【完結】花咲く手には、秘密がある 〜エルバの手と森の記憶〜

ソニエッタ

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呪いの皇子と森の片隅のお花屋さん

怪しい香2

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城内にたどり着くと、案内役の侍女がすぐに現れた。彼女の顔を見た途端、オルガの鼻がかすかにひくつく。

 

(……このひとも、少し臭い)

 

 それでもオルガは、なにも言わずに微笑んだ。

 

「こんにちは!」

 

 侍女はぎこちなく頭を下げ、無言で歩き出す。
オルガとマッシモがその背を追おうとした、そのとき。

 

「……なんでここにいる?」

 

 石畳に響く硬い声。

 曲がり角の向こうから現れたのは、帝国騎士団副団長レオニダス。そして、その後ろで気だるそうに歩いてくる長身の男――騎士団長ルーカス。

 

「おー、マッシモと…君がもしかしてオルガ嬢?迎えに行く手間が省けたねぇ。」

 

 ルーカスはにやりと笑うが、レオニダスは少し眉をひそめたまま、オルガを見下ろす。

 

「予定より二日早いが…できたのか?」

「こんにちは!石頭のー、えーと」

「レオニダスだ。なんだ石頭とは?」


「そう、それそれ!なんかこう……名前からして硬そうだよね。石頭って感じ!」



言った瞬間、オルガの隣でマッシモが小さく咳払いする。

ルーカスが肩を震わせながら笑った。

「ははっ、いいじゃないか。俺もあいつのことはそう呼んでるよ、心の中でな!」

「団長!?」

レオニダスがぴくりと眉を動かす。

「事実だしな」

マッシモがぼそりと添えて、オルガはにんまり笑った。

「うんうん、ね?石頭副団長♪」

「……口の利き方には気をつけろ」

「わかったってば」

オルガはさらりと返すと、懐からそっと布袋を取り出して見せた。

「この子が“咲きたい”って言ってたから来ちゃったよ!お迎えの件はごめんね。」

 ルーカスが目を細め、マッシモと一度目を合わせる。

「……本当に咲くのか?」

「うん。今回は大丈夫だと思う!」

 オルガの瞳は真っ直ぐで、飄々としながらもどこかに芯がある。

その様子を見て、ルーカスがにやりと笑った。

「いいねぇ。嫌いじゃない。……よし、じゃあお姫様とお付きの方々で、魔法師団長のとこに行こうか。」

「“お姫様”じゃなくて、“お花屋さん”だよ。」

「おう、失礼。花の姫様とお呼びしよう。」

「2人の会話を聞いていると深刻さにかけるんだが」

 と、マッシモが呆れたように言って、一行は城の奥へと足を進める。


 

(……ルーカスとレオニダスもちょっと、匂う)

 すぐそばにいるわけでもないのに、ほんのわずかに、あの臭いが残っている。もしかして——

 

(騎士団に内部にもいるのかも…)

 

疑念はあっても、声には出さない。

 

 

扉の向こう。種が望む場所へと、今はただ、進むだけだった。
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