国の騎士たちが一斉に視線を向ける中、エルヴィンの隣に立つ男が前に出た。
——ナフレア・トランベル・カリエラを治める正当な地権者、デラルド・アレンクス伯爵。その口がまず開く。
「我が名は、デラルド・アレンクス。領を預かる領主として、この地に暮らすすべての民の名において、今ここに宣言する!」
続いて、エルヴィンが歩み出る。
「我が名は、エルヴィン=セレイド=カリア。かつてカリア王国第二王子であり——いま、ひとりの人間としてこの未来を選ぶ者だ!」
二人の声が重なる。
「この瞬間をもって、我らはカリア王国から独立を宣言する!」
風が吹き抜ける。
騎士たちは一歩も動けなかった。ただ、その言葉の重みに、静かに立ち尽くしていた。
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