【完結】花咲く手には、秘密がある 〜エルバの手と森の記憶〜

ソニエッタ

文字の大きさ
1 / 103
呪いの皇子と森の片隅のお花屋さん

森の片隅のお花屋さん

しおりを挟む
「……あれ? カラスに畑荒らされてる…」

朝、森の片隅にある家の庭先で、オルガはじっと空を見上げていた。


「あっ、やば。あれって、昨日うっかり間違えて痺れ草と魔力草まぜて植えたとこじゃん……え? 今、球根食べた?」

木の上のちょっと珍しい白いカラスは、口ばしをもぐもぐさせた後、軽やかに羽ばたいて空へ飛んでいった。
オルガは目をぱちくりさせ、手に持っていたカカシの腕をひょいと掲げて小さく手を振る。

「……バイバーイ。死ぬなよー」

カラスは空に消えた。
とんでもない草を食べたかもしれないのに。

そんな感じで、今日も一日がはじまった。
彼女の名前はオルガ。二十一歳。森の片隅にある花屋の店主で、趣味は昼寝と種作り。
植物を元気にする不思議な力――エルバの手を使って、両親から継いだ花屋をのんびりやっている。

「さてと、朝ごはんでも食べるか。いや、その前に水やりかな。あ、そうだ、昨日の種……どこに埋めたっけ? え、えーと、あれ、毒草ゾーンだっけ?」

一人でしゃべりながら店先の植木を眺めていたその時――。

ドン! ドン! ドン!

門を激しく叩く音が響いた。
その衝撃で、棚の上に置いてあった鉢がカラン、と落ちて、オルガの頭に直撃する。

「痛いーー!ちょっ、まって、頭割れたよね?もう店閉めよう、そうしよう。」


ズレた反応で鉢を拾っていたその目の前に、がっしりとした鎧の男が現れた。

「貴様が“エルバの手”の使い手か」

「真剣な顔しながらいらっしゃったところ悪いのですが、お店は今日臨時休業になりました。」

そう言って、オルガはスコップを片手に店の前に立ちふさがる。
その小柄な体と、背後に咲きかけの草花たち。
可憐な顔立ちとあいなって、どう見ても脅威ゼロ。


重装備の騎士が言葉に詰まったように一瞬沈黙したあと、口を開いた。

「私は帝国騎士団副団長、レオニダス=グレイス。
帝国の正式な任務で来た」

「……へえ。副団長。偉い人が来たということは大事か」

「皇子殿下が呪いにかけられた。
魔法師団のあらゆる手段を尽くしても解けなかった。
貴様の“エルバの手”の力が必要だ」

オルガはスコップを土に突き刺し、じーっとレオニダスを見つめる。

「……それ、私に頼む前に、もっと神々しそうな人のとこ行ったほうがよくない?」

「もう行った。全部試した。最後に貴様のところに来た。」

「最後の手段って、なんだか“あんまり期待してないけど一応試すやつ”みたいで、ちょっと微妙だね」

「……」

「それに、王族に関わるとろくなことにならないって、母さまが言ってたし」

 

沈黙。

 

目の前の騎士は、岩みたいに動かない。
でもなんか、眉間にしわ寄せてる気配だけは感じる。

 

「……冗談では済まされない状況だ、殿下の命がかかっている」



「……呪いって、どんな感じなの?」

「眠ったまま目を覚まさない。食事も取れず、魔力も不安定だ。
触れた者が同じ症状にかかる。危険すぎて、もう誰も近づけない」

 

ふむ。

それは確かに、冗談じゃ済まされない状況だ。

オルガはある花を頭に浮かべるが、
ただ、あの花は成功したことがない。

 

「……とりあえずさ、その皇子ってどこにいるの?」

「王城の奥、隔離された部屋に。」

「うん。じゃあ、見てから決めていい?」

「決めるとは?」

「治すかどうか。……作れるかどうか、ちょっと不安なんだよね」

 

また、沈黙。

でも今度の沈黙は、さっきより少しだけ柔らかい気がした。

 

「……準備しろ。出発はすぐだ」

「え、今? 魔力草の水やりしたいし、朝ごはん食べてないし…お店にお客さんくるかもしれないし…」

レオニダスは眉ひとつ動かさずに言った。

「臨時休業するんじゃなかったのか?」


「わかったよー、行くよ。ちょっと水やりしてくるからまってて」

そう言って、オルガはひょいっと裏口に回る。

騎士団の副団長は、その背を見送りながら、
この“頼りなさそうな花屋”が本当に殿下を救えるのか――ほんの少しだけ、後悔していた。







しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜

青空ばらみ
ファンタジー
 一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。 小説家になろう様でも投稿をしております。

処理中です...